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第1章 冒険者ギルドの契約職員なのです!
冒険者の悩みを聞くのもお仕事なのです―その14
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チーム百花繚乱『双鞭』のサシャさんは虎人の戦士です。
背中と四肢は、黄色と黒の毛並みがとてもきれいで。
性格はおとなしく、それでいて誰にでもやさしい人。
美人というよりもカワイイと思える顔。
170センチを超える長身ですらっと伸びた手足。
大きすぎず、でも形のよい胸とおしり。
男の人ってこういう人を理想にしますよね、とわたしも思ってしまいます。
こんなにかわいいのに、両手に持っ鞭を巧みに操り、近距離から中距離、そして対空をも制する戦士、ということも知れ渡っています。
だから、なのでしょうか。
人からの好意を断り切れないサシャさんを悪し様に言う人がどんどん増えてしまったのは。
強いから、自分ひとりが文句を言っても大丈夫だ、とでも思ってしまったのは。
『智多星』のノノさんがわたしたちの前でため息をつきます。
「サシャはふだんはふつうの、ただの女の子。それも異世界から、訳もわからないままこの世界にやってきてしまった女の子だ。自分たちもそうだけど。帰りたいんだよ……なのに、この世界の人間から『嫁になって欲しい』と言われても、困るよな」
ふう、とノノさんはもうひとつ、ため息をつきます。ミスズさんもミユキ様もため息。この世界に来たうつくしい異世界人は共通の悩みなのかもしれません。
サシャさんが舞台裏からステージに足を踏み出しました。おそるおそる、ほんとうにおそるおそるという感じです。
『双鞭』の二つ名を持つ人からは想像もできません。
一歩、立ち止まってから、サシャさんが前に進んでいきました。観衆の目がサシャさんに突き刺さります。そして:
「うおおおおおおおお」
「なんだ、それは」
「それって、アリなの?」
男だけじゃありません。女の声もあがります。
場内騒然です。
だって。
サシャさんの姿は。
ふんどしに、この世界で広まりつつあるエプロン。
真っ白のエプロンに真っ白のふんどし、なのですから。
ミユキ様と同じく「六尺ふんどし」ですのでおしりの大部分が見えている、のですから。
驚かないのが無理ですよね。
場内の動揺とは対照的に、サシャさんは黙々と動いてます。
ぱんとまいむ、というのでしょうか。
一定の所作で動いてます。
……お買い物ぶくろから荷物を取り出して、いる?
それをナイフで刻んでおなべにいれて、いる?
完全に動揺した場内も、サシャさんが演じる家庭的な所作に見とれてしまってます。
「あれは異世界人の新婚家庭に起きるという、伝説の『裸エプロン』を演じているのだろうか?」
「いや、むしろ裸よりもこれは、尊い……」
「くう、サシャ様。異世界人とか関係ない。必ずしあわせにするから結婚して欲しい……!」
なんというか、こう言ってはなんですけど「社会的地位もあるいい年こいたおっさん」が少年に戻ったみたい、なのです。
憧憬の目線でサシャさんを見つめているのです。
こんな目で見られても堂々としているサシャさんは、やっぱりすごいです……。
「すごいもんか、見ろ。全身汗だくになって上気してる。サシャは気絶しそうになりながら必死に耐えて演じているんだ」
ノノさんがぽつりと言います。
「こんなことをさせた自分は鬼だと思う。しかし鬼には鬼の思いも覚悟もある!」
ノノさんがそう言ったのと同時に、ぱんとまいむをしていたサシャさんが口を開きました。
そして。
歌を歌ってます。
ヘッドマイクから流れてくる歌が観客の耳に入ります。
「望郷の歌、だ」
サシャさんが歌っているのは冒険者の中で生まれた故郷を思う歌、でした。
ふるさとの景色、残してきた家族を思い冒険者は、夕日に中で、あるいは酒場で、涙を流しながらうたう歌です。
あれほどどよめいていた会場が、完全に静まりました。
気付くとノノさんも、ミスズさんもミユキ様も歌ってます。
当たり前ですが冒険者の皆さんは、帰りたいのですね。
わたしたちこの世界の人間は。
それをどうして忘れてしまったのでしょう。それに気付かないのでしょう。
この世界の人間と暮らすということは、異世界人が異世界にもどることを「あきらめさせる」ことになることを。
そしてサシャさんが気絶しそうなほどの恥ずかしさを押し殺して演じていたのは「異世界に残してきた大切な人たちとの愛する日常」、だったことを。
観客の中からはすすり泣くような声も聞こえてきます。
ふう、とため息をついた人がいます。
振り向くと『そんなのイルカ』のモモさんでした。
モモさんはアイコさんの肩に手を置き。
「ボクはもう二度と『望郷の歌』は歌わないよ。どんなことになってもボクはアイコの横にいる。ボクの故郷はアイコだから」
アイコさんは目をうるっとさせて、モモさんの胸の中に飛び込みました。
ほんと。うらやましいし、ねたましいし、空気読めと言いたい気持ち、でありますが。
サシャさんが一番きれい。ですけどおふたりとも、それに負けないくらいきれい、なのですよ。
背中と四肢は、黄色と黒の毛並みがとてもきれいで。
性格はおとなしく、それでいて誰にでもやさしい人。
美人というよりもカワイイと思える顔。
170センチを超える長身ですらっと伸びた手足。
大きすぎず、でも形のよい胸とおしり。
男の人ってこういう人を理想にしますよね、とわたしも思ってしまいます。
こんなにかわいいのに、両手に持っ鞭を巧みに操り、近距離から中距離、そして対空をも制する戦士、ということも知れ渡っています。
だから、なのでしょうか。
人からの好意を断り切れないサシャさんを悪し様に言う人がどんどん増えてしまったのは。
強いから、自分ひとりが文句を言っても大丈夫だ、とでも思ってしまったのは。
『智多星』のノノさんがわたしたちの前でため息をつきます。
「サシャはふだんはふつうの、ただの女の子。それも異世界から、訳もわからないままこの世界にやってきてしまった女の子だ。自分たちもそうだけど。帰りたいんだよ……なのに、この世界の人間から『嫁になって欲しい』と言われても、困るよな」
ふう、とノノさんはもうひとつ、ため息をつきます。ミスズさんもミユキ様もため息。この世界に来たうつくしい異世界人は共通の悩みなのかもしれません。
サシャさんが舞台裏からステージに足を踏み出しました。おそるおそる、ほんとうにおそるおそるという感じです。
『双鞭』の二つ名を持つ人からは想像もできません。
一歩、立ち止まってから、サシャさんが前に進んでいきました。観衆の目がサシャさんに突き刺さります。そして:
「うおおおおおおおお」
「なんだ、それは」
「それって、アリなの?」
男だけじゃありません。女の声もあがります。
場内騒然です。
だって。
サシャさんの姿は。
ふんどしに、この世界で広まりつつあるエプロン。
真っ白のエプロンに真っ白のふんどし、なのですから。
ミユキ様と同じく「六尺ふんどし」ですのでおしりの大部分が見えている、のですから。
驚かないのが無理ですよね。
場内の動揺とは対照的に、サシャさんは黙々と動いてます。
ぱんとまいむ、というのでしょうか。
一定の所作で動いてます。
……お買い物ぶくろから荷物を取り出して、いる?
それをナイフで刻んでおなべにいれて、いる?
完全に動揺した場内も、サシャさんが演じる家庭的な所作に見とれてしまってます。
「あれは異世界人の新婚家庭に起きるという、伝説の『裸エプロン』を演じているのだろうか?」
「いや、むしろ裸よりもこれは、尊い……」
「くう、サシャ様。異世界人とか関係ない。必ずしあわせにするから結婚して欲しい……!」
なんというか、こう言ってはなんですけど「社会的地位もあるいい年こいたおっさん」が少年に戻ったみたい、なのです。
憧憬の目線でサシャさんを見つめているのです。
こんな目で見られても堂々としているサシャさんは、やっぱりすごいです……。
「すごいもんか、見ろ。全身汗だくになって上気してる。サシャは気絶しそうになりながら必死に耐えて演じているんだ」
ノノさんがぽつりと言います。
「こんなことをさせた自分は鬼だと思う。しかし鬼には鬼の思いも覚悟もある!」
ノノさんがそう言ったのと同時に、ぱんとまいむをしていたサシャさんが口を開きました。
そして。
歌を歌ってます。
ヘッドマイクから流れてくる歌が観客の耳に入ります。
「望郷の歌、だ」
サシャさんが歌っているのは冒険者の中で生まれた故郷を思う歌、でした。
ふるさとの景色、残してきた家族を思い冒険者は、夕日に中で、あるいは酒場で、涙を流しながらうたう歌です。
あれほどどよめいていた会場が、完全に静まりました。
気付くとノノさんも、ミスズさんもミユキ様も歌ってます。
当たり前ですが冒険者の皆さんは、帰りたいのですね。
わたしたちこの世界の人間は。
それをどうして忘れてしまったのでしょう。それに気付かないのでしょう。
この世界の人間と暮らすということは、異世界人が異世界にもどることを「あきらめさせる」ことになることを。
そしてサシャさんが気絶しそうなほどの恥ずかしさを押し殺して演じていたのは「異世界に残してきた大切な人たちとの愛する日常」、だったことを。
観客の中からはすすり泣くような声も聞こえてきます。
ふう、とため息をついた人がいます。
振り向くと『そんなのイルカ』のモモさんでした。
モモさんはアイコさんの肩に手を置き。
「ボクはもう二度と『望郷の歌』は歌わないよ。どんなことになってもボクはアイコの横にいる。ボクの故郷はアイコだから」
アイコさんは目をうるっとさせて、モモさんの胸の中に飛び込みました。
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