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第7章 「新世界」
第65話
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僕たちはヒラユギさんの敵を越えたのち、走って正星議院を目指していた。リラーシアさんたちの姿はない。おそらく無事に到着したころだろう。にしては妙だ。町の崩壊加減に対して1人ということはあり得ない。何かを試しているのか?
「シオン!」
僕たちの目の前に現れた和服黄色髪の女性。全身青色の奇妙な男性、だろうか。そして昨日の鎖の女の子。僕たちは目を合わせ意見をまとめた。簡単に言えば僕とフォメアは先に行く、といったものだった。
体調の不安定なミカロを置いていけないという僕の身勝手を言う時間はなかった。最後の敵は正星議院で待ち構えている。そんな気がした僕は勢いを速めた。
彼女から約束してきたのだ、彼女が約束を破るはずもない。その考えに落ち着いた僕は後ろを振り返るような真似はしなかった。彼女がそれを望んでいると信じたから。
「シオン、先に行け!」
青髪の彼の言葉と共に彼の身体は光輝き銃弾を弾いた。敵にアスタロトさんに似た行動を取る者がいる、というわけか。僕は彼にその場を任せ正星議院への入り口に最期の飛び上がりを見せた。
中にはリラーシアさんもいる。そうそうやられないとは思うが、やはり心配だ。
シェトランテさんも戦えるのかよく理解できない。先に急......目の前に現れた黒い影。僕を追い詰めるように付いてくる。これも敵の能力なのか?
一般人たちが僕の元に寄ってきている。どういうことだ、避難したはずじゃ? 足元の影が全てつながっている。困った状況だ。まずはその敵を......
鼻の先で影の剣は留まった。どういうことだ。今なら僕を殺せていた。殺戮主義はないと見ていいのか? いや安心できない。きっともっと残酷な方法でも思いついたに違いない。
影の剣に帯電した矢が突き刺さる。一般人たちは動きを止め、彼らを大地のシェルターが覆った。
「シオン、いったいこれどういう状況?」
黒緑髪をたなびかせ矢を構えるその姿には、その集中力ゆえ誰もが息を呑んでしまうことだろう。
何より悪魔族の予想できない速度で動くことのできる存在。僕は彼女の存在に歓喜した。身体が特徴的なのは置いておこう。それは僕の言えることではない。
「アスタロトさん!」
「疲れて帰ってきたと思ったら、どういう状況? もう昨日から寝てないんだけど?」
嘘だ。といいたいほどに彼女の顔には眠たい素振りが見えなかった。とはいえわざわざこの危機的状況でそんなことを言うはずもないか。
けれど僕はそれを笑った。きっと悪魔冗談(デビルジョーク)に違いない。
「何笑ってんのよ? 射るわよ」
どうやら本当だったらしい。きっと三首犬(ケルベロス)に見せたときのあの表情はもう見ることはできないだろう。
ものすごく残念に思うだろう。特にミカロが。
「笑ってないですよ! それよりもここの敵をお願いしますね!」
「言われなくてもわかってるわよ。それが終わったら寝るけど勘弁してよ?」
「もちろんですよ!」
できることならリラーシアさんのように容赦ない言葉を浴びせたかった。だがそうしたところでアスタロトさんが体力の限界を訴えているのであれば、わざわざ戦わせても意味がない。
むしろ人質にされても困る。僕は正星議院を駆け出した。
開放的なバルコニーが半数を占めてしまった2階に付いた瞬間、リラーシアさんは僕に向かって目を閉じるよう叫んだ。そしてその刹那に見てしまった。彼女の姿を。彼女の結末を。
「シオン、目を開いて問題ありません」
青い空間ゲート。シェトランテさんの持っている銃から射出されたようだ。どうやらどこか遠いところにつながっているのだろうけれど、それは僕が知る必要はなさそうだ。
シェトランテさんはアスタロトさんと同様のゴーグルをつけていた。きっと彼女が作ったものに違いない。彼女の隣にいる黒髪と紫髪の白衣を着た女性が目に入る。手を振ってくれる姿に僕は可愛いと思った。
彼女は何か言いたげなことを考えている様子だったが、たぶん想像しない方が幸せだ。そうに違いない。彼女たちは僕に手を振り姿を消した。そして僕は赤衣の彼女がここに来るのを待った。
「戦っているのは僕たちだけですか?」
「衛兵や一部のクエスターを集め200はいたと思うのですが、散開の後音沙汰もありません」
単純に言えば僕たち以外に頼れる人がいないわけか。せっかくだから凛華の修研者(フラソンマード)の人たちと共闘したかった。なかなか夢はかなわないものだ。そこはしょうがないと認めるほかないか。
「まっとうてくれたん? 優しいなぁ」
「待たないと貴方がここを粉々にしかねませんからね」
「そんなに中身のない箱ぉ守るんが大切なこと? これだけ暴れても出てこんさかい、そういうことやろ?」
相も変わらず敵らしい。確かにここには僕たち以外誰もいない。いや、負傷者はいるはずだ。その人のためにも僕はこの場から下がるわけにはいかない。
鉾を力強く握るとともに彼女は僕に歯を見せた。ヒラユギが早々に負けるなんて、一体どんな能力の持ち主なんだ?
「不思議やね。圧倒的に絶望的な状況のはずやのに、その意思が砕けている気がせぇへんのよ。まぁあんたが拳構えるんやったら、ウチもそうしないわけにはあきまへんけど」
僕の横を突風、いや斬撃が通り抜ける。赤衣の彼女に血の色が混ざった。
「御託を並べるのは一向に構いませんが、気が付いたら地に倒れていても保証しませんよ?」
「あんたと彼なら、ウチの勘定に合うやもしれへんなぁ。|業火の星屑(インペルダスター)」
火の隕石が降り注ぐように僕たちに炎が襲い掛かる。鉾が溶けるかと心配するほどに増えてもいないのに熱い。もし触れてしまったらどうなるのか、考えるだけでその場から離れたかった。
リラーシアさんは斬撃で隕石を裁ち彼女の目の前に急行する。僕が駆け出そうとした瞬間、水が僕を覆った。
その瞬間僕はとっさに体をしゃがませた。その直感は正しく僕の上空には彼女の斬撃があった。
「せっかくシオンはんは巻き込まんようにしたんに。どないしましょ」
笑っている。やっぱり彼女が正星議院をここまでに改造したのか。ここは先手必勝で決めるしかないか。
「シオン!」
僕たちの目の前に現れた和服黄色髪の女性。全身青色の奇妙な男性、だろうか。そして昨日の鎖の女の子。僕たちは目を合わせ意見をまとめた。簡単に言えば僕とフォメアは先に行く、といったものだった。
体調の不安定なミカロを置いていけないという僕の身勝手を言う時間はなかった。最後の敵は正星議院で待ち構えている。そんな気がした僕は勢いを速めた。
彼女から約束してきたのだ、彼女が約束を破るはずもない。その考えに落ち着いた僕は後ろを振り返るような真似はしなかった。彼女がそれを望んでいると信じたから。
「シオン、先に行け!」
青髪の彼の言葉と共に彼の身体は光輝き銃弾を弾いた。敵にアスタロトさんに似た行動を取る者がいる、というわけか。僕は彼にその場を任せ正星議院への入り口に最期の飛び上がりを見せた。
中にはリラーシアさんもいる。そうそうやられないとは思うが、やはり心配だ。
シェトランテさんも戦えるのかよく理解できない。先に急......目の前に現れた黒い影。僕を追い詰めるように付いてくる。これも敵の能力なのか?
一般人たちが僕の元に寄ってきている。どういうことだ、避難したはずじゃ? 足元の影が全てつながっている。困った状況だ。まずはその敵を......
鼻の先で影の剣は留まった。どういうことだ。今なら僕を殺せていた。殺戮主義はないと見ていいのか? いや安心できない。きっともっと残酷な方法でも思いついたに違いない。
影の剣に帯電した矢が突き刺さる。一般人たちは動きを止め、彼らを大地のシェルターが覆った。
「シオン、いったいこれどういう状況?」
黒緑髪をたなびかせ矢を構えるその姿には、その集中力ゆえ誰もが息を呑んでしまうことだろう。
何より悪魔族の予想できない速度で動くことのできる存在。僕は彼女の存在に歓喜した。身体が特徴的なのは置いておこう。それは僕の言えることではない。
「アスタロトさん!」
「疲れて帰ってきたと思ったら、どういう状況? もう昨日から寝てないんだけど?」
嘘だ。といいたいほどに彼女の顔には眠たい素振りが見えなかった。とはいえわざわざこの危機的状況でそんなことを言うはずもないか。
けれど僕はそれを笑った。きっと悪魔冗談(デビルジョーク)に違いない。
「何笑ってんのよ? 射るわよ」
どうやら本当だったらしい。きっと三首犬(ケルベロス)に見せたときのあの表情はもう見ることはできないだろう。
ものすごく残念に思うだろう。特にミカロが。
「笑ってないですよ! それよりもここの敵をお願いしますね!」
「言われなくてもわかってるわよ。それが終わったら寝るけど勘弁してよ?」
「もちろんですよ!」
できることならリラーシアさんのように容赦ない言葉を浴びせたかった。だがそうしたところでアスタロトさんが体力の限界を訴えているのであれば、わざわざ戦わせても意味がない。
むしろ人質にされても困る。僕は正星議院を駆け出した。
開放的なバルコニーが半数を占めてしまった2階に付いた瞬間、リラーシアさんは僕に向かって目を閉じるよう叫んだ。そしてその刹那に見てしまった。彼女の姿を。彼女の結末を。
「シオン、目を開いて問題ありません」
青い空間ゲート。シェトランテさんの持っている銃から射出されたようだ。どうやらどこか遠いところにつながっているのだろうけれど、それは僕が知る必要はなさそうだ。
シェトランテさんはアスタロトさんと同様のゴーグルをつけていた。きっと彼女が作ったものに違いない。彼女の隣にいる黒髪と紫髪の白衣を着た女性が目に入る。手を振ってくれる姿に僕は可愛いと思った。
彼女は何か言いたげなことを考えている様子だったが、たぶん想像しない方が幸せだ。そうに違いない。彼女たちは僕に手を振り姿を消した。そして僕は赤衣の彼女がここに来るのを待った。
「戦っているのは僕たちだけですか?」
「衛兵や一部のクエスターを集め200はいたと思うのですが、散開の後音沙汰もありません」
単純に言えば僕たち以外に頼れる人がいないわけか。せっかくだから凛華の修研者(フラソンマード)の人たちと共闘したかった。なかなか夢はかなわないものだ。そこはしょうがないと認めるほかないか。
「まっとうてくれたん? 優しいなぁ」
「待たないと貴方がここを粉々にしかねませんからね」
「そんなに中身のない箱ぉ守るんが大切なこと? これだけ暴れても出てこんさかい、そういうことやろ?」
相も変わらず敵らしい。確かにここには僕たち以外誰もいない。いや、負傷者はいるはずだ。その人のためにも僕はこの場から下がるわけにはいかない。
鉾を力強く握るとともに彼女は僕に歯を見せた。ヒラユギが早々に負けるなんて、一体どんな能力の持ち主なんだ?
「不思議やね。圧倒的に絶望的な状況のはずやのに、その意思が砕けている気がせぇへんのよ。まぁあんたが拳構えるんやったら、ウチもそうしないわけにはあきまへんけど」
僕の横を突風、いや斬撃が通り抜ける。赤衣の彼女に血の色が混ざった。
「御託を並べるのは一向に構いませんが、気が付いたら地に倒れていても保証しませんよ?」
「あんたと彼なら、ウチの勘定に合うやもしれへんなぁ。|業火の星屑(インペルダスター)」
火の隕石が降り注ぐように僕たちに炎が襲い掛かる。鉾が溶けるかと心配するほどに増えてもいないのに熱い。もし触れてしまったらどうなるのか、考えるだけでその場から離れたかった。
リラーシアさんは斬撃で隕石を裁ち彼女の目の前に急行する。僕が駆け出そうとした瞬間、水が僕を覆った。
その瞬間僕はとっさに体をしゃがませた。その直感は正しく僕の上空には彼女の斬撃があった。
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