在りし日をこの手に

2升5合

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明日を生き残る為に

立志

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…俺確か、HRIの職員に眠らされて。


 寝起きだからか上手く頭が働かない、状況が読めない中周囲を見渡すと俺が寝ているベットの横に、例の緑髪の職員が座っていた。

「起きたようね、神木蓮君。貴方が寝ている間に色々検査させてもらったわ。私は天竹紫苑あまたけしおん、第1小隊隊長よ。」

「天竹紫苑、さん…」

「寝起きで悪いけれど、貴方には死んで・・・貰うわ。」

 死んでもらう、その一言で一気に目が覚める。そしてここに来る前の少女の死を思い出してしまった。

「ど、どうしてですか!?機密情報を見たのかわかりませんがあの時の事は誰にも言いません!だから命だけは…」

 俺は急いでベットから飛び降り、人生初の土下座を決めた。

「ぷ、だぁーはっはっは!!駄目だコイツ面白いよ玲衣れいちゃん!私っ!喋れそうにないッ!ハッハ!」

 女は急に笑い始め、俺はとうとう何がなんだか分からなくなった。
 困惑しているところ、どこから現れたのか分からない、レイちゃんと呼ばれる青髪の女が話始める。

「申し訳ございません。紫苑しおん隊長は常にふざけてないと気が動転して死んでしまう性格をしていて…もちろん今の隊長の言った死んでもらうも肉体的に死んでもらう事では無いのです。」

「つまり…?」

「あなたは書類上、つまり神木蓮かみきれんという戸籍が無くなったという意味で死んだのです。」

「はー。落ち着いてきた~、よしここから私が説明するね!いい?貴方はここから出れても戸籍が無くて行き先の当てもなくなる。つまり、存在・・しない貴方は何処に行けばいいのか。それ即ち、私たちと同じHRIに所属する、です!」

「拒否権は…あるんですか?」

「あるわけない!」

 元気に否定をされる。もうすでに俺は死んでいた・・のだから。

「はい。もう家に帰る事は諦めました。」

「案外潔いんだね君。好感持てるよー」

 何だこの人、だんだん腹が立ってきたぞ。

「帰るのは諦めましたけれど、どうして俺なんですか?」

「よくぞ聞いてくれた!早速答えたいんだけど、その前に今人類が直面している危機について君に説明がしたい。君も気になるだろう?あの浅草で死んだの死因を」

 紫苑さんの一言でハッとする。確かにそうだ俺が知りたいのは、いや知るべきなのはここに来る原因にもなったあの少女の不可解な死の事なのだ。

「では、まず我々HRIは何の為に存在していると思う?」

 どうしてそんなことを聞くのか甚だ疑問だが、会話を続けた。

「人類復興機関ですから、災害の復興の手伝いの為じゃないんですか?」

「表向きはそう。でも、実際は違う。我々HRI、人類復興機関は古代石炭紀から目覚めた宿敵プラントと人類との生存競争を勝ち抜く為に設立された組織よ」

「石炭紀?生存競争?一体プラントって何なんですか」

 何かのドッキリだろうか、予想だにしていない言葉が出てきて困惑してしまった。

「プラントとは植物のような体を持ち、人知を超えた特異な能力を使う生物の事。君も見たよね?」

「そう言えばあの時の少女、体から蔦が生えていた…」

 もがき苦しんだ末、少女の体から這い出るように伸びてきた深緑の蔦。アレがプラント…

「そう、プラントという生物は人に潜伏している発芽前の種のような物。それが何かの拍子に発芽する事で彼女の様な奇怪な化け物が生まれる。表世界の言葉で言い表すならの事ね」

「何かの原因…確か植物効果病が発症し始めたのは三年前の災害だったような」

「はは、君は勘も鋭いみたいだね。そう、あの災害の原因は判明している。神の子と言われる特異な能力をもつプラントが起こしたの。」

「ノア、ゼウス、ホルス、アグニ、テュポーン。今判明している神の子はこの5体。あと一体はアフリカを壊滅させた以外の情報が掴めていない。」

ここまで説明されるとレイちゃんさんが割って話し始めた。

「私達はこの5体のうちの1体目、ノアを倒す為に動いています。ですが相手は天災を引き起こす力の持ち主、普通の人類では太刀打ち出来ません。」

「太刀打ちできない!?じゃあどうするんですか!もう一度あの災害が起きたら今度こそ人は終わりですよ」

─ゴツッ。紫苑さんが俺をぶった。

「話を聞けい!ここまでは前置きよ、自分の腕を見てみなさい」

 促されるままに患者衣のような服の袖を捲ると、俺の腕にはのような植物が巻き付いていた。

 情けなくヒィと声が漏れてしまう。

「俺も、死ぬんですか?」

「死なない、君は奴らに心を奪われたりされない。それどころか奴らの、プラントの力を使いこなす事ができる」

 実演して見せよう。紫苑さんが腕を振り上げるとそれと同時にあの時化け物を貫いた竹のような物が地面を割って生えてきた。

「私の力は竹を自在に操ること。何も無いところから生やすこともできる、まぁこれだけではないんだけれども。とりあえず、あなたにもこんな事ができるって事よ」

 もう一度自分の腕を見てみた、不思議と手の震えは無くなっている。それどころか何か力が湧いてくる様な気がしてきた。

「俺、戦います。もうあの子の様に苦しむ人をなくしたい…!」

 そういうと紫苑さんはにっこり笑った。

「君の覚悟本当に嬉しいわ。」

 その後、紫苑さんは上に報告しに行かなければならないそうで部屋から出ていってしまった。そうして今部屋にいるのは俺とレイちゃんと呼ばれる人だけになった。

「神木蓮。これから貴方は適性を測るテストを行って貰います。その後に戦う為の訓練を受け、配属と言った形になりますので心の準備をしておいて下さい」

「わ、分かりました!」

 今後の予定を話すと、彼女も部屋を出ようとドアに手をかけた。

「一つ忠告しておきます。誰かの為に戦いたいと思うのは立派ですがあまり幻想は持たない方が良いですよ。その身勝手が許されるのは隊長の様な、本当に力を持つ人間だけです。貴方は弱い、弱い人間がそれを抱くとに遭いますからね」

 レイちゃんさんには歓迎はされていないみたいだ…力は見たことない確かに俺は弱いかもしれない。お荷物になるかもしれない。
 
─でも、

「忠告ありがとうございます。俺に何を出来るかはまだ分からない。だから分かる前の、今だけは、誰かの為に戦う我儘を夢見させて下さい!」

「…。勝手にすれば良い。現実を見せられて苦しむのは貴方だから」

 レイちゃんさんは静かに部屋から出て行ってしまった。さ

「名前、聞き忘れたな」

 まぁ今生の別れでもないし話せる機会は来るだろう。それより今後の事だ。


 俺は今日HRIという組織の裏の部分を知り、プラントと呼ばれる謎の生物と戦う道を選んだ。

 俺にある特別な力がどんなモノになのか、俺は苦しむ人を救えるのか。まだ分からない事が多い。だから一生懸命頑張ろう、それが真実を知った人の責任だと思うから。

──
「入隊締切は終了した筈だ。説明会も終わってる。いくらお前の我儘だろうと個の為に集団を遅らせる訳には行かないのだ、天竹。」

「そこを頼むよ~世間的には珍しいだろ、先祖帰りは。今期だって志願者2000人に対して1人だろ?必ず何処かで使えるからさ、ね?」

紫苑しおんは話している男の腕に抱きついて駄々をこねた。

「ば、馬鹿やめろ!!…入隊の期間を過ぎた試験は俺じゃないだろ。ボスに許可を貰ってからにしろ」

(こいつチョロいなー)

「ま、ボスにはもう許可貰ってるからね。あとは試験頼んだよーチョロ人事の癒瘡木ゆそうぼくくーん」

「な、おま!誰がチョロいだと?!というか許可を貰ってるなら先に言え!」

じゃあねー、と早々に立ち去る紫苑。

(最近、親しい絡みが増えてきたな…これは!ワンチャンあるのでは無いだろうか。)

 軽蔑などつゆ知らず癒瘡木硬樹ゆそうぼくこうき31歳、中間管理職で恋愛経験のないお堅い頭の彼の勘違いは留まるところを知らない。











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