38 / 56
4

38

しおりを挟む

 しかし、だからこそ鼻持ちならない。

 いつもの時間、いつもの場所におもむけば、そこに魔女はいたが。

 まだしっかり靴をいたままだったもので。

「なにボサっと突っ立ってやがる。さっさと脱げよ。裸足じゃねぇと全力出せねぇんだろうが」

 それくらいは待ってやろうと、首をクンとしゃくってうながしたところ。

「来てもらったところ悪いんだけど……。実は、今日はちょっと使えそうもないのよね。最終奥義」

 まったく悪びれもせず、いきなりそんなことを言い出したのだから。

 思わず頭に血がのぼる。
 のぼりかける。

「ちょっと待てゴラ。じゃあ、ナンダ……? 散々|らして引っ張って前振りでわざわざ確認まで付けておいてやったってのに……。結局用意できませんでしたって……オメェが言いテェのは、要はそーいう言い分ってことかよ……?」

「……まぁ、そういうことになるんじゃないかしら」

「あァ?」

 そのときレドックスが怪訝けげんな顔つきとなったのは、魔女のあまりに淡白な受け答えに不審の色を見てとったからだ。

(なんだ……? 妙にサッパリしてやがんじゃねぇか)

 こちらに興味関心もなさそうな態度は癪に障るし、出会って間もないころを彷彿ほうふつとさせるが。

 一方で不穏なピリ付きも感じる。
 怒っているようにも見えた。

「なにガン垂れてやがる。文句付けてぇのはコッチだぜ」

「だから謝ってるじゃない。それで悪いんだけど……今日はもう帰ってくれる? 中止。いいでしょ? ここまで毎日付き合ってあげたんだから、1日くらい融通きかせてくれても」

「……明日なら準備できんのか?」

「それも確約はできないわね。善処はするけど」

「よぉ、なんだ? さっきから聞いてりゃあよォ。随分じゃねぇか、オメェ……!」

 えかね、ブォンとレドックスは振った木刀で風を切る。
 少なくともこのままオメオメ帰るなんて選択肢だけはあり得なかった。

「シまらねぇだろうが、そんなオチじゃあよォ……!」

 最終奥義なんてものの存在が、ここに来てだいぶキナ臭くなってきたことは、さておきとしても。

 せめていつも通りの形式で、ゲームを進行しようとする。
 落としまえを付けさせようとする、が――。

「……分かったわよ。それじゃあ」
「ハッ、それでいい。ようやくその気に」
「ギブアップ」

 それが魔女の答えだった。
 まだ始まりもしないうちに、さっさと試合をほっぽり捨てて。
 あまりにツッケンドンな無条件降伏。

 瞬間レドックスのなかで、何かがブチンと音を立ててキレる。
 気付けば間合いを一瞬で詰め、魔女の首をワシ掴みに、高々と持ち上げていた。

「よぉ調子ブッコいてんじゃねぇぞ、クソジャリ……。いいか、俺ぁな……弱ぇヤツはキラいだ。ケドなぁ……それ以上に胸クソの悪くなるモンだってあんだよ」

「っ……!?」

「本当は強ぇのに、ダラけて手ェ抜いてるヤツとかなぁあッ!!?」

 ギリギリと締め上げていく。

「放、して……っ! ルールと違うでしょ! ギブアップしたらそこで試合終了って……!」

「んなモン認められるわけねぇだろうがよおお!」

 これでも我慢はしてきたつもりだ。
 10回も連続で転がされたから、取るに足らない相手と見なされたのだろう。

 だから手を抜かれたって、文句を言える立場ではないとこらえてきたのではないか。1日1戦までなんてミミっちいルールにも従ってやった。

 だというのに――。

「いくらなんでも限度ってモンがあんだろうがッ! 俺をオモチャにして遊んでんじゃねぇぞ! コケにすんのも大概にしやがれえええッ!!!」

 がなり散らすかのようなレドックスの怒号が轟く。
 それでも魔女の態度は変わらなかった。

 おろか開き直ったのか。
 「早く終わらないかな」とでも言いたげな、覇気のない顔つきでこちらを見下ろしていて。

「……あぁ、そうかよ」

 それを受け、レドックスもついにキレた。

「もういいぜ。今日のオメェがトコトンやる気ゼロってのはよく分かったからよ。だったら話は簡単だ」

「…………」

「無理くり、その気を引きずり出してやる」

 宣言するなり、レドックスは無造作に手を伸ばす。
 首を締めたまま胸元にガッと手指をかけるなり、そのまま破り捨てるように大きく布を引き裂いた。

 ビリビリと衣服がはだけ、肌着もいくらか露出する。

(オンナをキレさせるなら、こうすんのが一番手っ取り早ぇからな……!)

 それは経験則に基づく、一番有効そうなメソッドの実行だ。
 まさか下心などまったくない。
 こんなガキンチョ体型に唆られるモノなどカケラもあるものか。

 狙いはただ1つ。
 相手をカッとさせ、怒らせるため。
 平手打ちの1発も引き出さんとする、野蛮極まる挑発で。

(どっからでも来やがれ。ま、食らいやしねぇがな……!)

 すでにガードの構えも取っていたのだが。

「……あ?」

 まさかだった。
 何も起こらない。
 そのときレドックスはようやく異変に気づいた。

 いつになく魔女の顔が赤らんでいる、そのことに。

「……なにをトロけてやがる。息もやけに荒ぇな。ハァハァしやがって、なんかエロいぞ。マジで発情でもしてやがんのか?」

 魔女から返事はない。
 妙な空気が流れる。

(なんだコイツ……? まさか勘違いして、いい雰囲気に持ち込もうってんじゃ……。ムード作りでもしてんのか?)

 ほんの一瞬だけ、そんな疑念も脳裏をよぎったが。

「つーかよ、オメェ……」

 違った。
 そこで気付く。

「なんかやけにアチィぞ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう
ファンタジー
運び屋(ポーター)のルカ・ブライオンは、冒険者パーティーを追放された。ーーが、正直痛くも痒くもなかった。何故なら仕方なく同行していただけだから。 ルカの魔法適正は、運び屋(ポーター)に適した収納系魔法のみ。 攻撃系魔法の適正は皆無だけれど、なんなら独りで魔窟(ダンジョン)にだって潜れる、ちょっと底無しで少し底知れない運び屋(ポーター)。 そんなルカの日常と、ときどき魔窟(ダンジョン)と周囲の人達のお話。 ※タグの「恋愛要素あり」は年の差恋愛です。 ※ごくまれに残酷描写を含みます。 ※【小説家になろう】様にも掲載しています。

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...