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第三章【不安の彩り】

2 不穏の香り

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『私が死んでも、悲しまないこと。』
 あの後は、適当な言い訳を言われて通話を切られてしまった。
 守らなければいけない約束。守りたい笑顔。守れない命──。
 そう考えると自分の無力さを知らしめられ、虚しくなる。

「蓮って意外と頭いいんだね!」
「意外ってなんだよ。」
 辛辣な言葉を用いると、「くだらない会話」を電話越しに繰り広げる俺たち。
 例のは昨日のことだが、そんなことなんて忘れたように話す華に、俺は合わせて普段通りにしていた。
「あ、蓮っ!そういえば今度中間テストあるよね?勉強教えてくれない?」
「別にいいよ。勉強会するか。」
「じゃあ私の家はっ!?」
 華の家…。俺は変なことを考えそうになって慌てて思考を止めた。
「図書館とかでもいいけど。」
「もぉー蓮ったら!そんなに照れちゃって…変なこと考えてたでしょ?」
「…いや、何が?」
 冷静は大切だと知っておいて良かった。こういうのは、変なことを考えてしまった時点でだ。
「じゃあ明日の放課後、私の家に一緒に行こうねっ!」
 別に否定することでもないから、俺はとりあえず頷いておく。
 心の内で楽しみにしているのは俺だけの秘密だ。

 華と電話を切って独りになる。人と会話した後は孤独感に包まれがちだ。
 そして俺の場合はネガティブ思考になって暗いことを考えて…と、負の連鎖が続くのだ。
 でも今日は特別、「明日の勉強会が楽しみ」という理由であまりネガティブ思考にはならなかった。
 
 今日は華の家で勉強会だ。学校に行って帰ってから集合とのことなので、俺は私服に着替えて家を出る。
 華の家は、華を送って行ったことがあるから知っている。
「ピンポーン──」
 そういえば、勉強は華の部屋でやるのだろうか。もしそうだったら、凄く緊張してしまうのだが。
「ピンポーン──」
 ん…?チャイムを二回押してみたが、中から物音すらもしない。
 華が校門を出るところは見かけたから、家にはいるばずだ。どうしたんだろう。今部屋を片付けているとか?
 でも片付ける前にインターホンに応えるだろう。
 俺は、外から中を覗ける窓がないか確認してみることにした。
 家の側面にあたるところに、大きな窓があった。俺は中を覗く。
「…っ!?は、華っ!?」
 家の中を覗くと、家主である華が倒れていたのだった──。
 
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