世界の見せる真実が、俺の想像を超えていく 〜ROOTS(ルーツ)〜

いぬは

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Case 05:Good and Evil

31:偽りの観察者

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 なんだ?! 今までまったく気配を感じなかったぞ。
 入口に立つ老紳士から、得体の知れない雰囲気が漂っている。

 ブッチのやつ、何やってんだよ……見張ってろって言ったのに!

「いやぁ、さすがは噂の“期待の新人”といったところですね」

「お前……は、確かパーティーの時に話しかけてきた……」

「覚えていてくださいましたか。私の名前は“ロキ”。あなたがたが“2E”と呼ぶ、私たちの仲間と同じ組織の一員ですよ」

「なっ……“2E”だと?!」

 たしかパーティーで話した時、対外的には“キューブ事件”として報道されていたのに、こいつは“ミョルニル事件”と呼んでいた。
 その時、違和感を覚えはしたが……そういうことか。
 
 俺は周りに注意しながら、いつでも戦えるように構えをとる。
 藤宮もミョルニルを銃形態に変え、俺の横に立つ。

「おっと、あなたがたと争うつもりはありません」

 ロキと名乗った老紳士は両手を上げて見せる。その仕草に緊張はなく余裕を感じる。

「私は、そちらの方々に“お貸しした”魔術書を、返してもらいに来ただけです」

 ロキはスッと倉庫の奥を見て、口元に笑みを浮かべる。
 しかし、瞳に感情はまるで映らない。

「こいつらに力を与えたのは……お前か!」

「“霊が見たい”と言うので、本を貸し与えただけです。あのパーティーも――“鏡見 茜が来る”と教えたら、あとはあの方たちが勝手に楽しんだだけのこと」

 その声音には、悪意の気配すらない。

「ふざけるな!」

 俺の怒鳴り声が、静まり返った倉庫に響く。
 だがロキは――口元に笑みを浮かべたまま、こちらを見つめるだけだ。

「――ほぼ、調といったところですね。さて、あなたの力も確認せてもらいましたし、今日はこのへんで失礼いたします」

 次の瞬間、ロキの姿がふっと揺らめき、消えた。

 目を離したつもりはない。
 なのに――その存在そのものが、世界から消えたような感覚だった。

 俺は倉庫の奥で倒れている犯人たちを見る。
 全員が意識を失っているようで、手に持っていた“魔術書”も消えていた。

「先輩……」

「……ああ、わかってる」

 胸の奥に、冷たいものが流れ込む。
 明らかに――“人”とは違う存在。


 ◇◆◇


 その後、犯人たちは、俺が呼んだROOTS職員によって、警察に引き渡された。
 罪状は不法侵入と不法占拠、ほかにも窃盗などの余罪がいくつか見つかったらしい。

 取り調べでは、「廃工場で心霊配信をしていたら、それを見たリスナーから本が送られて来た」らしい。しかし、それ以降の記憶が――まるっと消えていたという。

 そして、車で待っていたブッチはというと――寝ていた。
 本人いわく「ロキに眠らされた」らしいが、まあ……そういうことにしておく。


 ◇◆◇


 約束どおり霊園にお供え物を持っていくと、例の俺たちをチクった金髪幽霊が、髪を黒く染めて土下座で謝ってきた。
 園長からこっぴどく怒られたらしく、しばらく「うらめしや担当」をさせられると“うらめしそう”にしていた。

 ……なんだよ、“うらめしや担当”って。

 それに、……結局“うらめしや”は、止めないのかよ!
 どうやら、伝統は今後も受け継がれていくらしい。

 全ての報告を終え家に帰る途中。
 ロキ……そして、“2E”。
 二人が所属する組織のことを考える。

 また、必ず相対することになる。
 そんな“予感”が、確かに胸に残る。

 ふと夜空を見上げると――
 漆黒に染まる空には、いつもと変わらない無数の星々が輝いていた。



[調査報告書・抜粋]
 ――――――――――――――――
 Case 05《Good and Evil》  

|結 論  
 ・Sweepからの初任務、お化け屋敷事件は、原因幽霊の成仏という形で無事に完了。
 ・Sweep創業パーティーにおいて、複数の幽霊が出現する事件が発生。
 ・原因は、“ロキ”と名乗る人物から渡された“魔術書”を使用したことによる暴走と断定。
 ・犯人らは拘束後、記憶の一部を喪失。手にしていた魔術書も消失している。
 ・ロキの証言から“2E”および“ロキ”は同一組織に所属していることを確認。
 ・該当組織の掲げる目的は「人類のために危険な遺物を封印すること」とされるが、実際の行動原理との整合性は不明。

 ・Sweepには報告済み。

 以上をもって、本事案の一次調査を終了する。  

 記録者:ROOTS 捜査員 H.K/M.F
 ――――――――――――――――


 ◇◆◇


 ――某高層ビル最上階。

 外界を遮断するように、窓ひとつない会議室。

「それで――どうだったの、ロキ?」
 美零が老紳士に問いかける。

「なかなか面白かったよ。感情で力が変動するタイプだね」

「へぇ、変動型なんだ」

「今はまだ力にムラがあるけど、今後が楽しみだよ」

 そう言うと、老紳士の体を黒い霧が包み込み――次の瞬間、金髪の少年がそこに立っていた。

「あら、私はその格好も好きだったのに」

 黒いドレスの裾を揺らしながら、美零が妖艶な笑みを浮かべた。

「はん、爺さんが趣味かよ」
 男が銀の短髪をかきあげ、吊り上がった口から犬歯がのぞく。

「あんたよりは、何倍も魅力的なのは確かね」

「はん!」

「それで――これからどう動くの?」

「ああ、ちょっと南の方で“遺物”らしい反応を見つけたんだ。そこを調べてみようかな」

「じゃあ、次の遺物は俺様に行かせてくれよ!」
 銀髪の男が、犬歯をのぞかせながら身を乗り出す。

「わかったよ。じゃあ――よろしくね、“フェンリル”」
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