38 / 56
第?巡 縁ノ章 ― 人間道 ―
第三十三話 阿修羅
しおりを挟む
「刹鬼の! 右が『覚范』だ!」
「相分かった……!」
髑髏の的確な指示が飛び、刹鬼の爪が、私に追いすがる分霊を切り裂く……が、分霊は次から次へと現れ、キリがない。
山の中腹ぐらいにはたどり着けたと思うけれど……蛇神のいる社には、まだ遠い。
「……髑髏の。此処は神域の外。『呪血』の力は封じられておらぬ。――秤殿を、頼めるか」
刹鬼が何かを思いついた様子で、髑髏に語りかける。
「ああ……アレか。気乗りしねぇが……仕方ねぇな」
髑髏はため息をつきながらも、渋々といった様子で、骨の手を天へと翳した。
「『餓者髑髏』散開――『骨刃牢』!」
髑髏の一声に呼応するようにして、「餓者髑髏」の骨がバラバラに散った……かと思いきや、散開した骨が雨のように降り注ぎ、刃のように地面へと突き刺さる。
私と、刹鬼および覚范の分霊たちを分断するように、巨大な骨のドームができあがった。
「隙間には軽い結界を張っといた。……つったって、長くは保たねぇがな」
「構わぬ。……蛇神さまには、秤殿が必要であろう」
「……ああ。存分に暴れていいぜ。ただし……」
風に揺れる緋色の髪が、骨の檻をわずかに超える。
骨の指がそれを掬いあげ、優しく漉くようにして、すぐに解き放った。
「ちゃんと、帰って来いよ」
髑髏の言葉には静かに頷いたかと思うと、刹鬼は黒い爪を長く伸ばし――
自らの掌を、刺し貫いた。
「顕現――『狂狗・呪血阿修羅』」
赤い血の雫が地面に落ちた――その、刹那。
刹鬼の顔を覆う鬼の面が変形し、異形と化した眼が姿を現す。犬の牙を模したような面頬が、顔の下半分のみを覆った。
背中から四つ、黒い影が突き出て腕のような形を成す――その姿はまるで、翼を広げているようにも見える。
影の腕が黒い刃を構えると同時に、刹鬼の血が滴った地面から、二つ、「犬の頭」にも似た影が現れる。影は主に付き従うように、それぞれ刹鬼の両肩の付近へと浮かび上がった。
「疾くと行け。吾の眼に、敵味方の区別はつかぬ」
刹鬼の異形の眼差しが、一瞬、私たちの方を向いた――かと思えば、すぐさま覚范の分霊たちの方へと向き直る。
「……行くぞ秤!」
髑髏は未練を吹っ切るようにして、私を肩に担いだ。
「刹鬼の! 協力してやったんだから、後で酒盛りにでも付き合えよなぁ!」
毒づくように吐き捨て、髑髏は疾風のように走り出す。
「ありがとう! 刹鬼!」
私の言葉が聞こえていたかはわからない。
……けれど、遠目で本当に「そう」だったかもわからないけれど――
頷いてくれていたように、見えた。
***
社にたどり着いたところで、髑髏の肩から降ろしてもらう。
丹塗りの鳥居を潜ったところで、ぞっとするような悪寒が背筋を撫でた。
何か、良くないことが起こっている。……そんな予感が、脳裏に渦巻く。
「……秤。気をつけな」
髑髏も同じ想いのようで、いつもの軽口は鳴りをひそめ、鋭い眼光で神域の奥を睨みつけていた。
「門番がいねぇ」
その言葉で、はっと気が付く。
そうだ。髑髏と刹鬼を連れて行くからって、門番を彦五郎さんに任せたんだった。
……まさか。
覚范の襲撃は、こちらにも及んでいるの……?
髑髏とともに、注意しながら神域を進む。
社務所の扉を開き、髑髏が苦々しげに呟いた。
「……誰もいねぇな……」
私が出かける前は、あんなに賑やかだったのに。
今はがらんとしていて、誰かが隠れている気配すらない。
脳裏に、最初の「巡り」の記憶が蘇る。
針の山に刺し貫かれた巫覡たちの姿――あんなもの、もう二度と見たくないのに。
「本殿に行こう。まずは、蛇神に会わないと……!」
私の提案に、髑髏も「そうさな」と頷く。
逸る心をどうにか宥めながら、本殿へと向かった。
「相分かった……!」
髑髏の的確な指示が飛び、刹鬼の爪が、私に追いすがる分霊を切り裂く……が、分霊は次から次へと現れ、キリがない。
山の中腹ぐらいにはたどり着けたと思うけれど……蛇神のいる社には、まだ遠い。
「……髑髏の。此処は神域の外。『呪血』の力は封じられておらぬ。――秤殿を、頼めるか」
刹鬼が何かを思いついた様子で、髑髏に語りかける。
「ああ……アレか。気乗りしねぇが……仕方ねぇな」
髑髏はため息をつきながらも、渋々といった様子で、骨の手を天へと翳した。
「『餓者髑髏』散開――『骨刃牢』!」
髑髏の一声に呼応するようにして、「餓者髑髏」の骨がバラバラに散った……かと思いきや、散開した骨が雨のように降り注ぎ、刃のように地面へと突き刺さる。
私と、刹鬼および覚范の分霊たちを分断するように、巨大な骨のドームができあがった。
「隙間には軽い結界を張っといた。……つったって、長くは保たねぇがな」
「構わぬ。……蛇神さまには、秤殿が必要であろう」
「……ああ。存分に暴れていいぜ。ただし……」
風に揺れる緋色の髪が、骨の檻をわずかに超える。
骨の指がそれを掬いあげ、優しく漉くようにして、すぐに解き放った。
「ちゃんと、帰って来いよ」
髑髏の言葉には静かに頷いたかと思うと、刹鬼は黒い爪を長く伸ばし――
自らの掌を、刺し貫いた。
「顕現――『狂狗・呪血阿修羅』」
赤い血の雫が地面に落ちた――その、刹那。
刹鬼の顔を覆う鬼の面が変形し、異形と化した眼が姿を現す。犬の牙を模したような面頬が、顔の下半分のみを覆った。
背中から四つ、黒い影が突き出て腕のような形を成す――その姿はまるで、翼を広げているようにも見える。
影の腕が黒い刃を構えると同時に、刹鬼の血が滴った地面から、二つ、「犬の頭」にも似た影が現れる。影は主に付き従うように、それぞれ刹鬼の両肩の付近へと浮かび上がった。
「疾くと行け。吾の眼に、敵味方の区別はつかぬ」
刹鬼の異形の眼差しが、一瞬、私たちの方を向いた――かと思えば、すぐさま覚范の分霊たちの方へと向き直る。
「……行くぞ秤!」
髑髏は未練を吹っ切るようにして、私を肩に担いだ。
「刹鬼の! 協力してやったんだから、後で酒盛りにでも付き合えよなぁ!」
毒づくように吐き捨て、髑髏は疾風のように走り出す。
「ありがとう! 刹鬼!」
私の言葉が聞こえていたかはわからない。
……けれど、遠目で本当に「そう」だったかもわからないけれど――
頷いてくれていたように、見えた。
***
社にたどり着いたところで、髑髏の肩から降ろしてもらう。
丹塗りの鳥居を潜ったところで、ぞっとするような悪寒が背筋を撫でた。
何か、良くないことが起こっている。……そんな予感が、脳裏に渦巻く。
「……秤。気をつけな」
髑髏も同じ想いのようで、いつもの軽口は鳴りをひそめ、鋭い眼光で神域の奥を睨みつけていた。
「門番がいねぇ」
その言葉で、はっと気が付く。
そうだ。髑髏と刹鬼を連れて行くからって、門番を彦五郎さんに任せたんだった。
……まさか。
覚范の襲撃は、こちらにも及んでいるの……?
髑髏とともに、注意しながら神域を進む。
社務所の扉を開き、髑髏が苦々しげに呟いた。
「……誰もいねぇな……」
私が出かける前は、あんなに賑やかだったのに。
今はがらんとしていて、誰かが隠れている気配すらない。
脳裏に、最初の「巡り」の記憶が蘇る。
針の山に刺し貫かれた巫覡たちの姿――あんなもの、もう二度と見たくないのに。
「本殿に行こう。まずは、蛇神に会わないと……!」
私の提案に、髑髏も「そうさな」と頷く。
逸る心をどうにか宥めながら、本殿へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて
千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。
そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。
夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。
それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。
ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。
ハッピーエンドになるのでご安心ください。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる