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第三章【不安の彩り】
1 とある提案と約束
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俺が華と交際し始めてから1ヵ月と15日ほど。早いことに、もう華の死の45日前に辿り着いていた。
余命を知らされてから1ヵ月以上が経った今、華の余命が当たり前になってしまっていた。
でも俺は、まだそれが夢なのではないかと疑い続けている。
一ヵ月以上経っても不安でたまらないのは変わらないし、むしろ死が迫ってきているのだから、不安は募るばかり。
大胆に言えば、華と会った翌日に華がいなくなるなんてことがありえるのだ。
華だって毎日怖くてたまらないだろう。夜寝たら、そのまま寝たきりになるかもしれないのだから。
それでも毎日強く生きる彼女は、強く生きようとする彼女は、本当に素敵で素晴らしい。
俺はそんな彼女の強さに惹かれたのかもしれない。
「あ!蓮おはよー!」
「あぁ、おはよう。」
教室に入ると毎日聞ける華のおはよう。でもこの日常も日常じゃないと思うと、怖くてたまらなかった。
そこで昨日から考えていたことを、俺は華に提案する。
「毎日夜8時から少しは電話。1分でも3分でも、もしくは1時間でも。」
「えっと…ん?」
おっと、主語をつけ忘れた。
「俺からの提案だ。」
華は少し気まずそうな顔をして周りを見渡す。なんだろう。
「ここ教室なんですケド…。」
「あ。」
慌てて周りを見渡すと、俺たちは視線の渦の中心にいた。
「あーあ。これじゃ完全にラブラブカップルじゃん。」
「違うのか?」
「蓮、そろそろ怒るよ?」
華でおもちゃのように遊んでいると、周りの視線なんて気にならない。
結局俺の提案は了承され、今夜からスタートという話に至った。
毎日の夜に華との何気ない会話が追加されるだけで、俺の世界には彩がつく。
「それでその時の茜が面白くてさー!」
電話の向こうで話す華は、声色だけでも楽しそうで安心する。
華と一緒にいる時間をできるだけ増やすことで、突然さようならという自体を避けやすい。
「──蓮って好きな人いるの?」
「はっ?」
途中からほっこりした気持ちになって話を聞いていなかったが、彼女がいる彼氏に好きな人を尋ねるとは何事だ…?
「…俺一応彼女いるけど。」
「その彼女のことは好きなの?」
こいつ、完全にからかっている。
「…言わせる気か?」
「何がー?」
スマホ越しでも分かる、華のこのニヤけ具合。まぁ、言えることは言っておこう。後悔のないように。
「…あぁ、好き──」
「ガッシャーン──」
「えっ?大丈夫か!?」
俺の声がかき消えるほどの物音に、俺は目を丸くした。
「えーっと…。実は私、料理しながら電話してまして…。」
「怪我は!?」
「そういうのは全然大丈夫なんだけど…。あの、蓮のセリフ…。」
いや、お前はこんな時にどこを心配してるんだよ…。
前から思っていたことだが、華はどこかお人好しなところがあって危なっかしい。強気で姉貴っぽい性格とは裏腹に、さりげなく人に気遣いできる優しさをもっている。
「そんな間を置いてからじゃ、さすがに恥ずかしくて言えねぇよ…。」
「じゃあさ、一つ約束して?」
約束…?なんだろう。
「お詫びになるのなら。」
「うん。絶対だからね?」
そんなに念を押すなんて、どれだけ引き受けにくい約束なんだろう。
「私が死んでも、悲しまないこと。」
「はっ!?そんなの──」
「約束ね?」
そんな守りようのない約束は、華の寂しそうな口からこぼれた一言だった。
余命を知らされてから1ヵ月以上が経った今、華の余命が当たり前になってしまっていた。
でも俺は、まだそれが夢なのではないかと疑い続けている。
一ヵ月以上経っても不安でたまらないのは変わらないし、むしろ死が迫ってきているのだから、不安は募るばかり。
大胆に言えば、華と会った翌日に華がいなくなるなんてことがありえるのだ。
華だって毎日怖くてたまらないだろう。夜寝たら、そのまま寝たきりになるかもしれないのだから。
それでも毎日強く生きる彼女は、強く生きようとする彼女は、本当に素敵で素晴らしい。
俺はそんな彼女の強さに惹かれたのかもしれない。
「あ!蓮おはよー!」
「あぁ、おはよう。」
教室に入ると毎日聞ける華のおはよう。でもこの日常も日常じゃないと思うと、怖くてたまらなかった。
そこで昨日から考えていたことを、俺は華に提案する。
「毎日夜8時から少しは電話。1分でも3分でも、もしくは1時間でも。」
「えっと…ん?」
おっと、主語をつけ忘れた。
「俺からの提案だ。」
華は少し気まずそうな顔をして周りを見渡す。なんだろう。
「ここ教室なんですケド…。」
「あ。」
慌てて周りを見渡すと、俺たちは視線の渦の中心にいた。
「あーあ。これじゃ完全にラブラブカップルじゃん。」
「違うのか?」
「蓮、そろそろ怒るよ?」
華でおもちゃのように遊んでいると、周りの視線なんて気にならない。
結局俺の提案は了承され、今夜からスタートという話に至った。
毎日の夜に華との何気ない会話が追加されるだけで、俺の世界には彩がつく。
「それでその時の茜が面白くてさー!」
電話の向こうで話す華は、声色だけでも楽しそうで安心する。
華と一緒にいる時間をできるだけ増やすことで、突然さようならという自体を避けやすい。
「──蓮って好きな人いるの?」
「はっ?」
途中からほっこりした気持ちになって話を聞いていなかったが、彼女がいる彼氏に好きな人を尋ねるとは何事だ…?
「…俺一応彼女いるけど。」
「その彼女のことは好きなの?」
こいつ、完全にからかっている。
「…言わせる気か?」
「何がー?」
スマホ越しでも分かる、華のこのニヤけ具合。まぁ、言えることは言っておこう。後悔のないように。
「…あぁ、好き──」
「ガッシャーン──」
「えっ?大丈夫か!?」
俺の声がかき消えるほどの物音に、俺は目を丸くした。
「えーっと…。実は私、料理しながら電話してまして…。」
「怪我は!?」
「そういうのは全然大丈夫なんだけど…。あの、蓮のセリフ…。」
いや、お前はこんな時にどこを心配してるんだよ…。
前から思っていたことだが、華はどこかお人好しなところがあって危なっかしい。強気で姉貴っぽい性格とは裏腹に、さりげなく人に気遣いできる優しさをもっている。
「そんな間を置いてからじゃ、さすがに恥ずかしくて言えねぇよ…。」
「じゃあさ、一つ約束して?」
約束…?なんだろう。
「お詫びになるのなら。」
「うん。絶対だからね?」
そんなに念を押すなんて、どれだけ引き受けにくい約束なんだろう。
「私が死んでも、悲しまないこと。」
「はっ!?そんなの──」
「約束ね?」
そんな守りようのない約束は、華の寂しそうな口からこぼれた一言だった。
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