39 / 56
4

39

しおりを挟む

 アルメリアがとっさに口走り、ほのめめかしてしまった「最終奥義」の存在。

(食らえば即死級だとか、なんかだいぶ尾ひれも付いちゃってるけど……)

 まったく根も葉もない話、というわけでもなかった。
 一応そうと呼べなくもない代替だいたい手段に、心当たりはあって。

「どうかお願いします。力をお貸し頂けないでしょうか……!」

 わらにも縋る思いで隣山まで足を運んだのが昨日、レドックスに8度目の敗北を喫した直後のことになる。助力を求めた、その相手は――。

『アンタも懲りないねぇ……。はぁ、いい加減うんざりしてくるよ』

 正式な学術名にして“イズン・グランローゼ”。
 別名『暴食の荊棘いばら』とも呼ばれている、見上げるほどデップリした巨大な魔樹だった。

 ちなみにイズンの元をアルメリアが訪ねるのは、これが初めてではない。
 つい前日にも、まったく同じ用件で足を運んでいる。

 そのときも散々イヤな顔をされた末、とりつく島もなく追い払われたものだ。それが数日と間を置かずまた現れたものだから、ひどく気分を害したのだろう。

『満足な手土産てみやげもなしに……。またいきなり押しかけてきたかと思えばバカみたいに、まえと同じことの繰り返しかい?』

 歓迎の意など、そこに微塵も含まれてはいない。

『“もう来るな”って、そう言ってあったはずだけどねぇ』

 あるのはただただわずわしさと、露骨ろこつな軽蔑のみだった。

 不躾ぶしつけは重々、承知している。
 本音を言えば、アルメリアとしてもできれば彼女との接触はもう避けたかった。

 なにせイズン・グランローゼは魔獣やほかの魔樹から魔力を吸い上げ、自らの滋養じようとしてしまう恐ろしい魔樹。

 ここら一帯が『死の森』なんて物騒な名で呼ばれている由来そのものだ。

 現にイズンのテリトリー内に踏み込んだその瞬間から、アルメリアも少しずつ魔力を吸われている。

 おまけに彼女は、樹齢にして数百年とも言われる大木だ。
 それに比べれば、アルメリアなど生まれたばかりの赤子のようなもの。

 格が違うのだ。
 存在そのものの次元が。
 対等に言葉を交わせるような立場ではない。

 けれど――。

(それでも、ここで引き下がるわけには……)

 意を決し、アルメリアは口を開く。
 助力を求めるべく、現状の置かれた状況を改めてイチから語り直して。

『ハッ、冗談じゃない。なんだってこのアタシが、そんなメンドウ事に付き合わされなくちゃならないのさ』

 ――しかし返された答えは、あまりに冷ややか。
 懸命なアルメリアの訴えを退しりぞけ、無慈悲に突き放すものでしかなかった。

 覚悟はしていたことだ。
 イズンからすれば、いまアルメリアの身に振りかかっていること、直面している問題なんて些事。対岸の火事でしかない。

 そびえ立つ大樹が、草むらで起きている小競り合いにいちいち関心など払うものか。

 イズンが言いたいのは、つまりそういうこと。

『たかが十数年生きたくらいの魔女の分際で。誰に向かって口聞いてんだ? 身の程を弁えろよ、小娘』

 冷たい視線がアルメリアを射抜く。
 分を思い知らせようとする、突き付けられたのは容赦のない威圧だった。

(仕方がない。賭けにはなるけど……)

 故にアルメリアも、最後のカードを切ることを決断する。

 前回のとき、イズンは言ったのだ。
 かつて自身の支配圏にありながら、みすみす取り逃してしまったマンドラゴラたち。それらをすべて差し出すなら、考えてやらなくもないと。

 でもそれでは本末転倒となってしまう。
 イズンの支配と搾取さくしゅから逃れるため、彼らは必死に逃げ延びてきたのだ。

 だからそれはできないとし、交渉は決裂したが。

「そのお話は、まだ有効でしょうか……?」

 ここで再び、アルメリアはその話題を持ち出す。

『……へえ、ほんの2、3日まえはあれほど頑なに突っぱねてやがったクセに。もう心変わりしたってのかい? 随分と調子のいい……』

「いえ……。提示された条件をそのまま、というのはやはり難しいです。でもその代わりとなるものなら、ご用意できるかと」

『代わりぃ……?』

 そう言ってアルメリアが取り出したのは、一本のポーション瓶だ。
 ただしそこにタプんと満たされている赤い液体の内約は、魔法薬などではない。

 あらかじめ滴らせ、汲み取っておいた――。

「私の血です」

 ここでアルメリアは初めて、イズンからも誤認されていた自身の正体を明かす。

 姿形こそ人間のものだが。
 自分は魔女などではない。
 擬人化したマンドラゴラなのだと、その真相を。

 だからどうしても仲間を助けたいのだと、都合これまで言えずにいた思いも添えて。

 証拠として、この滋養たっぷりだろう血を静かに、イズンの根本へと注ぎかける。

『……ッ!!?』

 手応えはあった。
 イズンがマンドラゴラを欲しているのは、効率的な栄養源としてまたとないからだろうが。

 アルメリアはいわば、マンドラゴラの女王とも言い換えられる存在。
 その血はたったの一滴ですら、万病に効く薬に匹敵する。

 それほどまでに濃厚で、凝縮された魔力を多分に含んでいるのだ。

 仲間たちを差し出すことはできない。
 だから、その代わりに――。

「もしお力を貸していただけるのなら、これと同じものを何本でも……望まれる分だけご用意します。時間はかかるかもしれませんが、必ず……。ですからお願いです、どうか……!」

 自分自身を担保に。犠牲に。
 何卒なにとぞと、必死に願い出るアルメリアだった。

『へえ、まさかマンドラゴラだったとはね。驚いたがその血……たしかにウソじゃないようだ。フン……』

 深々と頭を下げながら、そんな独り言を呟くイズンからの答えを待ったのだが。


『いいだろう。交渉成立だ』


 待ち望んだその言葉に、張り詰めていた緊張が一気に解ける。
 感謝でいっぱいの気持ちとなりながら顔を振り上げた――その瞬間だった。

 突如、横合いから鞭のように振るわれた木の根。
 容赦のない一撃にバシンと、無防備だったアルメリアの体が大きく吹き飛ばされたのは。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう
ファンタジー
運び屋(ポーター)のルカ・ブライオンは、冒険者パーティーを追放された。ーーが、正直痛くも痒くもなかった。何故なら仕方なく同行していただけだから。 ルカの魔法適正は、運び屋(ポーター)に適した収納系魔法のみ。 攻撃系魔法の適正は皆無だけれど、なんなら独りで魔窟(ダンジョン)にだって潜れる、ちょっと底無しで少し底知れない運び屋(ポーター)。 そんなルカの日常と、ときどき魔窟(ダンジョン)と周囲の人達のお話。 ※タグの「恋愛要素あり」は年の差恋愛です。 ※ごくまれに残酷描写を含みます。 ※【小説家になろう】様にも掲載しています。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...