その傷痕に口づけを

譚月遊生季

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2001年 春

5th.

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 アンの身体は、とにかく綺麗だった。
 細身でスレンダーだけど、骨が浮くほど痩せているわけでもなく、滑らかな白い肌がなだらかな稜線で華奢な肢体を組み上げている。
 小ぶりの胸は、俺が軽く触れるだけで形を変えた。こんなにも柔らかくて、こんなにもきめ細やかな肌に傷をつけてしまうのが、たまらなく恐ろしかった。

「あ……」
「……!あ、だ、大丈夫……?」

 呆れたように口元を緩めて、アンは頷く。
 仕草の一つ一つが普段とは違って、愛しさが募っていく。

「ん……口、開けて」

 向こうから口付けられて、身体も魂も骨も、全てが熱く茹だって、煮崩れてしまうかと思った。
 唇が柔らかくて、唾液が甘い。……どう堪能したのか分からなくなるくらい、アンとのキスは心地よかった。

 首筋に舌を這わせる。ぴくり、と怯えるように震え、それでもアンは身をベッドに横たえ……身を、委ねた。

「……っ、」

 溢れだしそうな唾を懸命に飲み込み、またがる。指先から伝わる熱が、吐息混じりの甘い声が、薔薇色に染まった頬が、ふわりと香る汗の匂いが、とにかく愛おしい。

 そっと、控えめな膨らみを舌先でなぞる。
 どんな味か、と聞かれたら困るが……美味しかった。

「……ん……っ、そ……んな、舐めても……っ、美味しく、ない……っ、ぁ、だ……ろ?」
「美味しい。……アンの味、めちゃくちゃ好きだ」

 びくりとわななくスレンダーな肉体と、吐息混じりの甘い声が理性を揺らす。
 触ってと頼まれて手を伸ばすと、ぬるりとした蜜が指を濡らした。……思わず、喉が鳴る。

 早く挿れたい。……その内側を味わいたい。
 だけど、傷つけたくない。痛い思いもして欲しくない。少しでも、嫌な思いをさせたくない。

「ろっ、どぉ……」

 舌っ足らずな声が、余計に愛しさを募らせていく。
 そこで、はたと気付いた。

「……あ、こ、コンドーム……あったかな……」

 しくじった。先に、探すか買っておくかするべきだった。……だけど、

「……いいよ。そのままで……」

 アンは、

「……ッ、ロッドが、いいなら……。……妊娠、したい」

 俺に、……俺なんかに、そう求めた。
 しなやかな指が、頬に触れる。……髭を剃らなかったことを、今更ながら後悔した。

「……アン……。……っ、ほんとに……ほんとに、いいんだな……?」

 どうして、あなたは俺を選んでくれたのだろう。確かにベビーシッターの当てならいくらでもあるだろうし、俺とあなたが結ばれることに反対する者はほとんどいないだろうけれど、
 ……どうして、そんなにも綺麗で、愛らしくて、優しいあなたが、俺なんかを愛するのだろう。

 都合のいい夢のようで、現実感がわかない。
 だけど、触れ合う肌の温もりは、少なくとも現実に思えた。

 ゆっくりと先を宛てがい、沈めていく。
 濡れそぼった秘所は、あっさりと俺を受け入れた。

「んっ、や……ぁっ、あぁあっ」

 アンは背中に手を回して、より深くへ導くように腰を揺らす。背筋を少し丸めて、怖がるように快感を受け止める。

「……く、ぅ……っ、それ、やば……」
  
 目の前が眩んで、すぐに達しそうになる。

「……っ、ぁ……んんっ、や……っ、……キス、欲しい……」

 ぐっと堪えて、奥の方に沈んで、応えるよう唇を食んだ。

「……っ、ん、むぅ……っ、ふ……」
「……アン……、アン……っ!!」

 生ぬるい舌が、俺の唇を舐めて、誘う。 
 恋しくて胸が張り裂けそうで、愛しくて心臓が破裂しそうで、欲しくて血が沸騰しそうで、
 それが全部涙に変わってしまって、情けなかった。

「……ふふ」

 ぽたぽたと、頬に涙が落ちて、アンは無駄に図体ばかりでかくなった俺の背中をさする。……いつもの「アン姉さん」のように優しい手つきで、困ったような微笑みで、俺を慰める。

 ずぷりと、深く沈めた箇所が音を立てる。生々しい熱が、一瞬、自我を現実に引き戻す。奥を軽く突き上げると、「アン姉さん」の微笑みが悦楽に歪んだ。

「あ……っ!」

 その顔は、もう「姉さん」じゃなかった。腰を揺らすと高い声が上がって、ナカが締まって、俺を抱き締める手がすがりつくように力んで、

「好きだ」

 自分でも何が何だかわからないまま、何を言ったかすらわからないまま、最奥に全てぶちまけた。

「うん、……うん……っ」

 アンもぽろりと涙を零して、また、俺にキスをした。



 アンは、3日ほど泊まって家に帰った。
 その間に幾度キスをして、身体を重ねたかは分からない。……確か、5回を数えたくらいに教えたら怒られた。
 夢みてぇだな……なんて思っていたけど、「……また面倒見に来る」と、泣きぼくろの下まで真っ赤にして言われたから、現実だとわかった。
 ……夢の中のアンなら、もう少し素直だろうから。



 その3ヶ月後だった。



 アンが「殺される」と電話をかけてきて、あの凄まじい悲鳴を聞いて、家を飛び出して教えられた場所に向かって、病院に運ばれたって聞いて、アンの母親……ナタリーさんに連絡を取って、

「あの子は死んだ」と、告げられたのは。
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