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〈早太郎伝説〉
今よりおよそ七百年程も昔、光前寺に早太郎というたいへん強い山犬が飼われておりました。
その頃、遠州府中(静岡県磐田市)見付天神社では田畑が荒らされないようにと、毎年祭りの日に白羽の矢の立てられた家の娘を、生け贄として神様に捧げる人身御供という悲しい習わしがありました。
ある年、村を通りかかった旅の僧である一実坊弁存(いちじつぼうべんぞん)は、神様がそんな悪いことをするはずがないと、その正体をみとどけることにしました。祭りの夜にようすをうかがっていると、大きな怪物が現れ『今宵、この場に居るまいな。早太郎は居るまいな。信州信濃の早太郎。早太郎には知られるな』などと言いながら、娘をさらっていきました。
弁存はすぐさま信州へ向かい、ようやく光前寺の早太郎をさがし当てると、早太郎をかり受けて急ぎ見付村へと帰りました。
次の祭りの日には、早太郎は娘の代わりとなって棺に潜み、現れた怪物と戦いました。激しい戦いの末、それまで村人を苦しめていた怪物は、早太郎によって退治されました。 力尽きた怪物はなんと早太郎の何倍もある大きさをした歳老いたヒヒでした。
早太郎も怪物との戦いで大きな傷を負いましたが、光前寺までなんとか帰り着くと、和尚さんに怪物退治を知らせるかのように、一声高く吠えて息をひきとってしまいました。
早太郎をかり受けた弁存は、早太郎の供養にと《大般若経》を写経し、光前寺へと奉納
しました。それ以来、寺の宝として大切に残されています。そして、寺の本堂の横には早太郎のお墓が、現在もまつられています。
〈宝積山光前寺 公式ウェブサイトより〉
「……とまあ、〈霊犬 早太郎伝説〉は簡単に云うとそんな話なんだけど、二十年近くもうちで育って、アンタまさか初めて聞いたって云わないわよね」
みゆきが終始芝居がかった口調で話してくれたものの、やはり覚えがない。
「ああ、えーと。うーん、やっぱり初めて、かなあ」
そう素直に答えたのに、みゆきの奴は拳を握りしめている。が、すぐに脱力したように力なく云った。
「はあ……、まあアンタに霊がどうのこうの云ったって、解んないわよね。全くお父さんと同じだわ」
幸い娘婿であるみゆきの父親、つまり洋介の育ての親であるオヤジも彼と同じく全く霊感とかそういった類いのものに疎く、主な仕事といえば境内の掃除や力仕事であり、お袋が亡くなってからというもの、明らかにそのチカラを受け継いだみゆきに本格的に仕事を継がそうと、今もやっきになっている。
「そういや、こないだもオヤジがぼやいてたぞ。お前が家の仕事をほったらかして、そのなんだ、何とかってボランティアばっかりやって、犬や猫ばっかり増えて大変だってさ」
「仕方ないじゃない。うちは元々、霊犬をまつるような寺なんだし、そこで育ったら普通動物好きになるもんでしょ。それに虐待されてるこのコたちを放っておけるわけないじゃない」
みゆきは小さな顔を紅潮させてそう云った。
この町のはずれに昔小さな動物園があって、つぶれたそこを買い取った動物保護のボランティア団体で、みゆきは週に二、三日ほど無償で働いている。
「最近、やけに忙しいらしいじゃねえか。ろくすっぽ家にいないって云ってたぞ」
「うん……最近、元の代表の内田さん、あの人が身体を壊しちゃって、息子さんが代わりに取り仕切るようになったんだけど……」
「へえ、あのばあさんにそんな息子なんていたのか」
何度か事務所に顔を出したことのある洋介は、愛想の良かったばあさんの顔を思い浮か
べた。
「そうなの。私も全然知らなかったんだけど、何でも長い間海外で働いていたらしいんだけど……」
みゆきはそこまで云って、顔を曇らせた。
「何だよ。何か問題でもあんのか、ソイツ? まさか物好きにもお前のケツ触るわけじゃねえんだろ」
「ばか。アンタってほんとお気楽よね」
「ばかばかって、オレはねえ、お前を元気づけてやろうとワザと……」
洋介の話を途中で遮りみゆきが云った。
「知ってるよ、そんくらい」
「ん? 何だ今日はやけに素直じゃねえか」
「みえないの……。何にも……」
「何が、だよ」
「新しい代表よ。内田さんの息子の達彦さん。彼の後ろに何も視えないの。こんなの初めてよ。誰だって何かしら視えるはずなのに……。私なんだか気味悪くって、さ」
みゆきの表情はかなり固かった。よく解らないがとにかくそれが重要なことだというのは理解できた。
「で? 何か問題でも起きたのかよ」
「ううん、全然。それどころかこれまでは引き取ったコ達の里親が決まらなくって、色々経費とかが大変だったんだけど、彼が代表になってから、次々に里親が決まってすごくみんな助かってるんだけど……」
「何だよ。じゃあ良かったんじゃあ……あっ、それじゃあコイツだってわざわざオレに預けなくったってよかったんじゃねえの?」
洋介はみゆきの傍らで身体をこすりつけているダックスフントに目を向けた。
「ううん。実はこのコが問題なのよ。このコはおそらく私よりもずっと高い霊感を持っているの。勿論、後ろについている〈早太郎〉のチカラに違いないと思うんだけど、明らかに私にはまだ視えないモノも感じてるみたいなのよ」
「それってつまり……その新しい代表の?」
「うん。彼を見た途端にこのコ、尋常じゃないくらいに興奮したのよ。ほんと怖いくらい
に……、でももっと怖かったのは、このコを見下ろす彼の目だった。それで私思わず、云
っちゃったの。このコはうちで引き取るって」
「ふうん、なるほどな。じゃあその達彦ってやつに何か悪いもんでも取り憑いてんじゃねえの?」
洋介はほんの冗談のつもりでそう云ったのだが、みゆきはゆっくりと深く頷きながら云った。
「うん、きっとそうよ。間違いないわ」
※
みゆきからこの〈早太郎〉って霊犬が取り憑いているのか、守護してるのかわからないが、とにかくやたらに人懐っこいミニチュア・ダックスフントを押しつけられて三日が過ぎた。
名前がまだ決まってなかったので、〈マロ〉と名付けてやった。単にまゆげのように、目の上の毛色が白くなっていたからなのだが、うまい具合に名付けたようで、みゆきもこれに対して文句は云わず、すぐにマロと呼んでいた。
「さあ、どうするべ。今日はいよいよお前のテストだとよ。マロ」
洋介がそう云うと、マロはさも理解したようにワンと一回吠えた。
今日は水曜で洋介の会社を含め、大体の不動産会社は休みである。そこで彼は会社が管理している空き物件の掃除を買ってでたのだ。社長は随分と感心したように喜んでくれたが、勿論洋介はそんな忠実な社員ではない。目的は会社が所有する〈事故物件〉にあった。
「おはよう!」
約束の時間通りにみゆきが洋介のアパートにやってきた。
「おう、一応は用意しといたぞ」
「ほんと。やるじゃない。で? 何件くらいあるの」
「そうだな。最近仕入れたものも入れて四物件か、な」
洋介は管理用の合い鍵を数えながら云った。
「そんなに! このあたりなんでしょ、全部」
「ああ、そうだぜ。大体ここから車で二十分以内にはいける範囲だな。でも単に〈事故物件〉っていっても色々だぜ。たとえばこれなんか、孤独死。これは、確か……自殺だったかな。これなんかは、おっそうそう。丁度去年あたりとなり町で一人暮らしの女子大生が殺された事件あったろ?」
「うん。ワイドショウなんかで随分と取り上げていた事件よね。たしかストーカー殺人のやつ。えっまさか……それ?」
「ああ。それ、だ」
「あきれた。ほんと、なんでもありの会社なのね」
みゆきの表情はその言葉とは裏腹に、随分と興奮しているようにみえた。
「まあ。どれもオレにとっちゃ、ただの物件にしか見えなかったけどな。とにかくソイツがどんくらいチカラがあるのか見せてもらおうじゃねえの」
洋介がみゆきに抱かれたマロの頭に手を置くと、またマロは彼の言葉を理解したかのようにワンと吠えた。
今よりおよそ七百年程も昔、光前寺に早太郎というたいへん強い山犬が飼われておりました。
その頃、遠州府中(静岡県磐田市)見付天神社では田畑が荒らされないようにと、毎年祭りの日に白羽の矢の立てられた家の娘を、生け贄として神様に捧げる人身御供という悲しい習わしがありました。
ある年、村を通りかかった旅の僧である一実坊弁存(いちじつぼうべんぞん)は、神様がそんな悪いことをするはずがないと、その正体をみとどけることにしました。祭りの夜にようすをうかがっていると、大きな怪物が現れ『今宵、この場に居るまいな。早太郎は居るまいな。信州信濃の早太郎。早太郎には知られるな』などと言いながら、娘をさらっていきました。
弁存はすぐさま信州へ向かい、ようやく光前寺の早太郎をさがし当てると、早太郎をかり受けて急ぎ見付村へと帰りました。
次の祭りの日には、早太郎は娘の代わりとなって棺に潜み、現れた怪物と戦いました。激しい戦いの末、それまで村人を苦しめていた怪物は、早太郎によって退治されました。 力尽きた怪物はなんと早太郎の何倍もある大きさをした歳老いたヒヒでした。
早太郎も怪物との戦いで大きな傷を負いましたが、光前寺までなんとか帰り着くと、和尚さんに怪物退治を知らせるかのように、一声高く吠えて息をひきとってしまいました。
早太郎をかり受けた弁存は、早太郎の供養にと《大般若経》を写経し、光前寺へと奉納
しました。それ以来、寺の宝として大切に残されています。そして、寺の本堂の横には早太郎のお墓が、現在もまつられています。
〈宝積山光前寺 公式ウェブサイトより〉
「……とまあ、〈霊犬 早太郎伝説〉は簡単に云うとそんな話なんだけど、二十年近くもうちで育って、アンタまさか初めて聞いたって云わないわよね」
みゆきが終始芝居がかった口調で話してくれたものの、やはり覚えがない。
「ああ、えーと。うーん、やっぱり初めて、かなあ」
そう素直に答えたのに、みゆきの奴は拳を握りしめている。が、すぐに脱力したように力なく云った。
「はあ……、まあアンタに霊がどうのこうの云ったって、解んないわよね。全くお父さんと同じだわ」
幸い娘婿であるみゆきの父親、つまり洋介の育ての親であるオヤジも彼と同じく全く霊感とかそういった類いのものに疎く、主な仕事といえば境内の掃除や力仕事であり、お袋が亡くなってからというもの、明らかにそのチカラを受け継いだみゆきに本格的に仕事を継がそうと、今もやっきになっている。
「そういや、こないだもオヤジがぼやいてたぞ。お前が家の仕事をほったらかして、そのなんだ、何とかってボランティアばっかりやって、犬や猫ばっかり増えて大変だってさ」
「仕方ないじゃない。うちは元々、霊犬をまつるような寺なんだし、そこで育ったら普通動物好きになるもんでしょ。それに虐待されてるこのコたちを放っておけるわけないじゃない」
みゆきは小さな顔を紅潮させてそう云った。
この町のはずれに昔小さな動物園があって、つぶれたそこを買い取った動物保護のボランティア団体で、みゆきは週に二、三日ほど無償で働いている。
「最近、やけに忙しいらしいじゃねえか。ろくすっぽ家にいないって云ってたぞ」
「うん……最近、元の代表の内田さん、あの人が身体を壊しちゃって、息子さんが代わりに取り仕切るようになったんだけど……」
「へえ、あのばあさんにそんな息子なんていたのか」
何度か事務所に顔を出したことのある洋介は、愛想の良かったばあさんの顔を思い浮か
べた。
「そうなの。私も全然知らなかったんだけど、何でも長い間海外で働いていたらしいんだけど……」
みゆきはそこまで云って、顔を曇らせた。
「何だよ。何か問題でもあんのか、ソイツ? まさか物好きにもお前のケツ触るわけじゃねえんだろ」
「ばか。アンタってほんとお気楽よね」
「ばかばかって、オレはねえ、お前を元気づけてやろうとワザと……」
洋介の話を途中で遮りみゆきが云った。
「知ってるよ、そんくらい」
「ん? 何だ今日はやけに素直じゃねえか」
「みえないの……。何にも……」
「何が、だよ」
「新しい代表よ。内田さんの息子の達彦さん。彼の後ろに何も視えないの。こんなの初めてよ。誰だって何かしら視えるはずなのに……。私なんだか気味悪くって、さ」
みゆきの表情はかなり固かった。よく解らないがとにかくそれが重要なことだというのは理解できた。
「で? 何か問題でも起きたのかよ」
「ううん、全然。それどころかこれまでは引き取ったコ達の里親が決まらなくって、色々経費とかが大変だったんだけど、彼が代表になってから、次々に里親が決まってすごくみんな助かってるんだけど……」
「何だよ。じゃあ良かったんじゃあ……あっ、それじゃあコイツだってわざわざオレに預けなくったってよかったんじゃねえの?」
洋介はみゆきの傍らで身体をこすりつけているダックスフントに目を向けた。
「ううん。実はこのコが問題なのよ。このコはおそらく私よりもずっと高い霊感を持っているの。勿論、後ろについている〈早太郎〉のチカラに違いないと思うんだけど、明らかに私にはまだ視えないモノも感じてるみたいなのよ」
「それってつまり……その新しい代表の?」
「うん。彼を見た途端にこのコ、尋常じゃないくらいに興奮したのよ。ほんと怖いくらい
に……、でももっと怖かったのは、このコを見下ろす彼の目だった。それで私思わず、云
っちゃったの。このコはうちで引き取るって」
「ふうん、なるほどな。じゃあその達彦ってやつに何か悪いもんでも取り憑いてんじゃねえの?」
洋介はほんの冗談のつもりでそう云ったのだが、みゆきはゆっくりと深く頷きながら云った。
「うん、きっとそうよ。間違いないわ」
※
みゆきからこの〈早太郎〉って霊犬が取り憑いているのか、守護してるのかわからないが、とにかくやたらに人懐っこいミニチュア・ダックスフントを押しつけられて三日が過ぎた。
名前がまだ決まってなかったので、〈マロ〉と名付けてやった。単にまゆげのように、目の上の毛色が白くなっていたからなのだが、うまい具合に名付けたようで、みゆきもこれに対して文句は云わず、すぐにマロと呼んでいた。
「さあ、どうするべ。今日はいよいよお前のテストだとよ。マロ」
洋介がそう云うと、マロはさも理解したようにワンと一回吠えた。
今日は水曜で洋介の会社を含め、大体の不動産会社は休みである。そこで彼は会社が管理している空き物件の掃除を買ってでたのだ。社長は随分と感心したように喜んでくれたが、勿論洋介はそんな忠実な社員ではない。目的は会社が所有する〈事故物件〉にあった。
「おはよう!」
約束の時間通りにみゆきが洋介のアパートにやってきた。
「おう、一応は用意しといたぞ」
「ほんと。やるじゃない。で? 何件くらいあるの」
「そうだな。最近仕入れたものも入れて四物件か、な」
洋介は管理用の合い鍵を数えながら云った。
「そんなに! このあたりなんでしょ、全部」
「ああ、そうだぜ。大体ここから車で二十分以内にはいける範囲だな。でも単に〈事故物件〉っていっても色々だぜ。たとえばこれなんか、孤独死。これは、確か……自殺だったかな。これなんかは、おっそうそう。丁度去年あたりとなり町で一人暮らしの女子大生が殺された事件あったろ?」
「うん。ワイドショウなんかで随分と取り上げていた事件よね。たしかストーカー殺人のやつ。えっまさか……それ?」
「ああ。それ、だ」
「あきれた。ほんと、なんでもありの会社なのね」
みゆきの表情はその言葉とは裏腹に、随分と興奮しているようにみえた。
「まあ。どれもオレにとっちゃ、ただの物件にしか見えなかったけどな。とにかくソイツがどんくらいチカラがあるのか見せてもらおうじゃねえの」
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