2 / 7
2001年 春
2nd.
しおりを挟む
その夜は、雨が降っていた。
窓を叩く雨粒の音がうるさくて、耳を塞ぎたくなる夜だった。
姉貴がお袋を殺した。俺もそれを見ちまって、2人で家を飛び出した。
……言葉にしたら、たったそれだけのことだ。
俺にばっかり冷たくて、俺ばっかり無視して、俺のことばっかり貶したお袋の死を、喜ばなかったといえば嘘になる。
けど、それでスッキリできるほど非道にもなれなかった。
「……ロデリック、出かけてくるわ」
姉貴はビジネスで忙しい。……自分の罪がバレる前に、なるべく力をつけておきたいのだと語っていた。
お袋は、姉貴の大切な人を遊び半分で殺した。酔っていたから足を引っかけただけ……と、悪びれもせず語って、逆鱗に触れた。
そんなことで誰かを殺せるお袋が、母親でも殺して、埋めてしまえる姉貴が、その血を引いてる俺が、恐ろしかった。
……兄貴のほうはまだ仕事で忙しいらしい。あの人と顔を合わせなくて済むのは、むしろ、嬉しかった。
顔を洗いたくて、洗面台の前に立つ。……歳の割にずいぶんと老けた顔がそこにあった。目の下にはうっすらクマができているし、無精髭も伸びてきている。
……カッコ悪ぃなぁ、と、ちっとばかし思いはした。
玄関のベルが来客を告げる。……姉貴の客かも知れないが、俺に応対なんぞはできない。
と、思っていたら、家の電話がなった。
「……はい」
「ロッド。……玄関、開けて」
懐かしい声だと、……大好きで、誰より聞きたかった声だと、電話越しでもわかった。
アンドレア・ハリス。前の家で隣人どうしだった幼馴染で……俺の、義理の姉だ。
……ロジャー義兄さんが死んじまったから、今は、ただの幼馴染とも言える。
「……アン姉さん、どうして?」
「どうしてるかなって、気になった。……迷惑だった?」
「全然!……むしろ、その……会いたかった」
アン姉さんは、訳あってローランドという名前をよく名乗っていたし、男性らしく振る舞うことも多かった。
俺もほかの兄弟の前ではロー兄さんと読んでいたけど、二人きりの時にアン姉さんと呼ぶようになったのはいつからだったか。
嫌かな、なんて気にしたこともあったけど……本人は気にせずに振舞っていたから、密かな遊びを続けられた。
……腐れ縁のロバートと違う呼び方をしたかったってガキっぽい理由ではあるが、それだけ、俺はこの人のことを想っていた。
ドアを開いて、迎え入れる。ハグして、頭の位置に驚いた。
久しぶりに会ったアン姉さんは、少し小さくなっていた。……俺が大きくなったんだとはわかっているが、そう見えた。
おおー、と、ちょっとだけ嬉しそうに見上げる姿を、可愛いなと思った。
「元気にしてた?」
「ん……。まあ……程々に」
「嘘ばっかり。顔がもう元気じゃないし」
目尻を下げて、困ったように笑う。左目の泣きぼくろが、つられて下がる。
……相変わらず、綺麗だ。
「シャワー借りてもいい?」
「もちろん。ゆっくり浴びていいから」
「ありがとう」
バスルームに向かう背中を見送る。
ちょっとだけ横に広がった俺の身体とは違い、前より痩せて細くなった気がする。……少し、心配になった。
ガキの頃から、ずっと、ずっと、アン姉さんのことが好きだった。
4歳上のあの人にとっては、俺はもう1人の弟みたいなもんだってことも何となく理解してはいた。
うちの兄貴のことが好きだって気づいて、諦めようとしたこともある。……けど、数年後、その兄貴と口論したり……殴られたり、首を絞められたり……独りで泣いていたりしたのを見て、上手くいっていないとは察した。
……結局、助けることもできないまま、姉貴に連れられて家を出た。
俺に振り向いてくれるとか、くれないとかそれ以前に……幸せに笑ってくれそうにない現実が、何より悔しかった。
バスローブとバスタオルを用意して、そそくさと自室に戻った。……あの細い身体に跳ね返るシャワーの音を聞くだけで、心臓が高鳴って顔が熱くなる。
股間で例のブツも主張を始めていて、さすがにマジかよと思った。
本人が帰ってくる前に抜いておこうと、竿を握る。……何度も想像した痴態を、いつものように頭の中で再生する。
アン姉さんが、恥じらうように頬を染めて、それでも与えられる快感には嬉しそうに腰を跳ねさせて、もっと欲しいとねだる。……当然、妄想だ。見たこともない姿、聞いたこともない声を、想像だけで繰り返す。
指で先端を擦り、上下に幹を扱く。……入れたことのないナカを懸想する。
徐々に熱が昂って、欲がこみ上げる。
「……ッ、アン……っ」
脳内で、抱かれる彼女が甘い声で「いいよ」と告げる。……早く出しておかないと。さすがにおっ勃てたまま、本人と会うわけにはいかない。
……だが、絶頂が間近になるより前に、ふわりと柔らかい感触が背中に当たった。
「……!?」
思考が固まる。
バスローブ姿のアン姉さんが、抱きつくよう俺の身体に手を回していた。
「……俺の名前、呼んでただろ」
……必死に感情を抑えたような口ぶりで、いつもみたいに男性的な口調で、彼女は腕の力を強める。
そのまま、ほっそりとした指が、俺の亀頭を静かに握る。
「あ、え、えと、お、俺、アン以外じゃ抜けない、から」
自分でも何を口走っているのか分からない。口から心臓が飛び出そうだ。
「……なぁ、ロッド」
あたたかい吐息が耳をくすぐる。真っ白な頭に、甘い声音が染み渡る。……ゆっくりと手を上下に動かされて、どんどん絶頂が近づいてくる。
「もう、酒も飲めるんだっけ?」
「っ、あ、えっと……、ぅ、単独じゃだめ……だけ、ど、一応……っ、パブでは……の、飲める……」
「じゃあ……できるんだ。セックス」
その言葉を飲み込むのに、時間がかかった。……惚けている間に玉をさすられて、呆気なく達してしまう。
「そっか」
首筋に、ポタリポタリと生ぬるい雫が伝う。……泣いているんだと、すぐにわかった。
「ロッド」
俺は、まだ知らなかった。
彼女がどれほど思い詰めていたのか。……その細い背中に、何を背負わされていたのか。
「俺の身体、どうしたい?」
窓を叩く雨粒の音がうるさくて、耳を塞ぎたくなる夜だった。
姉貴がお袋を殺した。俺もそれを見ちまって、2人で家を飛び出した。
……言葉にしたら、たったそれだけのことだ。
俺にばっかり冷たくて、俺ばっかり無視して、俺のことばっかり貶したお袋の死を、喜ばなかったといえば嘘になる。
けど、それでスッキリできるほど非道にもなれなかった。
「……ロデリック、出かけてくるわ」
姉貴はビジネスで忙しい。……自分の罪がバレる前に、なるべく力をつけておきたいのだと語っていた。
お袋は、姉貴の大切な人を遊び半分で殺した。酔っていたから足を引っかけただけ……と、悪びれもせず語って、逆鱗に触れた。
そんなことで誰かを殺せるお袋が、母親でも殺して、埋めてしまえる姉貴が、その血を引いてる俺が、恐ろしかった。
……兄貴のほうはまだ仕事で忙しいらしい。あの人と顔を合わせなくて済むのは、むしろ、嬉しかった。
顔を洗いたくて、洗面台の前に立つ。……歳の割にずいぶんと老けた顔がそこにあった。目の下にはうっすらクマができているし、無精髭も伸びてきている。
……カッコ悪ぃなぁ、と、ちっとばかし思いはした。
玄関のベルが来客を告げる。……姉貴の客かも知れないが、俺に応対なんぞはできない。
と、思っていたら、家の電話がなった。
「……はい」
「ロッド。……玄関、開けて」
懐かしい声だと、……大好きで、誰より聞きたかった声だと、電話越しでもわかった。
アンドレア・ハリス。前の家で隣人どうしだった幼馴染で……俺の、義理の姉だ。
……ロジャー義兄さんが死んじまったから、今は、ただの幼馴染とも言える。
「……アン姉さん、どうして?」
「どうしてるかなって、気になった。……迷惑だった?」
「全然!……むしろ、その……会いたかった」
アン姉さんは、訳あってローランドという名前をよく名乗っていたし、男性らしく振る舞うことも多かった。
俺もほかの兄弟の前ではロー兄さんと読んでいたけど、二人きりの時にアン姉さんと呼ぶようになったのはいつからだったか。
嫌かな、なんて気にしたこともあったけど……本人は気にせずに振舞っていたから、密かな遊びを続けられた。
……腐れ縁のロバートと違う呼び方をしたかったってガキっぽい理由ではあるが、それだけ、俺はこの人のことを想っていた。
ドアを開いて、迎え入れる。ハグして、頭の位置に驚いた。
久しぶりに会ったアン姉さんは、少し小さくなっていた。……俺が大きくなったんだとはわかっているが、そう見えた。
おおー、と、ちょっとだけ嬉しそうに見上げる姿を、可愛いなと思った。
「元気にしてた?」
「ん……。まあ……程々に」
「嘘ばっかり。顔がもう元気じゃないし」
目尻を下げて、困ったように笑う。左目の泣きぼくろが、つられて下がる。
……相変わらず、綺麗だ。
「シャワー借りてもいい?」
「もちろん。ゆっくり浴びていいから」
「ありがとう」
バスルームに向かう背中を見送る。
ちょっとだけ横に広がった俺の身体とは違い、前より痩せて細くなった気がする。……少し、心配になった。
ガキの頃から、ずっと、ずっと、アン姉さんのことが好きだった。
4歳上のあの人にとっては、俺はもう1人の弟みたいなもんだってことも何となく理解してはいた。
うちの兄貴のことが好きだって気づいて、諦めようとしたこともある。……けど、数年後、その兄貴と口論したり……殴られたり、首を絞められたり……独りで泣いていたりしたのを見て、上手くいっていないとは察した。
……結局、助けることもできないまま、姉貴に連れられて家を出た。
俺に振り向いてくれるとか、くれないとかそれ以前に……幸せに笑ってくれそうにない現実が、何より悔しかった。
バスローブとバスタオルを用意して、そそくさと自室に戻った。……あの細い身体に跳ね返るシャワーの音を聞くだけで、心臓が高鳴って顔が熱くなる。
股間で例のブツも主張を始めていて、さすがにマジかよと思った。
本人が帰ってくる前に抜いておこうと、竿を握る。……何度も想像した痴態を、いつものように頭の中で再生する。
アン姉さんが、恥じらうように頬を染めて、それでも与えられる快感には嬉しそうに腰を跳ねさせて、もっと欲しいとねだる。……当然、妄想だ。見たこともない姿、聞いたこともない声を、想像だけで繰り返す。
指で先端を擦り、上下に幹を扱く。……入れたことのないナカを懸想する。
徐々に熱が昂って、欲がこみ上げる。
「……ッ、アン……っ」
脳内で、抱かれる彼女が甘い声で「いいよ」と告げる。……早く出しておかないと。さすがにおっ勃てたまま、本人と会うわけにはいかない。
……だが、絶頂が間近になるより前に、ふわりと柔らかい感触が背中に当たった。
「……!?」
思考が固まる。
バスローブ姿のアン姉さんが、抱きつくよう俺の身体に手を回していた。
「……俺の名前、呼んでただろ」
……必死に感情を抑えたような口ぶりで、いつもみたいに男性的な口調で、彼女は腕の力を強める。
そのまま、ほっそりとした指が、俺の亀頭を静かに握る。
「あ、え、えと、お、俺、アン以外じゃ抜けない、から」
自分でも何を口走っているのか分からない。口から心臓が飛び出そうだ。
「……なぁ、ロッド」
あたたかい吐息が耳をくすぐる。真っ白な頭に、甘い声音が染み渡る。……ゆっくりと手を上下に動かされて、どんどん絶頂が近づいてくる。
「もう、酒も飲めるんだっけ?」
「っ、あ、えっと……、ぅ、単独じゃだめ……だけ、ど、一応……っ、パブでは……の、飲める……」
「じゃあ……できるんだ。セックス」
その言葉を飲み込むのに、時間がかかった。……惚けている間に玉をさすられて、呆気なく達してしまう。
「そっか」
首筋に、ポタリポタリと生ぬるい雫が伝う。……泣いているんだと、すぐにわかった。
「ロッド」
俺は、まだ知らなかった。
彼女がどれほど思い詰めていたのか。……その細い背中に、何を背負わされていたのか。
「俺の身体、どうしたい?」
0
あなたにおすすめの小説
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました!
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
俺の可愛い幼馴染
SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。
ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。
連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。
感想もご自由にどうぞ。
ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる