殿下、私は困ります!!

三屋城衣智子

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22. しきたりなんです

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 どこをどうやって帰ったかわかりませんが、ずぶ濡れで家に帰ると服を着替えもせずベッドでうずくまります。

 我が家にはしきたりがあります。
 代々、子の中で赤茶色の瞳を持つものが生まれた場合継承順の後先あとさきに関係なく当主に据えるべし、と。
 もう由来も口伝だったため伝わりきっていないものなのですが、逆に口伝だったこともあり割と重要視され、それはもう何代にも渡り忠実に守られているそうです。

 それと同じく、皇家にもまるで儀式のように脈々と続いてきたしきたりが存在しています。

 ――邪竜を封印する存在である公爵家の血を絶やさないこと――

 今もその存在が物語で語り継がれている邪竜ですが、皇族や貴族の間では実在として公然の秘密だったりします。
 その公爵家は封印する為に力を使いすぎるのか次世代がなかなか生まれにくく、その為後継ぎとして皇の子の中から一番魔力の強い者を養子に出すのだそうです。
 養子だけならどの貴族からでもいいのでは? と思うところですが、その公爵家は元は皇弟が臣籍降下してできた家。
 そう――建国から続くといわれるこの風習は、勇者の血筋が行い続けている、皇族だけにしか出来ないものなのです。

 その次世代に、レイドリークス様が選ばれた……。

 という事は、跡取り同士になるので婚約は不可能になります。
 これまでずうっと頭を悩ませてきた問題が、すっきり解決するのです。

 喜ぶべき事なのに――――

 私の頭はずっとぐるぐるしっぱなしで……やがて、ゆっくりと瞼が閉じてしまったのでした。



 その日以降、私はしばらく風邪をひいてしまって、ベッドの住人になり続けました。
 もう何日目でしょうか?
 すっかり良くなりましたが、もう一日安静にするように、とお医者様に厳命され未だにベッドの住人です。

「……寝るのもすっかり飽きてしまいました。そろそろ鍛錬したいのに……」
「お嬢様。お言葉ですが、ずっと熱に浮かされておいでだったのです。どうかお医者様のお言いつけを大事になさってくださいませ」

 独り言のつもりが、鬱憤うっぷん分大きな声になっていたようで、うっかりメリーアンにきかれていさめられてしまいました。

「メリーアン、わかっていますよ。明日には学校へ行けるのでちゃんと! 我慢、しますぅ」

 言いつつ我慢しきれなかったのでだいぶ恨みがましく、また、ほっぺたまで膨らんでしまいました。
 だってもう、熱はないんですよ? 体、動かしたいんです!
 けど不覚を取ったのは私なので……私、なので!
 仕方なく大人しくベッドの上に寝たまま、姿勢をとったり、力を抜いたりを繰り返します。

「お嬢様、腹筋は明日にしてください」

 メリーアンにピシャっと言われてしまいました。
 これ以上すると、本気で怒られるので自重します。

「明日になれば、学校にも行けますから。あと一日、お体第一でいてくださいね?」

 くれぐれもですよ? と、釘を刺して彼女は退出していきました。
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