七つの星の英雄~僕は罪人~

ミシェロ

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第6章 「鬼人」

第59話

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「それにしてもどうしてヒラユギには幻惑が効かないのだ? 何か護りを張っているのか?」

「いや物理的なものじゃ。この“幻除けの札”が余を守っているのじゃ。とはいえ小さいころから欲を薄くするよう言われておったから、影響が少ないのかもしれんの」

 小さいころ......6歳ぐらいかな? 口にしたら見境なく背中を叩かれそうだ。それは勘弁したい。

 僕たちはお札の予備がないかどうか尋ねた。けれどその恩恵をあずかることはなかった。心の帯を引き締めて向かうしかないか。いざというときはヒラユギが何とかしてくれる。

「感情に必要なのは理解じゃ。それがなによりぬしらの心の拠り所となろう」

「それなら1人ずつに分かれませんか? 少なくともさっきの笑顔の人の能力は受けないと思いますけど」

「そうかの? あれはただ男女を|密着(イチャイチャ)させるものだとは考えにく......」

 空気が変わった。建物天井に4人の影。囲まれたか。

「キオウ、お前が怒りを見せるときが来るとはな。感情を保つのが一番楽なはずだろう?」

「ドオウに言われたくはない。お前はむしろ感情を保っているだけで建物を壊す。迷惑な話だ」

「喧嘩なんてどうでもよいではないか。早く片付けよう。そして寝よう」

「……」

 赤髪の一撃に僕たちは倒れこみつつ距離を保つ。後ろに藍色髪の男が現れ......

 僕たちは散開し互いに敵を決める。その瞬間僕はさっきの彼に背中を叩かれる。

 くっ、今エイビスに飛びつくわけにはいかない。ヒラユギさんも遠い、さすがに4人だと解除する時間をくれはしないだろう。

 好きだ。好きだ。大好きだ。君のことが愛しくてたまらない。僕は、僕は......金髪の女性、君のことが好きだ!

 身体が動く。彼女を思うと力が湧いてくる。けれどこれはまさか......
気にしない。飛び上がる。エイビスがうずくまっている。

「エイビス!」

「いいのですシオンさま。わたくしなんてそこにある石と何ら変わりません。汚く何より意味のない存在ですから......」

「エイビスは任せい。目の前の敵には気をつけよ」

「お願いします」

 藍色の髪型。彼がエイビスを。さっきの考えが通用するなら、もしかすると。

 拳の一撃。流れ込んでくる。

 どうしていままで金髪の女性を熱心に探そうとしなかったのだろう。たとえお金がなくったって生きていけるすべはあったのに。

自分のせいでミカロは入院することになってしまった。もしそうしていなければ......そうだ。僕はミカロを傷つけてしまった。だから僕が彼女を守るんだ。彼女が僕を救ってくれたように。

 僕はこんなことで立ち止まってなんていられないじゃないか!

「武装発光(ウェポンライト)!」

 彼のスキを突き上空にはね上げる。

「一手で決めるなり、シオン!」

「はい!」

「哀想潔裁!」

 彼の金色の腕は砕け白い肌を見せる。彼は壁に飛んだかと思えば意識を失っていた。そこまで強さはない。感情に頼り過ぎているのか。ヒラユギは強い。合わせるタイミングもバッチリだった。

 エイビスの位置へと移動する。彼女の剣先にいたのは、ナクルス。

「ナクルス......さん」

「燃やす......何もかも」

 僕の一撃で彼は距離を作る。態勢を立て直し敵の位置を確認する。ナクルスが近づく。

「行きますよエイビス!」

「はい!」

 赤髪の男に接近を図る。位置を切り替えナクルスが後ろから追いかける。鉾を後ろに構え反撃の態勢。光なら届くはずだ。

 彼は僕を9時の空に飛ばした。目の前に現れたのは、笑顔の男。そして青髪の彼。

「炎舞・放爆!」
「燕舞・流水!」
「高速三連刄!」

 笑顔はどこの空。僕を睨み彼は壁に飛んで行った。

「悪くない策だっただろう?」

「とっても良い演技でしたわ。シオンさまが助けに来てしまったことが少し気がかりでしたが」

「そういう作戦なら先に教えてくださいよ。あとごめんなさい......」

「わたくしは感謝していますわ。シオンさまがそれだけわたくしのことを慕っているということですから」

「呑気に話している暇はない。気絶を優先させろ」

「やめてくださいまし! こんな争いなんてそんな醜いこと......こりごりですわ」

 彼らはどこまで僕らを試すつもりだ。もう何も信じない。ただ信じることがあるとすれば、彼らを倒すこと。それだけだ。

 いや、それが彼らの思惑なのかもしれない。

「まさか今のがワタシの本心とでも思ったわけじゃないでしょうね?」

 彼女の荒々しい声。聞くのは久しぶりだ。少しだけ頭の中に何度か流してしまう。

「エイビスさん!」

「そもそも精神が2つある時点でワタシたちは無敵なのよ。ま、アイツはそれを快く思ってはいないようだけどね」

「ええ。わたくしは自立すると決めましたの。ですから彼女のお力添えは、施しをなくしたいのです」

 力を抜き笑顔の彼を探す。どこだ。残骸の中にいる様子はない。横から拳が飛んできた。もったいない。せっかくの笑顔が台無しだ。彼の顔は憎悪に染まっていた。

「あなたもそんな顔をするってことは、修行が足りていないんじゃないですか?」

「痛いところを突いてくるね。でも無駄だよ。君はこの教がただ我慢するだけの存在だと思うかい?」

 攻撃が素早い。飛び上がって攻撃しようにも直観が前に出てはいけないと教える。彼は僕を覗いた場所を地に着くまでに攻撃してきた。挑発にしては面白くない。フォメアの一撃で何とかなりはしないか。

「よそ見厳禁だよ」

 彼の一撃をもろに受けた。エイビスが僕の衝撃を和らげようと近づく。僕たちは民家に突っ込んだ。

「笑顔は任せる。余とナクルス、フォメアはもう1人をやる」

「了解です。任せてくだ、カハッ......」

 出血。これ以上攻撃をくらうわけにはいかないな。エイビスもいる。一撃で決めるか。違和感はその後にしよう。

「まぁこれだけでやられるわけないよね。2発目!」

 上空からの攻撃。波動の嵐が降り注ぐ。武装発光を使わせてもらえそうにない。

 彼の顔に何かが近づく。

「シオンさま!」

 彼女の胸が突っ込んできた。光が彼女の背中を包む。彼女の手に取られるまま距離を得る。

「逃がすわけないじゃんよぉ!」

 彼女の手を振りはらい敵に突き進む。思い一撃。まだだ。ここを破られたら負ける。左拳を振り上げる。そんなに戦いたいならやってやる。笑顔に後悔することになっても知りませんよ。

 彼の腕を下にずらし顔面を狙う。それと同時にエイビスが入りこんでくる。彼女は僕に|片目瞬き(ウインク)をし、彼の顔面に一撃を貫く。

「凛牙一通!」
「狼怒の鉄槌!」

 剣が彼の目を貫き、がら空きの顔面を僕が叩く。彼は顔を隠し建物に突っ込んだ。身体から力が抜けていく。まずいな。このままだともたな......

 僕は彼女の膝に背中を預けた。まったく情けない。

「シオンさまは無理をし過ぎですわ。おかげさまでもう星が限界にきているではありませんか」

「反省は後にしましょう。今はそれよりも」

:すまん、フォメアとナクルスを回収できるか? 
2人とも全力で戦いすぎたようじゃ。余は......か......ら

 通信が悪い。やっぱり最後まで残った1人が一番手ごわいわけか。ナクルスたちを回収するか。少し問題が残るけど。

:心配ない。フォメアは俺が連れて戻る。後は任せるぞシオン

:了解です! 任せてください!

 空元気が出せるようになった。これならまだ星は使えるな。薬っと。ごくっ、まずい。

 藍色の彼が姿を見せる。やっぱりか。あっさり過ぎると思った。やっぱり一番弱いのは笑顔の彼のようだ。
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