在りし日をこの手に

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日本防衛編

神の如き力の持ち主とバトルマスター

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「戦いの用意は出来ている!この戦いは愚かにもHRI最高戦力である"隊長"に挑まんとするモノの勇気と言えよう!」

 会場全体がうるさくとも響くアナウンスがさらに会場を煽る。湧き立つ群衆、何故ならばこの試合こそ、HRIランキングという舞台で最高のモノになるという確信があるからだ。

 戦いの始まりは武術部門の優勝者『八重筒六郎太』が望んだことによる。

【第二小隊隊長、癒瘡木硬樹と試合がしたい。】

 優勝者の望み、叶えずして面子が保たれようか。そうして今、癒瘡木と八重筒の戦いが始まろうとしていた。

「少し雑談をしよう。六郎太。」

「どうしました癒瘡木隊長。」

 突飛な提案に八重筒は出来るだけの警戒をする。もうここは間合いだから。

「人が武器を持つのは何故だと思う。」

 八重筒は目の前の男が言うことに困惑した。何故今それを?当然の疑念だ。この八重筒と言う男は短いながらも一生を武器と共に歩んできた。そんな男に何故を問うのか。

「肉体の拡張ですかね。ヒトは何かを極めるためには足りなさすぎる気がします。」

「ハハっ!お前らしい答えだ。」

「癒瘡木隊長はどういうお考えで?」

 聞かざるを得ないだろう。

「ヒトは弱い、それを補う為の道具であり、武術なのだ。例えばトラ。あの爪、牙、膂力。全てがヒトに勝る。だが、ヒトは勝てる。何故か?道具を持つからだ。」

「強きものに立ち向かう為の装備が武器なのだ。」

 言わんとしていることはわかる。当然のことだから。

「で、だ。もしヒトの強き者。岩を砕き、海を割り、空を掴むモノが武器を持つとどうなる。」

「そんなのいませんよ…」

「例えだ、例え。それほど強き者が武器を持つとどうなると考える。」

 質問の意図が伝わらない。が、八重筒は必死に答えるべく自らの知能を下げて考えた。

「??さらに強くなる、じゃないんですか。武器を得たら手がつけられない。」

 癒瘡木は八重筒の回答に笑むと自ら持ってきた片手剣という武器を構えた。

「(来るッ?!)」

 八重筒が防御か迷う刹那、それは空を切った。八重筒の緊張は徒労となる。
 最強の男の渾身の一撃は何も起きなかったのだ。

「第一、そんな力を持つモノならば耐えられる武器などあるまい。」

「そんな答え…」

 馬鹿馬鹿しい。

「六郎太。お前は武術に縛られている・・・・・・。」

 予想外の言葉だった。武と共に歩んできた18年が否定されたような言葉。ズキンと八重筒の心に刺さる。

「貴方の言う強き者は、貴方しかいない。」

「そうかもな。お前がそう思う限り。」

「…もう始めましょう。結果が、決着が全てでしょう?」


八重筒は得意の刀で挑む。鞘を傾けた時点で癒瘡木は重心を落とした。それは八重筒の居合を警戒しての体の反射だった。
怯えているのではない。癒瘡木はいつもこうしてきたのだ。長きに渡り、プラントと正面からぶつかる日々。始めたは生傷は絶えなかった、そんな時に身につけたのが[警戒]という力である。予備動作を含めた身体の緊張と弛緩、癒瘡木の動体視力の許す限り相手の動きの全てを無力化及び反撃を可能とさせる。

「(来るな)」

 八重筒が動く0.5秒前、癒瘡木は悟っていた。極めた動体視力が可能とする未来予知に近い行動である。

 瞬間、八重筒は飛んだ。鞘を置き去りにして。抜刀はすでに終えている。あとは撫でるように刀を上にあげるだけだ。

 入った。八重筒は確かな感覚を得たが、同時に大きな痛みと後退した。

「クロスカウンター!!」

 観客が湧き立つ。余程の達人でない限り全てを見ることはできない攻防だったが、一部を見ていた大半の観客は『飛びと共に消えた八重筒が、癒瘡木隊長のパンチの先端にいた』という景色を目の当たりにした。

─ドゴォオン!!

 凄まじい音と粉塵が八重筒の飛んだ先にあった。

「ガハッ!この、馬鹿力…」

「ハハッ!アレの受け身を取ったか!技量は確かにあるようだな!」

 見極めは終わった。ポツリと癒瘡木が呟く。

「どうして、あのタイミングに合わせれるんですか…」

 刀を杖代わりにし、八重筒は立ち上がる。

「動体視力の成す技よ!」

「技じゃない!!」

「いいか八重筒。これは自論だがな、動体視力というのはあらゆる力に勝るのだ。全てを見れるのは、全てに対応できると同義!!」

「動体視力があっても体は動かないでしょう…」

「分からんか、動体視力はな。身体能力に比例するのだ。そもそも身体が動く範囲でなければ見ることは出来ぬだろう。」

「・・・・」

 八重筒は矛盾と疑念を感じたが、癒瘡木硬樹が道理の外にいることを思い出し無理やり解決させた。

 次の一手、一撃に振り切った居合ではダメだ。連撃、絶え間ない連撃だ。相手の拳が通らない織物のような攻撃ならどうだ。

 八重筒は上段に構えて一歩ずつ寄る。

 一歩、二歩、三、四…癒瘡木の巨体がさらに迫力を帯びる。気づけばもう

間合いだ。

 脱力し、上段から自然と刀が落ちる。落下に合わせて適切な力を込めるだけでヒュンッという風切音が心地良く鳴る。
 2連撃の2回目は落ちた刃を翻し持ち上げる燕返し。今回の攻撃の目的は相手に反撃をさせないことにある。八重筒は落下した速度を無駄にしないために曲線を用いることで断続的な攻撃を可能とした。

 癒瘡木は止まぬ斬撃の衝撃に一歩も進むことができなかった。進むことは、最も重要な関節を稼働することであり、いかに硬い癒瘡木であろうと攻撃されたらダメージは確実にあるのだ。

「(このまま動かなけりゃダメージはゼロ。八重筒が息切れタイミングを逃さないで殴れば俺の勝ちだ。ただ、それじゃあつまんねぇだろ・・・・・・・)」

 そんな試合誰も望んでいない。ヒトが見たいのは癒瘡木の完全な勝利である。HRIで最前線で戦ってきた男がゴリ押す勝利。圧倒的勝利をヒトは望んでいるのだ。

 一方八重筒にはまだ余力があった。刀を押さえて持ち上げる力があるならこの連撃が可能だからだ。しかし、いずれ尽きる。その前にこの状況を変えたい。
 ジリジリと癒瘡木との間合いを詰める。剣戟はさらに速く、速くなる。

「(今ッ!)」

 八重筒が最大の一撃の用意をした。その刹那─、その力みを癒瘡木は見逃さなかったのだ。

 圧倒的な癒瘡木は、八重筒の斬撃を固めた拳で殴り止め振り切った。

「俺に能力を使わせたな。六郎太。」

 勝者は悔しがった。敗者は何も答えず、壁に埋まっていた。

──

「アレが、一般兵卒ね。そりゃあHRIの構造を変えるわけだ。」

「ふふ、青方稲樹とうじ殿。癒瘡木の戦いを見るのは初めてでしたか?」

「そうだな白方の琴音。にわかには信じられぬよ、我々のような名家ではなくただの一般人が隊長にまでなるのだからな。」

「あの者は技術なぞ要らない。圧倒的な身体能力フィジカルで、数多の戦場を生き残った経験がある。」

 琴音は広げた扇子をパスっと閉じた。

「元々はHRIという組織は私達五色家、その他の戦闘のエリートである名家の戦闘のサポートに兵士を供給するためのものでした。」

「それがあの男、癒瘡木硬樹の出鱈目な戦果で一般人でも戦えると、血筋の者がいない第二小隊が結成されるまでに至った。九割五分の世襲制運営も、アイツが入ってくることで大きくバランスが見直されたな。」

「年々、プラントも増加していますから当然の成り行きでしたがね。」

「にしても、若いとはいえ黒方五色が圧倒されるとは。流石と言えよう」

「みっともない。」

 琴音の言葉に稲樹は耳を疑った。

「そう言ってやるな。六郎太殿の武技も中々ではあったろう。」

「いえ、頑張りや戦いの内容で結果から目を逸らしてはなりません。恵まれた出立、才能があって彼は負けたのです。他の者に示しが付きません。」

「黒方と対峙してるからと言ってあまりキツく当たりすぎないようにな。」

「…色は関係ありません。」

 含みのある琴音の言葉に遂に稲樹も真意を悟った。

「ははっ、そうか。お前達はそうだったな・・・・・・。」

──
「ってて…」

 次に八重筒が目覚めたのは医務室だった。微睡みの感覚は次第に覚醒して、アルコールなどの薬品のキツイ匂いの中に甘い匂いがするのを感じた。

「起きられましたか。」

 白い髪のロングヘアーの女がいた。

「琴音さん。まったく、恥ずかしい所をお見せして申し訳ありません。」

「…お怪我のほどは?」

「え?ああ…このぐらい大丈夫ですよ。すぐ治ります。」

「そうですか…」

 その返事を聞くと琴音の体は素早く八重筒との距離を詰めた。
 パサリ、琴音の軽い体がベットに座る八重筒の膝に乗っかった。

「私、心配したんですよ。貴方、なにも相談せず隊長クラスと戦うのですから。」

「ごめんね琴音・・どうしても今の力を知りたくてさ。」

「だとしても無茶ですよ!彼は貴方の人生分戦場に生きてきた人なんですから!」

 琴音の白い頬が赤くぷっくりと膨れる。八重筒はそんな説教に気まずそうな顔で笑んだ。

「心配させてごめん。でもこれでもっと強くなれるヒントを得た気がするんだ。」

「もしかして、私たちの婚約・・のためにせいておられるのですか?」

「ははっ、まぁそんな感じかな?」

「まぁ!でしたら私も手伝いますので他の者に認められるべく頑張りましょう!」

 白方との幼馴染歴、年齢の数分。いつのまにか琴音との婚約の話まで出てきてしまった八重筒だった。
 もちろん、忘れてはいなかったが今回あんなになるまで戦ったのは、親友達のためとは口が裂けても言えない。

この女琴音は重すぎるのだ。
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