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第14話
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「水蓮......」
彼女が無理やり俺の身体を横にずらした。その先には剣を構える彼の姿があった。水を帯びた剣が俺の首を狙っていた。
「鏡夜!」
珍しく今回は剣が対峙していた。彼女が身体を押さえてくれているおかげか。利用するだけやらせてもらおう。この三つ巴の戦いは俺のためにある。そう確信した。
体のことなどおかまいなし。傷? ナニソレオイシイノ? 俺の身体全体が剣に高揚を、快楽を覚えていた。肉が空気に触れる感触。
そして元の状態へと回復していく至福のとき、剣を首元に突き付けた瞬間俺の身体は最高潮の音楽を奏でていた。
「どうした、俺を殺すんじゃなかったのか?」
「その通りだ。お前の能力は少し不気味だ。シルナ以上に早いうちに処理しておいた方がよさそうだ」
その瞬間、水の散弾が俺の元へと飛び散った。こっちも厄介な能力持ちか。水系統の剣の攻撃に、水になれる能力。俺とそこまで変わらないじゃないか。
剣を構え態勢を整える。やることは簡単だ。だがアイツがいつ水になれるのか、見極める必要が出てきた。
「あいつ、前からあんななのか?」
「いえ、基本は触れることができていたはずですわ。わたくしの手に何度も口づけを交わしていましたが、ヘンな感触はいたしませんでしたもの」
そういやあるらしいな、そんな俺たちの国には無縁な挨拶方法。口づけをするあたりから意味不明だが、そこに文句を言うのはやめておこう。キリがない。
彼女の言うことが本当なら、好きな時に水になれるということになる。困ったもんだな。俺以上に問題だ。まぁバケツでもあればどうにかなるんだろうけどな。
「お前、電撃か何か使えないのか?」
「姫に電撃を求めようとするなど何たる野蛮! と我が勲士が叫びそうですが、護身用に見につけていますわ。残念ながら攻撃力は期待できませんが」
「それでも構わない、スキを見てアイツに一撃かましてくれ。そしたら元の身体に戻るはずだ」
わかりやすい確証のようなものはない。けれどそれでも水は電撃に嫌悪するのは間違いないはずだ。
「雷の精たちよ。我が前に集まりて、刃の糧となれ。エンチャント」
身体に痺れる感触がした。剣が黄色に光り男は顔色を変えた。
「そういや名前を聞いてなかったな。なんていうんだ?」
「ルブル・ケルティーニだ。お前の名前は死んでから調べることにしよう。気が向いたらの話だが」
慣れもしない剣を振り上げ走りかかる。彼は水で這うようにして地面を移動し、俺との距離を一定に保とうとした。そんなことをさせてばかりもいられない。
「エンチャント以外にも使えるんだろ?」
「可能なのですが、それはちょっと......」
「はぁ!? この危機的状況に冗談はよせよ! お前死にたいのか?」
「いえその......こればっかりは誰かに見られては......」
何かに恥ずかしがっている表情が見て取れた。事情なんか知ったことか、といいたいが強く攻められそうにもない。剣を振り上げ敵のスキを狙......
1つ忘れていたことがあった。俺、体力なかったわ。毎回毎回死別戦法を取ってばかりだったから、体が剣に慣れてない。
手は震え限界を示し、なぜか痺れている感触がアイツにでなく俺に伝わっているような気がした。
「さっきまでの威勢はどうした? まさかそれで終わりか?」
「お前は油断し過ぎなんだよ。確かに俺の何かを感じ取ったかもしれないけどな。俺がお前に勝つっていう事実は変わらないんだよ」
自信なんてない。むしろ決定していることだ。アイツには死が近く、俺には遠い。ただそれだけの違いだ。
ここで姿を隠す手段もあった。が、このお姫様の前ではそれも無意味。そうなればここはアレで行くか。
「そうか、根をあげたわけではないのか。ひとまずお前からいこう。おそらくどうやって俺がお前を倒すのか、理解しているとは思うがな」
敵の算段は簡単だ。水が使えればわざわざ戦う必要なんてない。俺とは違い奇襲して窒息させるパターンで間違いないだろう。
けれどそこに恐怖はなかった。痛みはあるだろうが、俺が死ぬことはたぶんない。もしかしたらということもあるだろうが、少なくともこのお姫様がそうさせないだろう。
「まぁ茶番もほどほどにしよう。圧倒的な力を見ればお前の考えも少しは変わるかもしれん」
水散弾が俺を通り抜けた。その瞬間、血の垂れる音がした。床には血のカーペットが広がりを見せていた。
「シルナ!」
「申し訳ありません。少しかすってしまったようで......」
「あとは任せろ。この場なら俺1人でいける」
「頼もしいですわね。さすがわたくしの夫となるかたですわ。きっと息子もすばらし......」
「うるさいこれ以上しゃべるな」
「あぅ......」
彼女を眠らせ敵と対峙する。エンチャントの効果は消えていない。勝機は大いにある。が、できることなら今はバキリアを気にしていたかった。
「彼女を何とかしなくていいのか? 30分もあれば出血でこの世を去ることになるぞ?」
「悪いが協力者ってだけで実際はあんまり関係がないんだよ。その辺はお前もその方が都合がいいんじゃないのか?」
「知ったような口ぶりだな。まぁ確かにお前の提案も悪くないといえるが、俺の考えは変わらんぞ。お前は見てはいけないものを目にしてしまった。だからこそ俺が断罪する」
さすがに味方とまではいかないか。どのみち兵士たちが戻ってきたら面倒だ。それまでにはかたをつけないとか。
援軍が来る様子はない。妙だな。100人をよこしたから、あと5倍ぐらいはいると思ったんだが......まぁ放っておくか。
こちらが有利であることに変わりはない。体を押さえつけられても何とかなることはすでにわかっている。だからこそ、今度は敵を見定める。水に分裂した瞬間に攻撃をかます。
それで最悪相打ちに近い状態にまで持ち込むことができる。俺ならアニメみたいなチーズになるはずもないだろうしな。
剣を振り下ろした瞬間、早速奴は俺の後ろを取った。両手を掴み俺を水で包んだ。マズい、酸素が......この場合どうなるんだ?
不安と衝動が身体を駆け巡る。それらが俺の中の空気を奪ってゆく。くそっ。このまま......
「カハッ......」
「不気味な能力だ。気に入らない。が、それでも貴様にてこずったことだけは素直に認めてやろう。おかげで新たな戦い方に目覚めた。騎士道精神には大幅にずれているものだが」
「気にすることはねぇよ。俺なんて最初からあってないようなものだからな」
雷の斬撃が敵を貫いた。彼女の乾いた床に新たな赤色が加えられる。
意外だったのは、水で死を認めると息が最大の状態に戻ることだった。つまりは無限だ。赤いおっさんと同じ能力。悪い気はしない。あとはファイアーボールでも投げれれば......いや、それは無理か。
敵は口から血をはきだし、まるで宿敵にスキを突かれたときのように俺を睨みつけた。
「いいだろう。貴様は血龍軍と戦うというのだな」
「お前を倒さなきゃ生きていけないというのなら、俺はそうする。例えそれがお前にとって最悪でも、俺にとっては最高なんだよ」
俺は話を聞く前に彼の顔を真っ二つにした。おそらくこれ以上は何かを聞こうとしても教えてはもらえないだろう。そしてここで倒れてるお姫様のことも。
こいつはシルナを殺したがっていた。ということは彼女も何かしらの能力を......
そう考えたいところだったが、彼女のエンチャントを思い出した。死ぬ間際の手段はそれだったんだ。他に手があるんだったら、最初からそうしていたはずだ。わざわざそうしない意味もわからない。
ひとまず彼女を連れて行こう。兵士の1人でもいれば治療くらいはできるだろう。本当ならバキリアを探しに向かいたいところだ。が、誰かが俺を見張っているような気がして俺は自分自身を隠した。
彼女が無理やり俺の身体を横にずらした。その先には剣を構える彼の姿があった。水を帯びた剣が俺の首を狙っていた。
「鏡夜!」
珍しく今回は剣が対峙していた。彼女が身体を押さえてくれているおかげか。利用するだけやらせてもらおう。この三つ巴の戦いは俺のためにある。そう確信した。
体のことなどおかまいなし。傷? ナニソレオイシイノ? 俺の身体全体が剣に高揚を、快楽を覚えていた。肉が空気に触れる感触。
そして元の状態へと回復していく至福のとき、剣を首元に突き付けた瞬間俺の身体は最高潮の音楽を奏でていた。
「どうした、俺を殺すんじゃなかったのか?」
「その通りだ。お前の能力は少し不気味だ。シルナ以上に早いうちに処理しておいた方がよさそうだ」
その瞬間、水の散弾が俺の元へと飛び散った。こっちも厄介な能力持ちか。水系統の剣の攻撃に、水になれる能力。俺とそこまで変わらないじゃないか。
剣を構え態勢を整える。やることは簡単だ。だがアイツがいつ水になれるのか、見極める必要が出てきた。
「あいつ、前からあんななのか?」
「いえ、基本は触れることができていたはずですわ。わたくしの手に何度も口づけを交わしていましたが、ヘンな感触はいたしませんでしたもの」
そういやあるらしいな、そんな俺たちの国には無縁な挨拶方法。口づけをするあたりから意味不明だが、そこに文句を言うのはやめておこう。キリがない。
彼女の言うことが本当なら、好きな時に水になれるということになる。困ったもんだな。俺以上に問題だ。まぁバケツでもあればどうにかなるんだろうけどな。
「お前、電撃か何か使えないのか?」
「姫に電撃を求めようとするなど何たる野蛮! と我が勲士が叫びそうですが、護身用に見につけていますわ。残念ながら攻撃力は期待できませんが」
「それでも構わない、スキを見てアイツに一撃かましてくれ。そしたら元の身体に戻るはずだ」
わかりやすい確証のようなものはない。けれどそれでも水は電撃に嫌悪するのは間違いないはずだ。
「雷の精たちよ。我が前に集まりて、刃の糧となれ。エンチャント」
身体に痺れる感触がした。剣が黄色に光り男は顔色を変えた。
「そういや名前を聞いてなかったな。なんていうんだ?」
「ルブル・ケルティーニだ。お前の名前は死んでから調べることにしよう。気が向いたらの話だが」
慣れもしない剣を振り上げ走りかかる。彼は水で這うようにして地面を移動し、俺との距離を一定に保とうとした。そんなことをさせてばかりもいられない。
「エンチャント以外にも使えるんだろ?」
「可能なのですが、それはちょっと......」
「はぁ!? この危機的状況に冗談はよせよ! お前死にたいのか?」
「いえその......こればっかりは誰かに見られては......」
何かに恥ずかしがっている表情が見て取れた。事情なんか知ったことか、といいたいが強く攻められそうにもない。剣を振り上げ敵のスキを狙......
1つ忘れていたことがあった。俺、体力なかったわ。毎回毎回死別戦法を取ってばかりだったから、体が剣に慣れてない。
手は震え限界を示し、なぜか痺れている感触がアイツにでなく俺に伝わっているような気がした。
「さっきまでの威勢はどうした? まさかそれで終わりか?」
「お前は油断し過ぎなんだよ。確かに俺の何かを感じ取ったかもしれないけどな。俺がお前に勝つっていう事実は変わらないんだよ」
自信なんてない。むしろ決定していることだ。アイツには死が近く、俺には遠い。ただそれだけの違いだ。
ここで姿を隠す手段もあった。が、このお姫様の前ではそれも無意味。そうなればここはアレで行くか。
「そうか、根をあげたわけではないのか。ひとまずお前からいこう。おそらくどうやって俺がお前を倒すのか、理解しているとは思うがな」
敵の算段は簡単だ。水が使えればわざわざ戦う必要なんてない。俺とは違い奇襲して窒息させるパターンで間違いないだろう。
けれどそこに恐怖はなかった。痛みはあるだろうが、俺が死ぬことはたぶんない。もしかしたらということもあるだろうが、少なくともこのお姫様がそうさせないだろう。
「まぁ茶番もほどほどにしよう。圧倒的な力を見ればお前の考えも少しは変わるかもしれん」
水散弾が俺を通り抜けた。その瞬間、血の垂れる音がした。床には血のカーペットが広がりを見せていた。
「シルナ!」
「申し訳ありません。少しかすってしまったようで......」
「あとは任せろ。この場なら俺1人でいける」
「頼もしいですわね。さすがわたくしの夫となるかたですわ。きっと息子もすばらし......」
「うるさいこれ以上しゃべるな」
「あぅ......」
彼女を眠らせ敵と対峙する。エンチャントの効果は消えていない。勝機は大いにある。が、できることなら今はバキリアを気にしていたかった。
「彼女を何とかしなくていいのか? 30分もあれば出血でこの世を去ることになるぞ?」
「悪いが協力者ってだけで実際はあんまり関係がないんだよ。その辺はお前もその方が都合がいいんじゃないのか?」
「知ったような口ぶりだな。まぁ確かにお前の提案も悪くないといえるが、俺の考えは変わらんぞ。お前は見てはいけないものを目にしてしまった。だからこそ俺が断罪する」
さすがに味方とまではいかないか。どのみち兵士たちが戻ってきたら面倒だ。それまでにはかたをつけないとか。
援軍が来る様子はない。妙だな。100人をよこしたから、あと5倍ぐらいはいると思ったんだが......まぁ放っておくか。
こちらが有利であることに変わりはない。体を押さえつけられても何とかなることはすでにわかっている。だからこそ、今度は敵を見定める。水に分裂した瞬間に攻撃をかます。
それで最悪相打ちに近い状態にまで持ち込むことができる。俺ならアニメみたいなチーズになるはずもないだろうしな。
剣を振り下ろした瞬間、早速奴は俺の後ろを取った。両手を掴み俺を水で包んだ。マズい、酸素が......この場合どうなるんだ?
不安と衝動が身体を駆け巡る。それらが俺の中の空気を奪ってゆく。くそっ。このまま......
「カハッ......」
「不気味な能力だ。気に入らない。が、それでも貴様にてこずったことだけは素直に認めてやろう。おかげで新たな戦い方に目覚めた。騎士道精神には大幅にずれているものだが」
「気にすることはねぇよ。俺なんて最初からあってないようなものだからな」
雷の斬撃が敵を貫いた。彼女の乾いた床に新たな赤色が加えられる。
意外だったのは、水で死を認めると息が最大の状態に戻ることだった。つまりは無限だ。赤いおっさんと同じ能力。悪い気はしない。あとはファイアーボールでも投げれれば......いや、それは無理か。
敵は口から血をはきだし、まるで宿敵にスキを突かれたときのように俺を睨みつけた。
「いいだろう。貴様は血龍軍と戦うというのだな」
「お前を倒さなきゃ生きていけないというのなら、俺はそうする。例えそれがお前にとって最悪でも、俺にとっては最高なんだよ」
俺は話を聞く前に彼の顔を真っ二つにした。おそらくこれ以上は何かを聞こうとしても教えてはもらえないだろう。そしてここで倒れてるお姫様のことも。
こいつはシルナを殺したがっていた。ということは彼女も何かしらの能力を......
そう考えたいところだったが、彼女のエンチャントを思い出した。死ぬ間際の手段はそれだったんだ。他に手があるんだったら、最初からそうしていたはずだ。わざわざそうしない意味もわからない。
ひとまず彼女を連れて行こう。兵士の1人でもいれば治療くらいはできるだろう。本当ならバキリアを探しに向かいたいところだ。が、誰かが俺を見張っているような気がして俺は自分自身を隠した。
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