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4 . 竜の島の冒険

4-8 竜の島の冒険

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「あんたエルフか? それにこっちは魔族だな、すごく珍しい組み合わせだ。俺は、エルフを見るのは初めてだ。でもあれ、こっちのエルフはあんたに似ているな」
男がソゴゥに言う。
「兄弟なので」
「人間とエルフが? ああ、そっか、複雑な家庭の事情があるんだな、済まない」
「気にしなくていいですよ」
そんな事情ないし、と思いつつソゴゥは言う。
「それで、換金所ってありますか? オークションとかでもいいんですけど」
「そうだな、ここは、都市が五つの大学ごとのエリアに分かれているから、布や反物なら服飾大学の街、宝石や鉱物なんかは、鉱産大学の街、あとそうだな、食料なんかは、食品生産加工大学街辺りに持って行くといい、そこでまた、誰かを捕まえて聞いてみるんだな」
「この五つの都市のそれぞれの中心にある巨大な建物は、大学だったんですね」
「ああ、生産系学園都市、クラフトシティだ。中央のオベリスクは、竜神王様が都市に滞在される際の城だ」
「へえ、じゃあこの浮島は、クラフトシティっていう名前なんですか?」
「いや、この浮島は、五大学島だ」
「なるほど、なるほど」とソゴゥは恐ろしい速記術で、白地図に上空から見た鳥瞰図を描き、今の情報を書き入れる。
「ありがとう、良かったらこれ食べください」とソゴゥは神殿から拝借してきた果物を、男の手のひらに乗せる。
「えっ、これ貴重な果物だぞ、いいのか?」
「ご親切に教えてくださったお礼です」とソゴゥは言い、冒険者施設を後にする。

「とりあえず、鉱産大学の街へ行こうと思う。太陽の石の情報も知りたいし」
「ああ、いいんじゃないか」
「そうだな、それがいい」
イセトゥアンとロブスタスの同意を得て、ソゴゥ達は冒険者施設で手に入れた地図を確認して、鉱産大学の街へと再び飛行竜に乗って向かった。
鉱産大学には、浮島群中から、鉱物に関わる職を目指す者が集まり、専門知識を学ぶ場となっており、また街には鉱石を多種多様に扱った専門店が軒を連ねている。
街の入り口付近まで飛んで行くと、他の飛行竜や航空船が停まっている場所で竜を降り、竜舎に預ける際に、こちらは料金が必要のようだったが、ロブスタスが持て余していたリンドレイアナ姫に変装していた時の衣装を渡すことで、係りの竜人が飛行竜を預かってくれた。
鉱産大学の建物は、巨大なタンクを持つ生産施設のような外観だが、尖塔をいくつも持っているため、モスクのような趣もある。
その中心の大学から、円形に街並みが広がっている。街道が放射線状にいくつもはしっており、中東やアジアのバザールのような風情で、街道の左右にぎっしりと店が並んでいる。
加工されていない結晶のままの鉱石が無造作に積み重ねられていたり、宝石のようにカットされていたり、店によってさまざまだ。
また、アクセサリーや宝飾品を売る店もある。
ソゴゥは太陽の石が売られていないか探したが、今のところ見つかってはいない。
エメラルド鉱石に似た緑色の石が、練り宝石のように粉末にされて、ペースト状になったものを袋に小分けにして並べてある店を見た。
ソゴゥは思わず店員に「これは何ですか?」と尋ねた。
瞳のキラキラした竜人女性が、愛想よく飛行竜の餌だと教えてくれる。
白一色だった神殿の竜人とは違い、オレンジの髪に皮膚の鱗は緑に近い。
「これを与えると、どんなに懐かない竜も途端に言う事をきいてくれるようになるんですよ。竜の大好物なんです。おやつとしてあげると、信頼関係が強まりますよ。あげるときは、袋からちょっとずつ舐めさせるように与えるんです」
「へえ、そうなんですね」
ソゴゥは、猫とたのしいおやつの「ちゅ~〇」みたいだなと思った。
「欲しいのは山々なんですが、まだこちらの貨幣を手に入れてないので、商品を換金出来る場所を探しているんですけど、何処かにありますか?」
「どんな商品をお持ちなんですか?」
「鉱石の結晶類ですね」
「でしたら、そこに鉱石や貴金属専門の換金所がありますよ」
竜人女性が、特徴的な屋根の建物を指して場所を教えてくれる。
「ありがとうございます」
「いえいえ、良い旅を!」

ソゴゥ達は、教えてもらった換金所に向かった。
換金所は他の店と違い、門扉のある堅牢な建物で、警備の竜人が建物の内と外に佇立し、ホールの途中には格子状の柵が設けられている。
その格子の奥で数人の鑑定士による鑑定が行われ、順番待ちの列が出来ていた。
「かなり待ちそうだな、俺は外の店を回って太陽の石について、どれほど流通しているのか聞き込みに行ってくるよ、待ち合わせ場所はここにしよう。換金が終わっても、ここに残っていてくれ」
イセトゥアンがソゴゥに言う。
「私も付き合おう」
ロブスタスが言い、イセトゥアンと換金所を出て行き、ソゴゥとヨルは列に並んだ。
先程の、冒険者施設にいた人間と同郷と思われる者達がほとんどで、中には見ているだけで息苦しくなるような首枷クビカセを付けた者もいる。ファッションだとしたら、かなり攻めた格好だ。
ソゴゥは首枷の男が、換金して手に入れた額が少なかったのか悄然としているのを見かねて、声を掛ける。
「ねえ、その首枷、もしよかったら外そうか?」
「いや、これは無理矢理外そうとすると爆発するんだ」
「でも、外れたよ?」
男の首枷を手にして、ソゴゥが言う。
男は自分の首をまさぐりながら、金属の感覚が消えていることを信じられない様子で、何度も確かめる。
「えっ、えっ? 嘘だろ、この首輪を外すのに百万ラードーン掛かるって言われて、食いつめながら稼いでいたんだ、本当に無くなっている!」
「よかったら、これも食べなよ」
ソゴゥはリュックから果物を差し出す。
男が滂沱ボウダと涙を流し、手を合わせて拝む。ソゴゥは慌てて、男の手に果物を握らせる。
「この首枷は貰っていい? 誤爆しても怖いから、無人島とかで処分しておくよ」
「何から何まで、ありがとうございます」
「いいよ、袖振り合うも多生の縁と言うし」
男が、何度も振り返りお辞儀をして換金所から出て行くのを見送り、ソゴゥは先頭の方の進みぐあいに目を向けた。
やがて、自分たちの番になり、柵の中に入ると施錠され、鑑定士の前の台に置かれた緩衝布の張られた浅い箱の中に、リュックの中にしまっていた鉱石の結晶を取り出す。
箱の中には、こぶし大の色とりどりで珍奇な形状をした鉱物が数十個、無造作に転がされる。
これは、ルキの宝物庫から、ルキが珍しいと思うやつを山のようにイグドラシルに持ち込んだものを、司書達が文献などを調べて稀少価値のあるものを選りすぐって持たせてくれたものだ。
ソゴゥは、鑑定士の竜人族の男の喉元が動くのを見逃さなかった。
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