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第2章 対立か共存か
23. 戦力
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翌朝。
レヴィアタンは周りの面々から距離を置き、屋外に立っていた。
「本当に連れてきてくれるとはね……」
その姿を窓越しにチラチラと見、雛乃は感嘆の声を漏らす。
「いやぁ、さすがだよ。私が見込んだ通りだ」
「そりゃどうも……」
雛乃はリチャードを高く評価してはいるが、今回はレヴィアタン自身にトラブルが発生したのが原因だ。リチャードはなんともむず痒い思いを抱えつつ、賞賛自体はひとまず受け取っておいた。
「さて、こうなったら、レヴィアタンの気が変わらないうちに決行する必要が出てきたね」
「……フリー達の件はどうするの? 彼らを守るのが最優先よ」
意気揚々と語る雛乃に対し、アイリスはあくまで慎重だ。
……が、その指摘に対し、雛乃は更に楽しげに答えた。
「それがね……面白いことがあったんだよ」
「面白いこと?」
「……いったい、何が?」
首を傾げるアイリスに、冷や汗を流すリチャード。
「アレックス、おいで!」
雛乃が声を張り上げる。
ビクッと肩を震わせ、部屋の片隅にいたアレックスがおそるおそる顔を上げた。
「あれ? 来ないね」
「も、もうちょっとだけ待っててあげて欲しいッス」
セドリックが涙目のアレックスに駆け寄り、その背中をさする。
そんなセドリックに勇気づけられたのか、アレックスはゆっくりと雛乃の方へと歩み寄った。
「どうやら、この子は『食べたもの』にふさわしい能力を発現できるらしい」
「食べたもの?」
「……さっき、ロビンの腕を齧ってたわね」
間抜けな声を上げるリチャードに対し、アイリスは多少察しがついたらしい。
「アイリスの言う通りだ。アレックスはさっき、ロビンとよく似た能力を使ってみせた。もっとも、規模自体はスケールダウンしていたけどね」
雛乃の言葉に続いて、ケリーが説明を引き継ぐ。
「だから、以前は『憤怒』の能力が使えたというわけじゃ。『憤怒』は、その力を知っていて分け与えたのじゃろうな」
「私のように例外はございますが、大抵の『悪魔』の肉体には自己修復能力が存在いたしますので、多少の『捕食』には問題なく耐えられるでしょう」
「お、おう……そういうことか……」
ケリーとロビンの説明により、リチャードは目を白黒させながらも状況を理解する。
「まったく……硬いものを食えば硬くなるだの、電気を食えば放電できるだの、その程度じゃと思っておったが、なかなか優れた力を持っておる」
「……それも普通にすごくねぇ?」
「どちらにせよ、最もすごいのはわしじゃがな!」
ケリーの言葉に冷や汗をかきつつ、リチャードはアレックスの方を見る。
少年の姿をした「悪魔」は、緊張した面持ちのまま、忙しなく手のひらの中のジャンク品を口に運び続けていた。
「つまり……私達はロビンやケリーによる『防衛』を維持したまま、同じ能力を『戦力』として使えるってことだ」
「……なるほどな」
上手くいけば、アレックス一人でロビンのように機械を操り、ケリーのように幻覚を見せ、パットのように変身でき、レヴィアタンのように身体能力を増強できる。
確かに、戦力としては申し分ない。
「後は、どう潜入してどうやって連れ出すかだね。戦闘絡みは、私が考えると机上の空論になりかねない。他の誰かに任せるよ」
「……そうね。ありがとう、ヒナノ」
アイリスに向け、ヒラヒラと手を振る雛乃。
その様子を見ながら、リチャードはロビンに声をかけた。
「……そういえばあの人、元々はなんの研究してたんだ?」
「アンドロイドの研究と存じております。感情について調べていたため、機械工学のみならず脳科学や心理学の分野にも手を出していたのだと聞き及びました」
「あー……そういう……」
ロビンの説明で、リチャードは雛乃の幅広い知識に納得する。
ふわぁ、と大きなあくびを一つし、雛乃は手元の端末を手に取る。片手で素早く何事か打ち込み、食堂の窓を全開にした。
「さて、そろそろ話に入って来ないかい?」
腕を組み、無言で佇むレヴィアタンに向け、雛乃は相変わらず飄々とした声で語り掛ける。
「……私は決して『協力』しに来たわけではない。
我ら、『処刑人』を斃すため此処に来れり」
朝の光が、赤い長髪を鮮やかに照らし出していた。
レヴィアタンは周りの面々から距離を置き、屋外に立っていた。
「本当に連れてきてくれるとはね……」
その姿を窓越しにチラチラと見、雛乃は感嘆の声を漏らす。
「いやぁ、さすがだよ。私が見込んだ通りだ」
「そりゃどうも……」
雛乃はリチャードを高く評価してはいるが、今回はレヴィアタン自身にトラブルが発生したのが原因だ。リチャードはなんともむず痒い思いを抱えつつ、賞賛自体はひとまず受け取っておいた。
「さて、こうなったら、レヴィアタンの気が変わらないうちに決行する必要が出てきたね」
「……フリー達の件はどうするの? 彼らを守るのが最優先よ」
意気揚々と語る雛乃に対し、アイリスはあくまで慎重だ。
……が、その指摘に対し、雛乃は更に楽しげに答えた。
「それがね……面白いことがあったんだよ」
「面白いこと?」
「……いったい、何が?」
首を傾げるアイリスに、冷や汗を流すリチャード。
「アレックス、おいで!」
雛乃が声を張り上げる。
ビクッと肩を震わせ、部屋の片隅にいたアレックスがおそるおそる顔を上げた。
「あれ? 来ないね」
「も、もうちょっとだけ待っててあげて欲しいッス」
セドリックが涙目のアレックスに駆け寄り、その背中をさする。
そんなセドリックに勇気づけられたのか、アレックスはゆっくりと雛乃の方へと歩み寄った。
「どうやら、この子は『食べたもの』にふさわしい能力を発現できるらしい」
「食べたもの?」
「……さっき、ロビンの腕を齧ってたわね」
間抜けな声を上げるリチャードに対し、アイリスは多少察しがついたらしい。
「アイリスの言う通りだ。アレックスはさっき、ロビンとよく似た能力を使ってみせた。もっとも、規模自体はスケールダウンしていたけどね」
雛乃の言葉に続いて、ケリーが説明を引き継ぐ。
「だから、以前は『憤怒』の能力が使えたというわけじゃ。『憤怒』は、その力を知っていて分け与えたのじゃろうな」
「私のように例外はございますが、大抵の『悪魔』の肉体には自己修復能力が存在いたしますので、多少の『捕食』には問題なく耐えられるでしょう」
「お、おう……そういうことか……」
ケリーとロビンの説明により、リチャードは目を白黒させながらも状況を理解する。
「まったく……硬いものを食えば硬くなるだの、電気を食えば放電できるだの、その程度じゃと思っておったが、なかなか優れた力を持っておる」
「……それも普通にすごくねぇ?」
「どちらにせよ、最もすごいのはわしじゃがな!」
ケリーの言葉に冷や汗をかきつつ、リチャードはアレックスの方を見る。
少年の姿をした「悪魔」は、緊張した面持ちのまま、忙しなく手のひらの中のジャンク品を口に運び続けていた。
「つまり……私達はロビンやケリーによる『防衛』を維持したまま、同じ能力を『戦力』として使えるってことだ」
「……なるほどな」
上手くいけば、アレックス一人でロビンのように機械を操り、ケリーのように幻覚を見せ、パットのように変身でき、レヴィアタンのように身体能力を増強できる。
確かに、戦力としては申し分ない。
「後は、どう潜入してどうやって連れ出すかだね。戦闘絡みは、私が考えると机上の空論になりかねない。他の誰かに任せるよ」
「……そうね。ありがとう、ヒナノ」
アイリスに向け、ヒラヒラと手を振る雛乃。
その様子を見ながら、リチャードはロビンに声をかけた。
「……そういえばあの人、元々はなんの研究してたんだ?」
「アンドロイドの研究と存じております。感情について調べていたため、機械工学のみならず脳科学や心理学の分野にも手を出していたのだと聞き及びました」
「あー……そういう……」
ロビンの説明で、リチャードは雛乃の幅広い知識に納得する。
ふわぁ、と大きなあくびを一つし、雛乃は手元の端末を手に取る。片手で素早く何事か打ち込み、食堂の窓を全開にした。
「さて、そろそろ話に入って来ないかい?」
腕を組み、無言で佇むレヴィアタンに向け、雛乃は相変わらず飄々とした声で語り掛ける。
「……私は決して『協力』しに来たわけではない。
我ら、『処刑人』を斃すため此処に来れり」
朝の光が、赤い長髪を鮮やかに照らし出していた。
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