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第1章 冒険者ギルドの契約職員なのです!
冒険者の悩みを聞くのもお仕事なのです―その1
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朝なのです。
また寝汗がびっしりです。
昨夜も変な夢を見た、みたいです。
もういい加減にしてほしいものです。
「で、家賃の支払いは大丈夫だったの?」
アリーちゃんが心配そうに聞いてきます。
というのも寝起きシーンや着替えシーンなどなどかっ飛ばして、現在わたしがいるのは冒険者ギルド中であります、のです。
そして受付カウンターで、それもアリーちゃんの隣でずずずと番茶をすすっている最中なのです。
そうそう、ギルド職員や冒険者なら自由に飲んでも構わないというこのお茶、安いわりに美味しいのですよ。
ヒューマンの住んでいた異世界は美食に関してはあなどれないですよね。
え、何でしょう? 「アリーちゃんが返事を待っているのでは」ですか?
あー、家賃をどうやって払ったか、でしたか……。
「団体旅行でアルカディアに来た、おじさんたちの通訳とガイドをして報酬を得ました。詳細の内容については思い出したくないのです」
マジです。FRFRと書いてマジと読む、で思い出したくないのです。
とにかくあのおじさんたちったら「どの道を進めばいいんだ?」「この建物はなんだ?」とわたしの横に立って聞くたびにおしりをなで回しやがって、なのですよ。
「察するにセクハラされたみたいだけど、そういう手合いからはふんだくればいいのに」
思い出したくないし話したくもないのに、どうしてアリーちゃんに状況がバレてしまったのかわかりません。
ですので正直に答えますのです。
「わたしは通訳として、ガイドとして働いたのであって、それ以外のお代をもらってしまっては、相手の行為を認めたことになるのです。それは絶対嫌なのです!」
アリーちゃんは「お代ではなく慰謝料として正当性があるとおもうんだけどねー」と言いながらも「そんなティアは好きだよ」と言ってくれました。
まああのおじさんたちも、わたしが「迷惑料なんて要りません」と突っぱねていたら、最後に全員でわたしに謝ってくれましたし。「真剣にやってくれてるあんたの仕事を愚弄して悪かった」って言ってくれましたし。
世の中、悪い人ばかりじゃないですし、悪いことばかりじゃないです、のです。
それにしても、きょうの冒険者ギルドはヒマですね。
珍しくわたしは内勤なんですけど、この一時間で依頼を持ってくる人がひとりもいません。
それにまだ日が高いせいか、冒険者さんたちの姿もまばらです。
内勤だとカウンターにいるだけでお給料が貰えるのは何よりもありがたいのですが、こうヒマだとなんだか申し訳ない気持ちになってきます。
おや、あそこで所在なさげにしている女性がいますね。
ヒューマン・女性ですね。
冒険者だとは思うのですが、あまり見たことがない顔です。
お困りのことがあるのなら、わたしのところに来ないかなー、なのです。
いまなら全力でサポートしますよー、なのです。
おお、想いが届いたのかこちらに来ます。
「あの、ちょっといいですか?」
やった、わたしの前に来てくれましたよ。
おっと、喜んでばかりいられません。
「はい、冒険者ギルドにどんなご用でしょうか?」
練習し続けているにっこりスマイルを送ります! です。
「わたしは、冒険が、したいのですが」
ふむふむ、冒険の斡旋を頼みたいのですね。
もちろん全力でサポートしますよ。
「覚えている魔法がない魔法職でも、参加できる依頼はありますか?」
「え……」
え、いま。なんと?
「ですから。所持経験値のすべてを魔法を使う技能や魔法言語能力に全振りしちゃったせいで。魔法を覚える分を使い切ってしまった、そんな魔法職でもできるような依頼は、あるでしょうか?」
目の前の女性冒険者は必死です。
いやもう、溺れる者はストローつかむ感が非常に高いです。
まさに「端数ゼロ」です。
「そ、そうですね……。しばらくお待ち下さいね」
わたしも知りたいです。
ある、のでしょうかね?
そんな冒険系の依頼が。
あ。ちなみにこのヒューマン女性冒険者・魔法職のこの方。
お名前をまりあさん、って言うそうです。
異世界に来て知恵と力の石に「誰よりもうまく魔法を使えるようになりたい」と願って。
肝心の「どの魔法を使えるようになる?」の選択肢が完全に頭に入ってこなかった、見落とした。
……なのだそうです。
……です。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
魔法を「使う技能」の取得向上を目指しすぎ、ひとつも魔法のスペルを覚えないで初期キャラメイクをしてしまった。
「こんなキャラいるか」と思われるかもしれません。
ですがこれにはちゃんとしたモデルがいるのです。
なにしろ、わたしがやってしまった張本人ですので。
また寝汗がびっしりです。
昨夜も変な夢を見た、みたいです。
もういい加減にしてほしいものです。
「で、家賃の支払いは大丈夫だったの?」
アリーちゃんが心配そうに聞いてきます。
というのも寝起きシーンや着替えシーンなどなどかっ飛ばして、現在わたしがいるのは冒険者ギルド中であります、のです。
そして受付カウンターで、それもアリーちゃんの隣でずずずと番茶をすすっている最中なのです。
そうそう、ギルド職員や冒険者なら自由に飲んでも構わないというこのお茶、安いわりに美味しいのですよ。
ヒューマンの住んでいた異世界は美食に関してはあなどれないですよね。
え、何でしょう? 「アリーちゃんが返事を待っているのでは」ですか?
あー、家賃をどうやって払ったか、でしたか……。
「団体旅行でアルカディアに来た、おじさんたちの通訳とガイドをして報酬を得ました。詳細の内容については思い出したくないのです」
マジです。FRFRと書いてマジと読む、で思い出したくないのです。
とにかくあのおじさんたちったら「どの道を進めばいいんだ?」「この建物はなんだ?」とわたしの横に立って聞くたびにおしりをなで回しやがって、なのですよ。
「察するにセクハラされたみたいだけど、そういう手合いからはふんだくればいいのに」
思い出したくないし話したくもないのに、どうしてアリーちゃんに状況がバレてしまったのかわかりません。
ですので正直に答えますのです。
「わたしは通訳として、ガイドとして働いたのであって、それ以外のお代をもらってしまっては、相手の行為を認めたことになるのです。それは絶対嫌なのです!」
アリーちゃんは「お代ではなく慰謝料として正当性があるとおもうんだけどねー」と言いながらも「そんなティアは好きだよ」と言ってくれました。
まああのおじさんたちも、わたしが「迷惑料なんて要りません」と突っぱねていたら、最後に全員でわたしに謝ってくれましたし。「真剣にやってくれてるあんたの仕事を愚弄して悪かった」って言ってくれましたし。
世の中、悪い人ばかりじゃないですし、悪いことばかりじゃないです、のです。
それにしても、きょうの冒険者ギルドはヒマですね。
珍しくわたしは内勤なんですけど、この一時間で依頼を持ってくる人がひとりもいません。
それにまだ日が高いせいか、冒険者さんたちの姿もまばらです。
内勤だとカウンターにいるだけでお給料が貰えるのは何よりもありがたいのですが、こうヒマだとなんだか申し訳ない気持ちになってきます。
おや、あそこで所在なさげにしている女性がいますね。
ヒューマン・女性ですね。
冒険者だとは思うのですが、あまり見たことがない顔です。
お困りのことがあるのなら、わたしのところに来ないかなー、なのです。
いまなら全力でサポートしますよー、なのです。
おお、想いが届いたのかこちらに来ます。
「あの、ちょっといいですか?」
やった、わたしの前に来てくれましたよ。
おっと、喜んでばかりいられません。
「はい、冒険者ギルドにどんなご用でしょうか?」
練習し続けているにっこりスマイルを送ります! です。
「わたしは、冒険が、したいのですが」
ふむふむ、冒険の斡旋を頼みたいのですね。
もちろん全力でサポートしますよ。
「覚えている魔法がない魔法職でも、参加できる依頼はありますか?」
「え……」
え、いま。なんと?
「ですから。所持経験値のすべてを魔法を使う技能や魔法言語能力に全振りしちゃったせいで。魔法を覚える分を使い切ってしまった、そんな魔法職でもできるような依頼は、あるでしょうか?」
目の前の女性冒険者は必死です。
いやもう、溺れる者はストローつかむ感が非常に高いです。
まさに「端数ゼロ」です。
「そ、そうですね……。しばらくお待ち下さいね」
わたしも知りたいです。
ある、のでしょうかね?
そんな冒険系の依頼が。
あ。ちなみにこのヒューマン女性冒険者・魔法職のこの方。
お名前をまりあさん、って言うそうです。
異世界に来て知恵と力の石に「誰よりもうまく魔法を使えるようになりたい」と願って。
肝心の「どの魔法を使えるようになる?」の選択肢が完全に頭に入ってこなかった、見落とした。
……なのだそうです。
……です。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
魔法を「使う技能」の取得向上を目指しすぎ、ひとつも魔法のスペルを覚えないで初期キャラメイクをしてしまった。
「こんなキャラいるか」と思われるかもしれません。
ですがこれにはちゃんとしたモデルがいるのです。
なにしろ、わたしがやってしまった張本人ですので。
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