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3.育ちの違い

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それからも二人で飲んだがクルソルは一向に酔っぱらわず、普段と同じで少し怖くなった。俺はというと見事酔っぱらいになってフラフラとしている。このまま帰るとたぶん奥様…いやご主人様に怒鳴られる…。
「ぼくん家で少し休んでいく?」
クルソルが俺の背中を擦りながら、眉を下げて聞いてきた。俺は頷くと、彼に介抱をされながら彼の家へと向かった。

着いたのはアパートの二階。綺麗に掃除してあって、壁には美しいウェヌス(美の女神)と楽園の画が描かれている。家具も傷が少なく良い木が使われているのが分かった。部屋から現れたのは、中年ほどの女性。
「おかえりなさいガイウス様。そちらは?」
「友人だ。かなり酔っていてね。」
俺はクルソルの顔を見た。喋り方がいつもよりハキハキしているので家ではこんな感じなのか?あの時もそんなふうにハキハキ断れば良かったのに。
俺の視線に気づいて「どうしたの?気分悪い?」と聞いてきたが無視してやった。
彼の寝室に通されて、壁画の綺麗さに驚いた。色鮮やかな自然、小鳥や兎たち。こんなの見せられたら俺の寝室なんて…奴隷たちが詰め詰めの寝室なんて…。
俺があまりにキョロキョロ見てるから恥ずかしかったのか申し訳なさそうな顔をしていた。
一方、俺の中では嫉妬が渦巻いていた。違いがあるのは当たり前だ。分かっている。でも持っている人を羨んでしまう。
「ここお前だけで住んでるの?親は?」
「両親は前の家にいる。ここは叔父さんが所有してるアパートなんだ。今ローマの方の家で暮らしててぼくが住まわせてもらってる感じ。」
「ふーん…。」

恵まれてる…全部恵まれてる…神様に愛され過ぎてる。家も家族も地位も容姿も…みんな持ってる。

俺には何もないのに。

俺はガキの時、戦争に家が巻き込まれて丁度薪を取りに行ったときに奴隷商人に捕まった。戦争と関係なかったのに。言っても聞いてくれなくて殴られ歯が折れた。裸にされてあまり価値がないとか言われた。それでも解放してくれず、そのまま値引き商品として売られたんだ。
家族がどうなったか分からない。帰るって言っても結局また捕まるだろうと、ここで頑張って暮らしているのにこいつは…。
いいな…いいな…いいな。

「お前はいいな。かっこいいし、金持ちだし。」
妬みの言葉がクルソルに降りかかる。
「そんなことないよ。ぼく自身はダメなやつなんだから。」
「そんなことある。俺を見てよく言えるよな…。」
悲しそうな顔を横目に俺はこいつの高級そうなベッドに座ってやった。柔らかい…固くない…。
「俺…お前の奴隷が良かった。奴隷でも良い暮らし出来そうじゃん。」
妬みで言ったのに、こいつは言葉に乗っかってきたのだ。
「ぼくも…ずっとウィンドゥスをぼくの物にしたかった。」
ベッドに座ってる俺の前にクルソルはしゃがんで俺の顔を見上げた。ランプの灯りが、よりクルソルの色っぽさを引き立てる。
「ウィンドゥスをぼくの物にしたい。」
「お願いしたいのはこっちだよ。雑用なんでもするぜ。皮を磨くのは得意なんだ。故郷でもやってて…ピカピカ出来るんだぞ!すげーだろ!」
「いいね。すごくいい。」
俺の八つ当たりも自慢話も柔らかな笑顔で聞いて頷いてくれる。ひざまずいて俺の目線より下の位置にいるのがなんというか優越感があって妙な気持ちになった。気分が良くなってきたところでクルソルが真剣な顔で呼び掛けてきた。
「ウィンドゥス。」
「ん?」
「ぼくのね、夜の相手もしてほしいんだ。」
「うん?今みたいに?」
「うん。でももっと性的なことも。」
「せいてきって?」
「えっちなことをしたいんだ。」
「…ん?」
ボーッとしていた頭がちょっぴり冴えた。
天井を見上げた後、クルソルの方へ首を戻す。
「ん?」
「やっぱり嫌かな。酔ってるときに卑怯だよね。ごめんね。」
「んー…え?本気で言ってる?」
「うん。」
「な、なんで俺?性欲溜まってるなら、男買えばいくらでも綺麗なやついるだろ。」
「遊びでしたいんじゃないよ。」
「で、で、で、でも。俺ってブスだし…肉ねーし…髪だって薄いし…。普通綺麗な子選ぶだろ!」
「じゃあぼくはブス専ってこと?」
「誰がブスじゃ!!!あ、いや…そうなんだけどー。」
俺は頭を抱えた。誰かに求められるなんて初めてだしずっと友人と思っていた相手からなんてビックリしてどうしたらいいのかわからん!
そもそも俺は性的な経験がない!一人でマスかいて終わる人生と思っていたんだ!急にえっちしようなんてパニクる!
「ねぇウィンドゥス、ダメかな。」
綺麗な顔が迫ってきて、焦りから身を縮ませた。
ベッドに押し倒されて心臓はバクバクとうるさくなり手汗はすごいことになっている。
「嫌じゃない?嫌なら言ってね、すぐ止めるから。」
そう言うとクルソルの手が俺の手に優しく触れて、ふわふわと包み込むように握ってきた。
俺の指先を擦り、くすぐったいような気持ちいいような変な感覚だ。次は頬を指の背で撫でられた。
「怖くない?」
優しい声にドキドキして彼の問いに頷いて答えた。
トゥニカの上から身体を撫でられ、俺は興奮してアソコが熱を持っていく。さらに盛り上がった部分を指先で撫でられ、ビクッとするとクルソルは「ふふっ」と嬉しそうに刺激していく。
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