17 / 34
第二章 ジェノバ港より旅は続く
十五、預言
しおりを挟む
とりあえず、二人の処遇は「預言を聞いて決める」ことになった。
ロレンソの首を抱え、カサンドラを連れて船に向かう。
敗北したものの、反逆の機会を伺っている……という筋書きにすりゃあ、裏切ったことにはならない。
そう考えりゃ、賢い選択だ。
「……なんか……」
生首を抱えて歩く俺に向け、ジャックはためらいがちに口を開いた。
「すっげぇ似合うな」
「おい、どういう意味だ」
俺の反論に、ジャックはふいと視線を逸らす。
カサンドラはむっとしたらしく、「私の方が似合うであろう」とよく分からない張り合いを見せてくる。そんでもって、当の生首はなんでか照れ臭そうだ。
船に上がると、殿下が樽の陰に隠れて様子を伺っているのが見えた。
「……それで、どうするんですかズィルバー」
警戒するように二人を睨みつけ、隠れたまま一歩も動こうとしない。
「殿下はアリーのそばで見ていてください。……カサンドラ」
俺の声にカサンドラは頷き、甲板の中央へと進み出た。
ローブを取れば、長い赤髪が現れる。
爛れた顔半分を隠しもせず、カサンドラは空中に手をかざした。
炎がぐるりと円を描き、その中央でぽっかりと闇が口を開ける。
カサンドラはそこに手を突っ込み、灰のようなものを掴み取って辺りにばらまいた。
船上に落ちた灰が、文字を記す。読みにくくはあるが、どうにか読み取れるので、声に出してみる。
「……現大臣の治世長くは続かず……若き皇子未だ健在……」
おそらく、これがカサンドラの視た「凶兆」だろう。
カサンドラの手が、もう一掴み灰を握る。
浮かび上がった文字の上に被せるように、それを再びばらまいた。
「西より英雄来たれり」
灰が新たな文字を形作り、カサンドラは自らの声で「預言」を読み上げ始めた。
「彼の者は崖を飛び、海を駈けし者」
……崖、に……海……だと?
脳裏に、ある武者の姿が浮かぶ。
「……トモモリ……よ、聞け」
たどたどしい発音で、カサンドラは間違いなく俺の「かつての名」を呼んだ。……正確には、灰で書かれた文章を読み上げただけだが。
「ヨシ、ツネ……? ヨシツネは、再び現る」
「何……!?」
思わず声を上げた。
周りは「トモモリ? ヨシツネ? 名前か?」などとざわついている。
ジャックのみは「ヨシツネ……ズィルバーが言ってた奴か……?」とぼやいていた。
「義経ってのは……源氏の義経か」
俺が訪ねると、カサンドラは額の汗を拭いつつこちらを向いた。
「私に聞かれても知らぬ。……なんだ、知り合いか?」
「……まあ、な……」
ああ、まさか、当世でも会いまみえることになるとはな。
……源九郎義経。時に崖を駆け下り、時に火を放ち、時に船の上を飛び、あらゆる奇襲を講じて俺たちを翻弄し続けた男。
「だ、大丈夫なのですか、ズィルバー。どうにも、顔色が……」
殿下がアリーの影に隠れたまま、声をかけてくる。
「……大丈夫です、殿下。……こうなりゃ余計に、負けるわけにはいきませんね……」
妙な因果だが、むしろ好都合。
ここで一門の仇を討ち、雪辱を果たせるのなら、転生した甲斐があったというもの。
かかって来い義経。
次こそ、勝つのは俺だ。
ロレンソの首を抱え、カサンドラを連れて船に向かう。
敗北したものの、反逆の機会を伺っている……という筋書きにすりゃあ、裏切ったことにはならない。
そう考えりゃ、賢い選択だ。
「……なんか……」
生首を抱えて歩く俺に向け、ジャックはためらいがちに口を開いた。
「すっげぇ似合うな」
「おい、どういう意味だ」
俺の反論に、ジャックはふいと視線を逸らす。
カサンドラはむっとしたらしく、「私の方が似合うであろう」とよく分からない張り合いを見せてくる。そんでもって、当の生首はなんでか照れ臭そうだ。
船に上がると、殿下が樽の陰に隠れて様子を伺っているのが見えた。
「……それで、どうするんですかズィルバー」
警戒するように二人を睨みつけ、隠れたまま一歩も動こうとしない。
「殿下はアリーのそばで見ていてください。……カサンドラ」
俺の声にカサンドラは頷き、甲板の中央へと進み出た。
ローブを取れば、長い赤髪が現れる。
爛れた顔半分を隠しもせず、カサンドラは空中に手をかざした。
炎がぐるりと円を描き、その中央でぽっかりと闇が口を開ける。
カサンドラはそこに手を突っ込み、灰のようなものを掴み取って辺りにばらまいた。
船上に落ちた灰が、文字を記す。読みにくくはあるが、どうにか読み取れるので、声に出してみる。
「……現大臣の治世長くは続かず……若き皇子未だ健在……」
おそらく、これがカサンドラの視た「凶兆」だろう。
カサンドラの手が、もう一掴み灰を握る。
浮かび上がった文字の上に被せるように、それを再びばらまいた。
「西より英雄来たれり」
灰が新たな文字を形作り、カサンドラは自らの声で「預言」を読み上げ始めた。
「彼の者は崖を飛び、海を駈けし者」
……崖、に……海……だと?
脳裏に、ある武者の姿が浮かぶ。
「……トモモリ……よ、聞け」
たどたどしい発音で、カサンドラは間違いなく俺の「かつての名」を呼んだ。……正確には、灰で書かれた文章を読み上げただけだが。
「ヨシ、ツネ……? ヨシツネは、再び現る」
「何……!?」
思わず声を上げた。
周りは「トモモリ? ヨシツネ? 名前か?」などとざわついている。
ジャックのみは「ヨシツネ……ズィルバーが言ってた奴か……?」とぼやいていた。
「義経ってのは……源氏の義経か」
俺が訪ねると、カサンドラは額の汗を拭いつつこちらを向いた。
「私に聞かれても知らぬ。……なんだ、知り合いか?」
「……まあ、な……」
ああ、まさか、当世でも会いまみえることになるとはな。
……源九郎義経。時に崖を駆け下り、時に火を放ち、時に船の上を飛び、あらゆる奇襲を講じて俺たちを翻弄し続けた男。
「だ、大丈夫なのですか、ズィルバー。どうにも、顔色が……」
殿下がアリーの影に隠れたまま、声をかけてくる。
「……大丈夫です、殿下。……こうなりゃ余計に、負けるわけにはいきませんね……」
妙な因果だが、むしろ好都合。
ここで一門の仇を討ち、雪辱を果たせるのなら、転生した甲斐があったというもの。
かかって来い義経。
次こそ、勝つのは俺だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」
前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。
辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる