【完結済】異界転生千本桜

譚月遊生季

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第二章 ジェノバ港より旅は続く

十五、預言

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 とりあえず、二人の処遇は「預言を聞いて決める」ことになった。

 ロレンソの首を抱え、カサンドラを連れて船に向かう。
 敗北したものの、反逆の機会を伺っている……という筋書きにすりゃあ、裏切ったことにはならない。
 そう考えりゃ、賢い選択だ。

「……なんか……」

 生首を抱えて歩く俺に向け、ジャックはためらいがちに口を開いた。

「すっげぇ似合うな」
「おい、どういう意味だ」

 俺の反論に、ジャックはふいと視線を逸らす。
 カサンドラはむっとしたらしく、「私の方が似合うであろう」とよく分からない張り合いを見せてくる。そんでもって、当の生首はなんでか照れ臭そうだ。

 船に上がると、殿下が樽の陰に隠れて様子を伺っているのが見えた。

「……それで、どうするんですかズィルバー」

 警戒するように二人を睨みつけ、隠れたまま一歩も動こうとしない。

「殿下はアリーのそばで見ていてください。……カサンドラ」

 俺の声にカサンドラは頷き、甲板の中央へと進み出た。
 ローブを取れば、長い赤髪が現れる。

 ただれた顔半分を隠しもせず、カサンドラは空中に手をかざした。

 炎がぐるりと円を描き、その中央でぽっかりと闇が口を開ける。
 カサンドラはそこに手を突っ込み、灰のようなものを掴み取って辺りにばらまいた。

 船上に落ちた灰が、文字を記す。読みにくくはあるが、どうにか読み取れるので、声に出してみる。

「……現大臣の治世長くは続かず……若き皇子みこ未だ健在……」

 おそらく、これがカサンドラの視た「凶兆」だろう。
 カサンドラの手が、もう一掴み灰を握る。
 浮かび上がった文字の上に被せるように、それを再びばらまいた。

「西より英雄来たれり」

 灰が新たな文字を形作り、カサンドラは自らの声で「預言」を読み上げ始めた。

「彼の者は崖を飛び、海を駈けし者」

 ……崖、に……海……だと?
 脳裏に、ある武者むしゃの姿が浮かぶ。

「……トモモリ……よ、聞け」

 たどたどしい発音で、カサンドラは間違いなく俺の「かつての名」を呼んだ。……正確には、灰で書かれた文章を読み上げただけだが。

「ヨシ、ツネ……? ヨシツネは、再びあらわる」
「何……!?」

 思わず声を上げた。
 周りは「トモモリ? ヨシツネ? 名前か?」などとざわついている。
 ジャックのみは「ヨシツネ……ズィルバーが言ってた奴か……?」とぼやいていた。

義経よしつねってのは……源氏げんじの義経か」

 俺が訪ねると、カサンドラは額の汗を拭いつつこちらを向いた。

「私に聞かれても知らぬ。……なんだ、知り合いか?」
「……まあ、な……」

 ああ、まさか、当世でも会いまみえることになるとはな。
 ……源九郎みなもとのくろう義経よしつね。時に崖を駆け下り、時に火を放ち、時に船の上を飛び、あらゆる奇襲を講じて俺たちを翻弄し続けた男。

「だ、大丈夫なのですか、ズィルバー。どうにも、顔色が……」

 殿下がアリーの影に隠れたまま、声をかけてくる。

「……大丈夫です、殿下。……こうなりゃ余計に、負けるわけにはいきませんね……」

 妙な因果だが、むしろ好都合。
 ここで一門のあだを討ち、雪辱せつじょくを果たせるのなら、転生した甲斐があったというもの。

 かかって来い義経。
 次こそ、勝つのは俺だ。
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