銀鼠の霊薬師

八神生弦

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36 想い※

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「あ、……痛いか?」
 
 辛そうな表情の桔梗ききょうに気がつき、動きを止めた白銀しろがねに桔梗は首を振る。
 
「いいんだ、痛いほうが……。好きに動いてくれ、お前をちゃんと身体に刻み付けたい……」
 
「……桔梗」
 
 白銀は桔梗の腰を両手で固定し、ゆっくりとおのれを沈めていく。
 
「うぅっ……」
 
 痛みに涙が滲む目で白銀を見ると、彼も辛そうに眉を寄せていた。
 桔梗が白銀を全て飲み込んだ時、彼は桔梗の首筋に顔を埋めた。そして、苦しそうにかすれた声で囁く。
 
「ききょ……動かすから、少し力抜いて……」
 
 首筋を甘噛みしながら、ゆっくりと律動を始めると耳元の白銀の口から切ない吐息が漏れた。
 
「あ、はっ。桔梗の窒内なか……すげ……熱い」
 
「んっ……くぅっ……」
 
「ごめん、俺……だけ、んんっ、気持ちよく……て」
 
 白銀の熱い息が首にかかる。
 彼の声を聞いていると、痛み以外の何かが下半身からせり上がって来るのを感じた。
 やがて、我慢の限界を越え、余裕の無くなった白銀の腰の動きが徐々に激しさを増してきた。
 
「あっあっ……しろが……ね、何か変だ……」
 
 桔梗の顔の両脇に手をつき、白銀は桔梗の顔を見ながら腰を打ち付ける。
 
「凄いな……窒内なかで、溶けそうだ……っう、ん……」
 
「やっ、あっあっあっ……んっんっ、はん……あぁっ」
 
「その顔……すげ……いい」
 
 ギシギシと激しく軋む寝台の上で、熱い吐息を絡ませ合う。
 
 ────身体が熱い。
 
 痛みのせいとは、違う涙が溢れてきた。
 桔梗は、自分の太ももを持ち上げながら、己を打ち付けている白銀を見る。
 それに気がついた白銀は、一旦動きを止め桔梗に口づけをすると、桔梗の両腕はそれを迎えるように白銀の首に絡み付いた。
 ゆっくり唇を離すと、白銀は親指で桔梗の涙を優しく拭う。
 
「好きだ、桔梗」
 
 金色の目が、真摯に見つめてくる。
 
「好きすぎて、どうにかなりそうだ……」
 
 白銀は自分の額を、桔梗の額につけながら言う。桔梗は、両手でそんな白銀の頬を優しく包んだ。
 
「私もだ……恋焦がれるとは、こんな感情を言うんだろうな……」
 
 言うと、今度は桔梗から白銀に口づける。
 彼は一瞬驚いたようだったが、やがて互いに舌を絡ませる。止まっていた白銀の動きも再開した。
 
「くっぅ……はっ」
 
 徐々に激しくなる動きに、桔梗の腰が浮く。
 白銀は、桔梗の太ももを持ち上げると、更に激しく腰を打ち付けた。
 桔梗はたまらず白銀の背中に両手をまわし、しがみついた。
 
「っあ……あぅん、あっあっ、はぁっ……」
 
「あっ、はっ、も……駄目だ……」
 
 絶頂を迎えそうになった白銀は、今までに無いくらい激しく打ち付けると、桔梗の最奥で果てる。自分の窒内で脈動する白銀を感じながら、桔梗は息を整えた。
 
 繋がったまま、唇を重ねる。
 白銀の手が、桔梗の手をまさぐるように探し当てると、指同士を絡め合わせた。
 桔梗の唾液を絡めとり、白銀が更に舌を貪欲に差し入れると、果てたばかりの白銀自身が桔梗の窒内でびくびくと震えた。
 
 
 
 
「白銀……」
 
「んー……?」
 
 先程までの行為の余韻を残しながら、ふたり裸のまま横たわっていた。
 窓から見える星空を眺めている桔梗の髪に鼻を埋める白銀は、両手で包み込むように桔梗を抱き締めたまま、離してくれない。
 
「明日の夜、私があの男に抱かれても……今と変わらず好きでいてくれるか?」
 
 不安そうに問う声に、白銀は暫く黙っていたががばりと桔梗に馬乗りになった。驚いた桔梗が目を見開くと、じっとその目を凝視される。
 
「白銀?」
 
「当たり前だろ? 俺は桔梗だから好きなんだ、誰に抱かれたからとかそんなの……俺は気にしないっ」
 
 それより、と桔梗の耳元に鼻を押し付ける。
 
「こんなかたちでしか、お前を救えない自分が……情けないんだ」
 
「……知っていたんだな、霊薬師霊薬師わたしの寿命のこと」
 
「ああ、玄に聞いた」
 
「そうか……」
 
 甘えるように耳元に鼻を押し付けすり寄る白銀の頭を、愛しそうに撫でる。
 
 ────明日の今頃はあの男と……。
 
 不意に思い出してしまい、急に不安感に襲われる。
 桔梗は白銀の身体をぎゅっと抱き締めると、強く目を閉じた。
 
 
 
 ※
 
 
 
 翌朝、不意に目が覚めた。
 窓から見える空は薄暗く、まだ夜明け前なのだとわかる。
 まだ覚醒しきれていない頭で、ぼーっと眺めていると額に口づけをされた。
 
「……起きていたのか?」
 
 目覚めたての掠れた声で訊くと、横で頬杖をつきながら白銀がこちらを見つめていた。
 
「寝顔を見ていた」
 
「寝顔……?」
 
 意味を理解した桔梗の顔は、ぱっと赤くなる。そして顔を見られないように白銀の胸元に顔を埋めると「見るな」と小さく呟いた。
 その仕草がたまらなく可愛く思えて、白銀はクスクスと笑いながら自分よりだいぶ華奢なその身体を優しく抱き締めた。
 
 今夜、この身体をあの鬼が抱く。
 できる事なら行かせたくない。桔梗に対しての独占欲や嫉妬もそうだが、優しくされるとは限らない。身体の大きい鬼だ、桔梗との体格差は自分との比ではない。
 無理矢理、あの男に乱暴にされている桔梗を想像して心臓が大きく波打った。たまらなくなり、抱き締めていた腕に力を込める。
 
「苦しい……白銀」
 
 ハっと力を緩める。胸元に顔を埋めていた桔梗が上目使いで白銀を見た。
 
「どうした? そんな顔して」
 
「やっぱり、止めないか? ……お前の寿命を延ばす方法、俺頑張って探すから……」
 
「…………」
 
 そんな方法が他で探せるという保証は無い。
 今の自分の台詞が、桔梗を死に追いやってしまうかもれない。
 そもそも、あの鬼が方法を知っていると言うのも、信用できるかどうか知れない。
 
 どうしていいのか分からなくなり、黙りこむ。
 
 
「……私は、生きたい」
 
 桔梗は真っ直ぐ白銀を見る。その黒曜石のような瞳にもう迷いの色は無かった。
 
「今まで、それが私の寿命だと運命なのだと受け入れていた。諦めていた、と言ってもいいかもしれない。……それが、お前と会って変わったんだ。もっと生きたい。……私は、お前とずっと一緒にいたい」
 
 初めて聞く桔梗の想い。
 だから、と桔梗は続ける。
 
「共に生きよう。ずっと」
 
 こんな事を言われて、それでも止めようと言えるだろうか。
 手を伸ばし、白銀の頭をあやすように撫でる桔梗の顔は微笑んでいた。
 途端に、白銀の目頭が熱くなる。
 
「ごめん」
 
 声が震えていた。
 顔を見られたくなくて、桔梗の髪に鼻を埋める。
 
「白銀?」
 
「……ごめん」
 
「泣いているのか?」
 
「……泣いてない」
 
 白銀は少し困った様子の桔梗の温もりを確かめるように、ぎゅっと抱き寄せた。
 
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