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4 . 竜の島の冒険

4-9 竜の島の冒険

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「鑑定お願いします」
「これは、値が付く物は全て買い取らせていただいてもよいですかな?」
「はい、全部換金をお願いします」
ソゴゥはニコニコしながら、鑑定士の手元を見ている。
テレビで鑑定士がしていたように、ルーペなどで表面を拡大したりしている。
ルーペで見て種類が分かったものと、分からなかったものに分け、分からなかったものを専門の成分分析装置や光の屈折、偏光計測器などと同様の機能を持つ魔法具を取り出して、次々と鉱物を確認していく。
詳しい成分分析をするなら一つの鉱石につき三十分くらいかかるようだが、鉱石の種類さえわかれば、あとは石の状態と大きさで金額が決まるので、今は鉱石の種類が判明しさえすればいいようだ。
鑑定士の男の独り言ともつかない言葉に、ソゴゥは感心しながら、その手際のよい作業を眺めている。
やがて男は大きく息を吐いて両腕を伸ばし、背中の翼をフルフルと動かしてから、ソゴゥに向き直った。

「実にいいものを見せてもらった、これだけの種類、これだけの品物は滅多にみることはないでしょうな。まるで、邪神の宝物庫から盗んできたような品々だ」
「盗んでいませんよ」
本人に渡されたんですよと、ソゴゥは内心思う。
「ああ、すまない。配慮に欠けた表現でしたな。とにかく、それぐらい凄いものだと言いたかったのですよ。まず、既に閉山され、出回る事のほとんどない鉱石がこれらです」と、男はいくつかの結晶を端に寄せる。
「次に、これは古代王朝で石に特殊な技法を用いて変色加工が施されたルースで、既にその技術は失われており、本来この石には、この配色は存在しない」
男は言って、グラデーションカラーの水晶を端に寄せる。
「こちらは、宇宙でもその総数が限られていると言われる、高価な鉱石」
メタリックな鉱石を端に寄せる。そうやって男は、数十の石をいくつかにカテゴライズしたのち、ため息をついて項垂れた。
「この換金所はそれなりに金銭の用意があり、如何なる買取りにも対応できようにしていのですが、悔しいことに、これだけの物は想定外でした。悪いが、全て買い取れるだけの金銭がこの場で用意できないのです。半分も買取りは出来ませんな」
ソゴゥは、浮島群で過ごすための生活費として石を持たされ、出来ればルキや司書達にお土産を買って帰れたらいいなと思っていた。数は多いが、あまり大きくない石がそんなに高額になるとは思ってもみなかった。

「ちなみに、全部でいくらくらいになるんですか?」
「全部で九十億ラードーンほど」
「え? んん? え?」
ソゴゥは浮島群の貨幣価値を先ほどの冒険者施設で確認していたので、九十億ラードーンはイグドラム国通貨の倍に当たる、百八十億ドラムに値する。また、浮島のレストランの昼食の相場が三百ラードーンから千ラードーンくらいと聞いていたので、想定外の超高額となったのだ。
「ちなみに、どれが一番高いんですか?」
「この、宇宙のやつですな」
「そうなんだ。それで、今用意できる金額はいくらなんですか?」
「暫しお待ちください」
男は奥へと引っ込んで、やがて眼鏡をかけた神経質そうな竜人を伴って戻って来た。
「今日のとことは、十億が限界ですね」
眼鏡をした竜人の男が、眼鏡をくいっと上げるのを見て、竜人族も目が悪くなることがあるんだなと、違う事を考えていた。
「ところで十億って、どれくらいの量になります? 俺たちで持ち運べます?」
「それは問題ないですよ、これが十億です」
眼鏡竜人が、ソゴゥ達の前のテーブルに水色の細長い水晶のバーを十本置いた。
「これは、決済用の魔道具の上に置くと、中の成分が魔道具の方の水晶に移り、決済が完了する仕組みで、一本当たり一億ラードーンの支払いが出来ます」
プリペイドカードみたいだな、ただし一億、イグドラム通貨換算で二億のカードなんて見たことないけど。
ソゴゥは無造作に、その水晶を手に取り「これでいいよ」と鑑定士の男に言った。
「どういう事ですか?」
「この十億で、そこの石全てをお譲りする」
「いやそんな、それでは、あまりに貴方に不利益を与えてしまう」
ソゴゥは鑑定士の男をまじまじと見て、竜人族は本当に人がいいと感心した。
ここへ来て、あからさまに冒険初心者丸出しの自分たちを騙そうとしたり、荷物をられそうになったり、盗まれたりなど一度もなかった。それどころか、お金がないと言っても嫌な顔一つせず、竜を停める場所を貸してくれたり、世話までしてくれるというので、何か渡せるものがないかとロブスタスが変装用のドレスを渡したりしたのだ。

「では、こういうのはどうでしょう。もしこの後、首に首枷を嵌めている人間が換金に来たら、その人たちの首枷を外す資金の手助けとなるように、残り八十億分のお金を当てていただけませんか?」
鑑定士の男と、その隣の眼鏡竜人が息を飲んだ。
「そっ、それで本当にいいのですかな?」
「ええ、私達にはこれだけでも十分すぎる」
物凄く量を減らして、厳選に厳選を重ねて持って来たというのに、これを役立てずそのまま持って帰って来たと知ったら、ルキがきっとガッカリするだろう。
それと、司書達の選定はすごかった。本当に、高額買取となったのだから。
それにしても、旅先で十億など、全く使い切れる気がしない。
超激レアな名画並みの高値が付いてしまった。
ソゴゥがぼんやり考えていると、鑑定士の男がソゴゥの手をとって握って来た。
「貴方は、聖人様だ。私はこんな人を見たことがない」
もう一人の眼鏡竜人まで、ソゴゥの手を握手するように握って来る。
「お約束を違わぬよう、残りの料金はきっちり残酷なランカの首枷を外す手助けに使わせていただきます」
竜人族の手の平は、エルフとはやはり違うんだなと、ソゴゥはまたしても違う事を考えていた。
実はこの浮島に来てから、ソゴゥはワクワクが止まらず、かなりのハイテンションとなっていたため、意識が散漫になりがちだったのだ。
ソゴゥは水晶を一本ずつ格納する専用の袋を付けてもらい、それらをリュックにしまった。
「ツレを待つので、建物付近に暫く滞在しているけど気にしないでくださいね」とソゴゥは言いおいて、二人にお礼を言い、出入口の方に向かった。
先ほどの交渉途中、ヨルにも意思を飛ばして石を全部置いて行っていいと思うか確認したところ「荷物が軽くなる方が良いではないか」と、少しずれた答えが返って来ていたのだった。
ヨルの言うように、重くはないが、かさばっていたので、リュックがだいぶすっきりしたのは確かだ。
イセトゥアンとロブスタスがその辺りに戻ってきていないかと、換金所を出て道を確認していると、先ほどの首枷を外した男が、数人の男女を連れてきて、ソゴゥの前に次々と跪いて、地面に額を擦りつけんばかりにひれ伏した。

「わっ、何? どうしたの?」
「どうか、どうかこの者たちの首枷も外してはいただけないでしょうか」
「分かったから、直ぐ外すから、立ってください」
言いながらソゴゥは、痛々しく首に嵌められた男女の首枷を瞬間移動で手元に集めた。
「外れましたよ」と、ソゴゥが平伏す人たちに声を掛ける。
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