冒険者ギルドの契約職員だけど、聞きたいことある?

谷山灯夜

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第1章 冒険者ギルドの契約職員なのです!

冒険者の悩みを聞くのもお仕事なのです―その12

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「白組のみーなさーん。準備はーいいですかー。いっきまっすよー」
 『一丈青』のミユキ様はまったくいつも通りです。
 うわさには聞いていたのですけど、ミユキ様はたとえ大軍が相手のいくさ場でも、いつもと変わらないのだそうです。
 そして今日ものんびりと声をあげてます。
 ミユキ様の前に『及慈雨』ミスズさんが出てきます。
「みんな。いつも通りで気負わず、でも気合いを入れていこうぜ。この世界の住人に、一生ネタにできる面白いものを見せたいじゃねえか」
「応!」
 ミスズさんの声に、ミユキ様、ノノさん、サシャさん、ジョータさんにモモさんが拳を上にあげ応じます。
 今回の依頼は「ふんどしを着用し大勢に見せる」こと。
 ふつうに考えてしまえばイロモノにしか思えません。
 そう、わたしは、わたし自身が思っていました。
 でも白組の人の顔はこれからいくさ場に向かう冒険者そのものの真剣な顔です。
 これが、これこそが冒険者、なのです。
 わたしはちょびっとだけ、自分の甘さやぬるさを恥じました。
 自分は冒険者に依頼を斡旋するのに、その依頼をここまで真剣に考えていただろうか、と。

 わたしってまた考え込んでいたようです。
 ずっとホールで接客していたミチオさんが駆け足でこちら、舞台裏にきたのにすぐに気付けませんでした。
 ミチオさんに背中をぽん、と叩かれてようやく我に戻った始末、なのです。
「もうすぐ開演だけど、準備はいいかしら?」
 ミチオさんの言葉に白組の面々も、紅組の面々も無言でうなづきます。
「じゃあ、じゃあ。みんなが組んだ予定通り、最初に見せるのは白組の人たちからね。わたしも、みんなのパフォーマンスを楽しみにさせてもらうわ」

 るんるんとステップを踏んでミチオさんはステージへと戻っていきました。
 会場からは大陸公用語ラートで開演を告げるアナウンスが聞こえてきます。少し間を置きながらのアナウンスです。
 大陸公用語ラートを、北方民族語ノルン中部民族語アーシュなどに通訳しないといけないので、その時間を配慮してるようですね。

 劇場の舞台の袖でミチオさんの挨拶がはじまりました。ヘッドマイク装着での挨拶です。
 えと? 「ヘッドマイクとか、それに前にはラジオと言っていたけどあるのか?」
 ありますとも。
 あるんです。アルカディアには。
 アルカディアには異世界人がつくったキカイが。
 とりわけムセンと言われるキカイは異世界の人たちがこちらに来てから一番「無いと最悪に困る」と言われたものでして、ソッコーで作り上げたそうです。

 おっと、ミチオさんの挨拶がはじまってしまいました。

商人バイヤー観客ファンのみなさーん、きょうはわたしの新作、最新の肌着『ふんどし』の発表会を見に来てくれてありがとう! 下着だから、えっちなこと考えてしまうかもだけど、それだけで終わらせないつもりで作ったしぃ。なによりもきょうのパフォーマーもそれだけじゃあ終わらせない、わよ。わたしも、たのしみにしてるんだから。それじゃあはじめちゃいましょ。ふんどし発表会、開演よ!」

「用意もー気負いもーいいですねー。それでーはー……白組、出陣!」
 
 ミユキ様、発言の後半は間延びしてないのです。
 颯爽とキビスを返し、つかつかつか、と舞台に進んでいきます。
 そう、ミユキ様が先陣、先鋒なのです。
 初手ミユキ様、の登場に観客大盛り上がりです。こうなると普段は威厳があふれイカメシい顔をした商人おじさんも、おばさんおねえさんも、ただの一般男子、一般女子に戻ってしまうものなのですね。

「うおぉぉ、ミユキ様だーっ! えええっ!?」
 ミユキ様の姿に、その男子も女子も驚愕です。
 あれは驚きますよね。
 だってミユキ様ってば、ショート丈にした水軍服しろセーラーに白ふんどし、という姿なんですから。

「なぜ……その組み合わせ、を?」
「おそらく水域での作業、それに特化した機能美を追求した結果でしょう。しかし、なぜでしょう。見ているだけで感じる、この背徳感は」

 ここで『大漁旗』ジョータさんも登場します。ジョータさんもミユキ様と同じく上が水軍服しろセーラーで下はふんどし一丁です。
 ジョータさんはウンディーネなので水軍服しろセーラーがよくお似合いなのです。
 ……なぜかヒューマンだけは。たとえばアイコさんやまりあさんはジョータさんのこの姿を見て固まってしまったのですけど。

 ということはさておき、現在舞台ではミユキ様とジョータさんがデッキブラシを持って甲板掃除をしているようなパフォーマンスを実演中です。
 歌いながら、踊りながらの甲板掃除です。ミユキ様もジョータさんも歌がうまい、のです。
 なるほど、ジョータさんの故郷、水仕事が多いウンディーネの世界にはふんどしがあると言ってました。
 ふんどしの活用法を見せているのですね。
 それにしてもミユキ様もジョータさんもきゅっと引き締まったおしりがきれい、なのです。

 おっと。
 ジョータさんやミユキ様のおしりを見て、うっとりしてるのはわたしだけじゃないので、わたしはヘンタイさんじゃないですよ?
 ……たぶん、なのです。




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作者より、ちょっと、いやかなり長いあとがきいいわけ

上衣セーラーは「ちょっとまずいかな」と考えないでもなかったんですけど、でも出そうとした理由が「元々水軍服だったからだし」だったので決行しちゃいました。
上=柔道着、下=ブルマ、という組み合わせ(を考えて漫画にされた先達がいます)に近いものも、考えないでもなかったのですが。

ちなみにせっかくここまで読んで頂けたので過去調べた資料などから。
江戸時代初期。
新興都市江戸の町に住む庶民にはなかなか着衣がまわらなかったと。
(木綿もまだ貴重で古着を買っていたそうです。木綿がいかに貴重なのかは本作でいずれ)
で、一心太助に代表されるような魚河岸などの従事者はふんどし一丁。
ですが上に何も着ないのも見栄が張れないので体に墨を入れたんだそうです。
「何かを着ているように見えるように」。
なお世界観が江戸時代っぽいウンディーネもそういう世界の人、になります。

なのでフェッチの極みみたいな描写にも必然性がある……のですなのですよ。
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