並行世界の私♂と私♀が入れ替わってしまった 〜クールにボディガードを続けたいが、正直困惑している〜

譚月遊生季

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第5話 鬼上司

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 軽薄な言動に相反し、レオポルドの拳は重い。
 一発避けはしたものの、顔の横側を切り裂くように風圧が走り抜けていく。

「キレが悪いよ~ブラウちゃん。もっと素早く避けれるコだったのに」

 やはり、慣れない肉体というものは扱いづらい。
 レオポルドは女癖も悪く酒癖も悪く、ついでに言えば金遣いも荒い無頼漢だが、彼が最も好むのは喧嘩だ。元の世界でも、私は酒の席で幾度となく彼と拳を交えた。
 元の世界のレオポルドは2児か3児の父だった記憶があるが、父親としての適性には疑問がある。……そういえば、元の世界の「彼」も、首領と共に命を落としたのだろうか。殺しても死にそうにない男だが……

「いっつも、オレ様の拳ですら止まって見えそーな、すました顔してたっしょ? ……なあ!」

 無茶を言うな。攻撃の軌道を読ませない殺人パンチを受け止めるために、「向こう」の私はひたすら腹筋を鍛えたというに……。

「わかりました。そこまで言うなら、お答えしましょう」

 観念し、両手を挙げて降参の意思を伝える。

「お? 早くね? もっと激しくヤり合ってくれたってイイんだぜ」

 レオポルドは不満げに苦笑するが、このまま続けていると命に関わる。

「いえ、どう考えても勝ち筋が見えませんので」

 もっとも、話したところで信用されるかどうかは、また別の問題だろうが……。



 ***



「……ふーん? あの時ほんとは一瞬死んでて、同時に並行世界? のブラウちゃんも死んでたからうっかり入れ替わっちまった、と」
「そうなります」
「で、並行世界とやらのブラウちゃんは男のコだから身体の使い方が違って、戦い方も違う、と」
「そうですね」

 レオポルドは粗暴な男だが、案外頭は切れる。私の説明に対し、あっさりと概要を飲み込んだ。

「……じゃあ何よ。並行世界のオレ様も超おっぱいでかい美女だったりすんの?」

 惚けているように見えて、彼は思考もかなり柔軟だ。突飛な説明もすんなりと受け入れてくれたのは有り難い。
 気にする箇所は若干おかしいような気もするが。

「いえ。並行世界の貴方は……髪がショッキングピンクでなくビビッドグリーンでした。他の差異はよくわかりません」
「ほおーう! さっすがオレ様。いいセンスしてんじゃねーの」
「……そうでしょうか」

 レオポルドのセンスは一切理解できないが、本質的に同じ人間である以上、趣味が同じように奇抜なのも当然なのだろう……か……?

「ソコは疑問に思わなくても良くね?」

 ケラケラと笑いつつ、レオポルドは「Va beneわかったよ」と口にする。

「そーいう事情なら、うかつに話せねぇわな。頭がどうかしたと思われちまう」
「……ご理解いただき、感謝します」
「気にすんなって、オレ様、こう見えて超優しいし」

 嘘をつけ。その言葉は飲み込んだ。

「しっかしまあ……そうなりゃ、アレがいるんじゃねぇの?」
「アレ、とは」

 私が聞き返すと、レオポルドは楽しそうに指を鳴らした。

「特・訓!」

 まずい。
 そう思った時には、拳が鳩尾みぞおちにめり込んでいた。

「かは……ッ」

 痺れるような痛みが一気に脳天を貫き、身動きが取れなくなる。
 重い拳だったが、それでも、手加減されているとは理解できる。

「ちょいちょい、こんぐらい避けなきゃだろ? 弱くなっちゃったねぇ」

 どうにか空気を吸い込み、レオポルドの方を睨みつける。……これしきで、挫けるわけにはいかない。

「……ッ、望むところ、です。これしきの苦痛……いくらでも乗り越えてみせましょう」
「そうそう。ブラウちゃんはそう来なくっちゃなぁ!」

 その後、アルバーノが部屋を訪れるまで、私とレオポルドは「特訓」を続けていた。
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