そして悪魔も夢を見る

譚月遊生季

文字の大きさ
25 / 25
第2章 対立か共存か

23. 戦力

しおりを挟む
 翌朝。
 レヴィアタンは周りの面々から距離を置き、屋外に立っていた。

「本当に連れてきてくれるとはね……」 

 その姿を窓越しにチラチラと見、雛乃は感嘆の声を漏らす。

「いやぁ、さすがだよ。私が見込んだ通りだ」
「そりゃどうも……」

 雛乃はリチャードを高く評価してはいるが、今回はレヴィアタン自身にトラブルが発生したのが原因だ。リチャードはなんともむず痒い思いを抱えつつ、賞賛自体はひとまず受け取っておいた。

「さて、こうなったら、レヴィアタンの気が変わらないうちに決行する必要が出てきたね」
「……フリー達の件はどうするの? 彼らを守るのが最優先よ」

 意気揚々いきようようと語る雛乃に対し、アイリスはあくまで慎重だ。
 ……が、その指摘に対し、雛乃は更に楽しげに答えた。

「それがね……面白いことがあったんだよ」
「面白いこと?」
「……いったい、何が?」

 首を傾げるアイリスに、冷や汗を流すリチャード。

「アレックス、おいで!」

 雛乃が声を張り上げる。
 ビクッと肩を震わせ、部屋の片隅にいたアレックスがおそるおそる顔を上げた。

「あれ? 来ないね」
「も、もうちょっとだけ待っててあげて欲しいッス」

 セドリックが涙目のアレックスに駆け寄り、その背中をさする。
 そんなセドリックに勇気づけられたのか、アレックスはゆっくりと雛乃の方へと歩み寄った。

「どうやら、この子は『食べたもの』にふさわしい能力を発現できるらしい」
「食べたもの?」
「……さっき、ロビンの腕をかじってたわね」

 間抜けな声を上げるリチャードに対し、アイリスは多少察しがついたらしい。
 
「アイリスの言う通りだ。アレックスはさっき、ロビンとよく似た能力を使ってみせた。もっとも、規模きぼ自体はスケールダウンしていたけどね」

 雛乃の言葉に続いて、ケリーが説明を引き継ぐ。
 
「だから、以前は『憤怒』の能力が使えたというわけじゃ。『憤怒』は、その力を知っていてのじゃろうな」
「私のように例外はございますが、大抵の『悪魔』の肉体には自己修復能力が存在いたしますので、多少の『捕食』には問題なく耐えられるでしょう」 
「お、おう……そういうことか……」

 ケリーとロビンの説明により、リチャードは目を白黒させながらも状況を理解する。
 
「まったく……硬いものを食えば硬くなるだの、電気を食えば放電できるだの、その程度じゃと思っておったが、なかなか優れた力を持っておる」
「……それも普通にすごくねぇ?」
「どちらにせよ、最もすごいのはわしじゃがな!」

 ケリーの言葉に冷や汗をかきつつ、リチャードはアレックスの方を見る。
 少年の姿をした「悪魔」は、緊張した面持ちのまま、せわしなく手のひらの中のジャンク品を口に運び続けていた。

「つまり……私達はロビンやケリーによる『防衛』を維持したまま、同じ能力を『戦力』として使えるってことだ」
「……なるほどな」

 上手くいけば、アレックス一人でロビンのように機械を操り、ケリーのように幻覚を見せ、パットのように変身でき、レヴィアタンのように身体能力を増強できる。
 確かに、戦力としては申し分ない。

「後は、どう潜入してどうやって連れ出すかだね。戦闘絡みは、私が考えると机上きじょうの空論になりかねない。他の誰かに任せるよ」
「……そうね。ありがとう、ヒナノ」

 アイリスに向け、ヒラヒラと手を振る雛乃。
 その様子を見ながら、リチャードはロビンに声をかけた。 

「……そういえばあの人、元々はなんの研究してたんだ?」
「アンドロイドの研究と存じております。感情エラーについて調べていたため、機械工学のみならず脳科学や心理学の分野にも手を出していたのだと聞き及びました」
「あー……そういう……」

 ロビンの説明で、リチャードは雛乃の幅広い知識に納得する。
 ふわぁ、と大きなあくびを一つし、雛乃は手元の端末を手に取る。片手で素早く何事か打ち込み、食堂の窓を全開にした。

「さて、そろそろ話に入って来ないかい?」

 腕を組み、無言で佇むレヴィアタンに向け、雛乃は相変わらず飄々ひょうひょうとした声で語り掛ける。

「……私は決して『協力』しに来たわけではない。

 我ら、『処刑人』をたおすため此処ここきたれり」
 
 朝の光が、赤い長髪を鮮やかに照らし出していた。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

User_1192
2021.02.28 User_1192

先が気になります。

2021.02.28 譚月遊生季

ありがとうございます……!
続きも執筆、頑張らせていただきますね!

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。