異世界転生者の図書館暮らし2 おもてなし七選

パナマ

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4 夜の消失 

4-2.夜の消失

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エルフの国、イグドラム国のセイヴ港の美しさが奇跡のように思える。
三日月型の湾に、透き通った遠浅のエメラルドグリーンとパライバトルマリンの織り成す美しい色彩。この世界は人による汚染とは無縁の、理想の世界なのだとソゴゥはそう思っていた。
ここは、海が死んでいる。
まるで大洪水のあった川の汽水域キスイイキのように、濁った茶色の海が広がり腐臭を放っている。
船を何重もの防護壁で覆わないと、息をすることもままならない。

「ここまでとは」
案内役として同行したセアノサスは、ソゴゥに付き従う二人の護衛、王宮騎士のブロン・サジタリアスとヴィント・トーラスに、船からあまり身を乗り出さないように注意する。
出国の際に、以前ソゴゥの護衛として貸し出された王宮騎士の二人を、ゼフィランサス王がソゴゥの護衛に付けてくれたのだ。
「この毒の海は、空壁で海洋に流出しないようにせき止められているのです。落ちたら命とりです」
「浄化は?」
「近隣諸国が少しずつ行っている様です。これが大洋に広がれば、人間と海洋人の国との戦争になりかねないと危惧キグされているため、人間側の諸国がこの五十年、海の除染ジョセン尽力ジンリョクしている様です」
「どうやって、除染しているのでしょうか」
ヴィントの問いに、セアノサスは通過した空壁を指す。
「三段階の空壁を設置して、外洋の綺麗な海と、汚染された海を混ぜ時間経過による自然の自浄作用に任せている様です」
「それしか手段がないのか」
「ブロン、あまり大きな声では」
ヴィントは周囲の人間を気にして、ブロンをタシナめる。
ソゴゥ達は今、極東の亡国へと船で向かっていた。
そして、セアノサスの話は、以前人間がセアノサスにした説明だ。
汚染の本当の理由は、大陸四か国による海底鉱脈の強引なボーリングにより吹き上がった、有毒ガスと鉱油のせいである。
客室付き巨大飛行竜船で、数日をかけて大陸の最東の国へ行き、そこで母と父、それにカルミアさんとジャカランダさんと落ち合った。
彼らの滞在していたホテルで、それまでの経緯などを聞き、また数日後にこの最東の人間の国から、極東の島である亡国へ向かう除染調査船への同乗を取り付けてもらっていたのだった。
ソゴゥの左手の人差し指には、カルミアから託された高価な魔石のめ込まれた指輪がある。カルミアさんの代わりに、娘さんの手がかりとなるものを探してきて欲しいと頼まれたのだ。
ソゴゥ達以外は、乗組員は全て人間である。
船上から陸地が確認できるようになり、目的の極東の島へと近づく。
接岸しても、下船できるのはソゴゥ一人。
ここまで案内してくれたセアノサスや、護衛を務めてくれたブロンとヴィントは、船と共に引き返して、最東の国でソゴゥからの連絡があるまで、母や父たちと共に待機することになっている。
かつては高い山と豊富な水資源があり、緑に覆われていたという島。
セアノサスは五年を過ごした土地を感慨深げに眺め、ブロンとヴィントはその横で言葉を失っている。
天災とは違う文明が破壊しつくされた、暴力の痕がそこにあった。

「ソゴゥ様、いま小さな図書館にいる二名の司書達にはソゴゥ様の来訪をお伝えしております。小さな図書館へお寄りください。それから、何かありましたらすぐに私を呼びつけてください」
セアノサスが極東の地図の名前をソゴゥに伝える。
地図自体はイグドラシルに保管されているが、司書ならガイドで検索して閲覧ができる。
「これ、やはり我々が付いて行ったらマズいですよね」
「このような場所に、ソゴゥ様おひとりにするのは、気が引けます。透明化の魔法を覚えておくんでした・・・・・・」
心配げに見送る王宮騎士の二人。
「あ、そうだ、よろしかったらこれを」
ヴィントがいつも持ち歩いているという塩と、梅干しの様なドライフルーツを渡してきた。
「なら、私も」
ブロンが高級スパイスのリシチの瓶を渡してくる。結構料理を選ぶ香辛料だから、使いどころがあるか分からないが、ありがたく受け取っておく。
何も渡すものが無かったせいか、セアノサスが青い顔をして見てくる。
ソゴゥは視線で、大丈夫だからと気を使わないようにと伝える。
停泊した除染調査船のタラップを、ただ一人降りる。
まずは、セアノサスの言う通り、小さな図書館へ向かう。船の停泊場所と定められた位置から、それほど離れていないところにあるらしい。

荒涼とした大地に足を踏み出す。
ここにはせた灌木カンボクか、ワラくずのように点々とした緑しかない。
小動物や鳥どころか、虫さえ見かけず、別の惑星に来たようだった。

飛行場はなく、この土地の上空を飛行することすら、各国の取り決めで禁止されている。唯一の港として開かれたのが、先ほど除染調査船が停泊した場所で、島へ上陸できるのはイグドラシルの司書だけである。

既に西に傾いているが、まだ勢いのある太陽を避けるように、僻地ヘキチ訪問用の外套ガイトウのフードを目深に被り、赤い土を踏みしめて歩み続け、小さな図書館の建物を発見した。
青い葉を付けたイグドラシルの若木が、まっすぐ天へ伸びている。
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