【R18】禁書庫の未亡人と竜血の宰相〜秘密の夜に、怪物は人となる〜

真守 輪

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第二章 燃える想い

14.竜王の

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 ――竜王の宰相閣下。
 その名をルネが知ったのは、翌日、上司に呼びつけられたときだった。
 竜王とは竜が建国したという伝説によるものだが、現在では国王その人でさえほとんどそう呼ばれない。
 だが、今の宰相だけは『竜王の』と呼ばれる。
(……ああ、なるほど)
 あの圧倒的な存在感。
 本人を見れば、その呼称の意味が分かる。

 呼び出しの時点で嫌な予感はしていたが、内容は予想と少し違った。
「昨日の件だがな……竜王の宰相閣下から、直々にお褒めの言葉があった」
 お褒め。
 という単語が、この図書館で使われること自体が珍しい。
(怒られると思って来たのに……人生、分からないものね)
 宰相閣下からのお言葉。
 普通なら、一生の誉れだろう。だがルネの背筋には、冷たい氷の粒が滑り落ちたような戦慄が走った。

 あの日以来、ゼファール・アルフォンス・ド・ドラゴニア――その恐るべき名は、禁書庫の静寂を頻繁に乱すようになった。
 竜を意味する『ドラゴニア』の響きが、妙に頭に残る。
「前からよ。あの方は閣僚専用の特別室の常連だもの。……まあ、こんな埃っぽい場所にまで足を運ぶのは、最近になってからだけど」
 リゼットが、何かに気づいているような含み笑いを見せる。
(……わざわざ、禁書庫まで?)
 彼が姿を見せるたび、禁書庫の空気は密度を増し、ルネの肌をぴりぴりと刺激した。


 ◇◇◇


 司書とはいえ、女である。
(世間から、年増と言われたとしても)
 だから、ルネが夜遅くまで仕事をしていることはあってはならない――はずなのだが、修復作業に没頭すると話は別だ。
 気がつけば外は暗く、蝋燭も半分まで減っている。溶けた蝋が涙のように垂れていた。
 普段なら、自宅から馬車の迎えがくるはずだった。
 だが、その日は運が悪かった。
 伯爵夫人――つまり義母が、夜会に出かけるため、家に一台しかない馬車はすでに不在。
 残された選択肢は、辻馬車しかない。

 いつもならリゼットの馬車に同乗させてもらうのだが、今日は夫と観劇の約束があると言って、早くに退館していた。
 未婚の貴族令嬢が、単独で辻馬車に乗るなど、非常識この上ない。
 それは、噂という名の処刑台に、自分からよじ登るような行為だ。
(仕方ないわ)

 貴族令嬢らしからぬ地味な修道服姿だし、なんとかなるだろう――多分。
 そう自分に言い聞かせ、ルネはフードを深くかぶった。
 今夜は、無事に家へ帰れれば、それで十分。
 その時点では、まだ、そう思っていた。
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