傍観者転生 ~お前は俺を殺せない~

ミシェロ

文字の大きさ
9 / 15

第8話

しおりを挟む
「何か来ます!」


 シミルの言葉と共に俺たちは足を止めた。白馬が俺たちの元に姿を現した。けれど、そこに乗っていた騎士は剣を構えなかった。


「アンタ、誰?」

「王都騎士兵団、8番隊長のローリオという。だが、今回は王の命令とは別でここに参った次第。話をしても?」


 彼の言葉を信用はできないが、聞くことは認めた。シミルをバキリアの側に連れていき、彼は馬を木にくくりつけ俺たちを安心させた。


「話とはなんだ? 先に言っておくが、交渉は断るぞ」

「むろん知っておる。それならば諸君が彼女を変装してまで救うはずもない。我は亡きシミル・パルテロッカの父、エルウィス・パルテロッカの親友である」


 言葉の剣が襲い掛かってきたかのようだった。シミルはまだ内容を理解しきっていなかったのか、動揺をみせるだけだった。

 が、俺とバキリアは違った。


「お前の言っていることは正直信用していない。だが、それが事実だとするなら話してほしい。当然彼女の心を折らないことを前提でな」

「御意。まず話をせねばならないのは、彼の最期でしょうか。亡き者。そういったものの現状事実を把握しきれていないのです。彼は我とともに龍の巣を探っておりました。が彼らの射程に侵入していたようで、自分の命を心配するのが精いっぱいでありました。結果として我と数名は逃げのびることができたものの、それ以外の者の行方はいまだ不明であります」


 定まらない言葉を否定したいところだった。が、俺は彼の言葉を無視した。何の面白みもないただの会話としてとらえた。


「そしてそのとき託された言葉の元、我はシミルさまをお守りすることを誓ったのです。我が命と引き換えにすることになったとしても」

「その覚悟は本物なんだな?」

「無論」

「なら、鎧を取れ。騎士団を抜けるお前には必要のないものだ」

「だがそれでは彼女を守るのに不利。状況を悪化させるだけでは?」


 いっていることは正しい。そして俺のことを否定してはいない。とするなら俺は彼を信じるべきだろうか。


「倫也さん、私はこの人を信じます。何より彼からお父様のことをもっと知りたいんです」

「……わかった。ローリオっていったか。一緒に付いて来い。王都を抜け......」


 その瞬間、兵士たちが俺たちを追いかけ馬で駆けあがってきていた。やはりウソだったか。敵のタイミングが甘くてよかったと心から思う。


「磁場一刀......丸球!」


 敵たちはまるで何かに吸い込まれるように1つに集まり動きを失った。彼は刀をしまい俺たちに笑顔を向けた。

 俺たちの不安はさらに深まった。


「倫也......」

「わかってる。お前はシミルの隣につけ」

「オーケー」


 俺たちは移動を再開し、王都の脱出を試みた。意外にも門兵は誰かに倒されており、脱出は容易だった。とはいえ問題はこの先だ。龍の騒動が終わればきっと片目剣士が俺を探し回るだろう。どうして俺も悪魔と同じ対象にならなきゃいけないんだ。まったく。


「本当によかったのか? あの中にお前の鍛え上げた兵もいたんだろ?」

「無論。けれどシミルさまを傷つける対象であれば、剣を交えることに迷いはなきゆえ。それにそれを見せればそなたたちも我に多少なりとも信頼を得られると思った次第」

「お前があいつらを連れてきたのか?」

「さよう。陣形も把握していた我にとっては造作もないこと」


 シミルの父親が一体どれだけすごい人物なのか聞いておきたいところだが、今はそれよりも身の安全だな。俺たちは王都を出ても歩みを止めず安堵の就ける場所を探すことにした。

 が、今更逃げられるなんて思ってはいなかった。いつか戦う必要がある。そう自覚していた。


「ローリオ、ここからならどこが安全だと思う?」

「むぅ......もし王都のつながりの低い場所へと向かうのであれば、うまで2、3日かかるところとなる次第。けれどそれを避ける場合、この先の森を抜けた町、シラクスに潜むのが得策かと。シミル様もお疲れのご様子。早急の休息が必要なり」


 悪魔の年齢はわからないが、俺の予想じゃここの土地勘はローリオの方が上だ。俺は彼を利用しシラクスへと向かうことにした。そして目の前に銀髪の女性が現れた瞬間、俺は剣を構えたくなるような気分に襲われた。


「その銀髪......まさか」


 彼の驚きの声に俺も少しだけ納得した。本来であれば斬りかかりたいくらいだった。彼女が発した言葉はシミルに抱擁を求める声だった。


「シミル! 大きくなったわね」


 彼女の動揺は消えなかった。当然だった。目の前にいる人物が誰なのかわからない。ローリオの様子から俺には理解できたが、彼女はそんなに人を見ていない。


「誰?」

「10年も経てば忘れて当然よね。私の名はセリヴィア・パルテロッカ。これで意味がわかった?」

「お母様!」


 彼女は迷いなくその女性に飛び込んだ。が、その瞬間に俺たちに訪れた衝撃を俺は忘れることができなかった......

 視界はぼやけ、全てがかすんでいった。シミ......ル......

 彼女に手は届かなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

リーマンショックで社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

処理中です...