163 / 194
第百六十二話 3人で幸せになってみせる…
季節はすっかり冬となり、首都にも雪が降る日が増えた。
北部のように、外に出るのも大変なぐらいの降り方はないけれど、雪が積もる日もあった。
今日も朝から雪が降り、地面にうっすらと積もっている。
けれども今日は、憲法審議会があるので、皇宮に出かけなければならなかった。
今日の審議会では、審議会メンバーによる憲法改正の是非を決める議決が行われる。
リンツ男爵を中心とした賛成派による票のとりまとめは順調で、おそらく憲法改正は議決されるとみられている。
(今日はいつもの倍ぐらいいる…)
可能性は低いけれども、憲法改正反対派の妨害があるかもしれないということで、今日の皇宮までの護衛はいつもより多く配置されていた。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
皇宮へ行くときにはいつも私の護衛を担当してくれる警官とも、すっかり馴染みになった。
彼は、エマヌエルという名の平民の警官で、以前から本邸内の警備にも携わってくれている。
イザークさんとはまた少し違った雰囲気だけど、物腰の柔らかな美青年だ。
イザークさんとは同期で、プライベートでも仲が良いらしい。
「いよいよですね」
「はい。でも、想定していた最短距離での議決ができて良かったす」
当初は翌年まで議決が持ち越すのではないかと見られていたから、年内に議決できるのはかなりスピーディといえるだろう。
今日議決されれば年内には国民投票が行われ、早ければ来年早々には皇女様は皇太女となる。
(原作では、何年も先の話のはずだったのに)
もうとっくに原作とは異なる物語となっていたけれど、物語の主軸であるリリア皇女様の立太子がこれだけ早くなるのは、私自身も想像していなかった。
しかもその流れに、私自身が深く関わることになるなんて…。
一年前には、自分の部屋の中の世界しか知らなかった私が、今はラウル様の妻として、皇女様の侍女としていることが、とても不思議だった。
原作のシャーレットは非業の死を遂げたけど、私は絶対にそうはならない。
きっと、ラウル様とカイルと、3人で幸せになってみせる…。
私は改めてそう心に誓った。
「では、賛成多数で、憲法第一条二項の改正決定する」
裁判長の言葉が重々しく議場に響くと同時に、拍手と歓声が沸き起こった。
反対派の妨害も警戒されたけれどそれもなく、憲法の改正によって、皇位は女性でも継げることが決まった。
リリア皇女様の顔をチラリと見ると、少しホッとした表情で微笑んでいる。
「次に国民投票の日程を発表する。国民投票は、3週間後の12月24日に行う」
国民投票に関しては、平民の間で皇女様の人気が安定しているので、おそらく問題はないと考えられている。
ただそれでも、油断はできない。
反対派が最後のあがきとして、何をしてくるか分からないからだ。
(そういえば…お姉様が近いうちに会いたいって言ってたっけ…)
お姉様の話の内容も、おそらくベーレンドルフ公爵…そしてカスパー公子に関するものだ。
どんな話があるのかは分からないけれど、たぶん私にとってもラウル様にとっても、そしてお姉様にとってもあまり歓迎する話ではないのだろう。
(今日にでもラウル様に話して、お姉様と早めに会うようにしよう…)
「え…セルデア公国に行かれるのですか?」
エグラー伯爵と令嬢がセルデア公国に行ったきり戻ってこないという話は聞いていたけれど、まさか新婚の自分の夫までもが彼の国に行くとは…。
アグネスはいろいろ言いたい気持ちを堪えて、冷静を装いながら聞いた。
「セルデアは政情が不安定だと聞いておりますわ。そのような国に夫が出かけるのは、妻としては心配です。理由をお聞かせ願えませんか?」
「事業の手伝いだよ。お前の父親も一緒に行くんだ。何もやましいところはないぞ」
「やましいとかそういう問題ではなく…国王も不在で混乱のただ中にあるセルデアで、いったい何の事業を行うつもりなのですか?」
「そんなことは、お前の父親のほうがよく知っているだろう。俺はただ、手伝いに呼ばれて行くだけだからな」
父親のグリーン侯爵のことを言われると、アグネスはそれ以上何も聞けなかった。
父は娘も息子も、家門のための道具として思っていない。
余計なことを聞けば、『お前はさっさと跡継ぎを産め。それが仕事だ』と言われてしまうだろう。
「ファーレンハイトの嫁と会っているらしいが、何か聞き出すようにとでも言われたのか?」
「いえ、そのようなことはありません。あの子とは、そういう話は一切しませんから」
「まあ、それならいいが。会うなとは言わないが、向こうも何を探ってくるか分からないから、気をつけろよ」
「はい、承知しました」
夫や父親が自分に何も話さないのは、シャーレットと連絡を取り合っていることも原因なのだろうとアグネスは思った。
北部のように、外に出るのも大変なぐらいの降り方はないけれど、雪が積もる日もあった。
今日も朝から雪が降り、地面にうっすらと積もっている。
けれども今日は、憲法審議会があるので、皇宮に出かけなければならなかった。
今日の審議会では、審議会メンバーによる憲法改正の是非を決める議決が行われる。
リンツ男爵を中心とした賛成派による票のとりまとめは順調で、おそらく憲法改正は議決されるとみられている。
(今日はいつもの倍ぐらいいる…)
可能性は低いけれども、憲法改正反対派の妨害があるかもしれないということで、今日の皇宮までの護衛はいつもより多く配置されていた。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
皇宮へ行くときにはいつも私の護衛を担当してくれる警官とも、すっかり馴染みになった。
彼は、エマヌエルという名の平民の警官で、以前から本邸内の警備にも携わってくれている。
イザークさんとはまた少し違った雰囲気だけど、物腰の柔らかな美青年だ。
イザークさんとは同期で、プライベートでも仲が良いらしい。
「いよいよですね」
「はい。でも、想定していた最短距離での議決ができて良かったす」
当初は翌年まで議決が持ち越すのではないかと見られていたから、年内に議決できるのはかなりスピーディといえるだろう。
今日議決されれば年内には国民投票が行われ、早ければ来年早々には皇女様は皇太女となる。
(原作では、何年も先の話のはずだったのに)
もうとっくに原作とは異なる物語となっていたけれど、物語の主軸であるリリア皇女様の立太子がこれだけ早くなるのは、私自身も想像していなかった。
しかもその流れに、私自身が深く関わることになるなんて…。
一年前には、自分の部屋の中の世界しか知らなかった私が、今はラウル様の妻として、皇女様の侍女としていることが、とても不思議だった。
原作のシャーレットは非業の死を遂げたけど、私は絶対にそうはならない。
きっと、ラウル様とカイルと、3人で幸せになってみせる…。
私は改めてそう心に誓った。
「では、賛成多数で、憲法第一条二項の改正決定する」
裁判長の言葉が重々しく議場に響くと同時に、拍手と歓声が沸き起こった。
反対派の妨害も警戒されたけれどそれもなく、憲法の改正によって、皇位は女性でも継げることが決まった。
リリア皇女様の顔をチラリと見ると、少しホッとした表情で微笑んでいる。
「次に国民投票の日程を発表する。国民投票は、3週間後の12月24日に行う」
国民投票に関しては、平民の間で皇女様の人気が安定しているので、おそらく問題はないと考えられている。
ただそれでも、油断はできない。
反対派が最後のあがきとして、何をしてくるか分からないからだ。
(そういえば…お姉様が近いうちに会いたいって言ってたっけ…)
お姉様の話の内容も、おそらくベーレンドルフ公爵…そしてカスパー公子に関するものだ。
どんな話があるのかは分からないけれど、たぶん私にとってもラウル様にとっても、そしてお姉様にとってもあまり歓迎する話ではないのだろう。
(今日にでもラウル様に話して、お姉様と早めに会うようにしよう…)
「え…セルデア公国に行かれるのですか?」
エグラー伯爵と令嬢がセルデア公国に行ったきり戻ってこないという話は聞いていたけれど、まさか新婚の自分の夫までもが彼の国に行くとは…。
アグネスはいろいろ言いたい気持ちを堪えて、冷静を装いながら聞いた。
「セルデアは政情が不安定だと聞いておりますわ。そのような国に夫が出かけるのは、妻としては心配です。理由をお聞かせ願えませんか?」
「事業の手伝いだよ。お前の父親も一緒に行くんだ。何もやましいところはないぞ」
「やましいとかそういう問題ではなく…国王も不在で混乱のただ中にあるセルデアで、いったい何の事業を行うつもりなのですか?」
「そんなことは、お前の父親のほうがよく知っているだろう。俺はただ、手伝いに呼ばれて行くだけだからな」
父親のグリーン侯爵のことを言われると、アグネスはそれ以上何も聞けなかった。
父は娘も息子も、家門のための道具として思っていない。
余計なことを聞けば、『お前はさっさと跡継ぎを産め。それが仕事だ』と言われてしまうだろう。
「ファーレンハイトの嫁と会っているらしいが、何か聞き出すようにとでも言われたのか?」
「いえ、そのようなことはありません。あの子とは、そういう話は一切しませんから」
「まあ、それならいいが。会うなとは言わないが、向こうも何を探ってくるか分からないから、気をつけろよ」
「はい、承知しました」
夫や父親が自分に何も話さないのは、シャーレットと連絡を取り合っていることも原因なのだろうとアグネスは思った。
あなたにおすすめの小説
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!
楠ノ木雫
恋愛
貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?
貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。
けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?
※他サイトにも投稿しています。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています
如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」
何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。
しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。
様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。
この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが……
男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら
渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!?
このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!!
前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡
「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」
※※※
現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。
今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました!
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
公爵家の養女は静かに爪を研ぐ 〜元々私のものですので、全て返していただきます〜
しましまにゃんこ
恋愛
リヴィエール公爵家に養女として引き取られた少女、アリサ・リヴィエール。
彼女は華やかな公爵家の嫡子マリアとは対照的に、家でも学園でもひっそりと息を潜めて生きていた。
養女とは言っても、成人と同時に修道院へ入ることが決まっており、アリサに残された時間は僅かだった。
アリサはただ静かに耐えていた。
——すべてを取り戻す、その時まで。
実は彼女こそが、前公爵が遺した真の娘であり、水の加護を持つリヴィエール公爵家の正統なる後継者だった。不当に奪い取られた地位と立場。
アリサは静かに時を待つ。
一方、王太子リュシアン・ルミエールは、傲慢な婚約者マリアに違和感を抱きつつ、公爵家に隠された不正の匂いを嗅ぎ取っていく。
やがて二人の思惑は重なり、運命の卒業パーティーが幕を開ける。
奪われた名前も、地位も、誇りも——
元々、私のものなので。まとめて返してもらいます。
静かに爪を研いできた養女の、逆転ざまぁと溺愛ロマンス。
完結保証&毎日2話もしくは3話更新。
最終話まで予約投稿済み。
誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』
富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
