62 / 76
第6章 「鬼人」
第62話
しおりを挟む
ヒラユギさんを1本の鎖が貫いた。シオンさまを建物に寄りかからせ敵に斬りかかる。鎖を別の建物に付け逃げ出す。やはりまだ敵がいましたの。狙いは一体なんですの? さっきまでの敵とは明らかに身なりの違う柔らかな感触が見ていて伝わって来る|常(スカート)。金髪の女の子。まさか......いえそんなはずありませんわ。
彼女の鎖を裁ち彼女を解放し、敵の元へと向かいます。
「エイビズッ! 1人で戦おうとするな! 余も戦......」
「ヒラユギさんはそこで待っていてください! シオンさまをお願いいたします!」
彼女に近づき剣を構える。逃げる。戦いが始まらない。これが彼女の戦いかた? 1人でするには面倒ですわね。シオンさまならどうするでしょうか。まずは距離を詰めてその先は......予測!
「爽天凛磁!」
わたくしの直感が彼女へと重なり合う道を選ぶ。水をまとい勢いが弾ける。
「私の邪魔しないでよ!」
「あなたはシオンさまの何なのですか!」
「ふふん、婚約者よ! これで文句ない......」
シオンさまはそんなこと一言もおっしゃってはくださらなかった。ということはこの方は“恋敵(ライバル)”ということですか。シオンさまもこんな方がいるなら紹介してくださってくれればうれしかったですのに。
「そうですわね。おかげで手加減をする必要が省けましたわ。感謝いたしますわ。さて、全てを捨てる覚悟があなたにはおありですか?」
「ハミー怒ったよ! 絶対に倒すだけじゃ許さないんだから!」
彼女はわたくしを鎖のボールで包み込む。けれどそれでは意味がない。わたくしの剣は心と同じ。誰かのために使うのなら何倍にも膨れ上がる。わたくしの自信が、シオンさまの言葉が乗ったこの剣なら一撃で斬ることも余裕でした。
南京錠の形。足を絡めとる戦い方。なんて鎖の量。もしやこの町全体を囲むことも叶うのでは? さすがシオンさまと関わっている方。敵ながら能力が恐ろしいですわ。思わず納得してしまいます。
けれどこちらも負けてはいられません。一撃で仕留めないと後が怖いですわね。
「エイビス!」
ヒラユギさんの声。彼女はわたくしを見ていない。シオンさま!
彼はわたくしと同じように鎖の中に包まれた。中から紫色の光。ヒラユギさんが中に。不安が消えませんの。わたくしでも自由になるのに簡単だったはずなのに2人が出てこない。距離を詰めようとすると、彼女はわたくしを離そうとはしなかった。
「ハミーと遊んでくれてありがとう。彼はもらっていくね」
「そんなことはさせませんの! シオンさまはわたくしの想人ですから」
「そんなのしーらないっ!」
「論争はどちらでもよい。エイビス、おぬしに任せる」
飛び上がる紫の光。剣に緑の光がともります。シオンさま、情けないわたくしで申し訳ありません。けれどわたくしは屈しません。例えあなたが囚われることになったとしても。
「翔覇螺旋!」
「あ」
鎖の彼女は姿を消した。わたくしの目の前に見えたのは最後まで残った高塔。わたくしは勢いのまま突き進みます。謝罪を心の中で10度込めて。
---
目の前に紫色の髪が映る。どこだここは......
エイビス! 彼女はどこだ!
「やっと起きたのか。快適な眠りじゃったか?」
「傷だらけじゃないですか! いったい何が......」
彼女は横に寝そべり目を閉じる。そんな......
ふざけるな! まだ希望はある! 僕は5本の回復薬の蓋を開きすべてを彼女の口にねじ込む。入れ! 入れ! 入れ!
彼女は飛び上がり僕の薬を全て地に投げた。
「カハッ......馬鹿者! 殺す気か!」
「え、大丈夫なんですか?」
「当り前じゃ! ただ疲れただけじゃ!」
「す、すみません! 僕の......」
僕の目の前には緑髪の彼女がいた。彼女は僕に飛び込んだかと思えば顔を涙で埋めていた。僕には目を逸らすことしかできなかった。
「もう、あのようなことなさいでくださいまし......わたくしたちのために何もかもを犠牲にしないで下さ......」
僕は彼女に胸で答えた。彼女は手を僕の背中に置く。ヒラユギには少し大人的だったけれど、僕は涙の止まらないエイビスを泣き止むまで撫で続けた。けれど、僕は彼女の涙の意味が理解できずにいた。
足音。まさかまだ敵が......
そこには僕たちの希望があった。何かに苛立ちを覚えている様子の銀髪の彼女が僕たちのことを見つめていた。
「ちょっとこれどういう状況?」
「いつもの光景だろ、何ら変わらない」
「ずいぶんぶっ壊してくれたわね。町の人、クエスターを断らなきゃいいけど、それは無理そうね」
「いろいろ説明します。とりあえず小屋に戻りましょうか」
ナクルスとフォメアは万が一のためにミカロとシェトランテさんを呼んだのだという。本当はリラーシアさんを呼びたかったのだけれど、シェトランテさんが乗り出しおまけに内緒にしていたミカロまで呼んでしまったのだという。
それにもう1人銀髪に煙草を咥えた身長の低い男性。何者か知らないけれどあまり好きになれる気がしない。変なニオイは嫌いだ。
抱き着いている僕とエイビスを見た瞬間、ミカロの時間はまるで止まっているように見えた。僕は彼女から目を逸らし一息つく。
これは鉄拳コースだ。トイレから出たくなかった。
彼女の鎖を裁ち彼女を解放し、敵の元へと向かいます。
「エイビズッ! 1人で戦おうとするな! 余も戦......」
「ヒラユギさんはそこで待っていてください! シオンさまをお願いいたします!」
彼女に近づき剣を構える。逃げる。戦いが始まらない。これが彼女の戦いかた? 1人でするには面倒ですわね。シオンさまならどうするでしょうか。まずは距離を詰めてその先は......予測!
「爽天凛磁!」
わたくしの直感が彼女へと重なり合う道を選ぶ。水をまとい勢いが弾ける。
「私の邪魔しないでよ!」
「あなたはシオンさまの何なのですか!」
「ふふん、婚約者よ! これで文句ない......」
シオンさまはそんなこと一言もおっしゃってはくださらなかった。ということはこの方は“恋敵(ライバル)”ということですか。シオンさまもこんな方がいるなら紹介してくださってくれればうれしかったですのに。
「そうですわね。おかげで手加減をする必要が省けましたわ。感謝いたしますわ。さて、全てを捨てる覚悟があなたにはおありですか?」
「ハミー怒ったよ! 絶対に倒すだけじゃ許さないんだから!」
彼女はわたくしを鎖のボールで包み込む。けれどそれでは意味がない。わたくしの剣は心と同じ。誰かのために使うのなら何倍にも膨れ上がる。わたくしの自信が、シオンさまの言葉が乗ったこの剣なら一撃で斬ることも余裕でした。
南京錠の形。足を絡めとる戦い方。なんて鎖の量。もしやこの町全体を囲むことも叶うのでは? さすがシオンさまと関わっている方。敵ながら能力が恐ろしいですわ。思わず納得してしまいます。
けれどこちらも負けてはいられません。一撃で仕留めないと後が怖いですわね。
「エイビス!」
ヒラユギさんの声。彼女はわたくしを見ていない。シオンさま!
彼はわたくしと同じように鎖の中に包まれた。中から紫色の光。ヒラユギさんが中に。不安が消えませんの。わたくしでも自由になるのに簡単だったはずなのに2人が出てこない。距離を詰めようとすると、彼女はわたくしを離そうとはしなかった。
「ハミーと遊んでくれてありがとう。彼はもらっていくね」
「そんなことはさせませんの! シオンさまはわたくしの想人ですから」
「そんなのしーらないっ!」
「論争はどちらでもよい。エイビス、おぬしに任せる」
飛び上がる紫の光。剣に緑の光がともります。シオンさま、情けないわたくしで申し訳ありません。けれどわたくしは屈しません。例えあなたが囚われることになったとしても。
「翔覇螺旋!」
「あ」
鎖の彼女は姿を消した。わたくしの目の前に見えたのは最後まで残った高塔。わたくしは勢いのまま突き進みます。謝罪を心の中で10度込めて。
---
目の前に紫色の髪が映る。どこだここは......
エイビス! 彼女はどこだ!
「やっと起きたのか。快適な眠りじゃったか?」
「傷だらけじゃないですか! いったい何が......」
彼女は横に寝そべり目を閉じる。そんな......
ふざけるな! まだ希望はある! 僕は5本の回復薬の蓋を開きすべてを彼女の口にねじ込む。入れ! 入れ! 入れ!
彼女は飛び上がり僕の薬を全て地に投げた。
「カハッ......馬鹿者! 殺す気か!」
「え、大丈夫なんですか?」
「当り前じゃ! ただ疲れただけじゃ!」
「す、すみません! 僕の......」
僕の目の前には緑髪の彼女がいた。彼女は僕に飛び込んだかと思えば顔を涙で埋めていた。僕には目を逸らすことしかできなかった。
「もう、あのようなことなさいでくださいまし......わたくしたちのために何もかもを犠牲にしないで下さ......」
僕は彼女に胸で答えた。彼女は手を僕の背中に置く。ヒラユギには少し大人的だったけれど、僕は涙の止まらないエイビスを泣き止むまで撫で続けた。けれど、僕は彼女の涙の意味が理解できずにいた。
足音。まさかまだ敵が......
そこには僕たちの希望があった。何かに苛立ちを覚えている様子の銀髪の彼女が僕たちのことを見つめていた。
「ちょっとこれどういう状況?」
「いつもの光景だろ、何ら変わらない」
「ずいぶんぶっ壊してくれたわね。町の人、クエスターを断らなきゃいいけど、それは無理そうね」
「いろいろ説明します。とりあえず小屋に戻りましょうか」
ナクルスとフォメアは万が一のためにミカロとシェトランテさんを呼んだのだという。本当はリラーシアさんを呼びたかったのだけれど、シェトランテさんが乗り出しおまけに内緒にしていたミカロまで呼んでしまったのだという。
それにもう1人銀髪に煙草を咥えた身長の低い男性。何者か知らないけれどあまり好きになれる気がしない。変なニオイは嫌いだ。
抱き着いている僕とエイビスを見た瞬間、ミカロの時間はまるで止まっているように見えた。僕は彼女から目を逸らし一息つく。
これは鉄拳コースだ。トイレから出たくなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる