171 / 194
第百七十話 ラウル様に対して何か仕掛けようと(※挿絵あり)
いくつかの種類のお茶を堪能し、満足したエトガルさんは、驚くほど柔和な顔になっていた。
今なら、聞けば何でも答えてくれそうだ。
「それで…先ほどの話の続きなのですけど。魔女を封印もしくは無力化する方法について心当たりはないでしょうか?」
「まだはっきりとした情報ではないので、あまり勝手なことは言えないのだが…」
「それでもいいです。教えてもらえませんか?」
「強力な神聖力をもってすれば、一時的にその活動を封じ込めることは可能かもしれない。魔女の魔力と神聖力は、いわば水と油。互いに反発し合う性質を持つ。神聖力が魔女の魔力を大きく上回れば、その存在を一時的にこの世界から切り離す…もしくは力を無効化することができるかも」
「皇女様の力で…」
エトガルさんは神妙な顔でうなずいて言った。
「ただ、そういう事例がないので、魔女を封じ込めるだけの神聖力を使った聖女がどうなるのかは分からない。しかも、確実に封じ込められるとは限らないから、かなりリスクの高い賭けになるな」
それはつまり、たとえ魔女をどうにかできたとしても、皇女様もどうなるか分からないということだ。
今の帝国にとって、皇女様はなくてはならない存在。
そんな危険な賭けはできない。
皇女様も、難しい顔をしている。
魔女をどうにかしたい気持ちは皇女様もあるのだろうけど、それが命がけのものとなると、立場上、気軽に試すというようなことはできないだろう。
今はもう国民投票が目前で、皇女様はじきに皇太女となり、皇帝となる身なのだから。
結局、この日はしばらく談笑をしてお開きとなった。
いくつかの目新しい情報が得られただけでも、収穫があったといえるだろう。
皇女様の機転もあってエトガルさんはしばらく皇宮に滞在することになった。
皇宮図書館の古代文字を用いた書物なども読めるように手配してくれため、エトガルさんが皇宮滞在中に新しい情報を発見する可能性も期待できる。
その翌日、皇宮へ向かうために準備をしていた私に、お姉様から大至急会いたいという連絡が入った。
(エトガルさんの話も聞きたいけど…お姉様の用件も気になる。かなりお急ぎのようだし…)
私は皇宮に使いを出し、今日はいけなくなったと皇女様に伝えてもらった。
そしてお姉様には、この本邸に来てもらうことにした。
今日は皇宮への外出申請しかしていないため、いつものようにリンツ男爵のカフェというわけにはいかなかったからだ。
でも、お姉様の話の内容によっては、カフェよりも秘密が漏れる心配のないこの本邸のほうが安心して話ができるだろう。
お姉様は、私が連絡をした2時間後に、ファーレンハイト公爵邸へやってきた。
よほど急ぎの用なのかもしれない。
「急にごめんなさい。どうしても会って話さないといけないことができてしまって…」
「いえ、大丈夫です。今、お茶を入れますので。まずは少し気持ちをリラックスさせてください」
「ありがとう…」
話の内容が深刻そうなので、まずはお茶を飲んで気持ちを落ち着けてもらいたいと思った。
私は皇女様からいただいてきたラベンダーティーを入れた。
このラベンダーは皇女様が皇宮で育てているもので、とても香りが良い。
「どうぞ、まずは喉を潤してください」
「ありがとう、とても良い香り…ラベンダーね…」
「はい。皇女様がお育てになったものです」
お姉様は香りを楽しむように、ゆっくりとティーカップを傾けた。
私はお姉様のほうから話を切り出すのを待った。
「カスパー様がまたあの国へ行ったの…」
「あの国…セルデア公国です?」
「ええ…エグラー伯爵と令嬢に警察の捜査の手が伸びていることは噂になっているから、もう行かないだろうと思っていたのに…」
今、セルデアに行き、エグラー伯爵令嬢と接触を持つことは、自分にも捜査の手が伸びる危険をはらんでいる。
自ら犯罪者になる覚悟があるのだろうか…。
カスパー公子の行動は、私には理解しがたかった。
「いったいどうして…」
「たぶん…本気でエグラー伯爵令嬢に心酔してしまっているのだと思う…私が何を言っても聞いてくれないの…」
カスパー公子がどのような感情でエグラー伯爵令嬢に心酔しているのかは分からないけれど…。
(よほどエグラー伯爵令嬢のことが好きなのか…それとも大きな利得につながる何かがあるのか…)
「お父様は、今回は一緒に行かれないのですか?」
前回のセルデア訪問の際には、グリーン公爵の手伝いという名目だった。
今回ももしそうなら、憲法改正反対派の貴族たちによるクーデターの可能性も考えられると思ったのだけど。
「お父様はエグラー伯爵に捜査の手が伸びたことを知って、セルデアの件から手を引くつもりよ」
「では、本当にカスパー公子の独断で、今回は行かれたのですね?」
私が聞くと、お姉様はうなずいた。
「ベーゲンドルフ公爵…お義父様も怒っているわ…私に対しても、なぜ止められなかったのかと…」
お姉様は辛い立場だ。
「それだけじゃないの…カスパー様は、ラウル様に対して何か仕掛けようとしているようなの…今日はそれを伝えたくて…」
「ラウル様に…?」
「はっきりしたことは分からないけれど…カスパー様が、『ファーレンハイト公爵が偉そうにしているのも、今のうちだけだ』と言っているのを聞いてしまって…」
お姉様のその言葉に、私は背筋が冷えるのを感じた。
今なら、聞けば何でも答えてくれそうだ。
「それで…先ほどの話の続きなのですけど。魔女を封印もしくは無力化する方法について心当たりはないでしょうか?」
「まだはっきりとした情報ではないので、あまり勝手なことは言えないのだが…」
「それでもいいです。教えてもらえませんか?」
「強力な神聖力をもってすれば、一時的にその活動を封じ込めることは可能かもしれない。魔女の魔力と神聖力は、いわば水と油。互いに反発し合う性質を持つ。神聖力が魔女の魔力を大きく上回れば、その存在を一時的にこの世界から切り離す…もしくは力を無効化することができるかも」
「皇女様の力で…」
エトガルさんは神妙な顔でうなずいて言った。
「ただ、そういう事例がないので、魔女を封じ込めるだけの神聖力を使った聖女がどうなるのかは分からない。しかも、確実に封じ込められるとは限らないから、かなりリスクの高い賭けになるな」
それはつまり、たとえ魔女をどうにかできたとしても、皇女様もどうなるか分からないということだ。
今の帝国にとって、皇女様はなくてはならない存在。
そんな危険な賭けはできない。
皇女様も、難しい顔をしている。
魔女をどうにかしたい気持ちは皇女様もあるのだろうけど、それが命がけのものとなると、立場上、気軽に試すというようなことはできないだろう。
今はもう国民投票が目前で、皇女様はじきに皇太女となり、皇帝となる身なのだから。
結局、この日はしばらく談笑をしてお開きとなった。
いくつかの目新しい情報が得られただけでも、収穫があったといえるだろう。
皇女様の機転もあってエトガルさんはしばらく皇宮に滞在することになった。
皇宮図書館の古代文字を用いた書物なども読めるように手配してくれため、エトガルさんが皇宮滞在中に新しい情報を発見する可能性も期待できる。
その翌日、皇宮へ向かうために準備をしていた私に、お姉様から大至急会いたいという連絡が入った。
(エトガルさんの話も聞きたいけど…お姉様の用件も気になる。かなりお急ぎのようだし…)
私は皇宮に使いを出し、今日はいけなくなったと皇女様に伝えてもらった。
そしてお姉様には、この本邸に来てもらうことにした。
今日は皇宮への外出申請しかしていないため、いつものようにリンツ男爵のカフェというわけにはいかなかったからだ。
でも、お姉様の話の内容によっては、カフェよりも秘密が漏れる心配のないこの本邸のほうが安心して話ができるだろう。
お姉様は、私が連絡をした2時間後に、ファーレンハイト公爵邸へやってきた。
よほど急ぎの用なのかもしれない。
「急にごめんなさい。どうしても会って話さないといけないことができてしまって…」
「いえ、大丈夫です。今、お茶を入れますので。まずは少し気持ちをリラックスさせてください」
「ありがとう…」
話の内容が深刻そうなので、まずはお茶を飲んで気持ちを落ち着けてもらいたいと思った。
私は皇女様からいただいてきたラベンダーティーを入れた。
このラベンダーは皇女様が皇宮で育てているもので、とても香りが良い。
「どうぞ、まずは喉を潤してください」
「ありがとう、とても良い香り…ラベンダーね…」
「はい。皇女様がお育てになったものです」
お姉様は香りを楽しむように、ゆっくりとティーカップを傾けた。
私はお姉様のほうから話を切り出すのを待った。
「カスパー様がまたあの国へ行ったの…」
「あの国…セルデア公国です?」
「ええ…エグラー伯爵と令嬢に警察の捜査の手が伸びていることは噂になっているから、もう行かないだろうと思っていたのに…」
今、セルデアに行き、エグラー伯爵令嬢と接触を持つことは、自分にも捜査の手が伸びる危険をはらんでいる。
自ら犯罪者になる覚悟があるのだろうか…。
カスパー公子の行動は、私には理解しがたかった。
「いったいどうして…」
「たぶん…本気でエグラー伯爵令嬢に心酔してしまっているのだと思う…私が何を言っても聞いてくれないの…」
カスパー公子がどのような感情でエグラー伯爵令嬢に心酔しているのかは分からないけれど…。
(よほどエグラー伯爵令嬢のことが好きなのか…それとも大きな利得につながる何かがあるのか…)
「お父様は、今回は一緒に行かれないのですか?」
前回のセルデア訪問の際には、グリーン公爵の手伝いという名目だった。
今回ももしそうなら、憲法改正反対派の貴族たちによるクーデターの可能性も考えられると思ったのだけど。
「お父様はエグラー伯爵に捜査の手が伸びたことを知って、セルデアの件から手を引くつもりよ」
「では、本当にカスパー公子の独断で、今回は行かれたのですね?」
私が聞くと、お姉様はうなずいた。
「ベーゲンドルフ公爵…お義父様も怒っているわ…私に対しても、なぜ止められなかったのかと…」
お姉様は辛い立場だ。
「それだけじゃないの…カスパー様は、ラウル様に対して何か仕掛けようとしているようなの…今日はそれを伝えたくて…」
「ラウル様に…?」
「はっきりしたことは分からないけれど…カスパー様が、『ファーレンハイト公爵が偉そうにしているのも、今のうちだけだ』と言っているのを聞いてしまって…」
お姉様のその言葉に、私は背筋が冷えるのを感じた。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた
たぬきち25番
恋愛
男爵家の三女イリスに転生した七海は、貴族の夜会で相手を見つけることができずに女官になった。
女官として認められ、夜会を仕切る部署に配属された。
そして今回、既婚者しか入れない夜会の責任者を任せられた。
夜会当日、伯爵家のリカルドがどうしても公爵に会う必要があるので夜会会場に入れてほしいと懇願された。
だが、会場に入るためには結婚をしている必要があり……?
※本当に申し訳ないです、感想の返信できないかもしれません……
※他サイト様にも掲載始めました!
無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています
如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」
何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。
しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。
様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。
この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが……
男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
【完結】病弱な妹に魔力を分け続け死ぬ寸前の私を、宮廷魔術師になった旧友が攫ってくれました。家族を捨てて幸せになっていいんですか?
未知香
恋愛
「あなたはもう十分楽しんだでしょう? 今度はミアーラの番よ」
膨大な魔力と知識を持ち、聖女候補とまで言われた、天才魔術師エリアーナ。
彼女は、病弱な妹ミアーラの為、家族に言われるまま自らの膨大な魔力を差し出すことにした。
「そうだ。私は健康で、今まで十分に楽しんできた。だから、あげるのは当然だ」
魔力を与え続けた結果、彼女は魔力を失い、容姿も衰え、社交界から姿を消してしまう事となった。
一方、妹ミアーラは姉から与えられた魔力を使い、聖女候補として称賛されるように。
家族の呪縛に縛られ、「今まで多くを貰いすぎていたのだ」と信じ、利用され続けるエリアーナ。
そんな彼女の前に現れたのは、かつての旧友であり宮廷魔術師となった青年だった。
ハッピーエンドです!
大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました
ミズメ
恋愛
感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。
これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。
とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?
重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。
○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます
人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら
渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!?
このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!!
前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡
「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」
※※※
現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。
今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました!
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
