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第一章 少年の日々
0-18. 大学図書館のロビー
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「ロブ……。父さんの口添えで博士号、もう決まってるんだよね。そんなに熱心にやらなくても……」
軍服の青年の声かけに、ロブと呼ばれた青年は積み上げた本の隙間から寝不足真っ盛りの顔を上げた。
「……だけど、力を出し切らなきゃ、どこまでが父さんのコネかわからない。やり遂げたって実感がなきゃ……」
「でも……そんなに無理したって、結局は分からないんだし……。その前に体壊しちゃうよ?」
「ううー……」
頭をかきむしりながら、ノートに単語や説明を書き殴る。既に、ヨーロッパ諸国の人種の分布や諸国語の派生経緯、文化や信教の比較などが乱雑ながらもまとめられている。……が、やがて机に突っ伏した。
「疲れた……」
「気分転換したら? 本とか読んだり」
「じゃあそこの棚の、なにか……物語とか……まあ、テキトーにお願い……」
「わかった」
軍服の青年は言われるがまま棚に目をやって、はたと動きを止めた。
「…………ラルフ、アンドレア?」
「ん? 知ってるの?」
「たぶん……。ロブは?」
「あ、その本なら家にもあるはず」
「そうなんだ……」
なぜその名前が気になるのか、彼にはわからないらしい。
ただ、吸い寄せられるようにページを開く。
「どういう話?」
「え、珍しいね。兄さんからそういうの聞くのって。……えーとね、たぶんだけど、1848年革命あたりの話を脚色したんだと思う」
「ふーん……。人の名前……不思議な感じだね」
「きっと……というか、ただの考察なんだけど、EaglowはEagleとyarrowを組み合わせてて、Andletaとかも、ポルトガル語のAndorinhaとvioletaを組み合わせてるっぽいから……そういう感じで花と鳥がタイトルにあるのかも」
青年は過去のレポートに目を落としながら、かつて趣味で調べたことを意気揚々と語る。
「ロブは、調べ物好きだもんね」
「うん。クロード・ブランって人の本が面白くて、そこに載ってたから気になったんだよね。……あ、でも、StriviaとPhoenimerylがよくわからないままだった……。前者は語源からわからないけど、Phoenixとmerylってどっちも鳥だし……」
「……フランス語、だっけ。lysは? 名前の方にあるよ?」
「えっ!? あ、ほんとだ! 読みがハーリスだから僕らの苗字みたいだなーとしか……!! ……あ」
思わず大きな声を上げてしまい、周りの視線を集めてしまう。申し訳なさそうに座り直して、再び兄の方を向いた。
「え、えっとね、その話、二種類あるんだって。そこにあるのはジョージ・ハーネス訳?」
「そう書いて……。……ッ、ごめん、ロブ。俺、お腹痛くなってきた。また後でね!」
「……! あ、ああ……無理しないでね、兄さん」
腹を抑えながら、それでも笑顔で去っていく兄を、青年は複雑な表情で見送る。
「……貴族絡みの話なのかな、魔術の才云々って」
やがて、ポツリと独りごちる。
「ジャンのあれ、貴族の出なのに認知されなかった……ことの、たとえ……とか……?」
積み上がった資料を再び開くと、独り言すら徐々に消えていった。
軍服の青年の声かけに、ロブと呼ばれた青年は積み上げた本の隙間から寝不足真っ盛りの顔を上げた。
「……だけど、力を出し切らなきゃ、どこまでが父さんのコネかわからない。やり遂げたって実感がなきゃ……」
「でも……そんなに無理したって、結局は分からないんだし……。その前に体壊しちゃうよ?」
「ううー……」
頭をかきむしりながら、ノートに単語や説明を書き殴る。既に、ヨーロッパ諸国の人種の分布や諸国語の派生経緯、文化や信教の比較などが乱雑ながらもまとめられている。……が、やがて机に突っ伏した。
「疲れた……」
「気分転換したら? 本とか読んだり」
「じゃあそこの棚の、なにか……物語とか……まあ、テキトーにお願い……」
「わかった」
軍服の青年は言われるがまま棚に目をやって、はたと動きを止めた。
「…………ラルフ、アンドレア?」
「ん? 知ってるの?」
「たぶん……。ロブは?」
「あ、その本なら家にもあるはず」
「そうなんだ……」
なぜその名前が気になるのか、彼にはわからないらしい。
ただ、吸い寄せられるようにページを開く。
「どういう話?」
「え、珍しいね。兄さんからそういうの聞くのって。……えーとね、たぶんだけど、1848年革命あたりの話を脚色したんだと思う」
「ふーん……。人の名前……不思議な感じだね」
「きっと……というか、ただの考察なんだけど、EaglowはEagleとyarrowを組み合わせてて、Andletaとかも、ポルトガル語のAndorinhaとvioletaを組み合わせてるっぽいから……そういう感じで花と鳥がタイトルにあるのかも」
青年は過去のレポートに目を落としながら、かつて趣味で調べたことを意気揚々と語る。
「ロブは、調べ物好きだもんね」
「うん。クロード・ブランって人の本が面白くて、そこに載ってたから気になったんだよね。……あ、でも、StriviaとPhoenimerylがよくわからないままだった……。前者は語源からわからないけど、Phoenixとmerylってどっちも鳥だし……」
「……フランス語、だっけ。lysは? 名前の方にあるよ?」
「えっ!? あ、ほんとだ! 読みがハーリスだから僕らの苗字みたいだなーとしか……!! ……あ」
思わず大きな声を上げてしまい、周りの視線を集めてしまう。申し訳なさそうに座り直して、再び兄の方を向いた。
「え、えっとね、その話、二種類あるんだって。そこにあるのはジョージ・ハーネス訳?」
「そう書いて……。……ッ、ごめん、ロブ。俺、お腹痛くなってきた。また後でね!」
「……! あ、ああ……無理しないでね、兄さん」
腹を抑えながら、それでも笑顔で去っていく兄を、青年は複雑な表情で見送る。
「……貴族絡みの話なのかな、魔術の才云々って」
やがて、ポツリと独りごちる。
「ジャンのあれ、貴族の出なのに認知されなかった……ことの、たとえ……とか……?」
積み上がった資料を再び開くと、独り言すら徐々に消えていった。
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