傍観者転生 ~お前は俺を殺せない~

ミシェロ

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第10話

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***


「本当でこっちに間違いないのか? まともな道を外れて歩いている気がするんだが......」

「知らないわよ。空に飛ばされながらさらわれたんじゃないの?」


 犬というからてっきり道路の道筋をたどって探すものだと思っていた。そんな期待を見事に裏切り、建物の狭い隙間や裏道を通っていた。空を飛べるバキリアはともかく、俺とローリオはそうはいかない。

 何とか体を縮めたものの、もう限界だ。バキリアに任せて俺たちは休んでいるべきだったのかもしれない。彼女の羽が羨ましい。


「いえ、シミル様は間違いなく人族100%。両親から羽が生えることなどあり得ないかと」

「誰がそんな真面目な話しろって言ったのよ。犬なんてのは気まぐれなのよ。気にしたら負けよ」


 なぜ犬にだけは寛容なのか理解に苦しむ。もしバキリアに羽が生えていなかったら、きっとあきれるほど文句を垂れているところだっただろう。悪魔は損得勘定で動きが変わるようだ。


「ワン!」


 聞いてもうれしくない低い声とともに、大きなお屋敷の目の前で犬はお座りをした。ドッグフードでもあげたいところだが、あいにく持ち合わせていない。

 バキリアは私を褒め称えなさいと言わんばかりの表情を見せたが、俺の呆れた顔を見たのか、急に拳を突き付けてきた。本当に理不尽な奴だ。


「ここにシミルがいるみたいね」

「一応聞くが間違いないのか? 大量の骨が埋まっている、なんとお笑いにならないぞ」

「そんなの知らないわよ! 今回は動物の能力を操作しているわけじゃないから」


 聞くだけ無駄なようだ。俺たちは仕方なくその犬に従った。歩き始めた瞬間、犬は姿を消した。いや、魂がなくなった。

 バキリアの表情がいつもと違い怒りをまじまじと露わにしていた。その異変に俺は口を開く気をなくした。


「アッハハハ! バキリア~。こんなところで何をしているかと思ったら、まさか人間の奴隷になっているとはね。滑稽、愚の骨頂、最高の虐げの味はどう? オイシイ? それとも最悪? ねぇ教えてよ、いまどんな気持ちぃ~?」


 悪魔は目の前に現れたかと思いきや距離を取って俺たちに話しかける。いや、話しかけられたのはバキリアだけか。


「お前の知り合いか?」

「まぁそんなところよ。私は3人いる後継者の1人。でもう一人がアイツ」

「なるほどな」

「2人は好敵手ライバルの関係にあるというわけですな」

「それは嫌でもわかる」


 短い髪に成長の見られない体つき。バキリアとは大違いだ。ある意味で目の保養的にも正反対な彼女が仲間で本当によかったと思う。


「あー供物形式か。2人を騙し吊し上げようとしてたのかな? ごめんごめん。うっかりしちゃった」


 俺にはそいつの冗談が届かなかった。それならもっと簡単な方法が前からあった。まぁ彼女も俺が死なないことを知っているから、行動に移すとは思えないがな。

 きっと目の前にいるこいつもそうなのだろう。そしてなぜだかこいつ口達者な悪魔な気がしてきた。


「お生憎さまだけど、私の策はそんなもんじゃないわよ。アンタでも考えの付かない方法で私はアンタを任してあげる!」

「へー。じゃがんばって。ま、その前に2人が死ななきゃいいケド」


 一瞬の閃光だった。隣で血が吹き飛び俺は倒れてゆく彼を見ていることしかできなかった。


「ローリオ!」

「ぬぐっ......」

「ちっ!」


 バキリアが敵と対峙した瞬間、俺はシミルの救急箱を開けた。が、ローリオは首を横に振った。自分の状態を一番理解していた。彼の身体の半分は彼から離れていた。


「ローリォォオオオ!」


 俺の叫びと不敵な笑いが響いた。俺は彼の剣を引き抜き敵に照準を合わせ......

 腹を槍で射貫かれた。引き抜かれると同時に体が再生を始める。おかしい。何かが再生を阻害しているのか? いつもならもっと早く再生しているはずだ。


「バキリア? あなたの実力はその程度なの? だとしたらまだまだね。私の前ではただの赤子も同然。死にたいのかしら?」

「勝手に吠えずらかくといいわ。私の禁忌召喚タブーコールの前じゃ手も足も出ないんだから」

「今の状況ならどっちが......ハァ?」


 俺を見て奴が異変に気が付いた。その瞬間俺は剣を投げはなった。が、完璧な投げとは裏腹にそれは壁に突き刺さった。


「痛みが足りないみたいね」


 槍が身体を真っ二つにする。その瞬間、俺は彼女に短剣を突き刺した。2つの血しぶきが吹きあがり、俺は地面に寝そべった。


「くっ......」

「ミラル、これで終わりよっ!」


 彼女は黒い風の中に姿を隠し、それが消えたとき姿はなかった。彼女は槍をしまい俺の元へと戻ってきた。

 名前はミラルか。今度短剣を返してもらいたいところだが、それは叶いそうにないな。

 彼女は悲しげにローリオの顔を眺めていた。


「お前の責任じゃないさ。ローリオの最後の顔がそう言っていた」

「そんなのわかってるわよ。私はアンタが生きてることが気に食わないだけ」

「悪かったな。生きる意地だけは悪魔級に強欲なもんでな」

「ぶん殴るわよ! アンタと一緒にしないで!」

「そこかよ!?」


 俺たちはシミルが残念ながらその場にいないことを納得し、ローリオをそこに埋めた。本当なら太陽の当たる場所に埋めてやりたいところだが、死体を担いでいる姿を誰かに見られでもしたら最悪だ。彼ならきっと納得してくれるはずだ。

 強気な様子だったが、彼女は少し落ち込んでいた。まったく仕方ないな。


「そういや俺たちを利用しているだってな」

「私は悪魔よ。なんか文句でも?」

「いや、悪魔らしくいいとは思うが。本当は何が目的なんだ?」

「どういうこと?」

「いや、別にアイツと戦わなくても、いろんなところでお前は逃げる機会があっただろ? 今はシミルもいない。俺にはお前を縛れる術がないわけだ。でもどうしてそうしないのか気になってな」


 彼女はわかりやすく俺から目を逸らし、そして再度目を合わせて口を開いた。始めてみた彼女の真剣の顔だった。


「ある日突然消えた悪魔がいてね。私はそれを追ってるの。アンタたちと一緒にいればなんだか会えるような気がする。だからついてきてあげてるってわけ。感謝しなさい、この禁忌召喚士タブーコーラーの私があんたたちを信頼してんのよ?」

「……」


 どこがだ。といってやりたい。が、嘘じゃないみたいだ。俺はそれを聞き改めて彼女の行動に納得できた。とはいえそれがシミルを助けることにつながっていないことは、黙っておこう。それを言ったら本気で俺の元を離れかねない。さすがに1人は勘弁だ。


「何笑ってんの? 気持ち悪っ!」

「いや、ちょっと誤解してたわ。意外と悪魔って優しいんだな」

「それがあの人とのやく......だから」

「なんだ? よく聞こえないぞ?」

「アンタなんかに言ってないわよ!」


 やれやれだな。俺は再度犬を使ってシミルを探そうと考えたが、意外にも彼女は別の提案をしてくれた。とはいえあまり信用できるものではなかった。この国の人種はあんまり好みじゃない。仕方がないことには間違いないが。
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