54 / 56
最終巡 結ノ章 ― 天道 ―
第四十七話 還る
しおりを挟む
その後、「犬首村」は自治体によって整備され、新たに人々が住むようになった。
長い間放置されていたのが嘘のように、瞬く間に交通網も発展し始め、土地は新興住宅地として売り出され始めた。
住宅地からわずかに離れた場所に、「白蛇神社」という神社がある。白蛇神社の巫女や従業員が災害復興の手助けをした……などと、役所内では評判でも、彼らがどこから来たのか知る者はいない。
都会から離れた場所ではあるが、住み良い田舎町として旧「犬首村」――現「あさひ町」は、この二十年のどかな田園風景を保ち続けている。
神社の宝物殿に由緒正しい刀や珍しい文化的資料があったことで、学者やマニアの出入りも増えてきており、博物館の建設計画も進められている。まあ、人が増えるのは悪いことではないのだけれど……
「こら。祠にイタズラしちゃダメだよ」
山の上にある旧社跡。
大半の人々は綺麗に掃除してくれたり手を合わせてくれたりするのだけれど、たまーに、夏休み中の悪ガキが落書きをしようとしたりする。
「あ、出た、バチ当たりってやつだ」
「そんなの言うの、ジジババだけだろ」
うーん、憎たらしい。親御さん、ちゃんと教育してあげてください。
……まあ、落書きぐらいましろは許すんだろうけど、なんだかね。
「そこ、大事な思い出の場所なの。バチがどうこうじゃなくて、大切に扱って欲しいなって」
「うへー、説教?」
「長くなりそ?」
「うん、祟ってやろうかコノヤロウ」
「祟り」。今の私には不可能じゃないんだけど……まあ、大人気ないので、やめておこう。余裕を持って接してあげなきゃね。
……せっかく、ましろが守った土地なんだからさ。
「そのサッカーボール、サイン入りだよね」
「うん! バッカムのサイン!」
「すげーだろ! パパがイベント当ててくれてさ!」
「……それに落書きされたら、どう思う?」
「え」
「やだ! 絶対やだ!」
「同じだよ。想いが込められてる。……そのサッカーボールも、大事にしなよ」
子どもたち二人は顔を見合わせ、「はぁい」と項垂れる。……うん、思ったより素直でいい子たちだ。健やかに成長するんだよ。
「……さて、そろそろ行かないと。あの子を待たせちゃう」
ざあっと風が吹き抜ける。
そろそろ、目が覚める頃だからね。……おはようって、真っ先に言ってあげたい。
「あ、おねーちゃん、これってお供え物いる?」
「あれ、あの人どこ行った?」
やば、話しかけられてた。……まあいいや。
お供え物したくなる気持ちだけで充分だよ。その「想い」こそが、ましろの力になってくれるはずだから。
さぁ、ましろに会いに行こう。
あの子と「同じ」になった私を、見てもらおう。
髑髏と刹鬼も元気にやってるって、伝えてあげなきゃね。
鳥居を潜り、社務所に「ただいま」と声をかける。
私のことが見えていなさそうな巫女の奥で、見覚えのある顔がひらひらと手を振ってくれる。
階段を駆け上がり、扉をすり抜け、本殿の奥へと向かう。
光を浴びて身じろぐ白い身体に、思わず笑みがこぼれた。
「――おはよう!」
長い間放置されていたのが嘘のように、瞬く間に交通網も発展し始め、土地は新興住宅地として売り出され始めた。
住宅地からわずかに離れた場所に、「白蛇神社」という神社がある。白蛇神社の巫女や従業員が災害復興の手助けをした……などと、役所内では評判でも、彼らがどこから来たのか知る者はいない。
都会から離れた場所ではあるが、住み良い田舎町として旧「犬首村」――現「あさひ町」は、この二十年のどかな田園風景を保ち続けている。
神社の宝物殿に由緒正しい刀や珍しい文化的資料があったことで、学者やマニアの出入りも増えてきており、博物館の建設計画も進められている。まあ、人が増えるのは悪いことではないのだけれど……
「こら。祠にイタズラしちゃダメだよ」
山の上にある旧社跡。
大半の人々は綺麗に掃除してくれたり手を合わせてくれたりするのだけれど、たまーに、夏休み中の悪ガキが落書きをしようとしたりする。
「あ、出た、バチ当たりってやつだ」
「そんなの言うの、ジジババだけだろ」
うーん、憎たらしい。親御さん、ちゃんと教育してあげてください。
……まあ、落書きぐらいましろは許すんだろうけど、なんだかね。
「そこ、大事な思い出の場所なの。バチがどうこうじゃなくて、大切に扱って欲しいなって」
「うへー、説教?」
「長くなりそ?」
「うん、祟ってやろうかコノヤロウ」
「祟り」。今の私には不可能じゃないんだけど……まあ、大人気ないので、やめておこう。余裕を持って接してあげなきゃね。
……せっかく、ましろが守った土地なんだからさ。
「そのサッカーボール、サイン入りだよね」
「うん! バッカムのサイン!」
「すげーだろ! パパがイベント当ててくれてさ!」
「……それに落書きされたら、どう思う?」
「え」
「やだ! 絶対やだ!」
「同じだよ。想いが込められてる。……そのサッカーボールも、大事にしなよ」
子どもたち二人は顔を見合わせ、「はぁい」と項垂れる。……うん、思ったより素直でいい子たちだ。健やかに成長するんだよ。
「……さて、そろそろ行かないと。あの子を待たせちゃう」
ざあっと風が吹き抜ける。
そろそろ、目が覚める頃だからね。……おはようって、真っ先に言ってあげたい。
「あ、おねーちゃん、これってお供え物いる?」
「あれ、あの人どこ行った?」
やば、話しかけられてた。……まあいいや。
お供え物したくなる気持ちだけで充分だよ。その「想い」こそが、ましろの力になってくれるはずだから。
さぁ、ましろに会いに行こう。
あの子と「同じ」になった私を、見てもらおう。
髑髏と刹鬼も元気にやってるって、伝えてあげなきゃね。
鳥居を潜り、社務所に「ただいま」と声をかける。
私のことが見えていなさそうな巫女の奥で、見覚えのある顔がひらひらと手を振ってくれる。
階段を駆け上がり、扉をすり抜け、本殿の奥へと向かう。
光を浴びて身じろぐ白い身体に、思わず笑みがこぼれた。
「――おはよう!」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて
千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。
そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。
夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。
それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。
ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。
ハッピーエンドになるのでご安心ください。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる