傍観者転生 ~お前は俺を殺せない~

ミシェロ

文字の大きさ
4 / 15

第3話

しおりを挟む
「おいお前、これからってときに......」

「だってその女の子の能力じゃ私、やられる一方なんだもん。だからこーさん」


 本当に自由な奴だ。ここは一発でも殴ってやりたいところだが、あいにくそんなケガは俺にはとっくに消えている。納得して引き下がるしかない。


「シミル。こいつを拘束できるか?」

「あーそういう趣味? あんまり子供の前でそういうのを見せるのは......」

「うるせぇ! おとなしく捕まってろ!」

「はーい」


 彼女は敵に氷の拘束具を付け、炎を鎮火した。とはいえこいつの能力がいまだによくわからない。1人に1つの能力じゃないってことか? とはいえパンチは努力すればいくらでも強く......

 いや聞いた方が早いか。素直に教えてくれないのはもう学んだが、遠回りの草原を歩きながら俺は彼女に問いた。


「お前の能力はなんだ?」

「教えるわけないじゃーん。勉強不足ぅ?」


 腹が立つ。できることなら殴ってやりたいところだったが、俺の拳をシミルが止めた。仕方ない。ようやく素直でないにしろこの世界に詳しそうな奴と出会えたんだ。この機会を逃すわけにはいかない。


「お前はこの周辺に詳しいんだろ? 一番安全な街まで案内しろ」

「嫌。私は奴隷になった覚えはないし」

「同じようなもんだろうが」

「別に今の状態なら問題ないもん。タブーコールを使えば逃げるのは簡単だしね」

「はぁ!?」


 ならなぜ逃げない。といってやりたかった。が、このままその考えに至られても困る。せっかくの情報だ。とれるなら取れるだけもらっておくのがベストだ。


「それじゃあお前の能力について教えろ。それと、能力は1人1種類に固定されていることに対してもだ」

「能力はパス。バレたら逃げられなくなっちゃうし。2つ目の質問だけ超絶特別に答えてあげる。今まであった人族は全員1種類だけの能力を使ってたよ。ついでに言えば2種類の能力を使ったやつの目撃情報はなし」

「なるほど。ということは2種類の能力を持つ人物はいないってことなのか?」

「まぁそういうことでいいんじゃない? 別に能力がいくつあっても相性が悪ければそれで終わりだし」


 彼女が言っていることは一理ある。とはいえ念のためにシミルに手錠を強化してもらい、おまけに羽も凍らせた。とはいえあまり無意味なことはなんとなく理解していた。


「ところで、どうして俺たちを狙ってきたんだ? 悪いが金目のものなら持っていないぞ。バッグはわんさかしているがな」


 彼女は俺の顔を見て睨みを見せた。が、手錠に抵抗を見せたわけではなかった。にしてもエルフに悪魔。ここまで簡単に特殊族に会えるなんて思ってもみなかった。


「別にそんなのに興味を持ったわけじゃないし。私は珍しい能力を持った人物を探しているだけ。そしてその人物を殺して......あ、やっぱなんでもない」

「ああ。これ以上は必要ない。言わなくても十分すぎるほどに理解できたからな」


 俺が1人だけだったら、こいつはいつまでも俺を殺そうと努力していたわけか。とはいえどうせ俺は死なないのだから、意味はないけどな。

 やっぱり俺の直感に間違いはなかった。シミル・パルテロッカ。彼女は俺にとっても脅威であり、何より彼女にとってもそうらしい。おかげで危ない目に合うことも少なさそうなのが一部喜びだが。


「そういえばお前の名前はなんていうんだ? 正直に言ってみろ」


 とはいえこいつの言動などなに1つと信用してなどいない。悪魔は嘘をついてなんぼだ。さっきの性格から嫌でも思い知らされた。


「バキリア・ボルベスタよ。1年もしない間にアンタたちはこの名前におびえるようになるわ」

「そうか。ならとっとと凍らせておこう。頼むシミル」

「ふざけんじゃないわよ! そんなことしたら私の本気を見せることになるわよ、それでもいいの?」


 少しだけ好戦的ではないように思える。だが嘘をついている様子はない。俺はシミルへの命令を取り下げ徒歩を再開した。とはいえさすがに時間がかかりすぎているか。


「シミル、次の町まではどれくらいかかりそうなんだ?」

「あ、あの......」


 まさかと冷静な考えが今更よぎった。ひょっとしても何もない。14歳としての行動としてもおかしくない。むしろ地図があればいいくらいだ。


「アハハハ! あんたら地図もなしに歩いてたわけ? よくそれで私の名前を聞くなんて芸当ができたものね! 私を見定める前に自分たちの道を見定めなさいよ!」


 俺は笑うこいつを思いっきり睨んだが、むしろ笑いが増えるだけだった。14歳の彼女ならカワイイで済むが、俺ならただのバカで終わる。

とはいえこいつに頼るしかないか。バキリアが周辺事情に詳しいかは定かではないが。

 3日間分の食糧もある。最悪は帰ることも......ないな。


「お前を解放することを条件に、街まで案内するのはどうだ? お前にとっても悪い交渉じゃないだろ?」

「だーから言ってるでしょ。私が頑張っても、彼女に手を出されたらジリ貧で負けるんだってば」


 頑固な奴だ。とはいえ疑うことを忘れていないその姿勢は少しだけ学びになる。シミルは俺がうなずいたことに疑問を感じていたが。


「ならシミルには手を出さないことを条件に加えてならどうだ?」

「ふーん。あんたってロリコン?」

「関係ないところで遊ぶな!」

「ロリコンってなんですか倫也さん?」
 

 純粋無垢でなんでも知りたがりの彼女に冷静さを取り戻させるのには苦労したが、バキリアはそれに納得し、俺たちを王都と呼ばれる場所へと案内してもらうことになった。

 とはいえ王都か。この周辺の王様はどのような人物なのだろう。金に貪欲で人を物としか見ていないとか?

 優しさを大切にし過ぎて活動資金をばら撒いているとか?

 さすがに極端すぎるか。

 ただわかるのは王都が悪魔を認めているということだ。俺の予想じゃこいつは嫌われていそうだが、今回はその限りでもないらしい。王様はきっと寛容なのだろう。

 俺たちはテントを張り、森の中で夜を過ごすことにした。とはいえ安心はできない。目の前に敵がいるのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...