夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸

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第八十二話 次の皇帝として、皇女殿下を支持する

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午後からの時間は、カイルと一緒に図書室で過ごすことにした。

「お母さん、この本読んで」

カイルが絵本を持ってきたので、私はそれを開いた。
絵本の内容は、海の底にある国の物語だった。

海の中には、王国があった。
王国の民たちは、海の中でしか生きられない。
地上に出ると死んでしまう。
ある日、海の王国の王女は、好奇心から砂浜の近くまで泳いでいく。
そこで王女は、地上の国の王子と出会った。
二人は互いに惹かれあったが、王女は地上にあがると命を失い、王子は海の中では生きていけない。
ある日、王女は海辺で老婆と出会う。
老婆は、願いを1つ叶える代わりに、体の部位を1つ渡すように言った。
王女は、地上でも生きていけるようになりたいと願った。
そして、代償として目を渡した。
海の王女は、地上にあがっても死なない体になった。
しかし、王子を見つけるための目を失った。
王女は砂浜で、王子を待った。
しかし王子はその頃、地上の国の王女と結婚していた。
国同士が決めた結婚だった。
王女は絶望し、海の中に身を投げて死んだ。

(これは…カイルにはふさわしくない話だわ…でも、目を失ったっていう部分が、ラウル様と重なって少し引っかかる)

ざっと物語を読んでみて、私は慌てて絵本を閉じた。
これは読まない方がいい。
たぶんカイルには難しい文字が多かったのと、絵が綺麗だったので読んで欲しいとせがんできたのだろう。

「はやくよんでー」
「えっと、実はちょっとお手伝いしてほしいことがあるんだけど、いいかな?」
「うん、いいよ!」

カイルはお手伝いが大好きなので、私の提案に素直に乗ってくれた。


予定日を過ぎても赤ん坊が生まれて来る気配がなく、やきもきしていたマルティンの元へ、北部から報せが届いた。
1通はマルティン宛で、もう1通は皇帝にあてたものだった。
マルティンは自分宛のものを読み、大きく息を吐いた。
北部の領地と国境を接するセルデア公国に、政変の可能性があるのだという。
北部の領地には、政変を危惧する難民の流入が増えており、至急、国からの支援が必要だという内容だった。
また、王城に使いを送ったものの、反応がないため、王の消息や中がどうなっているか分からない状況だという。
万が一の場合に備え、国境付近の警備兵の数も増やしているが、国としてどのような対応をするのかについて皇帝に問い合わせて知らせて欲しいという内容だった。
以前からセルデア公国は危うい状況で、政情不安や貧困などの問題もあり、難民が増えているのが問題になっていた。
いずれ何か問題が起きるのではないかとマルティンも気になっていたのだが…。

「皇女殿下を頼ってみるか」

先日、シャーレットから預かった手紙を届けに行った際、困ったことがあれば相談に乗ると軽い調子で言われ、その時はお願いしますと社交辞令で返しておいたのだが。
まさか本気で頼ることになるとは思わなかった。
マルティン一人で皇帝に直訴するよりは、北部にも来たことのある皇女に間に入ってもらったほうが、話が通じやすいだろう。
国の支援も受けやすいかもしれない。
マルティンはまず、リリア皇女への面会の手続きを取ることにした。


首都への使者を送ってから10日後、北部にはマルティンからの報告書が届いた。
皇帝への訴状に書いた内容に関しては、ほぼ満額回答といってよい。
増える難民対策への公金の補助と物資の補助、さらには医療従事者の派遣なども行ってくれるという。
また、公国への調査と国境の警備のために、皇軍も派遣してもらえることになった。
皇軍はラウルやマルティン、そしてディルクも数年程度所属していたことがあり、馴染みのある組織だ。
今回はその皇軍を、リリア皇女が皇帝の名代として率いてくるということだった。
皇軍には皇軍をまとめる役割のものがいるが、名目上の指揮官はリリア皇女で、今回の派遣の総責任者ということになる。
ただし、マルティンからの報告書には、皇軍の騎士たちは、リリア皇女が一時的とはいえ上官になることを快く思わないものも多いと付け加えてあった。
さらに、皇軍の軍律の緩みが気になるとも。
またマルティン自身の個人的な報告として、無事に第一子の男児が生まれたことも書かれてあった。
エルンストが読み上げたマルティンの報告に、ディルクは少なからず驚きを隠せなかった。
ただ、ラウルはあまり驚いていなかった。

「皇女殿下が皇帝陛下の名代というのには驚きましたが…閣下はあまり驚いておられないようですね」

皇女が皇太女となり、いずれ即位するための準備を始めたということは、シャーレットから聞いていた。
事が動くにはもう少し時間がかかると思っていたが、とりあえずこれは大きな動きといって良いだろう。
リリア皇女は、本気で皇帝を目指すことにしたのだ。

「皇軍の司令官は皇帝陛下の名代の皇女殿下だ。不敬な態度をとることがないように、騎士たちへの指導を徹底しておいてほしい。マルティンの報告通りなら皇軍の兵たちは皇女を軽く見るだろうが、こちらは絶対にそのようなことのないように」
「承知しました。徹底して指導しておきます」

まだ少し、理解できないといった様子のディルクに、ラウルは言う。

「当家としては、次の皇帝として、皇女殿下を支持する」
「え……」
「皇女は、皇太女となるために憲法を変えるおつもりだ」
「何と…」
「簡単なことではないが、今回のことはそのきっかけになる可能性が高い」

ようやくラウルの言っていることが納得でき、ディルクは改めて気持ちを引き締めた。
ラウルが視力を失って皇位から遠ざかっている今、他の皇位継承資格のある者たちの資質が問題視されている。
確かに、憲法を変えるという方法が可能ならば、皇女が継ぐのが帝国にとってもっとも良い解決方法だろう。

「承知しました。不敬者を一人も出さないよう厳しく指導します」
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