『異世界からきたイケメンホスト? 実は最強のエルフでした』

ぜろのいち

文字の大きさ
14 / 15
第14章 捨て身の作戦

捨て身の作戦

しおりを挟む
細菌兵器が制圧され数か月後、カムチャッカ・サハリン連邦カザンツェフ大統領は、突如として世界に向けて声明を発表した。
「我が国は、長年に渡り不当な経済制裁を受けてきた。今こそ、世界は我々の正当な権利を認めるべきだ。我々は戦争準備を整えた。資源の輸出制限と経済封鎖の即時解除を要求する。これが受け入れられない場合、我々は必要な手段を講じる」
この声明は、世界中に衝撃を与えた。各国首脳は緊急会議を開き、対応を協議。しかし、連邦の潤沢な資源への依存度が高い多くの国々は、カムチャッカ・サハリン連邦との全面対決を避けようとした。
日本政府は、慎重な姿勢を示した。外務大臣の記者会見では、次のような発言がなされた。
「我が国は、連邦との友好関係を重視しています。彼らの主張には一定の理解を示しつつ、平和的な対話を通じて問題解決を図るべきだと考えています。現時点では、事態を注視し、慎重に対応を検討していく方針です」
この発言は、事実上カムチャッカ・サハリン連邦の要求を黙殺するものだった。カムチャッカ・サハリン連邦はこれに激しく反発。カザンツェフ大統領は再び世界に向けて声明を発表した。
「日本政府の態度は、我が国への宣戦布告と同義である。彼らが我々の要求を真剣に受け止めていないことは明白だ。よって、我々は24時間以内に津軽海峡への攻撃を実行する。これは、我が国の決意の表れであり、更なる行動への警告である」
この声明を聞いた竜也(エルヴィリス)は、驚きと混乱に包まれた。彼は急いで松本新に連絡を取った。
「新さん、カムチャッカ・サハリン連邦の首都って一体どこにあるんですか? 津軽海峡を攻撃するって、まさか」
新の声は、普段の冷静さを失っていた。
「竜也くん、カムチャッカ・サハリン連邦は前にも言ったが北海道全体なんだ。かつての日本の一部が、独立国になっていて首都はオタルだよ」
竜也は息を呑んだ。新は深いため息をつき話を続けた。
「これは最近の極秘情報だが、君は知っておくべきだろう。オタルから離れたサッポロにリュミエールは幽閉されている可能性が高い。魔力探知レーダで強烈な反応を示しているんだ。今回の破れかぶれのような戦闘宣言は、もしかしたら彼女がなんらかの形で協力しているのでは? 核爆弾を無効化する戦力だ。もし本格的な戦闘を開始したら」
松本新の言葉に竜也の中に宿るエルヴィリスの記憶が、激しく反応する。
「リュミエール、まさか彼女が」
新は続けた。
「カムチャッカ・サハリン連邦は、特殊な鉱物資源を独占している。それが彼らの力の源だ。今、彼らはその力を利用して、世界を脅かしている。そして、推測だが魔術の生成に成功したような情報もあるんだ」
竜也の頭の中で、様々な情報が渦を巻いた。彼は、自分たちが直面している危機の大きさを改めて実感した。
「新さん、我々に何ができるでしょうか?」
新は厳しい表情で答えた。
「今のところ、表立った行動は控えるべきだ。しかし、水面下での準備は必要だ。カムチャッカ・サハリン連邦の動向を注視し、あらゆる可能性に備えなければならない」
竜也は深く頷いた。彼は、エルヴィリスとしての記憶と経験を頼りに、この危機に立ち向かう決意を固めた。一方、カムチャッカ・サハリン連邦の首都オタルでは、軍事会議が開かれていた。カザンツェフ大統領を中心に、軍の最高幹部たちが集まっていた。
「諸君、我々の時が来た」カザンツェフは力強く宣言した。
「かのエルフの力を宿し道具の開発に成功した。彼女の洗脳も順調だ。長年の屈辱を晴らし、世界における我が国の正当な地位を確立する時だ」
軍司令官のイゴールが立ち上がった。
「大統領、津軽海峡攻撃の準備は整いました。最新鋭の魔導ミサイルを使用します。日本本土への直接的な被害は最小限に抑えつつ、我々の力を見せつけることができます」
カザンツェフは満足げに頷いた。
「よし。では作戦を開始せよ。世界に、北海道共和国の力を思い知らせるのだ」
会議室を後にしたカザンツェフは、一人執務室に戻った。彼は窓から、夜景に包まれたサッポロの街を見下ろした。その目には、野望の炎が燃えていた。
(かのエルフから奪い取った魔石を体に埋め込んでから、疲れ知らずで野心が湧き出てくる。我が国の繁栄のためなら、どんな犠牲も厭わない)
カザンツェフの心の中で、そんな決意が固まっていった。
翌日、世界はカムチャッカ・サハリン連邦の攻撃のニュースに震撼した。津軽海峡に向けて発射された魔導ミサイルは、驚異的な破壊力を示した。幸い、人的被害は最小限に抑えられたが、海峡周辺のインフラは壊滅的な打撃を受けた。
この攻撃により、日本政府はカムチャッカ・サハリン連邦との全面対決の構えを見せざるを得なくなった。首相は緊急記者会見を開き、カムチャッカ・サハリン連邦に対する厳しい非難声明を発表。同時に、国際社会に対して協力を呼びかけた。
アメリカ、EU、中国など主要国も、カムチャッカ・サハリン連邦の行動を強く非難。国連安全保障理事会は緊急会合を開き、カムチャッカ・サハリン連邦に対する経済制裁の強化を決議した。しかし、カムチャッカ・サハリン連邦はこれらの反応に動じる様子を見せなかった。むしろ、自国の力を世界に示せたことに満足しているようだった。
カザンツェフ大統領は、再び世界に向けて声明を発表した。
「我が国の行動は、自衛のためのやむを得ない措置だった。我々は平和を望んでいる。しかし、我が国の権利が侵害され続ける限り、我々は断固とした態度を取り続ける。世界は我々と対話する用意があるのか?それとも、さらなる衝突を望むのか?選択は諸君らに委ねる」
この声明は、カムチャッカ・サハリン連邦の揺るぎない自信と、同時に交渉の余地を残す巧妙な外交戦術を示していた。世界は、カムチャッカ・サハリン連邦との対決か妥協かの選択を迫られることになった。そして、この危機は新たな局面へと突入していく。
竜也(エルヴィリス)たちは、この状況を憂慮しつつも、水面下での活動を続けていた。彼らは、カムチャッカ・サハリン連邦の真の狙いを探り、そして平和的な解決策を模索し続けた。しかし、彼らはまだ知らなかった。この危機の背後に潜む、さらに大きな陰謀の存在を。この争いは、単なる資源戦争ではなく、この世界の秩序そのものを揺るがす大きな力学の一部だったのだ。カムチャッカ・サハリン連邦の台頭は、世界のパワーバランスを大きく変えつつあった。魔術という強力な資源を握ることで、彼らは従来の超大国に匹敵する影響力を持ち始めていた。この状況は、既存の国際秩序に亀裂を生じさせ、新たな対立軸を生み出していった。
アメリカ・EUは、カムチャッカ・サハリン連邦の台頭を最も警戒していた。世界最大の軍事大国であり、長年国際社会でリーダーシップを発揮してきたアメリカにとって、カムチャッカ・サハリン連邦の存在は大きな脅威だった。アメリカ政府は、カムチャッカ・サハリン連邦に対する経済制裁の強化と、同盟国との連携強化を進めていた。
一方、中国とロシアは、カムチャッカ・サハリン連邦との関係構築に動いていた。彼らは、アメリカの一極支配に対抗する新たな勢力として、カムチャッカ・サハリン連邦を利用しようとしていた。特に中国は、カムチャッカ・サハリン連邦との経済協力を通じて、魔術の安定供給を確保しようとしていた。
日本は、最も難しい立場に置かれていた。地理的にカムチャッカ・サハリン連邦に近く、歴史的なつながりもある日本は、カムチャッカ・サハリン連邦との関係改善を望みつつも、アメリカとの同盟関係も維持しなければならなかった。この板挟みの状況で、日本政府は慎重な外交戦略を練っていた。
そんな中、竜也(エルヴィリス)たちは、この複雑な国際情勢の中で自分たちに何ができるかを模索していた。彼らは、表立った行動は控えつつも、水面下で情報収集と分析を続けていた。
 「どうやったら彼女に接触できるのだろうか? この世界に魔術があることで大きく影響が出ているんだ。我々は帰らねばならない」
焦る竜也(エルヴィリス)は意外な形でリュミエールを見出すのだった。
テレビが異常気象として津軽海峡を映し出す。上空が、異様な光に包まれた瞬間だった。カムチャッカ・サハリン連邦の最新鋭戦艦から放たれた魔装雷撃が、青白い閃光となって海面を走る。その先頭に立っていたのは、かつてエルヴィリスが愛した女性、リュミエールだった。
彼女の姿は、竜也(エルヴィリス)の記憶にあるものとは大きく異なっていた。瞳は生気を失い、体には不自然な魔力が渦巻いている。カムチャッカ・サハリン連邦が開発した薬物によって正気を失わされ、彼らの意のままに操られているのだ。
リュミエールの魔力は、驚異的なものだった。彼女の一挙手一投足が、自然の法則を捻じ曲げていく。海が割れ、風が渦を巻き、大地が震える。しかし、その破壊的な力の中にも、彼女の本質が垣間見えた。人命を損なわないよう、細心の注意を払っているのだ。
日本の自衛隊は、なすすべもなくその力の前にひれ伏した。戦闘機は空中で停止し、艦船は波間に浮かんだまま動けなくなる。陸上の部隊も、まるで時間が止まったかのように硬直した。竜也は呆然と生中継を見守るしかなかった。
リュミエールの声が、魔力に乗って響き渡る。
「日本国民の皆様、これ以上の抵抗は無意味です。直ちに降伏し、カムチャッカ・サハリン連邦の統治を受け入れてください」
その声には感情が欠けていた。まるで機械が話しているかのようだ。
しかし、日本はまだ諦めてはいなかった。米国との共同開発により完成したばかりの超長距離レールガンが、本州最北端から発射された。それは音速の7倍という驚異的な速度で、リュミエールに向かって飛んでいく。
リュミエールは、その攻撃を察知し対応しようとするが、反応が遅れる。レールガンの砲弾は、彼女の展開していた魔力のバリアを貫通し、直撃こそ免れたものの、その衝撃波によって彼女は大きく後退した。
カムチャッカ・サハリン連邦の司令室では、焦りの色が見え始めていた。
「まさか、あの完璧な兵器が押されるとは」作戦主任が呟く。
カザンツェフ大統領の目が冷たく光る。
「なら、最終手段だ。東京に細菌兵器ミサイルの照準を合わせろ」
「しかし、大統領。それは」
「黙れ!」カザンツェフの怒鳴り声が響く。
「我々に選択肢はない。世界を手に入れるか、滅びるか。それだけだ」
このミサイルの発射準備は米軍の知るところになり、松本新、エリーは魔力による対抗を画策進言し竜也を戦線に引っ張り出すこととした。
『エデン』に米軍ヘリから迷彩服を着こんだエリーが舞い降りた。
 「竜也! 急いで乗って! 松本もいるから」
 「エリーさん! 私も」
ユウが慌てて出てきた。
 「ユウさん、危険よ。戦闘兵器となっているエルフ相手なのよ」
 「でも、その人が竜也、エルヴィリスさんの探し人なんでしょ? しかも連邦の創設に深くかかわっている存在。スパイの娘としては因縁を感じるし、黙って見送るわけにいかないわ」
エリーはしばらく考えて、松本新の方を見た。松本は好きにさせればいい、というようなそぶりで肩をすくめた。そして、彼女はユウの脇に立っている竜也を見た。
 「エリーさん、ユウは、もしかしたら何かの鍵なのかもしれません。ぜひ同行させてください。彼女を守れるよう自分の戦闘の励みにします」

津軽海峡は風が吹き荒れていた。
軍事的対立の最前線にふさわしく日本と連邦の最新鋭の軍備が睨みあっていた。
津軽海峡上空、初夏の穏やかな空気が一瞬にして緊張に満ちた戦場と化した。日本の海上自衛隊の護衛艦『きりしま』と『あしがら』が、カムチャッカ・サハリン連邦の最新鋭戦艦『アムール』と対峙していた。
「敵艦、接近中!」きりしまの艦橋で若い士官が叫んだ。
艦長の山田大佐は冷静に状況を分析した。
「砲術長。対艦ミサイル、発射準備!」
海面を切り裂くように、きりしまとあしがらから88式対艦誘導弾が発射された。ミサイルは低空で海面すれすれに飛び、アムールに向かって突進していく。
しかし、アムールの対応は素早かった。瞬時に対ミサイル防御システムが作動し、迎撃ミサイルが発射された。空中で激しい爆発が起こり、88式の大半が撃墜されてしまう。
「くそっ!」山田大佐は歯ぎしりした。
「こちらの戦術、お見通しか」
一方、アムールの艦長イワン・ペトロフ大佐は冷ややかな笑みを浮かべていた。
「日本軍の攻撃、予想通りだ。反撃開始!」
アムールから、新型超音速対艦ミサイル「ツィルコン」が発射された。その速度は驚異的で、音速の9倍。きりしまとあしがらの対ミサイルシステムでは捉えきれない。
「回避!」
山田大佐の叫びとともに、きりしまは急旋回を試みる。しかし、ツィルコンの速度は余りにも速く、艦の側面に命中。大きな爆発が起こり、きりしまは大きく傾いた。
「艦長!第2エンジン、損傷!」
「浸水甚大です!」
艦内から次々と被害報告が上がる。あしがらも同様の攻撃を受け、両艦とも戦闘能力を大きく低下させてしまった。
その時、アムールの艦上に異変が起きた。一人の女性が甲板に立っていた。長い金髪を風になびかせ、全身に不自然な青白い光を纏っている。それは、リュミエールだった。しかし、彼女の目は生気を失い、まるで人形のように冷たく光っていた。
「魔術部隊、展開!」
ペトロフ大佐の命令と共に、アムールから複数の小型艇が進水。それぞれの艇には、リュミエールと同じように光を纏った兵士たちが乗っていた。
リュミエールが無表情のまま手を上げると、海面が不自然に盛り上がり始めた。まるで生き物のように波が蠢き、巨大な水の壁となって日本艦隊に襲いかかる。
「な、何だ。これは!?」山田大佐は目を疑った。
水の壁は、きりしまとあしがらを飲み込もうとする。艦上の兵士たちは恐怖に震え上がった。しかし、その瞬間だった。
「発射!」
遥か後方、本州最北端に設置された実験兵器・超長距離レールガンから、特殊弾が発射された。それは音速の数倍という驚異的な速度で、リュミエールの魔術によって作られた水の壁に向かって飛んでいく。
レールガンの弾丸が水の壁に命中した瞬間、凄まじい衝撃波が走った。水の壁は粉々に砕け散り、その衝撃でリュミエールも一瞬、体勢を崩す。
「やった!」日本軍側から歓声が上がる。
しかし、リュミエールの表情は変わらなかった。彼女は両手を広げ、感情のない声で呟いた。
「無駄な抵抗だ」
突如として、荒々しい風が吹き荒れ始めた。その風は、レールガンから発射された2発目の弾丸の軌道を大きく狂わせる。弾丸は海面に叩きつけられ、巨大な水柱を上げた。
リュミエールの魔術は、さらに凄まじさを増していく。彼女の周りに、青白い光の渦が出現。その渦は徐々に大きくなり、やがて巨大な魔法陣となった。
「全てを、無に帰す」
リュミエールの冷たい声と共に、魔法陣が不気味な輝きを放つ。すると驚くべきことに、日本側の全ての艦船と航空機が、まるで時間が止まったかのように動きを止めた。エンジンは停止し、兵器システムは機能を失い、通信機器も沈黙した。
両軍の兵士たちは、言葉を失って呆然とその光景を見つめていた。
リュミエールは無感情に語り掛ける。
「抵抗は無意味だ。降伏しろ。さもなければ、全てを破壊する」
その声には感情の欠片も感じられなかった。まるで機械が話しているかのようだった。
山田大佐は、艦橋の窓からリュミエールを見つめていた。彼女の力の前では、どんな近代兵器も無力だということを、身をもって理解した。
「一体、何なんだ、あの存在は」
大佐の呟きが、静寂の中に消えていった。
戦場は、一瞬にして異様な静けさに包まれた。日本側の兵士たちは、自分たちがたった今、人知を超えた力を目の当たりにしたことを、まだ十分に理解できていなかった。
リュミエールは、アムールの甲板から静かに空中に浮かび上がった。彼女の周りには、まるでオーロラのような光が渦巻いている。その姿は美しくも、恐ろしさを感じさせるものだった。
「降伏の意思を示せ。さもなければ、お前たちの国を海底に沈める」
リュミエールの冷酷な宣告が、魔力に乗って響き渡る。その言葉に、日本側の兵士たちは絶望的な表情を浮かべた。
津軽海峡の空に、夕日が沈みかけていた。その赤い光の中で、リュミエールの姿が不気味に浮かび上がっている。日本の自衛隊は完全に制圧され、カムチャッカ・サハリン連邦の圧倒的な勝利が確定的となった。世界は今、未知の恐怖の時代へと足を踏み入れようとしていた。
その時だった。戦場に突如として現れたのは、竜也(エルヴィリス)だった。
「リュミエール!」竜也の叫びが、戦場に響き渡る。
リュミエールは、その声に反応して僅かに動きを止めた。
「お前はこんなことをするヤツじゃない!」竜也は必死に訴える。
「目を覚ませ!このままでは、最終戦争になってしまう。この世界が、夢みた異世界、俺たちの愛した世界が滅んでしまうんだ!」
しかし、リュミエールの目には依然として生気が戻らない。彼女は再び魔装を纏い、竜也に向かって攻撃を仕掛ける。
竜也は、自衛隊の撤退を松本に任せエルヴィリスの記憶と経験を頼りに、何とかその攻撃をかわす。しかし、リュミエールの力は圧倒的だ。竜也は徐々に追い詰められていく。
その時、再びレールガンが発射された。今度の狙いは確実だった。しかし、リュミエールは冷静にその攻撃を見極め、魔力で弾き飛ばす。巨大な爆発が海上で起こり、津波が発生する。
カムチャッカ・サハリン連邦の作戦室では、体内の魔石が暴走気味のカザンツェフが歯ぎしりしていた。
「もはや他に手はない。発射しろ! 東京への細菌兵器ミサイルを!」
発射のボタンが押される。ミサイルが空へと舞い上がる。
竜也はそれを察知し、全身全霊の力を込めて魔力を発動する。ミサイルは空中で停止し、そのまま無力化され、数発は海の中に落下していく。
しかし、その瞬間だった。カムチャッカ・サハリン連邦の科学者が開発した特殊装置が起動し、突如としてエルヴィリスの憑依をはがそうとするのだった。以前の彼ならば、この世界の魔術攻撃など跳ね返せたが、魔力の著しい消耗のため数発の攻撃でエルヴィリスの意識が飛び竜也の意識が戻る。しかし、彼は突然の状況に恐怖し、その場に立ちすくんでしまう。目の前では、リュミエールが再び攻撃の構えを取っている。空には、まだ無数のミサイルが浮かんでいる。
(俺には無理だ。エルヴィリスじゃない俺には)
絶望的な思いが竜也の心を覆う。しかし、その時、エルヴィリスの言葉が脳裏に蘇る。
「自自分に期待するんだ。この危機も振り返れば物語のひとつ。俺たちって大したもんだ。と振り返れるようにするんだ」
その言葉が、竜也の心に火を点けた。
(そうだ。これは俺の人生なんだ)
竜也は深く息を吸い、目を閉じる。そして、自分の中に眠る力を呼び覚ます。
「行くぞ!」
竜也の叫びと共に、彼の体から光が溢れ出す。それは、エルヴィリスの力ではない。竜也自身の、魔石ドウリンの腕輪に反応した人間としての力だった。
松本新とエリーが、通信を通じて竜也をサポートする。
「竜也くん、聞こえるか? リュミエールの魔力の流れを解析した。洗脳には弱点がある!」
「カムチャッカ・サハリン連邦の司令室に侵入した。システムをハッキングして、ミサイルの誘導を妨害している」
ユウの声も届く。
「竜也、お前ならできる! 私たちが付いている!」
勇気を得た竜也は、リュミエールに向かって走り出す。彼女の攻撃をかわしながら、必死に語りかける。
「リュミエール、聞こえるか? エルヴィリスの思い出を思い出してくれ! エルフの森で過ごした日々を! 魔術学校での喧嘩を! そして、自分たちの誓いを!」
リュミエールの動きが、僅かに鈍る。
「君は平和を愛していた。戦いを憎んでいた。こんな戦争なんて、君の望むものじゃない! 過度な介入は不幸な因縁を生むんだ。僕は、その実例をいつも見ている」
リュミエールの目に、僅かな感情の色が戻り始める。
 「僕は、君たちが羨ましかった。無限の力、可能性に満ちた魔法。しかし、本当の信念はそういうところじゃない。自分に期待しているところだ」
リュミエールがエルヴィリスの決めフレーズを言われピクリと反応した。
「僕は、いやエルヴィリスは君を愛している。エルヴィリスは君を探しにやってきたんだ。だから、戻ってきてくれ!」
竜也の言葉が、リュミエールの心に届いた瞬間だった。彼女の目から、涙がこぼれ落ちる。
「エルヴィリス、竜也」
リュミエールの体を覆っていた異常な魔力が消え去り、彼女本来の姿が現れる。
リュミエールの目に生気が戻り、混乱した表情を浮かべる。
「エルヴィリス……私は何を……」
突然、竜也の体から強烈な光が放たれ、彼の姿が二つに分かれ始めた。一方は現代の日本に生きる高橋竜也、もう一方は異世界の戦士エルヴィリスだった。
「なっ……何が起きている?」竜也が驚きの声を上げる。
エルヴィリスが答える。
「時空の修正力だ。我々はそれぞれの世界に戻らなければならない」
竜也は複雑な表情を浮かべる。
「でも、君との記憶は……」
「心配するな」エルヴィリスが微笑む。
「君の中に、全てが残るはずだ」
三人の体が完全に透明になると同時に、大きな光の柱が天に向かって伸びた。その瞬間、世界が大きく揺らぐ。
時空の狭間で、竜也、エルヴィリス、リュミエールはそれぞれの世界への帰還を感じていた。彼らの意識が徐々に元の場所に戻っていく中、世界の歴史が修正されていくのを感じ取った。
カムチャッカ・サハリン連邦の大統領官邸では、魔石を体内に埋め込んだカザンツェフ大統領の姿が徐々に薄れていく。彼の周りにいた側近たちは、混乱した表情で互いを見つめ合った。
「大統領!」側近の一人が叫ぶが、その声も空しく響くだけだった。
カザンツェフの体は完全に消え去り、彼の存在自体が歴史から抹消されていった。
一方、戦場では松本新、エリー、澪川ユウの三人が、突如として別の光景の中にいることに気がついた。彼らの目の前には、原爆が投下された直後の都市の姿があった。
新は呆然と立ち尽くした。
「これが本来の歴史か」
エリーは涙を堪えながら言った。
「そう、変わってしまった歴史が元に戻っているのよ」
ユウは空を見上げ、呟いた。
「竜也、エルヴィリス、お前は本当に元の世界に戻ったんだな」
三人は、自分たちの記憶が徐々に変化していくのを感じていた。魔石ドウリンの存在も、カムチャッカ・サハリン連邦との戦いも、全てが夢のように薄れていく。
新は静かに言った。
「俺たちの因果律が戻っていく。もうすぐ、全てが元通りになるんだ」
エリーは微笑んだ。
「ちょっと残念ね。この経験は、役に立ちそうだったのに」
ユウは頷いた。
「ああ、そうですね。竜也との出会いも、俺たちの戦いも、全て無駄じゃなかった」
三人は、お互いを見つめ合った。彼らの体も、徐々に透明になっていく。
新が言った。
「さようなら、みんな。また別の人生で会えることを願っている」
エリーは涙を流しながら答えた。
「ええ、きっとまた会えるわ。その時はもっと平和な世界であることを祈って」
ユウは力強く言った。
「私たちの絆は、どんな時空の壁も越えられる。必ずまた会いましょう」
三人の姿が完全に消える直前、彼らは最後の言葉を交わした。
「さようなら」
その瞬間、世界が大きく揺れ動いた。歴史が本来の流れに戻っていく中、人々の記憶も徐々に修正されていった。
エルヴィリスとリュミエールは、自分たちの世界に戻った。彼らの前には、見慣れた森が広がっていた。二人は互いを見つめ、安堵の表情を浮かべた。
「戻ってこられたんだね」リュミエールが言った。
エルヴィリスは頷いた。
「ああ、でも大丈夫かな。あの世界は……」
リュミエールは優しく微笑んだ。
「きっと大丈夫よ。私たちがしたことは、あの世界の人々の心に何かを残したはず」
エルヴィリスも微笑み返した。
「そうだな。彼らなら、きっと平和な未来を築いていけるはずだ」
二人は手を取り合い、新たな冒険へと歩み出した。彼らの姿は、森の中に溶け込むように消えていった。
一方、修正された現代日本に戻った竜也は、東京のホスト寮で目を覚ました。テーブルの上にはカードの使用履歴が開封されているがキャッシング(借金)の履歴記載はなかった。どうやら修正された自分の歴史は少し異なる感じだった。しかし竜也には違いが判別できるのである。つまり、彼の記憶には、異世界での冒険が夢のように残っていた。
「エルヴィリス、リュミエール、みんな」竜也は呟いた。
「きっと、どこかでまた会える」
そうして彼は寝ていて気が付かなかったが、今日は新入りの澪川ユウという子が入寮していた。
彼は窓の外を見つめ、新たな朝の訪れを感じていた。世界は本来のあるべき姿を取り戻し、人々の記憶からは魔石ドウリンや異世界での出来事が消え去っていた。しかも本来の戦争の記憶などもあった。でも、どこかで確かに、平和を願う気持ちや、人々との絆の大切さが心に残されていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

処理中です...