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初めての仮面舞踏会
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しおりを挟む毎日のようにロイドに届けられる贈り物へのお返しの品を探しに、リリーがロイドと街に出ているときだった。
基本的に日々多忙なルイスは贈り物を貰っても自ら返礼品を買い求めることはない。ロイドが街であらかじめ送られてくるであろう品の返礼に合ったものを購入しておき、必要なときにそれを送り返す。
階級の高い貴族相手であれば、ロイドが購入した品々をルイスが自ら選ぶことはあっても、街に繰り出して商人からルイスが直接購入することはなかった。
それに忙しいルイスがいちいち品を探しに街へ買出しにいく暇はないというのもあるが、それよりももっと別の理由がある。これこそが自由にルイスが街で物を買うことができない原因だった。
(王宮から正式にご用達の指定がされた店じゃないかぎり、王族の誰かが直接店に来て物を買ったなんて噂が立ったら、他の店から贔屓と受け取られかねないものね)
ご用達の指定すら数年に一度ある品評会で、我こそはとお茶や食器、その他にも王宮で使用される日用品などに最も優れているとされている店が指名されるのだ。どの店であっても平等に審査されたわけでもなく、王族が購入したというだけで名が売れるのは他の店にとって面白くないだろう。
それら非難を避けるためにロイドが代理で品々を購入するわけだが、もちろんルイスの代理ということは伏せられている。王族の誰が購入したのか分からない以上、店側も大声で王族が購入していったなんて言えない。
(自由に買い物もできないなんて不便よね。王都にはこんなにお店がいっぱいあるのに、好きに見て回って買えないだなんて拷問かしら)
ロイドが店で買った品をリリーも数個持って、通りに停めてある馬車へと運ぶ。
そしてふと目に入ったそれにリリーの足が止まった。向かいの店に飾られているのは色鮮やかな羽が左右に挿された派手なマスクだ。
品物を買った店に入るときは背後になって気づかなかったが、パッと見ただけでも目を引く鮮やかさだ。あんな派手な仮面を何に使うのかとリリーは気になってくる。
「仮面舞踏会で使う仮面ですね」
荷物を持ったままじっと向かいの店を見ているリリーに、店から出てきたロイドが話しかける。
「仮面をつけて踊るの?」
「そうです。仮面を付け顔を隠すことでお互い身分や素性を伏せ、また相手の名前を訊ねることも無粋とされます。その晩だけは身分に関係なく、話しやダンスを楽しむ舞踏会です」
「王都にはそんな舞踏会があるのね」
リリーには初めて聞く舞踏会だ。社交パーティーは貴族の出会いの場だ。顔を隠すだけでなく身分も隠す舞踏会があるというのは初めて聞いた。
(いつも身分に捕われているからこそ、息抜きで遊びたい時もあるわよね)
そうリリーが考えて、真っ先に頭に思い浮かんだのはルイスだった。こうして好きに買い物もできない。それが貴族と王族の差だと言われてしまえば口を閉ざすしかないけれど。
「この店を見たら、後であちらの店も見ていきましょう。マスクだけでなく衣装やドレスも、普通の社交パーティーと違って独特なものが用意されてます。仮装的なデザインです」
「いいの?王宮に戻らないと」
「返礼の品を選ぶのに少し時間がかかったことにすれば問題ありませんよ」
その言葉にパッと顔を明るくさせ、荷物を馬車に詰め込んでから、さっそくと仮装衣装の店にリリーは入った。
「すごい!!ドレスっていうよりも本当に仮装ね。ピエロや、これは吸血鬼かしら?」
店に入るなり、ところ狭しと棚にかけられた衣装にリリーの目が輝く。顔を隠す派手な仮面だけではなかった。初めて見る衣装は背中に羽が生えているものや尻尾が生えているもの、袖や裾まわりをふさふさの毛革で縁取ったもの。
男性が持つ杖も持ち手の方に意匠を凝らした装飾がされいて、ロイドの言うように正しく仮装だった。
(こんな衣装を着た人たちばかりの舞踏会だなんて、見ているだけで楽しそう!)
非日常の空間を思い浮べるだけでリリーの胸は踊る。
「………ねぇ、ロイド。ルイスはたまに身分とか気にしないで外を自由に出歩いてみたいって思うことはないのかしら?」
店の主に衣装を少し見せてもらうと言付けて戻ってきたロイドが、急に神妙な顔になったリリーにどうかしたのかと傍に立つ。
「ルイス様が自由にですか?」
「いつも誰かしらが傍にいるでしょう?1人になれる時間もほとんどないわ」
「あの方はいずれこの国の王になられる方ですから……。1人で外を歩かれるというのは難しいでしょうね……」
「そうよね……。こんなの我がままよね。ごめんね、ロイド。聞かなかったことにしてちょうだい」
「かしこまりました」
苦笑したリリーにロイドは一礼する。
しかし、先にリリーが店を出たのを見計らい、店主に手早く耳打ちした。
+++++++
すいません。
プロットが1つ抜けていました;;
先にこちらの章をさしこみます。
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