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第3章 「爆撃士」
第19話
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ミカロとリラーシアさんが楽しそうに会話をしている姿が窓越しに見える。いや正確には彼女がリラーシアさんを楽しませているといった具合だろうか。たぶん過去の話をしているんだろうなぁ。こんなつまらないことをしただとか一緒に行ったどこどこは楽しかったとか、2人にしかない思い出を語ってリラーシアさんの素の心を思い出させているに違いない。
――僕は窓越しに見ているのがお似合いな気がする―― 不思議とそう思った。
ミカロと目が合い彼女は僕に手を振った。振り返しつつリラーシアさんと目が合う。彼女は優しく猫のような手招きをすると、一応後ろを確認して僕は彼女の家に上がり込んだ。足が疲れてきていたからちょうどよかった。
リラーシアさんは僕たちが来るよりも早く朝食を済ませていたのか、メープルシロップの香りが部屋中に広がっていた。たぶんパンケーキだろうけど想像もつかないな。ミカロの影響だったりするのだろうか。僕はカップに紅茶を注ぐ。薄い緑色、珍しい色だ。ミカロから勧められた黒いやつよりはまだおいしそうな気がする。
「……わざわざ謝罪措置など取らなくてもよかったのですが、残念ながらミカロの意思を受けつつあるあなたにはそれは通用しない気がします」
「そんなわけにはいきませんよ。僕のせいでリラーシアさんの生活が変わってしまったのは確かですからね」
彼女の言葉に表情が見えたような気がする。ミカロと話しているときのような冷たいけれどその中にほっこりとした温かみを感じる。
悪くない感覚だ。やっぱりミカロに協力してもらってよかった。今日も昨日と同じ行動をしていたと思うと恐ろしい。
「いいんじゃないかなリラ? シオンはやられたらやり返す......じゃなくってやっちゃったら恩返し? ってことでやってるみたいだし」
「……ミカロに言われると少し納得がいく気もしないのですが、あなたもその恩返しに巻き込まれているのではないですか?」
さすが正星騎士団だ、といったところだろうか。彼女の言葉の1つ1つに鋭利なものが隠れている。ミカロは顔色を変えなかったが彼女のすごさには間違いなく気づいているだろう。
「私は構わないよ。最近やりたいことも少ないし、それにシオンの記憶を戻す手掛かりになるかもしれないから。それに最近リラとは話ができてない気もしてたから。調子は悪くないみたいだね」
親友の2人の会話に入ってよいべきか迷う。確かに僕はミカロにリラーシアさんが素直に、いやリラックスした状態で話ができるようお願いした。けれど僕が会話の和に入ってしまったことで彼女に影響を与え、壁を作ってしまったのではないかと不安に思う。
いや、それがさっきのリラーシアさんの策だったのかもしれない。自衛のために疲れを見せ始めた僕を招き入れ、あえて話を遮断しやすくして会話の流れを変えつつも僕を休める互いに平和的なウィンウィンの関係を築こうとしたのかもしれない。
しまった、いまさらそんなことに気が付くなんて。まだ間に合うか。いや巻き返すしかない。
「リラーシアさんすみませんでした。何度も何度も女性の部屋に無理やり押しかけてしまって。僕の考えが浅はかでした」
僕は初めて誰かに頭を下げた。体全体がこの行動に慣れていない気がする。頭をあげるべきタイミングもわからない。
思い返せばなぜあんな行動をとってしまったのだろう。あれを見れば普通はみんな泥棒だと思うに違いない。けれどリラーシアさんはそれを気に留めている様子はなかった。それが僕にとっては良い意味であったことは間違いない。強くなるためにはただ突き進めばいいというわけではないのだと彼女が教えてくれたような気がした。
ミカロの髪が何度も振り乱れている。きっとリラーシアさんに察してほしいことがあったのだろうけれど、僕は目を閉じ彼女の言葉を待った。たとえどれだけの時間を使うことになるとしても構わない。大切なのは思いを形作ることだ。意味のあることに時間をかける気分は悪くない。
僕はリラーシアさんに頭を上げるよう言われると、身体の息を入れ替え彼女の顔を見る。いつもと変わらない冷静な目つきだ。けれどむしろ清々しい気分になれた。ミカロに注(つ)いでもらった紅茶を口に含む。
「いえ......むしろ問題のあった行動をしたのは私かもしれません。希望のあるような行動を見せておきながら、それを実現させることができなかった責任は私にあります」
「いいんですよ、リラーシアさんにも休む時間は必要ですから。それに......」
僕はこのときの自分が何を言っているのか理解していなかった。心臓は高鳴っていたけれど流れるように出てくる言葉の前に僕の心は冷静だった。
諦めがついているのか? そんなはずがない。リラーシアさんの実力を何より体感しただろう?
いつかあれほどの衝撃が敵として現れたらどうする? 仲間を犠牲に逃げるのか? ただ鼓動だけが僕の身体の中で流れに逆らい熱を発する。僕の身体はその異常を排除することなく無視した。
我を忘れている場合じゃない。目の前にいるリラーシアさんの姿を確認したとき、ミカロの服が僕の目の前に飛んできた。身体中に柔らかい感触がある。彼女が僕に向かって飛び込んできたのか。それと同時に彼女のテーブルに火が放たれた。
家から脱出し敵の姿を確認する。いない。日があるもののあくまで姿を見せようとはしないというところか。ちょっと厄介だな。敵は向かってくる方がむしろうれしい。姿の確認できない相手ほど、無駄に警戒や考えが増える。相手もそれを理解していると考えると少し冴えているのかもしれない。
僕とリラーシアさんはその場に残りミカロには正星議院へと向かってもらった。リラーシアさんの通信デバイスが妨害されている。やっぱり用意周到だ。強い人には同等以上の人物が引き寄せられるのは間違いないだろう。僕たちは背中合わせに互いを守る隊形を取り僕は後ろからくる火の粉を感じていた。
「やっぱり今日来てよかったです。強い人には誰もが引き寄せられちゃうんでしょうか」
「私は少なくともその真意が理解できません。それに誰かのせいで生活リズムを狂わされたこともありますから、それを含めても不愉快です」
いつもの冷静な文句に僕は苦笑いでしか答えることができない。これからさらに狂わせて正常にしていくのだ。まぁそうなってくると彼女の体はどちらが正しいのか迷うかもしれないけど。
そんなのんきなことを話していたら、僕の目の前に水のカーテンのような衣をまとった女性が姿を見せた。リラーシアさんが力を入れている気がする。もう一人の人物がいるようだ。
周囲の木々は電灯のように自らを犠牲に周囲を明るくし、僕たちを取り囲んだ。汗が流れる。敵の足元に冷たそうな水溜まりが見える。うらやましい。
『裁きを』
その言葉が聞こえた瞬間、リラーシアさんは飛び出し僕も続く。女性はしなやかに僕の攻撃をかわし足を勢いよく顔に突き出す。思い切り水をたたきつけられるような感覚? いやそんなものはまだカワイイ方だ。木が1本倒れる音がした。一撃たりともくらうわけにはいかなくなってしまった。
銃撃を弾く。まだ敵がいるのか? 違った、リラーシアさんと戦いつつ男が砲撃をしてきたのか。ずいぶんと余裕に見えたのか彼女の力の度合いがさらに強くなったのを感じる。
僕が2段の足蹴りを避けた瞬間、男が彼女の後ろから姿を現し砲撃を僕の目の前に構える。それをかわそうと後ろに下がろうとした瞬間、リラーシアさんの攻撃に場所を譲る。
彼らは砲撃を囮に距離を取り立て直す。リラーシアさんは砲撃をすべて弾き剣を彼らに突き付ける。彼らはいったい誰だ。
――僕は窓越しに見ているのがお似合いな気がする―― 不思議とそう思った。
ミカロと目が合い彼女は僕に手を振った。振り返しつつリラーシアさんと目が合う。彼女は優しく猫のような手招きをすると、一応後ろを確認して僕は彼女の家に上がり込んだ。足が疲れてきていたからちょうどよかった。
リラーシアさんは僕たちが来るよりも早く朝食を済ませていたのか、メープルシロップの香りが部屋中に広がっていた。たぶんパンケーキだろうけど想像もつかないな。ミカロの影響だったりするのだろうか。僕はカップに紅茶を注ぐ。薄い緑色、珍しい色だ。ミカロから勧められた黒いやつよりはまだおいしそうな気がする。
「……わざわざ謝罪措置など取らなくてもよかったのですが、残念ながらミカロの意思を受けつつあるあなたにはそれは通用しない気がします」
「そんなわけにはいきませんよ。僕のせいでリラーシアさんの生活が変わってしまったのは確かですからね」
彼女の言葉に表情が見えたような気がする。ミカロと話しているときのような冷たいけれどその中にほっこりとした温かみを感じる。
悪くない感覚だ。やっぱりミカロに協力してもらってよかった。今日も昨日と同じ行動をしていたと思うと恐ろしい。
「いいんじゃないかなリラ? シオンはやられたらやり返す......じゃなくってやっちゃったら恩返し? ってことでやってるみたいだし」
「……ミカロに言われると少し納得がいく気もしないのですが、あなたもその恩返しに巻き込まれているのではないですか?」
さすが正星騎士団だ、といったところだろうか。彼女の言葉の1つ1つに鋭利なものが隠れている。ミカロは顔色を変えなかったが彼女のすごさには間違いなく気づいているだろう。
「私は構わないよ。最近やりたいことも少ないし、それにシオンの記憶を戻す手掛かりになるかもしれないから。それに最近リラとは話ができてない気もしてたから。調子は悪くないみたいだね」
親友の2人の会話に入ってよいべきか迷う。確かに僕はミカロにリラーシアさんが素直に、いやリラックスした状態で話ができるようお願いした。けれど僕が会話の和に入ってしまったことで彼女に影響を与え、壁を作ってしまったのではないかと不安に思う。
いや、それがさっきのリラーシアさんの策だったのかもしれない。自衛のために疲れを見せ始めた僕を招き入れ、あえて話を遮断しやすくして会話の流れを変えつつも僕を休める互いに平和的なウィンウィンの関係を築こうとしたのかもしれない。
しまった、いまさらそんなことに気が付くなんて。まだ間に合うか。いや巻き返すしかない。
「リラーシアさんすみませんでした。何度も何度も女性の部屋に無理やり押しかけてしまって。僕の考えが浅はかでした」
僕は初めて誰かに頭を下げた。体全体がこの行動に慣れていない気がする。頭をあげるべきタイミングもわからない。
思い返せばなぜあんな行動をとってしまったのだろう。あれを見れば普通はみんな泥棒だと思うに違いない。けれどリラーシアさんはそれを気に留めている様子はなかった。それが僕にとっては良い意味であったことは間違いない。強くなるためにはただ突き進めばいいというわけではないのだと彼女が教えてくれたような気がした。
ミカロの髪が何度も振り乱れている。きっとリラーシアさんに察してほしいことがあったのだろうけれど、僕は目を閉じ彼女の言葉を待った。たとえどれだけの時間を使うことになるとしても構わない。大切なのは思いを形作ることだ。意味のあることに時間をかける気分は悪くない。
僕はリラーシアさんに頭を上げるよう言われると、身体の息を入れ替え彼女の顔を見る。いつもと変わらない冷静な目つきだ。けれどむしろ清々しい気分になれた。ミカロに注(つ)いでもらった紅茶を口に含む。
「いえ......むしろ問題のあった行動をしたのは私かもしれません。希望のあるような行動を見せておきながら、それを実現させることができなかった責任は私にあります」
「いいんですよ、リラーシアさんにも休む時間は必要ですから。それに......」
僕はこのときの自分が何を言っているのか理解していなかった。心臓は高鳴っていたけれど流れるように出てくる言葉の前に僕の心は冷静だった。
諦めがついているのか? そんなはずがない。リラーシアさんの実力を何より体感しただろう?
いつかあれほどの衝撃が敵として現れたらどうする? 仲間を犠牲に逃げるのか? ただ鼓動だけが僕の身体の中で流れに逆らい熱を発する。僕の身体はその異常を排除することなく無視した。
我を忘れている場合じゃない。目の前にいるリラーシアさんの姿を確認したとき、ミカロの服が僕の目の前に飛んできた。身体中に柔らかい感触がある。彼女が僕に向かって飛び込んできたのか。それと同時に彼女のテーブルに火が放たれた。
家から脱出し敵の姿を確認する。いない。日があるもののあくまで姿を見せようとはしないというところか。ちょっと厄介だな。敵は向かってくる方がむしろうれしい。姿の確認できない相手ほど、無駄に警戒や考えが増える。相手もそれを理解していると考えると少し冴えているのかもしれない。
僕とリラーシアさんはその場に残りミカロには正星議院へと向かってもらった。リラーシアさんの通信デバイスが妨害されている。やっぱり用意周到だ。強い人には同等以上の人物が引き寄せられるのは間違いないだろう。僕たちは背中合わせに互いを守る隊形を取り僕は後ろからくる火の粉を感じていた。
「やっぱり今日来てよかったです。強い人には誰もが引き寄せられちゃうんでしょうか」
「私は少なくともその真意が理解できません。それに誰かのせいで生活リズムを狂わされたこともありますから、それを含めても不愉快です」
いつもの冷静な文句に僕は苦笑いでしか答えることができない。これからさらに狂わせて正常にしていくのだ。まぁそうなってくると彼女の体はどちらが正しいのか迷うかもしれないけど。
そんなのんきなことを話していたら、僕の目の前に水のカーテンのような衣をまとった女性が姿を見せた。リラーシアさんが力を入れている気がする。もう一人の人物がいるようだ。
周囲の木々は電灯のように自らを犠牲に周囲を明るくし、僕たちを取り囲んだ。汗が流れる。敵の足元に冷たそうな水溜まりが見える。うらやましい。
『裁きを』
その言葉が聞こえた瞬間、リラーシアさんは飛び出し僕も続く。女性はしなやかに僕の攻撃をかわし足を勢いよく顔に突き出す。思い切り水をたたきつけられるような感覚? いやそんなものはまだカワイイ方だ。木が1本倒れる音がした。一撃たりともくらうわけにはいかなくなってしまった。
銃撃を弾く。まだ敵がいるのか? 違った、リラーシアさんと戦いつつ男が砲撃をしてきたのか。ずいぶんと余裕に見えたのか彼女の力の度合いがさらに強くなったのを感じる。
僕が2段の足蹴りを避けた瞬間、男が彼女の後ろから姿を現し砲撃を僕の目の前に構える。それをかわそうと後ろに下がろうとした瞬間、リラーシアさんの攻撃に場所を譲る。
彼らは砲撃を囮に距離を取り立て直す。リラーシアさんは砲撃をすべて弾き剣を彼らに突き付ける。彼らはいったい誰だ。
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