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第3章 「爆撃士」
第18話
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僕は彼女がゆっくりと目を覚ますのを見届け彼女の寝室に飛び込む。彼女は僕を睨むように露骨に嫌そうな顔を見せ話したくない意思を見せる。
「おはようございますリラーシアさん。僕を弟子に......」
「しません。言ったはずですよ、私はあなたに興味こそありますが中途半端が嫌いなのです。騎士団としての職務も含め、以前はっきりとお断りしたはずです」
粘液生物の一件から、彼女はどうにか僕の修行のできる時間を確保したうえで弟子にすることができないかどうかを考えている、とミカロが彼女から聞いたと話してくれた。
そして僕をロビーに呼び出し理由もなしに断られた。ショックというよりも実際は疑問の方が大きかった。僕はてっきり彼女に実力を認めてもらえれば、彼女の課したクエストを見事すべてクリアすれば弟子にしてもらえる気でいた。そのせいか高揚のせいでチームの足を引っ張ることもあれば、あきらめない原動力にもなっていた。
そして何より彼女が僕を断った理由が疑問だった。“気が合わないから”そういわれれば彼女らしいと僕も少しだけ納得してしまうところがある。けれどそんな簡単な気持ちで僕はリラーシアさんを師匠に決めたわけではない。実力でも考え方でも僕を超えている、そして思ったことを淡々とハッキリ言える彼女だからこそ、僕は弟子入りを頼んだ。
はずだったけれど、その熱意は彼女に届いていなかったみたいだ。今から届けようにも彼女にとっては迷惑なのかもしれない。ふとそんな弱気な考えが浮かび僕は彼女の家から飛び出し自分の空間で落ち着くことに決める。
……なんだろうこの違和感。リラーシアさんはどうしてそこまで完璧にこだわるのだろう。僕は週に1度彼女と戦える程度でちょうどよいと思っている。確かに修行の部類にはいるかと言われればみんなが疑問に思うだろう。それでもクエスターを続けていく分には必要なことだ。修行のせいで倒れてしまってはファイスたちに申し訳ないし。
リラーシアさんの説得に失敗しては数々のクエストを眺めて、面白いものや自分ならクリアできるだろうか。そんな感想を考えつつ自分を慰めていた。
「今日もダメだった?」
背中から銀髪の女性の声がする。後ろを振り向くと気候に合わせ茶色のローブを身にまとったミカロが僕の隣に座り込む。彼女は僕がリラーシアさんを説得向かった3日目からこうやって2人で話をするようになっていた。
さすが僕の恩人というところだ。本来なら早朝だから絶対に気が付くはずもないのになぜか偶然にも僕とミカロは出会えた。ホントは星霊で僕を監視していたりして、と変な考えが浮かんでしまわなくもないのだけれど。
けれど何はともあれ、彼女に話を共有するおかげで僕の不安が少し和らいでいる。おかげで明日も彼女の家に向かえる。そんな気分になれる。
「不思議ですね。本当は心にとって痛いはずなのにもう何も感じないです。嫌な意味で慣れてしまったのかもしれないですね」
「……そっか。けどそれだけシオンが頑張ってリラを説得しようとしてるってことだよね。体もそれに対応してくれてるってことじゃないかな」
彼女は髪をふりほどき再び後頭部で結びなおした。その手慣れた姿と露わになったうなじに僕は考えも言葉も失い、彼女との会話のキャッチボールを忘れてしまっていた。
彼女がそれに気が付くと彼女は僕に“見惚れてた?”と悪い冗談をかけてきた。もちろん心の中だけは素直に答えた。彼女の銀髪が輝いていたせいもあって思わず身体は素直に反応してしまっただけだ。気にする必要はない。
「明日も行くの?」
「認めてもらうまでは、って自分の中で決めましたから」
「……そっか。あのねシオン、シオンのそういう真っすぐなところすっごくいいと思うよ! 行動に出てるだけでも他の人たちとは全然違うし! でも......リラじゃなきゃダメなの?」
「え?」
彼女は意図的に僕から目を逸らした。どういうことだ、もしかしてリラーシアさんには何か僕を断らざるを得ない理由があったのか? それとももうすでに弟子がいるのか? いや、そんなことがあり得るのか? 本人が教えてくれない以上どうすることもできないのが事実だけれど。
彼女は両手で僕の手を包んだまま離そうとしない。柔らかく温かいその感触はいい意味で異質を感じさせる。この飽きない何度でも触れていたい思いに駆られてしまう。
「私じゃダメかな? 確かにリラみたいに計画性がないってよく文句言われるし、ちょっと頼りないってシオンも思ってるかもしれないけど、シオンの修行の相手にだったらなれるかもしれないし......」
彼女は勇気を振り絞ってその言葉を僕にぶつけてくれたのだろう。たとえ否定されても構わない。そんな僕と同じ意思をもって僕の考えを変えようとしてくれた。
……でも僕の考えは決まっていた。特にミカロは鍛錬をしようか迷ったこともあった。けれど、彼女は僕にとってかけがえのない人だ。なぜだか戦ってはいけないような気がしてならない。
確かにミカロの実力は一般の人たちから見れば脅威的だ。水を操り光を操り火を放てる。人々は天災と呼ぶかもしれない。仲間ということを忘れて彼女と戦う。考えられなくもないことだ。でも、僕の身体がそれを否定しているんだ。前に彼女からある手紙を奪われたことがある。内容は病院からのどうでもいいものだったけれどミカロに心配をかけまいと彼女から盗み取ろうとした瞬間、僕の動きが一瞬ではあるが止まってしまった。
その経験から僕は彼女とは鍛錬ができない。実践であればなおさら危険だ。彼女自身が傷つく可能性だってある。
「すみませんミカロ、もう決めたことなんです。リラーシアさんに認めてもらわないとこの先の困難に逃げてしまうような気がして......僕がしょんぼりしていたら、また慰めに来てくれますか?」
「いいよ、何度だって慰めてあげるよ。私たちは仲間だもん。でも......リラには強引な手は通じないってもうわかってるでしょ?」
彼女は僕から目を逸らし残酷な言葉を僕に突き付けた。彼女の言うように他人から見れば僕のしている行動は二の舞だ。リラーシアさんに受け入れられていると信じ疑わない。自信のない根拠を主張しているだけだ。
リラーシアさんには何が通用するのか確かめてみる必要がある。
「少し方法を変えてみようと思います。ミカロも少し手伝ってくれますか?」
「いいよ! 私にできることならなんでもするよ!」
彼女の真っすぐな笑顔が戻るとほっとする。話せてよかった。明日からは世界が違って見えるだろう。
★☆★
次の日リラーシアさんの顔に見えたものは驚きだった。それもそうだろう。いつものように侵入してきたと思っていたのは僕ではなく親友のミカロ・タミアだったのだから驚くのも当然だ。僕は彼女たちの話を聞くわけでもなく、リラーシアさんの家の前で誰かを待つわけでもリラーシアさんの家に入るわけでもなく、ただひたすらに立ち続けていた。
第一に僕の考えは間違っていたことへの謝罪が必要だった。僕も毎朝誰かが部屋に入り込んでいると想像すると今更恐ろしい。それを遠回しではあるけれど理解してもらうために僕はリラーシアさんの家に訪れるかもしれない不快を払いのけることにし、ミカロにはリラーシアさんの今まで張りすぎていた警戒を解いてもらうように頼んだ。
本来ならこんなことをせずとも僕が彼女に詫びを入れればいいのだけれど、彼女の性格を考えればこれが最も簡単な方法にあたる。“別にあなたのことを気にしていませんでしたので、謝罪など無用です”と言われてしまってはこっちとしても再び近づこうとするのは難しい。
とはいえ自分で納得したものの立ち続けているのは意外と難しい。動いてもいいのだけれどそれで疲れてしまっては意味がない。いつやってくるかわからない敵を待つための集中力を養う。そう考えればまだ自分の行動に納得がいく気がした。
「おはようございますリラーシアさん。僕を弟子に......」
「しません。言ったはずですよ、私はあなたに興味こそありますが中途半端が嫌いなのです。騎士団としての職務も含め、以前はっきりとお断りしたはずです」
粘液生物の一件から、彼女はどうにか僕の修行のできる時間を確保したうえで弟子にすることができないかどうかを考えている、とミカロが彼女から聞いたと話してくれた。
そして僕をロビーに呼び出し理由もなしに断られた。ショックというよりも実際は疑問の方が大きかった。僕はてっきり彼女に実力を認めてもらえれば、彼女の課したクエストを見事すべてクリアすれば弟子にしてもらえる気でいた。そのせいか高揚のせいでチームの足を引っ張ることもあれば、あきらめない原動力にもなっていた。
そして何より彼女が僕を断った理由が疑問だった。“気が合わないから”そういわれれば彼女らしいと僕も少しだけ納得してしまうところがある。けれどそんな簡単な気持ちで僕はリラーシアさんを師匠に決めたわけではない。実力でも考え方でも僕を超えている、そして思ったことを淡々とハッキリ言える彼女だからこそ、僕は弟子入りを頼んだ。
はずだったけれど、その熱意は彼女に届いていなかったみたいだ。今から届けようにも彼女にとっては迷惑なのかもしれない。ふとそんな弱気な考えが浮かび僕は彼女の家から飛び出し自分の空間で落ち着くことに決める。
……なんだろうこの違和感。リラーシアさんはどうしてそこまで完璧にこだわるのだろう。僕は週に1度彼女と戦える程度でちょうどよいと思っている。確かに修行の部類にはいるかと言われればみんなが疑問に思うだろう。それでもクエスターを続けていく分には必要なことだ。修行のせいで倒れてしまってはファイスたちに申し訳ないし。
リラーシアさんの説得に失敗しては数々のクエストを眺めて、面白いものや自分ならクリアできるだろうか。そんな感想を考えつつ自分を慰めていた。
「今日もダメだった?」
背中から銀髪の女性の声がする。後ろを振り向くと気候に合わせ茶色のローブを身にまとったミカロが僕の隣に座り込む。彼女は僕がリラーシアさんを説得向かった3日目からこうやって2人で話をするようになっていた。
さすが僕の恩人というところだ。本来なら早朝だから絶対に気が付くはずもないのになぜか偶然にも僕とミカロは出会えた。ホントは星霊で僕を監視していたりして、と変な考えが浮かんでしまわなくもないのだけれど。
けれど何はともあれ、彼女に話を共有するおかげで僕の不安が少し和らいでいる。おかげで明日も彼女の家に向かえる。そんな気分になれる。
「不思議ですね。本当は心にとって痛いはずなのにもう何も感じないです。嫌な意味で慣れてしまったのかもしれないですね」
「……そっか。けどそれだけシオンが頑張ってリラを説得しようとしてるってことだよね。体もそれに対応してくれてるってことじゃないかな」
彼女は髪をふりほどき再び後頭部で結びなおした。その手慣れた姿と露わになったうなじに僕は考えも言葉も失い、彼女との会話のキャッチボールを忘れてしまっていた。
彼女がそれに気が付くと彼女は僕に“見惚れてた?”と悪い冗談をかけてきた。もちろん心の中だけは素直に答えた。彼女の銀髪が輝いていたせいもあって思わず身体は素直に反応してしまっただけだ。気にする必要はない。
「明日も行くの?」
「認めてもらうまでは、って自分の中で決めましたから」
「……そっか。あのねシオン、シオンのそういう真っすぐなところすっごくいいと思うよ! 行動に出てるだけでも他の人たちとは全然違うし! でも......リラじゃなきゃダメなの?」
「え?」
彼女は意図的に僕から目を逸らした。どういうことだ、もしかしてリラーシアさんには何か僕を断らざるを得ない理由があったのか? それとももうすでに弟子がいるのか? いや、そんなことがあり得るのか? 本人が教えてくれない以上どうすることもできないのが事実だけれど。
彼女は両手で僕の手を包んだまま離そうとしない。柔らかく温かいその感触はいい意味で異質を感じさせる。この飽きない何度でも触れていたい思いに駆られてしまう。
「私じゃダメかな? 確かにリラみたいに計画性がないってよく文句言われるし、ちょっと頼りないってシオンも思ってるかもしれないけど、シオンの修行の相手にだったらなれるかもしれないし......」
彼女は勇気を振り絞ってその言葉を僕にぶつけてくれたのだろう。たとえ否定されても構わない。そんな僕と同じ意思をもって僕の考えを変えようとしてくれた。
……でも僕の考えは決まっていた。特にミカロは鍛錬をしようか迷ったこともあった。けれど、彼女は僕にとってかけがえのない人だ。なぜだか戦ってはいけないような気がしてならない。
確かにミカロの実力は一般の人たちから見れば脅威的だ。水を操り光を操り火を放てる。人々は天災と呼ぶかもしれない。仲間ということを忘れて彼女と戦う。考えられなくもないことだ。でも、僕の身体がそれを否定しているんだ。前に彼女からある手紙を奪われたことがある。内容は病院からのどうでもいいものだったけれどミカロに心配をかけまいと彼女から盗み取ろうとした瞬間、僕の動きが一瞬ではあるが止まってしまった。
その経験から僕は彼女とは鍛錬ができない。実践であればなおさら危険だ。彼女自身が傷つく可能性だってある。
「すみませんミカロ、もう決めたことなんです。リラーシアさんに認めてもらわないとこの先の困難に逃げてしまうような気がして......僕がしょんぼりしていたら、また慰めに来てくれますか?」
「いいよ、何度だって慰めてあげるよ。私たちは仲間だもん。でも......リラには強引な手は通じないってもうわかってるでしょ?」
彼女は僕から目を逸らし残酷な言葉を僕に突き付けた。彼女の言うように他人から見れば僕のしている行動は二の舞だ。リラーシアさんに受け入れられていると信じ疑わない。自信のない根拠を主張しているだけだ。
リラーシアさんには何が通用するのか確かめてみる必要がある。
「少し方法を変えてみようと思います。ミカロも少し手伝ってくれますか?」
「いいよ! 私にできることならなんでもするよ!」
彼女の真っすぐな笑顔が戻るとほっとする。話せてよかった。明日からは世界が違って見えるだろう。
★☆★
次の日リラーシアさんの顔に見えたものは驚きだった。それもそうだろう。いつものように侵入してきたと思っていたのは僕ではなく親友のミカロ・タミアだったのだから驚くのも当然だ。僕は彼女たちの話を聞くわけでもなく、リラーシアさんの家の前で誰かを待つわけでもリラーシアさんの家に入るわけでもなく、ただひたすらに立ち続けていた。
第一に僕の考えは間違っていたことへの謝罪が必要だった。僕も毎朝誰かが部屋に入り込んでいると想像すると今更恐ろしい。それを遠回しではあるけれど理解してもらうために僕はリラーシアさんの家に訪れるかもしれない不快を払いのけることにし、ミカロにはリラーシアさんの今まで張りすぎていた警戒を解いてもらうように頼んだ。
本来ならこんなことをせずとも僕が彼女に詫びを入れればいいのだけれど、彼女の性格を考えればこれが最も簡単な方法にあたる。“別にあなたのことを気にしていませんでしたので、謝罪など無用です”と言われてしまってはこっちとしても再び近づこうとするのは難しい。
とはいえ自分で納得したものの立ち続けているのは意外と難しい。動いてもいいのだけれどそれで疲れてしまっては意味がない。いつやってくるかわからない敵を待つための集中力を養う。そう考えればまだ自分の行動に納得がいく気がした。
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