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第六章

Take off in the sky

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第六章

 見上げた空の美しさがねたましい。やはり屋外は風通しが良く気持ちが良い。
 私はスマホに遺書を書くことにした。誰が見るわけでもないのに何故書くのか。それは、気持ちに区切りをつけるためだ。「今から死ぬぞ」という。ホーム画面に『1024』と打ってスマホを開く。10月24日は、ムギを家に連れ帰った記念すべき日だ。だからパスワードにしたのに、ムギはあっさりいなくなってしまった…。
 あらかじめダウンロードしておいたメモアプリのアイコンをタップする。初めは何を書くか迷ったが、書き出すとどんどん内容が浮かんできた。
『東雲香織です。私はずっと前から自殺志願者でした。ですが、最愛のムギがいなくなってしまったことで耐えきれなくなったのです。もう、心が限界でした。』
 そこまで書いて手を止めた。気持ちに区切りをつけたところで、何になるのだろうか。別に、なんとなく死んでいけばいいじゃないか。…私は、この世に少しばかり未練を残してしまっているのかもしれない。でも私は今日自殺を実行するため、未練は果たせないな。
 今はちょうど一時限目の最中。先生に見つかったりする前に命を捨てよう。私はスマホをその場に優しく置き、柵に手をかけ乗り越えて、柵の向こうに到達した。──綺麗な街並みだな。この街に飛び込むのか。嬉しいな──。何にも支えられていない不安定な感じが、私の人生に似ていてなんだかワクワクした。
「東雲さんっ!?」
「え。…は………?」
 屋上のドアの前。そこには心配そうにしている、担任の藤原ふじわら涼子りょうこ先生がいた。あぁもう。なんでもう来るのよ…。優雅に景色を眺めていたのに、もう死ななくちゃいけなくなったじゃない。
「藤原先生、どうしたんですか?」
 私は苛立ちの混じった笑顔を向ける。
「授業に出ないから心配しちゃって。勉強に疲れて景色を眺めていたのかな?東雲さんは頭がいいし、大人しいものね。でも、危ないから柵は越えちゃだめよ?」
 何も知らないくせに、私を語るな。
「先生、後で戻るのでどっか行ってください。」
 つい口調が厳しくなってしまう。
「東雲さん?ゆっくりでいいからこっちにおいで?今日は帰ってもいいし、保健室に行ってもいいし、ね?」
 藤原先生は明らかに焦っていた。自殺した生徒が出てしまうと、学校側が困るのだろう。きっと人として、藤原涼子として止めているわけではない。全部、偽物だ。ズズッ──。私のかかとが浮いた。
「待って!!東雲さん、落ち着いて…?」
「落ち着きがないのは藤原先生の方ですよ。私は落ち着いています。」
 もう、いいかな。私は、足の3分の2を出す。そして、体重を後ろの方に…。
「東雲さんっ!!!だめっ──」
 先生がこっちに走ってくる。あぁ、空が綺麗だな──。
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