異世界転生者の図書館暮らし2 おもてなし七選

パナマ

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6 巨悪

6-2. 巨悪

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悪魔が滝つぼを覗き込んで、こちらか降りるのが手っ取り早いと言う。

ソゴゥは不敵に笑い「俺、もう魔法使えるし、落とされても悲鳴一つ上げないからね」と余裕を見せる。
「まさか、いくら魔法ロックが解除されたからと言って、お客様をここから突き落としたりいたしませんよ、ちゃんと私がお連れ致します」
悪魔が翼を広げ、金色の目を光らせる。
「いや、大丈夫」と言い掛けるソゴゥの腰に腕を回し、滝の中に飛び込み、弾丸の様な勢いで急降下する。
悲鳴一つ上げないと言っていたソゴゥの悲鳴が、滝音にも負けないほどに響き渡った。
頭から垂直落下を超高速で経験したソゴゥは、地下空間に辿り着いた時には、言葉一つ発せずにびしょびしょになって床に四肢をついて項垂れていた。
どうやってついてきたのか、魔獣がソゴゥの腕や足の間を行ったり来たりしている。
「おい、お前はもっと人というものを勉強した方がいい。扱いが雑過ぎだ」
ソゴゥは濡れた頭を振り、鼓動が落ち着くのを待った。
「あの、よろしかったらこれを使ってください」
両腕を掴んで、助け起こされて、ハンカチが手渡される。
ソゴゥは呆けたように、正面の人物を見る。

サワやかで人のよさそうな青年が、心配げにこちらを見ていた。
その後ろには性別は不明だが、人目をひく美貌ビボウの主がいる。
「ああ、すみません、直ぐに乾くので大丈夫です」
ソゴゥはハンカチを返し、魔法で髪や服を乾かす。
ここは、あの建物を縦割りにする大滝の滝つぼの更に下の階だ。
目の前には、上の階から水路を巡ってきた水が静かに落ちる滝がある。
滝の周辺にだけ明かりがあり、奥は暗くて、この地下空間の果てがどこまで続いているのか分からない。
冷えた闇に何か得体の知れないものがヒソんでいたらと、ソゴゥは思わず首をスクめる。
静かな滝の前に、二人の亡者の他に、オーグル、ジキタリス、オレグ、サハルそれとオーナーが、滝の方を向いて椅子に座っている。

「ここで濾過ロカされ浄化された水が、亡国の民の唯一の水源なのです。この屋敷の中で、唯一現実の物です」
悪魔が言い、亡者達の中央にある椅子をソゴゥにすすめる。
ユウと紹介された亡者が、滝の前に進み出る。
あの、美貌の亡者だ。

「ボクが得意な水劇を見てもらうね。この国の伝統文化と、現代技術を合わせたものなんだ、こういった滝で出来た水膜と、共振石があれば広範囲に同時刻で、同じ情報を伝えることが出来るんだ。ボクのこの声も、姿も、この国中の皆に見てもらえる。ボクの歌を、ボクの踊りを、皆がめてくれて、愛してくれたんだ。キミにも気に入ってもらえるといいな」
ユウが滝へそのまま向かって歩く。
滝へと触れ、そのまま分け進むように滝の裏へと消えるのと同時に、水面が変化して立体的な人の形になる、中性的だったユウの姿が女性的に変化して、水の中を自在に動き、飛んでいるように円を描き正面を向く。

美しい少女が歌う、平和の歌。
何気ない日常の大切さ、恋の歌、ソコなわれてから気付くのではなく、今ある平和を守っていこうという強いメッセージ。
争いのムナしさ、残酷ザンコクさ、平和への願い。少女の透き通った声は、とても上辺だけではない、そう思わせる強い感情の揺らぎを感じさせる声だ。
歌が終わると、少女は裕福な家庭へ戻り、わがまま放題で人を見下し、貧しい者、弱い者をみて嫌悪の表情を見せる。とても同じ少女だったとは思えない。

その少女の代わりに、ユウの姿が男性的に変化して、美しい青年が、差別、貧困、止まない紛争への怒りをアラワに、歌を歌う。そのイキドオり、悲しみ、苦悩は熱く、魂を揺さぶるように響いてくる。傍観ボウカンは罪だと、行動で示せと、この不条理に立ち向かえと、声高に歌う。この差別を是正ゼセイするために、今立ち上がろう。

また、ユウの姿が少女へと変わり、平和を歌う。その自身の生活を、金満主義が浮き彫りとなり、歌の力は失われ、白々しい印象を与える。
片や、青年の歌は崇高で、戦いそして散ってゆく美しく名誉ある死を、ロマンティックに演出していく。誰もがこんな死に方なら悪くないと思わせるような、仲間や、恋人の腕の中で永遠となってこと切れる。
この平和な国で目的もなくただ無為に日々を殺していくよりも、この崇高な戦いこそが生きる意味だと。

少女のシカバネの上で、武器を持った青年が、腕を振り上げる。

水はやがて光を失い、ただの滝となって、その奥からユウがこちらへとやって来る。
「どうでしたか、ボクの劇は。この国の人はね、大勢が向く方へ向く習性を持った、人形たちなんだよ、醜悪シュウアクで恥知らずな恥ずかしがり屋さんの寄せ集めなんだ」
ユウの顔は崩れ、濃い化粧が落ちたように、げたマスカラが眼球を覆うように白目を黒くツブし、黒い涙を流している。
ソゴゥは吐き捨てるように「胸糞ムナクソわるい、虫唾ムシズがはしる」と忌避キヒを述べる。
ユウはそんなソゴゥの態度にお構いなしで、正面から抱きしめる。

「ああ、ボクはキミのことが気に入ったよ」
「放せ、クソ野郎!」
扇動者の罪状を手の甲に浮かび上がらせ、思いの他強く抱きついてくる。
虐殺や、独裁者あたりから今見せられた水劇に対する非難や野次が飛んできそうなものだが、皆口を閉ざしている。
「おい、いい加減放せ」
そごうの手でカルミアの指輪が光る。

背の高い男が、少女と対峙タイジしている。
男の方は、あの水劇の青年に少しだけ面影があった。
「君には、平和の歌を歌っていて欲しい、君をオトシめるデマや悪評が広がっていることは知っている。だけど、国の言う通り、戦争へ駆り立てる歌を君の口から歌ってほしくないんだ」
「でも、これ以上は。いまだってお父さん、お母さん、妹、それにおばあちゃんも、みんなが怖い目にあっているのよ私のせいで、これ以上家族が不幸になってしまうのはいや」
「この国を守るためなんだ、戦争なんて絶対に起こしてはいけない。君には影響力がある。君の言ったことを、歌った歌を妄信的に信じる人たちにとって、君が戦争を肯定してしまったら、この国はどうなるだろう」
「でも、でも」
「お願いだ、平和を、平和の歌を歌ってくれ」
水劇で見た少女はみるみるヤツレれていく。
国が、彼女と彼女の家族をオトシイれ、結果、家族を失い、彼女が飛び降りた地面の先で、絶望と後悔に苛まれ発狂していく男、それが扇動者ことユウだった。

彼は、水劇の技術者で、彼女のプロデューサーのような役割を果たしていたが、その後は、狂ったように非戦闘パフォーマンスをゲリラ的に行い、国家からテロリスト認定され追われ続け、そして当時民主主義だった国が独裁政権となるきっかけとなったある男の命令で殺された。

その男は、自分が国家であり、国民はコマであるとウタった。
この国が長い夜を迎える、最期の夕暮れだった。

「もう十分だ。わかったから」
ソゴゥはユウの背に両手を回し、優しく擦った。
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