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第6話 同僚への違和感
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打ちのめされた肉体がズキズキと痛む。
頭上で、アルバーノの悲痛な声がする。
「な、何してんですかい!?」
「何って……特訓だけど?」
レオポルドは悪びれもせず、平然と語る。
「ブラウは……ブラウは女性なんですぜ。無茶させてどうするんでさ」
私は身体を起こすことができないが、アルバーノがレオポルドに抗議しているのはわかる。
アルバーノとは以前の世界でも同僚だったが、彼が私をこのように労わったことは初めてだ。むしろ、普段なら「やっちまえブラウ!! レオポルドの旦那を打ちのめしてやるんでさぁ!!」……と、けしかけてきた気すらするのだが。
当然、私とレオポルドでは歴然とした実力差があり、けしかけられたところで、散々に負かされるのが目に見えている。立つことすらできない私に、アルバーノが「今日は惜しかったですぜ」だの「いつか勝てたらいいっすねぇ!」だの、無責任に言い放つのも恒例行事だった。
「いやいや、女のコつったってパトリツィオ坊ちゃんのボディーガードだぜ? 強くなってもらわなきゃ困んの。んで、それはお前さんも一緒」
「だ、だけど……いくら何でも怪我したばっかでコレは酷いんじゃねぇですかい?」
アルバーノ、お前はいつから私にそこまで優しくなった。
年齢の違いで、ここまで変わるものなのか?
「あのなぁ、ウチに必要な条件はたった一つ。『強いかどうか』……それだけだぜ。ブラウちゃんは女のコである前に、ボディーガードなワケ。分かってる?」
「……そう、っすけど……」
アルバーノは私に駆け寄り、手を差し出す。
ライトブラウンの瞳が私を映し、わずかに揺れる。
「向こう」のアルバーノより成長しているとはいえ、泣きだしそうな時の表情はあまり変わらない。
「大丈夫ですかい、ブラウ。立てやすか」
「大したことはない。私はお嬢さ……坊ちゃまのボディーガードだ。力をつけるに越したことはないだろう」
アルバーノの態度に疑問は残るが、無茶な特訓だったことも事実。
全身が悲鳴を上げている以上、こうやって手を差し伸べられるのは有り難い。
「真面目なのは良いことでさ。……でも、死にかけたってことも忘れねぇでくだせぇ」
「そうだな。お前と違い、私はボディーガードとしてまだまだ未熟だ。本来ならば自らをも守れてこそ、一流なのだろう」
「……。確かにあっしはガキの頃から坊っちゃんの面倒を見てますし、ブラウにとっても先輩でさぁ。だけど……だからって、無理に追いつこうとしなくていいんですぜ」
やはり、アルバーノの態度は「向こう」と異なる。あちらのアルバーノはやたらと先輩風を吹かせていることが多かったように思うし、ここまで私を気にかけたりはしなかった。
「ブラウは、ブラウにできることをしてくだせぇ」
そのまま、アルバーノは「んじゃ、あっしは坊っちゃんに呼ばれてますんで」と立ち去っていく。茶色の髪がドアの向こうに消え、レオポルドはやれやれと肩を竦めた。
「ありゃあ、ビビってるねぇ。お前さんが一度死にかけたから、か」
「……? 何を、恐れているというのですか」
「あんだけ分かりやすくて気付かねぇの? やっぱ、ブラウちゃんは面白いコだわ」
ニヤニヤと笑いつつ、レオポルドはコキコキと肩を鳴らす。
「ま、オレ様はぜんっぜん物足りねぇけど、怪我治ったばかりなのにいじめすぎってのも一理あるわな」
「ですが、参考にはなりました。感謝します」
「イイねぇ。またいつでも稽古つけてやっから、楽しみにしとけよ」
稽古……というよりは、私が一方的に打ちのめされているようにも思うが、まあ、いいだろう。
加減を一切されていないわけでもないし、参考になることは間違いない。
「『入れ替わり』の件は、ややこしいしまだ隠しとく?」
「……そうですね。『こちら』で過ごすにおいて、必要な情報があれば教えていただいても構いませんか」
「オレ様、そういうの面倒でキライなのよなぁ。……あ、でも、宛ならあるかも」
肩を竦めつつ、レオポルドはニヤリと笑う。
「宛……とは?」
「嫁さん」
……ああ、そういえば……「向こう」でのレオポルドの妻、トスカは世話焼きというか、お節介な女性だった……ような……。
──ブラウじゃないか。相変わらず良いオトコだねぇ。その顔なら女にゃ困らないだろう? ……え? 興味が無い? またまたぁ、冗談言いなさんな。何なら、アタイが相手になってやってもいいんだよ、坊や。
…………。
正直なところを言えば……夫婦共々、あまり、得意な相手ではないのだが…………。
頭上で、アルバーノの悲痛な声がする。
「な、何してんですかい!?」
「何って……特訓だけど?」
レオポルドは悪びれもせず、平然と語る。
「ブラウは……ブラウは女性なんですぜ。無茶させてどうするんでさ」
私は身体を起こすことができないが、アルバーノがレオポルドに抗議しているのはわかる。
アルバーノとは以前の世界でも同僚だったが、彼が私をこのように労わったことは初めてだ。むしろ、普段なら「やっちまえブラウ!! レオポルドの旦那を打ちのめしてやるんでさぁ!!」……と、けしかけてきた気すらするのだが。
当然、私とレオポルドでは歴然とした実力差があり、けしかけられたところで、散々に負かされるのが目に見えている。立つことすらできない私に、アルバーノが「今日は惜しかったですぜ」だの「いつか勝てたらいいっすねぇ!」だの、無責任に言い放つのも恒例行事だった。
「いやいや、女のコつったってパトリツィオ坊ちゃんのボディーガードだぜ? 強くなってもらわなきゃ困んの。んで、それはお前さんも一緒」
「だ、だけど……いくら何でも怪我したばっかでコレは酷いんじゃねぇですかい?」
アルバーノ、お前はいつから私にそこまで優しくなった。
年齢の違いで、ここまで変わるものなのか?
「あのなぁ、ウチに必要な条件はたった一つ。『強いかどうか』……それだけだぜ。ブラウちゃんは女のコである前に、ボディーガードなワケ。分かってる?」
「……そう、っすけど……」
アルバーノは私に駆け寄り、手を差し出す。
ライトブラウンの瞳が私を映し、わずかに揺れる。
「向こう」のアルバーノより成長しているとはいえ、泣きだしそうな時の表情はあまり変わらない。
「大丈夫ですかい、ブラウ。立てやすか」
「大したことはない。私はお嬢さ……坊ちゃまのボディーガードだ。力をつけるに越したことはないだろう」
アルバーノの態度に疑問は残るが、無茶な特訓だったことも事実。
全身が悲鳴を上げている以上、こうやって手を差し伸べられるのは有り難い。
「真面目なのは良いことでさ。……でも、死にかけたってことも忘れねぇでくだせぇ」
「そうだな。お前と違い、私はボディーガードとしてまだまだ未熟だ。本来ならば自らをも守れてこそ、一流なのだろう」
「……。確かにあっしはガキの頃から坊っちゃんの面倒を見てますし、ブラウにとっても先輩でさぁ。だけど……だからって、無理に追いつこうとしなくていいんですぜ」
やはり、アルバーノの態度は「向こう」と異なる。あちらのアルバーノはやたらと先輩風を吹かせていることが多かったように思うし、ここまで私を気にかけたりはしなかった。
「ブラウは、ブラウにできることをしてくだせぇ」
そのまま、アルバーノは「んじゃ、あっしは坊っちゃんに呼ばれてますんで」と立ち去っていく。茶色の髪がドアの向こうに消え、レオポルドはやれやれと肩を竦めた。
「ありゃあ、ビビってるねぇ。お前さんが一度死にかけたから、か」
「……? 何を、恐れているというのですか」
「あんだけ分かりやすくて気付かねぇの? やっぱ、ブラウちゃんは面白いコだわ」
ニヤニヤと笑いつつ、レオポルドはコキコキと肩を鳴らす。
「ま、オレ様はぜんっぜん物足りねぇけど、怪我治ったばかりなのにいじめすぎってのも一理あるわな」
「ですが、参考にはなりました。感謝します」
「イイねぇ。またいつでも稽古つけてやっから、楽しみにしとけよ」
稽古……というよりは、私が一方的に打ちのめされているようにも思うが、まあ、いいだろう。
加減を一切されていないわけでもないし、参考になることは間違いない。
「『入れ替わり』の件は、ややこしいしまだ隠しとく?」
「……そうですね。『こちら』で過ごすにおいて、必要な情報があれば教えていただいても構いませんか」
「オレ様、そういうの面倒でキライなのよなぁ。……あ、でも、宛ならあるかも」
肩を竦めつつ、レオポルドはニヤリと笑う。
「宛……とは?」
「嫁さん」
……ああ、そういえば……「向こう」でのレオポルドの妻、トスカは世話焼きというか、お節介な女性だった……ような……。
──ブラウじゃないか。相変わらず良いオトコだねぇ。その顔なら女にゃ困らないだろう? ……え? 興味が無い? またまたぁ、冗談言いなさんな。何なら、アタイが相手になってやってもいいんだよ、坊や。
…………。
正直なところを言えば……夫婦共々、あまり、得意な相手ではないのだが…………。
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