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いじめられ少女
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私の名前は花里美琴。今は中学二年生だけど、いじめに近い行為をクラスのみんなから受けている。いじめの原因は自分でも分かっている。でも、自分の意見を言うのが苦手というだけでいじめられるなんて、あまりにも理不尽ではないか。
中学一年生の頃は普通に友達もいたし、気の合う友達もいて充実していた。二年生に進学しても知り合いと同じクラスだったし、安心していた、はずだった。
いつからだろう。クラスの中心で目立っているような、いわゆる陽キャに目を付けられたのは──。
それは今から数ヵ月前の出来事だった。私が教室で、独りで本を読んでいた時。クラスの中心的な人物であるアイザワさんが私の机に脚を引っかけて転びかけてしまったというのが事の発端だっただろうか。
『ご、ごめっ!ダイジョ──』
『チッ。』
咄嗟に謝った私に、舌打ちを残して去っていったアイザワさん。その時はいじめられるなんて一ミリも思わず、ただ罪悪感だけが残っていたのを覚えている。
教室では毎日独り。あの日からそれが当たり前になってしまったし、私は、今では仕方ないのかなぁなんて思ってしまうほど。
たまに誰かに話しかけられたと思ったら、それは私を積極的にいじめているアイザワさんやフカヤさん、マツモトさんあたり。他のクラスメイトたちは遠くからいじめられている私を見ているだけだ。
基本私をいじめるのはこの三人組だが、クラスメイト全員からは無視され、たまに陽キャである男子からもいじめを受けることがある。
「花里さーんっ!今日はあのダッサいヘアゴムしてきてないんだねっ!」
「…。」
私は薄汚れた机とにらめっこをして、今日もあの三人からのいじめに耐える。
「きゃははっ!今更ダサいことに気づいたとかーっ?」
「それウケるー!」
ただこの三人がいなくなるのを待って、いつか飽きることを望んで全力で無反応を意識する。
「おい、なんとか言えよ!」
「あんた、陰キャすぎて気持ちワリーの!」
フカヤさんとマツモトさんに色々な悪口を言われるなか、アイザワさんは無言でニヤケながら私を睨んでいた。でもその視線は、私の心を割くように冷たくて鋭い。
「…。」
「なんかさ、つまんなくね?コイツ。」
アイザワさんは他二人に視線を移してぼやく。これは「飽きたから私をいじめるのはやめよう」と言っているのだといいのだが…。
「それじゃあこれからもっと面白いことするー?」
「あ、それいいねー!」
まぁ、普通に考えてそんなわけないよね…。
私はギュっと目を瞑った──。
「あんたたち、クラスメイトいじめて楽しい?」
「…っ!」
この声は──!
私は綺麗な顔立ちをしたその子に視線を向けた。
「はぁっ?もういいや。また明日ねー。」
「はぁ…。」
そう、この子だけは私をいじめないで、庇ってくれるのだ。
「花里さん、ああいう最低な奴らってちゃんと言わないと辞めてくれないんだから。」
「ごめんね…。いつもありがとう…。」
この子の名前は雫ちゃん。正義感が強くて、いつも私を守ってくれる私にとってのヒーロー。本当に、こんなかっこよくて強い人に私もなりたいな。
「まったく、こんな気の弱い子いじめて何が楽しいんだか。」
雫ちゃんはそれだけ言って私の前から消えた。
私もいつか、あんなふうに堂々と言い返せるような、尊敬されるような人になりたい──。
「花里さーん、今日の私たちの分の掃除、もちろんやってくれるよねーっ?」
「…。」
今日もだ。今日も私はあの三人にいじめられてみんなに無視されて…。まぁ、雫ちゃんが何か言ってくれたところで何も変わらないのは、分かってるんだけど…。私が何か言わなきゃ変われないんだけど…でも──。
「あ?なんか言えよ!」
「痛っ…。」
──怖い。もう失うものなんてないはずなのに、怖くてたまらないんだ。今のところは悪口や軽い嫌がらせ程度。でも私が何か言ってしまったら、暴力や物の損失など、悪い方向に行ってしまう気がして──。
「まっ、よろしくねー。」
私はアイザワさんからちりとりを投げられてさらに怯む。やっぱり私は、だめなんだ──。
「花里さん。」
「…え?」
私は突然手に持っていたちりとりを取られて肩をビクつかせた。
後ろをゆっくりと見ると、そこには呆れたような表情をした雫ちゃんがいた。
「今日掃除ないでしょ?私あるから、ついでにやっとく。帰っていいよ。」
「え、いやっ!それはだめだよ…。」
私は慌ててちりとりを持つ手の力を強めて、雫ちゃんにこれ以上迷惑をかけないように抵抗する。
すると雫ちゃんは一度ちりとりから手を離して言った。
「…花里さんさ、なんでこういう時は自分の意見言えるのに、あの三人の前では言わないのよ?」
「…え?」
なんでって、そんなの怖いからに決まって──。
「私はいじめられてる人の気持ちなんて分かんない。いじめてる人の気持ちも分かんない。でも、何も言わないと何も変わらないよ?」
雫ちゃんの瞳には強い意思が含まれているのが分かった。
「花里さん、さっき自分で掃除やらなきゃって思ったから自分の意見を言ったんだよね?迷惑かけたくないからって。」
「うん…。」
「じゃあ、このクラスの雰囲気どう思う?別に花里さんが悪いわけじゃないよ。でもこの空気を変えれるのはあなただけなの。それを分かって…?」
堂々と真っすぐに意見を言ういつもとは打って変わって、優しくて柔らかい声でそう告げた雫ちゃん。私は目を丸くして雫ちゃんの方を見る。
「花里さん、あなたなら絶対、できる──。」
「花里さーんっ!今日も掃除よろしくねーっ!」
遠くなっていくアイザワさん。嫌だって言わなきゃ…!言わないと何も、変われない…!歩こうとする私の脚は、産まれたての小鹿のように震えていた。あぁ、やっぱり私って、だめだ──。
「トンッ──」
「…え?」
肩を優しく叩かれたと思って私は昨日と同じようにゆっくりと見返ると、そこには優しい眼差しでこちらを見守る雫ちゃんがいた。「あなたならできるよ」って、「諦めないで」って言われているようで──
「──イザワさん…アイザワさん!待ってっ!!」
私の叫ぶ声が響いた教室は、一瞬にして静まり返ったのが分かった。
「…は?何?」
「…っ!」
アイザワさんのつんざくような鋭い視線。いや、私なら大丈夫…!変わるんだ…!!
「アイザワさんって人に掃除押し付けられるほど偉いの?」
「…はっ?ダ、ダサ…。」
私の声は震えていた。でも、それでも私は言い続けた。迷惑をかけてしまっているクラスメイトのために。勇気をくれた雫ちゃんのために。弱くて脆い、自分のために──。
「人をいじめる人の方がよっぽどダサいと思うけど?言葉でしか人を攻撃できないんなら、偉そうに言うなよっ!!」
言い過ぎたかな、なんて思う暇もなかった。ただ一生懸命、必死に自分の心を叫び続けただけだった。
「…何よ……ふんっ!」
アイザワさんは結局掃除を放置して帰って行った。これ、どっち…!?もしかして悪化するかな!?それとも諦めてくれた!?どうしよう…!!
「ポンッ──」
「…え?」
焦り続けていた私の肩に優しく手を置いてくれたのは、雫ちゃんだった。
「よく、頑張ったね。」
その言葉を合図に、私はみんなの前だというのに思い切り泣きだしてしまっていた。でも、その直後にクラスのみんなが温かい拍手を送ってくれたから、いいんだ──。
人を変えるのは偽物の想いじゃない。歪んだ友情でもない。人が変わる瞬間って、思ったより一瞬。そう、人を動かすのはたった一握りの勇気なんだ。それに気がついた時、私が見たのは──
中学一年生の頃は普通に友達もいたし、気の合う友達もいて充実していた。二年生に進学しても知り合いと同じクラスだったし、安心していた、はずだった。
いつからだろう。クラスの中心で目立っているような、いわゆる陽キャに目を付けられたのは──。
それは今から数ヵ月前の出来事だった。私が教室で、独りで本を読んでいた時。クラスの中心的な人物であるアイザワさんが私の机に脚を引っかけて転びかけてしまったというのが事の発端だっただろうか。
『ご、ごめっ!ダイジョ──』
『チッ。』
咄嗟に謝った私に、舌打ちを残して去っていったアイザワさん。その時はいじめられるなんて一ミリも思わず、ただ罪悪感だけが残っていたのを覚えている。
教室では毎日独り。あの日からそれが当たり前になってしまったし、私は、今では仕方ないのかなぁなんて思ってしまうほど。
たまに誰かに話しかけられたと思ったら、それは私を積極的にいじめているアイザワさんやフカヤさん、マツモトさんあたり。他のクラスメイトたちは遠くからいじめられている私を見ているだけだ。
基本私をいじめるのはこの三人組だが、クラスメイト全員からは無視され、たまに陽キャである男子からもいじめを受けることがある。
「花里さーんっ!今日はあのダッサいヘアゴムしてきてないんだねっ!」
「…。」
私は薄汚れた机とにらめっこをして、今日もあの三人からのいじめに耐える。
「きゃははっ!今更ダサいことに気づいたとかーっ?」
「それウケるー!」
ただこの三人がいなくなるのを待って、いつか飽きることを望んで全力で無反応を意識する。
「おい、なんとか言えよ!」
「あんた、陰キャすぎて気持ちワリーの!」
フカヤさんとマツモトさんに色々な悪口を言われるなか、アイザワさんは無言でニヤケながら私を睨んでいた。でもその視線は、私の心を割くように冷たくて鋭い。
「…。」
「なんかさ、つまんなくね?コイツ。」
アイザワさんは他二人に視線を移してぼやく。これは「飽きたから私をいじめるのはやめよう」と言っているのだといいのだが…。
「それじゃあこれからもっと面白いことするー?」
「あ、それいいねー!」
まぁ、普通に考えてそんなわけないよね…。
私はギュっと目を瞑った──。
「あんたたち、クラスメイトいじめて楽しい?」
「…っ!」
この声は──!
私は綺麗な顔立ちをしたその子に視線を向けた。
「はぁっ?もういいや。また明日ねー。」
「はぁ…。」
そう、この子だけは私をいじめないで、庇ってくれるのだ。
「花里さん、ああいう最低な奴らってちゃんと言わないと辞めてくれないんだから。」
「ごめんね…。いつもありがとう…。」
この子の名前は雫ちゃん。正義感が強くて、いつも私を守ってくれる私にとってのヒーロー。本当に、こんなかっこよくて強い人に私もなりたいな。
「まったく、こんな気の弱い子いじめて何が楽しいんだか。」
雫ちゃんはそれだけ言って私の前から消えた。
私もいつか、あんなふうに堂々と言い返せるような、尊敬されるような人になりたい──。
「花里さーん、今日の私たちの分の掃除、もちろんやってくれるよねーっ?」
「…。」
今日もだ。今日も私はあの三人にいじめられてみんなに無視されて…。まぁ、雫ちゃんが何か言ってくれたところで何も変わらないのは、分かってるんだけど…。私が何か言わなきゃ変われないんだけど…でも──。
「あ?なんか言えよ!」
「痛っ…。」
──怖い。もう失うものなんてないはずなのに、怖くてたまらないんだ。今のところは悪口や軽い嫌がらせ程度。でも私が何か言ってしまったら、暴力や物の損失など、悪い方向に行ってしまう気がして──。
「まっ、よろしくねー。」
私はアイザワさんからちりとりを投げられてさらに怯む。やっぱり私は、だめなんだ──。
「花里さん。」
「…え?」
私は突然手に持っていたちりとりを取られて肩をビクつかせた。
後ろをゆっくりと見ると、そこには呆れたような表情をした雫ちゃんがいた。
「今日掃除ないでしょ?私あるから、ついでにやっとく。帰っていいよ。」
「え、いやっ!それはだめだよ…。」
私は慌ててちりとりを持つ手の力を強めて、雫ちゃんにこれ以上迷惑をかけないように抵抗する。
すると雫ちゃんは一度ちりとりから手を離して言った。
「…花里さんさ、なんでこういう時は自分の意見言えるのに、あの三人の前では言わないのよ?」
「…え?」
なんでって、そんなの怖いからに決まって──。
「私はいじめられてる人の気持ちなんて分かんない。いじめてる人の気持ちも分かんない。でも、何も言わないと何も変わらないよ?」
雫ちゃんの瞳には強い意思が含まれているのが分かった。
「花里さん、さっき自分で掃除やらなきゃって思ったから自分の意見を言ったんだよね?迷惑かけたくないからって。」
「うん…。」
「じゃあ、このクラスの雰囲気どう思う?別に花里さんが悪いわけじゃないよ。でもこの空気を変えれるのはあなただけなの。それを分かって…?」
堂々と真っすぐに意見を言ういつもとは打って変わって、優しくて柔らかい声でそう告げた雫ちゃん。私は目を丸くして雫ちゃんの方を見る。
「花里さん、あなたなら絶対、できる──。」
「花里さーんっ!今日も掃除よろしくねーっ!」
遠くなっていくアイザワさん。嫌だって言わなきゃ…!言わないと何も、変われない…!歩こうとする私の脚は、産まれたての小鹿のように震えていた。あぁ、やっぱり私って、だめだ──。
「トンッ──」
「…え?」
肩を優しく叩かれたと思って私は昨日と同じようにゆっくりと見返ると、そこには優しい眼差しでこちらを見守る雫ちゃんがいた。「あなたならできるよ」って、「諦めないで」って言われているようで──
「──イザワさん…アイザワさん!待ってっ!!」
私の叫ぶ声が響いた教室は、一瞬にして静まり返ったのが分かった。
「…は?何?」
「…っ!」
アイザワさんのつんざくような鋭い視線。いや、私なら大丈夫…!変わるんだ…!!
「アイザワさんって人に掃除押し付けられるほど偉いの?」
「…はっ?ダ、ダサ…。」
私の声は震えていた。でも、それでも私は言い続けた。迷惑をかけてしまっているクラスメイトのために。勇気をくれた雫ちゃんのために。弱くて脆い、自分のために──。
「人をいじめる人の方がよっぽどダサいと思うけど?言葉でしか人を攻撃できないんなら、偉そうに言うなよっ!!」
言い過ぎたかな、なんて思う暇もなかった。ただ一生懸命、必死に自分の心を叫び続けただけだった。
「…何よ……ふんっ!」
アイザワさんは結局掃除を放置して帰って行った。これ、どっち…!?もしかして悪化するかな!?それとも諦めてくれた!?どうしよう…!!
「ポンッ──」
「…え?」
焦り続けていた私の肩に優しく手を置いてくれたのは、雫ちゃんだった。
「よく、頑張ったね。」
その言葉を合図に、私はみんなの前だというのに思い切り泣きだしてしまっていた。でも、その直後にクラスのみんなが温かい拍手を送ってくれたから、いいんだ──。
人を変えるのは偽物の想いじゃない。歪んだ友情でもない。人が変わる瞬間って、思ったより一瞬。そう、人を動かすのはたった一握りの勇気なんだ。それに気がついた時、私が見たのは──
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