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7 終章 秋冬コレクション
7-6. 終章 秋冬コレクション
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ジキタリスはノディマー領でエルフと人間の橋渡しをしながら、極東で暮らしていた殺伐としたあの幼い日々から最も遠い場所がここなのだと、今の暮らしに幸せを感じていた。
両親であるカルミアとジャカランダも、別の都市で職について暮らしているが、娘の暮らしぶりを見に、頻繫にここへ訪ねてくる。
「母さん、領内の湖に渡り鳥とかってこないの? この羽が無くなったら水鳥の羽を調達して、このまま羽毛布団を作り続けられないかな、せっかく作り方を覚えたんだから、羽を定期的に仕入れることが出来れば、十三領民の産業としてやっていけそうじゃない?」
「野生の水鳥から、これだけの量を採取するのは難しいわね、それよりもガルトマーン王国から仕入れた方が確実だと思うわ」
「それだと、次回からは、買い付けるか、何か向こうが欲しがるものと交換という形になるだろうね、ガルトマーン王国で需要のあるものって何だろう?」
「有翼人はお酒が好きなはずよ、特にガルーダ族は美酒を求めて旅をしたりするそうだし」
「お酒かあ、究極の酒の作り方でもイグドラシルに帰ったら調べてみるかな」
「それは良いわね、ノディマー領で手に入る材料で作れるのがベストね」
ソゴゥは頷くと、ヒャッカとジキタリスに首都に戻ると伝え、熱心に作業をしている十三領の子供たちに挨拶をして帰路についた。
イグドラシルに帰り着いたのが、夜の七時。夏は、この時間でも空がまだ明るい。おかげで、図書館の閉館時間が延び、司書や図書館職員の業務時間もこの時期は長くなる。
ソゴゥは館内の様子見がてら、二階の執務室へ行こうとエントランスホールを通りがかり、奥のせせらぎの間に、樹精獣だまりが出来ているのを見掛けた。
せせらぎの縁に座り、水の流れを見るでもなく、膝や肩に樹精獣を沢山のせてぼんやりと虚空を眺めているのは、ノディマー家次男だった。
「ニッチ、何やってるの? 警察クビになったの? 十三領で羽毛布団を作って暮らしたらいいよ」
「羽毛布団か、ええのう。そういえば昔、親父のお下がりの十万円を超える西〇の高級羽毛布団と、無〇良品の二万円の羽毛布団で、誰が高級羽毛布団を使うか、テストの点で決めたことがあったのう」
「ああ、それ俺が勝ってもらったんだよ。淀に、フワフワで温かいって自慢しすぎて、ベッドを占領されてよく喧嘩した」
閉館間際の図書館は人も疎らで、このせせらぎの間は、樹精獣たちの他はニトゥリーと、遠くに司書がいるだけだ。
ニトゥリーは樹精獣をキュっと抱えて、膝から下し、肩や側にいたモフモフ達も、ニトゥリーとソゴゥから離れたところに移動していった。
「素剛、お前、いつから覚えとった?」
「五、六歳の頃だったと思うよ、そうか、仁酉兄さんも思い出したんだね。父さんと母さんも、前世の事を覚えているって、父さんは最近だけど、母さんはずっと前から覚えていたんだって」
「そうだったんか、何で言わないんかって、そりゃ混乱させとうなかったからよのう? 思い出した俺も、他の兄弟が覚えておらんかったら、どう言っていいか分からんし、自分で思い出すのを待った方がいいと思うわ」
「あの三人は、たぶんまだ思い出していないと思う。けど、仁酉兄さんが思い出したなら、光輿兄さんも、そのうち思い出すかもね」
「ああ、そうかも知れんのう」
ニトゥリーがソゴゥの頭を撫でる。
「お前は、ずっと前世の姿のまま俺たちの側におったのに、なかなか思い出してやらなくてすまなかったのう」
ソゴゥは複雑な、寂し気な笑みを浮かべて、目を伏せる。
「先に死んでごめん。皆に酷い思いをさせた。今回も、仁酉兄さんや伊世但兄さん達にも心配をかけて、本当にごめん」
「バカか、お前、どんなに注意したって逃れられんことよ、お前のせいじゃないんやから、そんなこと、もう気に病む必要はない。お前が命を粗末にするような生き方をせんことは、誰より分かっておる。ただし、今生では、俺より先に死ぬことは許さんからのう、肝に銘じておきや」
ソゴゥが曖昧に笑うと、ニトゥリーが首を押さえ込んできたので、「わかった、わかったから、ここ図書館だから!」とタップして開放してもらった。
「最初から、そう言いや」
悪そうに笑うニトゥリーが、さっきより元気そうでソゴゥは安心した。
もしも叶うなら、俺たち兄弟は同日同刻に・・・・・・誰かが先に居なくなるなんて、俺は考えたくない。
けれど、そんな先の不安を数えるより、やりたい事を実現するために頭を使った方がいい。答えのない悩みに悩む時間を、楽しいことを考える時間にあてる方が、俺には向いている。
「ヨルを呼んで、イセ兄と、ミッツにも声を掛けて久しぶりに飲みに行こうよ」
「いいね、俺もそう思ってここに寄ったんよ」
ヨルを伴い図書館を出る。
外は漸く茜色に染まり、蒸し返す日中の暑さが和らいで、草の匂いと虫の声がする。
「もうすっかり夏よのう」
「ビールが飲みたい」
「では、今日はビアガーデンはどうであるか?」
「いいねえ!」
ソゴゥとニトゥリーの声が重なる。
今生ではすっかり馴染みのある虫の音は、前世では聞いたことのない音で、空には、蛍の様に光る綿毛が風に流されいくつも通り過ぎていく。
ニトゥリーは、少しだけ前を歩くソゴゥの背中を見て、生きていてくれて本当に良かったと心から思うのだった。
END
両親であるカルミアとジャカランダも、別の都市で職について暮らしているが、娘の暮らしぶりを見に、頻繫にここへ訪ねてくる。
「母さん、領内の湖に渡り鳥とかってこないの? この羽が無くなったら水鳥の羽を調達して、このまま羽毛布団を作り続けられないかな、せっかく作り方を覚えたんだから、羽を定期的に仕入れることが出来れば、十三領民の産業としてやっていけそうじゃない?」
「野生の水鳥から、これだけの量を採取するのは難しいわね、それよりもガルトマーン王国から仕入れた方が確実だと思うわ」
「それだと、次回からは、買い付けるか、何か向こうが欲しがるものと交換という形になるだろうね、ガルトマーン王国で需要のあるものって何だろう?」
「有翼人はお酒が好きなはずよ、特にガルーダ族は美酒を求めて旅をしたりするそうだし」
「お酒かあ、究極の酒の作り方でもイグドラシルに帰ったら調べてみるかな」
「それは良いわね、ノディマー領で手に入る材料で作れるのがベストね」
ソゴゥは頷くと、ヒャッカとジキタリスに首都に戻ると伝え、熱心に作業をしている十三領の子供たちに挨拶をして帰路についた。
イグドラシルに帰り着いたのが、夜の七時。夏は、この時間でも空がまだ明るい。おかげで、図書館の閉館時間が延び、司書や図書館職員の業務時間もこの時期は長くなる。
ソゴゥは館内の様子見がてら、二階の執務室へ行こうとエントランスホールを通りがかり、奥のせせらぎの間に、樹精獣だまりが出来ているのを見掛けた。
せせらぎの縁に座り、水の流れを見るでもなく、膝や肩に樹精獣を沢山のせてぼんやりと虚空を眺めているのは、ノディマー家次男だった。
「ニッチ、何やってるの? 警察クビになったの? 十三領で羽毛布団を作って暮らしたらいいよ」
「羽毛布団か、ええのう。そういえば昔、親父のお下がりの十万円を超える西〇の高級羽毛布団と、無〇良品の二万円の羽毛布団で、誰が高級羽毛布団を使うか、テストの点で決めたことがあったのう」
「ああ、それ俺が勝ってもらったんだよ。淀に、フワフワで温かいって自慢しすぎて、ベッドを占領されてよく喧嘩した」
閉館間際の図書館は人も疎らで、このせせらぎの間は、樹精獣たちの他はニトゥリーと、遠くに司書がいるだけだ。
ニトゥリーは樹精獣をキュっと抱えて、膝から下し、肩や側にいたモフモフ達も、ニトゥリーとソゴゥから離れたところに移動していった。
「素剛、お前、いつから覚えとった?」
「五、六歳の頃だったと思うよ、そうか、仁酉兄さんも思い出したんだね。父さんと母さんも、前世の事を覚えているって、父さんは最近だけど、母さんはずっと前から覚えていたんだって」
「そうだったんか、何で言わないんかって、そりゃ混乱させとうなかったからよのう? 思い出した俺も、他の兄弟が覚えておらんかったら、どう言っていいか分からんし、自分で思い出すのを待った方がいいと思うわ」
「あの三人は、たぶんまだ思い出していないと思う。けど、仁酉兄さんが思い出したなら、光輿兄さんも、そのうち思い出すかもね」
「ああ、そうかも知れんのう」
ニトゥリーがソゴゥの頭を撫でる。
「お前は、ずっと前世の姿のまま俺たちの側におったのに、なかなか思い出してやらなくてすまなかったのう」
ソゴゥは複雑な、寂し気な笑みを浮かべて、目を伏せる。
「先に死んでごめん。皆に酷い思いをさせた。今回も、仁酉兄さんや伊世但兄さん達にも心配をかけて、本当にごめん」
「バカか、お前、どんなに注意したって逃れられんことよ、お前のせいじゃないんやから、そんなこと、もう気に病む必要はない。お前が命を粗末にするような生き方をせんことは、誰より分かっておる。ただし、今生では、俺より先に死ぬことは許さんからのう、肝に銘じておきや」
ソゴゥが曖昧に笑うと、ニトゥリーが首を押さえ込んできたので、「わかった、わかったから、ここ図書館だから!」とタップして開放してもらった。
「最初から、そう言いや」
悪そうに笑うニトゥリーが、さっきより元気そうでソゴゥは安心した。
もしも叶うなら、俺たち兄弟は同日同刻に・・・・・・誰かが先に居なくなるなんて、俺は考えたくない。
けれど、そんな先の不安を数えるより、やりたい事を実現するために頭を使った方がいい。答えのない悩みに悩む時間を、楽しいことを考える時間にあてる方が、俺には向いている。
「ヨルを呼んで、イセ兄と、ミッツにも声を掛けて久しぶりに飲みに行こうよ」
「いいね、俺もそう思ってここに寄ったんよ」
ヨルを伴い図書館を出る。
外は漸く茜色に染まり、蒸し返す日中の暑さが和らいで、草の匂いと虫の声がする。
「もうすっかり夏よのう」
「ビールが飲みたい」
「では、今日はビアガーデンはどうであるか?」
「いいねえ!」
ソゴゥとニトゥリーの声が重なる。
今生ではすっかり馴染みのある虫の音は、前世では聞いたことのない音で、空には、蛍の様に光る綿毛が風に流されいくつも通り過ぎていく。
ニトゥリーは、少しだけ前を歩くソゴゥの背中を見て、生きていてくれて本当に良かったと心から思うのだった。
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