七つの星の英雄~僕は罪人~

ミシェロ

文字の大きさ
63 / 76
第6章 「鬼人」

第63話

しおりを挟む
「シオンー! まだ入ってるの?」

「えー......はい!」

 なんでミカロの声が? まさか扉の前で待っているのか? それほど僕に鉄拳を浴びせたいのか?

 いや、むしろみんなに見せしめたいのだろう。これが|天真の星屑(スターダスター)でのルールなのだと。男女間には厳しくありたい。それが一時の油断につながってきたことを僕も何度か経験した。

 けれどそれでもいいじゃないか。どのみち1年後にはみんな結婚せねばならないのだ。そうなればそんなルールはきれいさっぱり消え去るほかないじゃないか。だったら......

「シオン、私のこと嫌い?」

「え?」

「声が震えてるから、そうなのかなって」

 彼女に気づかれた。けれどそれは悲しくなかった。むしろ僕を気遣ってくれている。ならば僕はそれに乗っかるべきではないのか。彼女だって一応活動停止中だ。それくらい場をわきまえているだろう。

 なるほど。それならそうと早く言ってくれればよかったじゃないか。意外なところで素直に話してくれないところが彼女らしい。

「捕まえた!」

「え?」

 嘘でしょ!? 全ては鉄拳コースのための布石? 僕の感情を母親のように優しく撫でつつも実は心の中では汚い笑顔を浮かべていたような? 

 せこい。意地汚い。あざましい。

 けれど当然か。僕は焦りすぎたんだ。エイビスも僕の勢いに驚いていた、かもしれない。彼女の制裁を受けるのにはちょうど良すぎるほどに僕は罪人だった。

 彼女は僕の首を腕で巻き付けたかと思いきや、両手で僕の顔の感触を確認する。顔が変化する。まさか僕が寝ているときに毎回チェックしているんじゃなかろうか? いやそれはないか。そんなことあるわけない。もしそうならむしろ怖い。

「よかった~!」

 彼女も抱き着いてきた。いったい何が起こっているんだ!? まさか彼女も笑顔の彼の影響下にあるというのか? けれど僕には何の変化も見られない。ということは......

「リラから聞いたよ。まぁ正確に言えばシェトランテさんから教えてもらったことなんだけど、本当に心配したんだからね! でも外出の許可もなかなかもらえないし......っていうかシオンもほとんど私と“シベル島”のとき一緒に行動してるのに、何で私だけ......」

 僕は思わず失笑してしまった。それは言葉の返しとなって彼女と共鳴させた。さっきまで曇っていた心がウソのように晴れやかに変わってゆく。楽しい。僕は彼女の行動に答えた。

「ミカロはミファさんと一緒に行動したからですよ。連日1人で潜入作戦を取っていたから、心身ともに疲労していたんですよ」

「お前、よくわかっているじゃねぇか。そう、身体だけならクエスターは何とかなるんだが、心ではそうもいかない。だからうちのとこの院長は“彼女の活動停止”を宣告したんだ。悪くない判断だ」

「それだったらシオンだってミファの攻撃を返せるようにするために|極限突破(アンリミテッド)してたけど?」

「知るか。そんなものこちらで検査してみないと素性がわからん。それよりもそこをどいてもらえるか。心寄せ合うのは良い傾向だが、場所を選べ」

 彼はこちらに煙草を向けながら僕のことを褒めた。医者なのか? それにしては健康とは対照的の存在な気がするけれど。

 ミカロは僕のことを気にしている。というよりむしろ一緒の場にいたかったのだろう。やっぱり観察者として対象の傍にいられないのは、何よりつらいことだろうし。

 彼女は今更冷静になった。そして僕の顔を見て赤く染まってゆく。これはまさか......

「シオンのバカッー!」

 知っていた。ってなんで!?

 特に意味のない暴力が僕に振りかかった。いや、毎回か。

 彼はその意味を察知して扉の中に消えた。その間に僕たちはシェトランテさんたちと合流した。

「シオン、少し顔赤くない?」

「あー気候のせいですかね。参っちゃいますね」

 シェトランテさんはうれしそうな顔でこちらに寄ってきた。言いたいことはなんとなく理解できた。彼女は慌てる人を見ては心の中で笑いたい性格なのだ。そうに違いない。

「焦ってはいかんよー。女の子は絹で包んで優しく接してあげないとー。特にミカロはね」

 絶対特殊ブラックリストに乗っている気がする。もし彼女たちにそんな暇なものを作る時間があれば、ミカロはトップ5ぐらいに乗っているだろう。寄るな危険! この注意書きがされた付箋が写真に貼られていそうだ。

 シェトランテさんは僕を終始不敵な笑みで見つめる。素直に言う必要もないだろう。とりあえずミカロは......あれ、どこだ?

「シオンさま~!」

 今度はエイビスが戻ってきた。涙はない。よかった。僕は彼女の頭に手をやる。彼女は笑みを押さえながらも僕の行動を気持ちよさそうに従っていた。

 綺麗な緑髪が僕の手をすり抜けてゆく。よしよし。

「シオンさまは傷の類はございませんか?」

「ええ。不思議と。それでなんですけど......」

「もちろん存じ上げておりますわ。けれどそれはまたの機会にいたしましょう。心が万全を期しているときに」

 彼女の言葉に僕は従うほかない。今は平和な気分に浸っている。が、僕は何が起こったのか理解できていない。ユースチスのときと同じだ。笑顔の彼や赤髪の男性がどうなったのか認知していない。

 彼女は僕から目を逸らすことなく隣にいてくれる。それが何より拠り所だった。

 銀髪の彼女のつまらなそうな顔でこちらを見るまでは。

「ミカロ、どうしてこちらに来たのですか? わたくしたちを信用できなかったのですか?」

「そんなわけないでしょ! けどエイビスがシオンを困らせるんじゃないかって......」

「とんでもありませんわ。どうして仲間であるはずのわたくしがシオンさまを困らせなければならないのですか?」

「なんとなく? いつもシオンの布団に忍びこむわ、寝顔のぽっぺを押してみたりだとか......あ」

 なんの“あ”だ。絶対僕にばれないように彼女もやっていた口じゃないか。よくも......といいたいところだけれど今回は許そう。彼女は目を合わせると顔を逸らした。悪気はあるみたいだ。

「と、とにかくエイビスはシオンに近づきすぎ! ほかにも安全な場所があるっていうから、そこを寝床にするわよ!」

「了解ですわ! それではシオンさま、また」

 僕は彼女の手を振り返した。ミカロにも笑顔を返した。つもりだけれど彼女は答えてはくれなかった。銀髪の男性が僕の元へと戻ってきた。

「アイツ、ああ見えてだが無理をしている。どうしてこう元気が出るのか、まったく不思議だ」

「ミカロ、どこか悪いんですか?」

「いや、危険な部分は見当たらない。だが1つに合う言葉があるとすれば、情緒不安定。という言葉が正しいだろう」

 じょうちょふあんてい? たぶん感情が不意に変化......ああなんとなく理解できた。
けれどそれが何の問題をきたすのだろうか。

 ミカロにとってはそれが普通であり自然的な行動だ。それがどうして彼の目に止まったりしたんだ?

「不思議に思うだろう? 調べて発覚したことなんだが、ミカロ・タミアは特殊な人物なのかもしれない。へたを言えば俺たちと同じではない存在。といっても相違ないかもしれないな」

 僕たちと違う? それはどういう意味なんだ? 突然鉄拳を食らわせてくることか? それとも急に怒りを見せること?

「なぜ起こっているのか解明できてはいないが、彼女は怒りと共に笑っているんだ。怒りと同数の笑いを。だが表情には決して見えない。心理を極める者がいれば、うってつけの相手だろうな」

 ラグルーシアに戻ってきた僕たちに待っていたのは、絶望だった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...