冒険者ギルドの契約職員だけど、聞きたいことある?

谷山灯夜

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第1章 冒険者ギルドの契約職員なのです!

冒険者の悩みを聞くのもお仕事なのです―その13

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 ミユキ様とジョータさんの着こなしはあらゆる意味でジョーシキを吹っ飛ばした感じです。
 いきなりミユキ様という大駒を披露して二番手は厳しいだろうなあ、と思っていました。

「あ、でもノノさんがいるのか」

 ノノさんの、あのミニスカートはかなりの破壊力なのです。場内からも「ミユキ様のあとは『智多星』さんかな」の声が聞こえています。
 ところが、どっこいしょ。
 次に登場したのはアイコさんと『そんなのイルカ』のモモさんでした。アイコさんの手を引くモモさん。
 先刻カップルになったばかりのお二人ですが、互いが互いを信頼し合っている空気があふれています。
 ちぇ、いいな。

 あ、いまのはナシ、なのです。
 ところで現在、場内はとんでもないことになってます。
 観客全員が総立ちで信じられないものを見た、となっています。

「おいおいおいおい、待ってくれよ」
「あのふたりって、ふたりとも女性、なんだろ?」
「女、女なんだよ、な……?」

 モモさん、ぼーいっしゅな雰囲気がありますけどぱっと見で女性だとわかる美人さんなのです。
 アイコさんはねたましいほどお胸がご立派な方です。

 つまりこのおふたりが男性と間違えられるはずはないのです。
 ではなぜ、会場がざわめいているのか。

 アイコさんとジョータさんは上衣はぴっちりとしたチュニックを着込んでます。で、問題の「ふんどしの見せ方」なのですが。

 この世界は、異世界人が来るまで、異世界のファッションが入ってくるまで「貴族はぴっちりとしたタイツをはいている」と言いました。それでコッドピースを股間に装着し「もっこり」している、とも先に言いました。
 非常に恥ずかしいので二度説明することになるとは思いませんでしたけどね。

 それ、わたしの間違いだったのです。ミチオさんに指摘されました。
 正確には「片足ずつのタイツを履くので中央部分が何も無し」なので「覆いをつけた」。それがいつしかコッドピースを装着になった。のが正しいのだとか。

 ……おわかりになられましたか。
 そうなんです、いま舞台の上でアイコさんとモモさんが披露しているのは「女性が、男性貴族のように片足ずつのぴっちりタイツを履いている」のです。
 これは価値観を揺るがすほどの衝撃、なのですよ。
 女性がスカートを履くのではなく男性の格好をするなんて完全に常識の外なのです。
 異世界はほんとうに自由なのですね……。

 で、それが第一の衝撃です。
 第二の衝撃はもはやおわかりでしょう。
 ふたつの「片足タイツ」の間を埋める衣装に、ふんどしを選んだのですよ、この人たちったら。
 頭をぶん殴られるくらいの衝撃ですよ、これ。
 まあ、ミユキ様のおしりに食い込んでいるふんどし姿と違っておしり全体をカバーするふんどし使いなんですけど。
 え、「ふんどし使い」なんて言葉はない、のですか?
 失礼しました。

 とにかく。『智多星』ノノさんがにんまりしている絵が目に浮かびます。
 既存の価値観が破壊されそうです。

 実際、場内は完全にどよめいています。

 新機軸は保守的な層が否定しそうなものですが、「コッドピースでもっこり」を思い浮かべると否定なんてできるはずもありません。
 というかむしろ「その手があったか!」と手を叩いている人がいますよ、そこかしこに。

 そして舞台の上ではアイコさんとモモさんが踊ってます。洗練されたモモさんのステップに導かれる形のアイコさん。
 アイコさんは少しぎこちなかったりミスをしたりするのですが、その都度モモさんが巧みに誘導します。
 モモさんって舞踏スキルを【上級】以上まであげているのですね。

 それにしても……。なんと申しましょうか……。

 アイコさんのぎこちなさを完全にカバーして踊るモモさんの優雅な踊り。
 見つめ合いながら踊るその姿には思わずため息が出てしまいます。
 でも。
 ふんどし装着のおしりとがどうしても股間が気になってしまうのです。
 それはどうやらわたしだけではなさそうです。商人さんの間でひそひそと話し声が聞こえてきます。
「いいか、あのふたりの冒険者カードを買えるだけ買え。それを貴族に見せてみろ。着道楽ならこの新たな装いに必ず食いつく。よそに遅れるなよ」

 なるほど、流行とは自然発生的なものではなく作るもの、なのですね。勉強になりました。

 踊りが終わり、おふたりは一礼。そして手を取り合って退場していきます。素晴らしい踊りでした。でも、その後ろ姿が……タイツの間のふんどしが。
 やっぱり気になってしまうわたしなのです。

 ノノさんの舞台は割愛します。

「いきなり雑だな」

 と、たった今舞台裏に戻ってきたノノさんがわたしに文句を言ってます。
 ですけど。
 もうこの人ったらすべてが計算ずくなんですから。計算通りに場内が大盛り上がりでしたよ。
 わたしの横のまりあさんが、特に感心してます。

「おしりの線って、ああいう風に見せるとエロくなく、むしろきれいに見えるんですね。勉強になりました」

 まりあさん、おしりには自信があると主張してましたからね。

「さあ、次はサシャだぜ。……お前のようなモノノフがいつまでも野郎どもに飲まれてるんじゃねえ。飲み込んでこい」
「サシャ……いってらっしゃい」
「すでに勝利は計算済み。あとは実行あるのみ、だ」

 サシャさんの手の上にミスズさん、ミユキ様、ノノさんが手を置きます。アイコさんとモモさん、ジョータさんは四人を見守るように立ってます。

「ん……。弱い自分は今日でおしまいにする。必ず勝って、くる」
 サシャさんの目に光が灯ってます。
「サシャ、出陣!」

 冒険者になった。
 でも強さゆえに。
 その美貌ゆえに。
 人気が出たゆえに大勢の人がサシャさんの元に殺到。
 断ることもできず、広く浅く付き合うと怒られなじられ罵倒され、そして昨日まで賞賛をしていた人が悪態をついて消えていき。

 やさしいから傷ついて、傷つけられ続けたサシャさんは対人恐怖症になってしまいました……。

 虎人の誇りの肌も見せられないサシャさん。
 いまでは百花繚乱以外の人とは満足に会話もできないサシャさん。

 百花繚乱のリーダー、ミユキ様が真っ先にこの依頼に反応したのは偶然ではなく、いつも仲間を思っているからの必然だった。
 それに気付いたとき、わたしは胸が熱くなってしまいました。

 白組とか紅組とか関係ありません。わたしも心の底から応援してます。
「がんばってください、サシャさん!」 




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

作者より。

アイコさんの踊りは1D100<40 (舞踏スキル【中級3】+補正)でダイスを振ったのですがダイスの目は78で判定=失敗。

見事にやらかしてくれました。
(ちなみに「1D100<40」とは「百面ダイス一回振りで40未満なら成功」という意味です。ほか、ダイスの目が0ですと大成功で素敵な踊りに、99ですと大失敗でこけてしまうなどが発生します)

一方のモモは舞踏がティアの予想の【上級】どころか【皆伝4】まであげているので、人を魅了する中級成功以上の踊り自体は自動成功。さらに【上級】判定も自動成功しちゃっているのでアイコのカバーも行っています。
なのでふたりの踊りはため息が出るほどの美しさになりました、と。
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