異世界転生者の図書館暮らし3 モフモフのレシピ 神鳥の羽と龍の鱗の悪魔仕立て

パナマ

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3 真夜中の攻防

3-4. 真夜中の攻防

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黒い砂は明らかに、王都へ向かっていた。
人の多い方へと移動しているのか、強い魔力に吸い寄せられているのか。
進行を阻もうとするエルフを取り込んでは、吐き捨てることを繰り返している。

「魔力を吸っているのでしょうか?」
倒れたエルフを衛生科に引き渡しを終えて戻ってきたローレンティアが、数十メートル先の光景を見ながら尋ねる。
「あれだけの魔力量だし、目的は別なんじゃないか」
イソトマが言う。
「依り代を探しているのかもしれません」
コリウスが、魔力を吸収する球体を指の間で移動させて弄びながらも、深刻な表情で言った。
「なるほど、そうかもしれんのう」
「あれは、何かに憑りつきたいが、ここいらのエルフではそれが務まらないといった行動に思えます」
「アレを満足させる器を、探しておるという事か」
ニトゥリーは黒い砂を、悪寒に耐えながら観察する。
視界に入れるだけで、全身から力が抜けていくような根源的な恐怖を禁じ得ない。
応戦している者たちは、使命感により自分自身を奮い立たせ、恐怖で固まりそうになるその体を動かしていた。

黒い砂捕獲の指揮を行う暫定の対策本部へ、魔法安全対策課の者達に確認させていた、アレを閉じ込めていた黒い箱が所在不明であるという連絡が届いた。
箱に再び封じる作戦が消え、対策本部は、次に箱を覆うために使用された魔法遮断ケースを急いで持ってこさせ、その場所を王都の中央公園と定めて、総員誘導に当たるよう指示した。
中央公園周辺に規制線が張られ、王より緊急事態対処命令が発令されて、周辺住民の避難誘導が開始された。
イグドラム王宮では、王城を防衛する障壁が発動し、避難民受け入れ態勢を整えた。
また、イグドラシルでは外出していたソゴゥが一度戻って来て、再び自分は事態収束まで外にいると告げ、司書長のサンダーソニアに最も重い防御壁の発動を命じ、全館が閉じられた。

ソゴゥはマグノリアのデザイン事務所を出てイセトゥアンと分かれ、ヨルとイグドラシルへ帰宅する途中、大きな地面の揺れを感じ、遠くの空に赤い光が吹き上がるのを見た。
異常な事態に、直ぐにイグドラシルへ瞬間移動で帰り着くと、正面のエントランスホールに出てきていたレベル5の司書達と対策を相談して、書籍と建物を守る防護壁を使用することを決定した。
王宮と違い、避難民の受け入れなどで、夜のイグドラシルへ民間人を立ち入らせることは出来ない。司書と樹精獣、それに悪魔のヨル以外はこのイグドラシルに魔力を吸われて、命が危険だからだ。
ソゴゥは第七区画にある自分の部屋に向かい、樹精獣たちを確認する。
イグドラシルから出ることのない彼らだが、何かあってもちゃんと身を守るように一言伝えておこうと思ったのだ。
部屋に戻ると、樹精獣のリーダーであるジェームスが、赤い魔導書を手にしていた。

「ジェームス、それもしかして、ヨルの召喚書じゃないのか?」
「キュエ」とジェームスが肯定する。
「あれは、燃えて消えたんじゃなかったっけ?」
「キュッ、キュニエ」というジェームスの言葉が続き、ソゴゥはそれが、再び第七区画の禁書庫に出現していたのをジェームス達が発見して、ここへ持って来たのだという事を知った。
「とりあえず、俺の机の上に置いておいて、後でちゃんと確認するよ。いま、街の外側で何かが起きているようだから、それを確認してくる」
ジェームス達樹精獣が集まって来たので、ソゴゥがしゃがむと、七匹がソゴゥにピトリと引っ付き、ポンポンと肉球で叩く。
いってらっしゃいと言っているのだ。
ヨルもソゴゥの横でしゃがんで手を広げると、小さな樹精獣のイーサンとソルトがヨルの頭までよじ登り、ハリーがヨルの脛を蹴った。
いいから、ちゃんとソゴゥを守れと言っているのだ。
ソゴゥは哀れを禁じ得なかったが、当のヨルが嬉しそうなのでよしとした。

ニトゥリーは中央公園に展開した状態で設置されたケースの中央に、例の砂の化け物が到達するように、国内第四位の魔導士サルビアが、魔力全開でおびき寄せている周辺待機組に合流していた。
サルビアの赤に近いオレンジ色の髪が燃えるように逆立ち、その表情は鬼気迫っている。彼女は、実力は申し分ないのだが、極度のあがり症なため、こうして大勢の警察官や陸軍特殊部隊、王宮騎士たちに囲まれることは、苦痛でしかない。直ちに家に帰って愛猫を抱いて、布団を被りたい気分なのだろう。

「来ました!」
目抜き通りをトゲ街道に変形させながら、近づいてくる黒い砂の化け物に、待機しているエルフ達の緊張が高まる。
「あの道、新しい観光名所にしたらどうっすかね」
「馬車が通り辛いわ」
ピラカンサスの軽口にニトゥリーが応える。
「それより、あんなものと正面から対峙させられて、サルビア様も気の毒にのう」
「サルビア嬢は、化け物よりも、人の多いことに緊張されているみたいですね」
ニトゥリーは、あれが馬車に積まれてやって来た、小雨の降る夜の事を思い出していた。
青白い馬に乗って、真っ直ぐにこちらに向かってやって来るのは「死」だ。
砂は大地を震動させ、トゲの柱を生やしながら標的を見つけたように、こちらへと加速しながらやって来る。
「サルビア様! ご準備を!」
サルビアの瞳はオレンジ色に炯々と光り、その髪がうねりながら長く伸びる。
彼女の魔術の発動は、その声による詠唱ではなく組指で行われる。
手指が忙しなく動き、数多の魔術を展開させていた。彼女の髪は物質も魔法エネルギーも関係なく、触れたモノをその場に固定し、定着させる。
拘束術において右に出る者のない、最上級の魔術を今、展開し終えた。

黒い砂が、公園入口へ到達し、中央のサルビアへと向けて、中のエルフの形のまま人型で現れてこちらへとやって来る。
サルビアは、到達目前で髪を伸ばして黒い砂を串刺しにするように髪を突き入れた。
サルビアの燃えるような焔色の髪が、黒い砂が取り込んでいたエルフを引き剥がして脇へと放り、砂だけとなった塊を引き寄せる。
周囲の者達が、固唾を飲んで見守る。
オレンジ色の光の輪が、空中にいくつも浮かび上がり、魔力遮断、転移阻害、熱寒耐性解除と次々と対象の防御を剥いでいく。
サルビアの指先に、あらゆる魔術が成功したことが伝えられる。
このまま、このケースに固定させ、後は自分が後退してケースを起動させれば。
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