昭和のおっさんタロウの異世界物語は東の国から

うしさん

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第3章 西の大陸

第06話 火龍戦に備えて

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 『永遠乙女エンドレスレディ』との夕食も終わり、就寝の準備を始めた。
 火は一晩中絶やしてはいけないのと、周囲の魔物への警戒をする。そのための夜番を交代で行なう。
 今日は八人いるから二人ずつで交代で夜番をする事に決まった。

 私達だけならソラの『四点結』があるので見張りはいらないのだが、『永遠乙女エンドレスレディ』にはそういった結界を使えるメンバーはいないようだ。
 結界について少し尋ねてみたが、特殊なスキルなので使える者が非常に少ないと言われた。
 今回の目的は、他の人達がどういう野営を行なっているかを確認するのが目的だから、『永遠乙女エンドレスレディ』のいつもの野営を見せてもらうために、ソラの『四点結』は封印する事にした。

 各自、焚き火の周りから離れないような位置取りで、自分の場所を確保している。
 寝具は寝袋や毛皮製の毛布で、昼の店で売ってたようなものを使用していた。
 テントは? と聞いたが、荷物になるので今回は持って来て無いそうだ。
 雨が降ったらどうするつもりなのだろうか。
 これは、今日購入した小屋も封印だな。

 そういえば、収納スキルを持ってる人が五人いると言ってたが、その人達も冒険者なのだろうか。
 見張りの一番目は私とアンナさんに決まったので、その時にでも聞いてみよう。


「先日、収納スキル持ちが五人と伺いましたが、その人達も冒険者なのですか?」
「そうだね、三人は冒険者をやってるよ。だけど、そいつらは強くないんだ。ただの荷運び役さ」
「道具などを運ぶ係ですね。どれだけ入るのですか?」
「あんたほど入る奴はいないね。せいぜいタロウが出した倉庫の十分の一も入んねぇんじゃねーか? タロウのは異常だ」

 異常って……もうちょっと言い方はないのかね。

「あとの二人は何をしてるんですか?」
「一人はあの倉庫ぐらい入るから輸送の仕事をしてるな。こいつも弱い。そしてもう一人は勇者だ」
 勇者。また名前が出て来た。アラハンさんも言ってたな。黒目黒髪が勇者の特徴だと。

「勇者ですか。その方はやはり魔王を倒すために戦ってるんですか?」
「……微妙だね。あたいも会った事は無いからハッキリとは分からないんだけどさ、三組の勇者がいるって話で、分かってるのは中央の勇者だけなんだ。中央の勇者は戦わないって聞いてるけどね」

 勇者が戦わない? じゃあ、なんで勇者なんだ? 正義の心を持って挫けず勇敢に戦うから勇者じゃないのか?

「中央の勇者もあまり人前に出ないらしいから、本当にいるかどうかも分かんないしね。噂ではいくらでもはいる収納を持ってるって話だよ」
 なるほどー。チートな収納、私と同じだな。だったら帰る方法を知らないだろうか。一度会いに行ってみるのもいいかもしれないな。

「収納アイテムもあまり入らないのですか?」
「ピンキリだね。凄くたくさん入るものもあれば、机一つぐらいしか入らないものもあるよ。値段も入る容量によって変わるけど、机一つぐらいしか入らないものでもバカ高けぇものもあるよ」
 小容量なのに超高額?

「それは一体……」
「時間経過しないんだ。その収納バッグに入れときゃいつまでも状態が変わんないんだよ。凄っごく入って時間経過しないものもあるみてぇだけどな、そんなのあたいらに買えるわきゃねぇよ」
 スキルでは無いけどアイテムならあるんだな。でも超高額であると。でも、時間経過なしでそこそこ入るものでいくらぐらいするんだろ。

「今日、工房に寄ったのですが、いい小屋がありましてね。そう大きくないんですが、野宿するよりいいと思ったのですが、それぐらいのものが入る収納バッグだといくらぐらいするものなんでしょう」
「そうか、あのドワーフのじいさんのとこに寄ったんだな。小屋なんて作んのは物好きなあのじいさんぐらいだからな」
 ドワーフ!? ニーベルトさんってドワーフだったのか。
 確かに変だとは思ってたんだ。背はソラやココアと変わらないのに、横幅が異常に広かったから。
 そうかぁ、ニーベルトさんはドワーフだったのか。ただのガチムチ系のちび爺さんじゃなかったんだな。

「あのじいさんが作る小屋が入る収納バッグねぇ。白金貨一枚ぐらいじゃねーの? ダンジョンで運良く稼げりゃ買える金額だな。もっと運が良けりゃ宝箱から収納バッグが出たりするんだけどよ」
 ダンジョン! ダンジョンもあるのか。どんな所なんだろうか。

「でも、タロウならたくさん入る収納スキルを持ってんだからいいアイデアかもな。でもな、野営で小屋はやっぱりいらねぇな」
「なぜですか?」
「魔物が近づいて来たってわかんねーじゃねぇか。小さな小屋なんざ魔物に吹き飛ばされっちまうよ」

 近づいてきても建物の中なら確かに分かり辛いな。しかし私なら分かるんだが。
 それに、ソラに『四点結界』を施してもらえば小屋も守れるそうだ。

「その短所さえ克服できれば快適な夜を送れそうですが」
「確かにな。でもよ、そんなの現実にはありえねーからな。いくらタロウが収納持ちでも、小屋なんざ小休憩か町中ぐらいでしか使えねーだろうな」

 やはり今日は出さなくてよかったな。もし、出してたら変人扱いか、初心者としてバカにされてただろうな。
 しかし、折角買ったのに使えないのは残念だな。

 その後は時間まで雑談をしてヘレンさんとソラの番になった。ソラは……起きないか。仕方が無い、このまま私が続けよう。
 見張りに戻ると、アンナさんに代わってヘレンさんが待っていた。
 ソラの代わりに私がこのまま続けると伝えると、「ま、仕方が無いか」と納得してくれた。
 さっきのアンナさんにも有意義な話が聞けたので、ヘレンさんにも聞けたらと思い、色々と思いを巡らせた。

 そんな思案中の私には興味がないヘレンさんは手鏡を出し、化粧をするまではしてないが、髪を櫛で解いたり顔が汚れてないかと確認をしていた。
 こういう女性の身嗜みチェックって誰の為にやるんだろう。目の前で女性にされると私などは地味にダメージを受けるのだが。
 だってそうだろう、興味のある男の前ではしないと思うのだ。興味のある男の前で綺麗な自分を見せたいから身形を整えるのだろうと考えてしまうのだ。

 そんな私の考えなどお構いなしに鏡チェックを終えたヘレンさんが話しかけてきた。
「鏡が珍しい?」

 そんなヘレンさんの言葉にハッとする。確かにこの世界で鏡をまだ見てない。元の世界にいた頃は珍しくもない鏡だが、この世界ではまだ見ていない。
 元々、一日に何度も鏡など見ない私だが、会社のトイレにはあるし、鏡などどこでも見かける。鏡を見ようと思わなくても、一日に何度か見ていた。
 それが、この世界では無いのだ。あまり鏡など積極的に見ないから、この世界でも優先的に探さなかったのだが、目の前にあるのなら話は別だ。
 今の自分の姿をようやく確認できる。
 ヘレンさんに頼んで、鏡を貸してもらった。ワクワクはあまりしないが、興味はある。今の自分がどうなってるのか気になるところではあるが、私自身モテる時期はほぼ経験してないので、若返った所でモテるとはこれっぽっちも思っていない。

 現在、若さも体感できているので十分満足しているが、一度ぐらいは今の容姿も確認しておきたい。その程度だ。枯れていると思われるかもしれないが、確かに若い頃に比べれば枯れているかもしれないな。
 だが、女性に興味が無くなったのではない。女性に対する興味は尽きない。が、ソラやココアと共に行動しているせいか、育てる事や生きる事に重点を置きすぎてるので、今はそれどころではないというのが実情だな。
 他に、興味を奪われているせいもある。
 例えば、刀の使い方や魔物の倒し方。他にもスキルの使い方や話に出てきた勇者やダンジョン。
 元の世界に生きて戻る事が、最重要なのだから。

 手鏡を借りて、自分の顔を見た。
 うん、若いな。でも自分だ。焚き火で照らされた自分の顔は、当たり前だが若い自分だった。
 ある程度予想がついていたので、特に感動もなく、手鏡をヘレンさんに返した。
 折角なので、ヘレンさんにもさっきアンナさんに聞けなかった質問を聞いてみよう。
 ヘレンさんも眠気覚ましにちょうどいいと、気さくに答えてくれた。

「ダンジョンというのは魔物のレベルが高いのでしょうか」
「外とあまり変わらないわよ、ただ凶暴なだけ。外の魔物は強い敵からは逃げるけど、ダンジョンの魔物は逃げないの。絶対に向かってくるのよ。しかも、同士討ちは絶対にしない。攻撃対象はダンジョン攻略者にしか向かないの」
 ダンジョンの魔物は逃げないのか。外の魔物は逃げるというが、まだ逃げる魔物に出会った事は無いな。それだけ凶暴なのに同士討ちをしないのか。ダンジョンの魔物は特別なんだな。

「それだけじゃないわよ。ダンジョンで倒した魔物は回収できないの、倒すとすぐにダンジョンに吸収されてしまうのよ」
 おお、それはファンタジーっぽい話だな。倒すとダンジョンに吸収されるのなら肉や素材が取れなくなるな。その分ドロップ品があったりするのだろうか。

「魔物が吸収されると何も残らないのですか?」
「いいえ、魔石は必ず残るんだけど、偶にドロップ品もあるわね。肉だったり素材だったり回復薬だったり、武器や防具の時もあるの。その魔物に関係するものを落とす事が多いわね。でも、ドロップ品は毎回落とすわけじゃなくて、ダンジョンにもよるけど大体三割ぐらいの確立かしら」

 微妙だな。今の私達は解体もできるから、魔物を倒すと全部回収できる。が、ダンジョン内だとそうは行かないのか。エンカウント率も上がり、解体の手間がいらないとなれば、腕に自信のある冒険者なら通いそうだな。
 運良く武器か防具をドロップされれば病み付きになる者も出そうだ。
 魔物を倒すだけでお金を稼げるんなら、その内行ってみてもいいか。

「あと、ダンジョンの醍醐味といったら宝箱ね。罠がある場合もあるけど、いいものが入っている場合が多いの。収納バッグなんかも出る場合があるし、深層に行けば行くほどレアアイテムが出るから実力に見合わない階層に行ってしまう冒険者も偶に見掛けるわね」
 欲に目が眩んで命を捨ててしまうパターンだな。しかし、宝箱ってまるでゲームだな。

「あと、宝箱と言えばボスね。ダンジョンに現れる宝箱だと偶にハズレがあったりするけど、フロアボスやダンジョンボスを倒すと必ず宝箱が現れるの。その宝箱はハズレ無しよ」
 ……ボスね。完全にゲームだな。やはりボスというぐらいだから強いのだろうな。

「そのボスというのは、やはり強いのですか? もしかして人の言葉を話せたりしませんか?」

 『がっはっはっは、よくここまで辿り着いたものだ。我に挑戦するに相応しい力を持っているようだな。ならば相手をしてやろう。地獄で後悔する事になるだろうがな、がっはっはっは』
 ゲームみたいな設定だから、これぐらい言う魔物もいるんじゃないだろうか。

「魔物が話せるはずがないじゃない。あ、でも待って。ダンジョンにはいないけど、古参の龍や最高位の魔物には話せる魔物がいると聞いた事があるわ。でも、私も聞いただけで、実際に見たわけじゃないけどね」
 やはり話せる魔物は眉唾もんなんだな。ダンジョンボスも話せないようだな。
 もしも、いるのなら、仲間に引き入れる検討をしたかったのだが、いないのか。
 だったら、なぜこんなスキルがあるのだろうな。誰を仲間にするためのスキルなのだろう。ゲームだったら『魔物使いテイマー』だったか。捕まえて仲間にして育てるシステムがあったと思うが、別にいらないな。ソラとココアで間に合ってる。

 いや、待てよ。今回の依頼に火龍がいたな。火龍は古参の龍に当てはまらないだろうか。龍というぐらいだから叡智に溢れていたりしないか。
 もしそうなら参謀として仲間に引き入れたいが、まずは見てからだな。それも見つける所からだし、今はそういう龍がいるかもしれないに留めておこう。


「それはそうと、タロウはさっきから何やってるの?」
「え? あ、魔物が来ないおまじない・・・・・みたいなものです」

 夜番だからキチンと見張りもしている。周辺探索サーチで近づいて来る魔物に小石を投げているのだ。
 放物線を描くように高く小石を放り投げ、魔物の頭に当たるように【那由多】に補正してもらっている。
 倒してしまったり血を流すような負傷を負わせると、他の魔物が寄り付きそうなので、気絶するように手加減もしている。
 その投げる仕草を見られてヘレンさんに聞かれたのだが、おまじないだと誤魔化しておいた。

 しかし、ここは不思議な所だ。森の内と外では魔物のレベルが違うのだ。生息している魔物の種類も違う。
 縄張りでもあるのだろうか。

「ヘレンさん達は、なぜ野営の時には森の外に出るのですか? それだと効率が悪いでしょ」
「それも聞かされてないのね……」
 はぁ、あのギルマスは……とヘレンさんはため息をつき、説明してくれた。

「この森は魔素が多くてね、強い魔物が多いの。そして森の外は魔素が少なくて魔物も弱い。あなたならどちらで野営をするかしら」
「それは外ですが、魔素というものが森にはあるのですね。森の奥まで探索するのなら、奥の方にも魔素の少ない所があるのではないですか?」
 石碑のような場所が他にも無いのか?

「無いわね。私の知る限り、そんな場所は無いわ。文献ではこの森のどこかに石碑があって、その周辺には魔物も入れず食料もあって何日でも滞在できると夢のような事が書いてあるらしいけど、冒険者でそんな場所を見つけた者はいないわね。え、ちょっと待って。あなた魔素を知らないの?」
 おや? 石碑の場所も知らないのか。ここからだと少し遠いが、行けなくはない距離だと思うのだが。

「え…はい、魔素とはなんでしょう」
「そんな事も知らないなんて、子供でも知ってるわよ」
 そんな、可哀想な子を見るような目で見ないでほしい、魔素など初めて聞く言葉だ。いや、異世界物に魔法の元になるものとして出ていた記憶はあるが、【東の国】も含め初めて出た言葉だ。ここはご教授願うしかないな。

 思った通り、魔素とは魔法の元となるもので、誰でも持っているものらしい。
 しかし、人体の中だけでなく、世界のあらゆる所に存在するもので、世界中に満ち溢れているものだという。
 その魔素が多く存在する場所には緑も多く魔物が強い事も常識なのだそうだ。
 魔素濃度が濃い場所では稀に超強大な魔物が生まれたり棲みついたりする。更にその超強大な魔物が魔素を振りまく事で、より多くの魔物が生まれたり棲みついたりして魔物の楽園が出来上がるそうだ。
 魔物が多くなりすぎて飽和状態になると、弱い魔物が弾き出され町を襲ったりする事もある。それがこの森でも半年前に起こり、魔物の暴走スタンピートが発生し町を襲ったのだそうだ。

「だいたい、半年前の魔物の暴走スタンピートの元と言われている森の番人がいるから森にも入れなかったし、今回はその番人が倒された証拠を見つけるための探索なんだから、そんなに奥まで行く必要もないの」
 そんな依頼を受けてたのか。だったらあのデュラハンが荒らした場所を教えてあげれば依頼完了になるのか?
 魔素の説明の後、依頼についても聞かせてくれた。だったらお礼にデュラハンの場所をそれとなく教えてあげよう。

 それからの残りの時間にも色々と教えてもらえた。
 ヘレンさんは私が聞くと、いちいち溜息をついて「そんなに何も知らないで、よく生きてこれたわね」とぼやき混じりでも、丁寧に教えてくれた。
 やはりリーダー、面倒見のいい人みたいだ。

 一番ショックだったのは【鑑定】だ。この世界には鑑定できる人がいないらしい。
 鑑定する道具はあるのだが、スキルで【鑑定】を持ってるのは勇者ぐらいだろうと教えてくれた。
 だったら私は勇者なのか? いやいや、勇者なら称号に勇者と入るのではないかと思う。私の称号には『異世界の落ち人』となっていたから勇者ではないだろう。
 更に言うなら勇者とは召還されるものらしい。私は召還されたのでは無いから、やはり勇者ではない。誰も五〇歳のおっさんを勇者として召還するはずもない。そういうのは若者に任しておこう。

 結局、ココアの分も私が担当し、ミューさんからも実のある話がたくさん聞けた。
 最後の夜番は『永遠乙女エンドレスレディ』の残り二人だったので、私も就寝する事にした。

 翌朝の朝食も私が提供すると、色々と教えてもらった謝礼金は食事でチャラにしてくれるというので、有り難く好意に甘える事にした。
 今日も探索に向かう『永遠乙女エンドレスレディ』を見送り私達は町に戻る事にした。
 別れ際に「あっちの方は探しましたか?」とデュラハンがいた方向を示した。
 まだだと言うので、魔素の流れが変な気がします。と適当な事を言っておいた。
 どっちに行くか決めてないのなら、私の言葉を気にして行ってくれるかもしれない。


「こんにちわー」
 町に戻ると真っ直ぐニーベルトさんの工房に再びやって来た。
 誰もいないが、小屋が二つ置いてあった。恐らく私が注文していた小屋だろう。

「いらっしゃい、えーと、何のご用でしょうか」
 ニーベルトさんを若くしたような中年男性が出迎えてくれた。間違いなく息子さんだろう。
 背はソラとココアよりも若干小さく、横幅は二人分ぐらいある。髭は同じようにむさ苦しいほどボウボウに生えているが、髪の毛も髭も真っ黒だ。

「あの、たぶん、この小屋だと思うのですが、小屋を二つ注文した者です。もう出来上がっているのであれば引き取ろうと思いまして」
「あぁ、親父の趣味にお金を出してくれた奇特な方ですね。親父ならそっちの中に入ってると思います」
 息子さんは二つの内の一つ小屋を指差した。

「おーい、親父ぃ。お客さんだぞ」
「おお、もう仕上がるところじゃ。最後のパーツに迷っとっての。お客さんならちょうどいい、決めてもらうとするかの」
 そう言って小屋からニーベルトさんが出て来た。

「やっぱりお前さん達じゃったか。ちょうどええ、ちょっと来い」
 呼ばれるままに行ってみると、二つの物を見せられた。

「どっちにする」
 見せられたものは龍の顔の石像と綺麗な女性が大きな壷を持っている石像だった。

「これは?」
「ここから湯が出るのじゃ。お前さんはどっちが好みじゃ? 儂は龍の方が好みなのじゃが、若いお前さんならこっちの水の精霊の方がいいかの」ふぉっふぉっふぉ
 どっちでもいい。別に無くてもいい。温泉じゃあるまいし、小さな風呂には邪魔なだけだろう。

「それが決まれば完成なのですか?」
「そうじゃ」
 きっぱりと言い切るニーベルトさん。
 私はいらないと思うのだが、それが無いと完成しないと言うなら決めないとな。
 やはり、男の私としては龍もいいのだが綺麗な女性の方がいい。壷を持った女性に決めた。

「やはりの、そうじゃと思ったわい。では、水の精霊をつけて、と……これで完成じゃ!」
 綺麗な壷を持った女性の石像を取り付けて完成したようだ。壷は前に傾けており、水を零すような格好になっており、そこから水が出る仕組みだ。
 別にそこまで凝らなくても普通に蛇口でいいのだが、こんな小屋を作ってくれるのがニーベルトさんだけだから無碍に断って気分を損ねるのは得策ではない。営業スマイルでお礼を言って二つの小屋を引き取った。
「また何か欲しくなったら来るのじゃぞ」と、ニーベルトさんが見送ってくれた。


「さて、大体用意も整ったし、火龍のいるヴァルカン山に向かってみるか」
「さんせー」
「どこまでもお供致します」
 火龍の沈静化という一つ目の依頼だが、まずは火龍を見てみないと何とも判断できない。
 それは二つ目のケルベロスについても同じなのだが、近いのは火龍のいるヴァルカン山だ。
 まずはヴァルカン山に行って、火龍の情報を探ってから考えよう。
 私の周辺探索サーチであれば、火龍の情報もある程度得られるだろう。

 普通は、朝一に出発して野宿の回数を減らしたりするのだろうが、私達にはニーベルトさんに作ってもらった小屋がある。
 今泊まってる宿より快適に過ごせそうな小屋があるのだから、今から出発しても問題ないだろう。
 昨夜は『永遠乙女エンドレスレディ』と一緒で、折角の小屋を使えなかったから、早く使ってみたいという気持ちもある。だからこのまま出発してもいいだろう。

「さて、出来る限り距離を稼ぎたい。全速力でどこまで走りきれるかも試してみたいと思うのだが、二人ともそれでいいか?」
「ちょっと、うちは無理ー。ご主人様について行けるはずないもんー」
「私はブレスレッドに変身してご主人様に着けて頂きます」

 早速ブレスレッドに変身して私の腕に巻きつくココア。それを見てソラも便乗した。
「うちも変身するー」

 ボフンッ!

 ソラは薄い青色のような、浅葱色の流線型をした魔物に変身した。
 スライム…だな。
 ソラはゲームでよく見るスライムに変身した。
 この世界では出会ってない気がするが、ソラは知ってたのだろうか。
 私のそんな疑問など気にせず、ポヨンポヨンと飛び跳ねるソラスライムが私の懐に飛び込んできた。

「これで楽ちーん」
 確かにこれなら私も負担は少ないが、ちょっと走り辛いな。

「ソラ、服の中でもいいのだが、後ろに回ってくれ」
「はーい」
 ソラスライムがもぞもぞと服の中を動いて、後ろ側に回った。

「これで準備オッケーだな。じゃあ、行くぞ」
「はーい」
「お願いします」

 道中は非常に走りやすかった。
 舗装はあまりされてないが、それでも馬車も偶には通るのだろう。土の道だが、今までは森の中でしか走った事が無い私は、道と呼べる所を初めて全力で走ったのだ。非常に走りやすかった。
 途中、魔物を何体か見かけたが、無視して突き進む。人間には一度も出会わなかったのは、ギルマスのアラハンさんが言ってた通り、火龍の影響でこの方向の往来が激減しているためだろう。
 行く人はいなくとも向かって来る人ぐらいはいるかと思ったが、それも無かった。
 人には一切出会わなかったので、余計に走りやすく、より私の全力疾走に拍車を掛けた。

 【東の国】でもそうだったが、全力で走ると気分が高揚するのか、どこまででも走りたい衝動に駆られる。
 一度も休憩せずに街道を走り続け、陽が暮れかかって来た頃にヴァルカン山の麓に到着した。
 馬車で一週間の距離だと聞いていたので、概算で五~六〇〇キロぐらいかと思ってたのだが、それを半日で走破する私は一体何キロで走ったのだろうか。
 全力疾走だったのだが、息も乱れてないし、まだまだ走れそうなのだが。

「速かったねー」
「確かに速すぎです。お疲れではありませんか」
 確かに速すぎたと自分でも思う。

「平坦な道ばかりだったし、人にも出会わなかった。魔物にも邪魔されなかったから気分よく走れたものだから、調子に乗りすぎてしまったか」
「調子に乗ったからといって出せる速さではありませんでしたが」
「お腹すいたー」

 私の言葉に返してくれるココアとは対照的にお腹が減ったと主張するソラ。君達はいつでも平常運転だな。
 でも、確かに腹は減ったか。朝、『永遠乙女エンドレスレディ』達と食べてから何も食ってないからな。

 今日はここまでにして、野営の準備に入った。
 準備と言っても小屋を出すだけだ。見張りは私がするが、念のためソラにも『四点結』で結界を張ってもらい万全の体制で夜に備えた。

 夕食は作り置きでは無く、作ることにした。
 このヴァルカン山は山の幸が豊富なようで、野菜や山菜を沢山採れたので、ついでに魔物も何体か退治して夕食の食材になってもらった。
 こういう時は周辺探索サーチが非常に便利だ。【鑑定】で食べれるものかどうかも判断できる。
 もう、私達は人間世界から隔離されても生きて行けそうだ。それぐらいの知識と力は十分に備わったようだ。
 しかし、まずは【東の国】に戻るにしても情報が必要だから人との関わりを切るわけには行かない。切るつもりもないのだが。

 火龍の棲家に近付いたので、周辺探索サーチで確認してみるが、赤点の大きさまでは分かるが、ハッキリした強さまでは分からない。赤点だから敵だとは分かる。大きさはココアと同程度なのだが、力を隠してるのだろうか。
 主というぐらいだから、ラスボスみたいに何段階変形などして、変形するごとに強くなっていくとか。
 今の所そういう魔物には出会ってないが、初めて対する龍だから色んな想定はしておかないとな。

 まずは【鑑定】可能な距離まで近付きたい。二〇メートルぐらいまで近付ければ、なんとか【鑑定】できると思う。ここは山だし障害物も多い、身を潜めながら近付ければ【鑑定】をするのだが。

 小屋での宿泊を堪能し、満足行く朝を迎える事ができた。
 朝食は、作り置きのご飯と味噌汁と肉。朝ごはんとしてはガッツリめだが、大体三人の時はこんな感じだ。
 町で売ってるパンは固すぎて、野営で誰もいない自分達だけの時には遠慮したい。

 朝食を終え、昨日確認していた赤点を確認する。移動はしていないようだ、大きさも変わってない。
 これならココアに薙刀を持たせただけでも勝てそうな気はするんだが。
 いやいや、油断は禁物だ。アラハンさんも言ってたではないか、強すぎて誰も近付いた事すらなく、情報などとてもじゃないが集められないほど凶悪で無敵な龍だと。


「私の持ってる火竜のイメージなんだが、火を吐く、飛ぶ、硬い、だと思うのだ。何か倒す良い案はあるか?」
「突くー?」
「私も見た事はありませんが、掛かってくるなら斬ります」
「だから硬いからどうするかと聞いているんだ」
「硬くても斬ります」
「そー、硬くても突くー」

 はいはい、作戦会議にならないな。あー、ホント相談できる仲間が欲しい……
 そうだ、火龍って仲間にできないものか? 長生きしている古竜なら話せるってヘレンさんが言ってたな

「もし、火龍が話せるようなら仲間にしたいな」
「火龍を仲間にするのー?」
「そんなことができるのですね、さすがは主様です」
 いやいやホント話し合いにならないな。もう勝手に決めてしまおう。

「では、作戦を言うぞ。いつも通り正面は私が受け持つ。ココアは背後に回って陽動。ソラは中間距離を保って、隙があったらドンドン突きまくれ。」
「わかったー」
「了解しました」
 返事はいいんだがな、だが意見もしてほしい。

「だが、初めは隠れておくんだ。先に私が【鑑定】をするからな。それで私が火龍の前に立ったら作戦開始だ。先走るんじゃないぞ」
「わかったー」
「肝に銘じて」
 ソラが怪しくなって来てないか? 話が難しすぎたか?

「それで、もう一つ重要なのが、火龍が話せるのかどうかなんだ。もし話せるのなら『仲間にならないか』と私が声を掛けるので、相手の反応を待ってくれ」
「わかった……」
「了解しました」
 うん、ソラの目が眠そうになってるな。もう焦点が怪しいぞ。

「話せる龍なら殺さないように気をつけて欲しい」
「わか……zzzzz」
「了解です」
 これ以上は無理だな。後は戦闘中に指示を出すか。

「それで、ココアはどうする? その姿で戦うのか? かなり強い龍だと聞いているから狼の姿になった方がいいんじゃないか? ソラは元から人型が多いが、ココアまで付き合う必要は無いんだぞ」
「いえ、この人型の方がご主人様に頂いた薙刀が使えますから、このままで行きます。式具もこの姿でないと使えませんし」
「式具ー」
 お、ソラが式具に反応して復活したぞ。

「ソラも人型で戦いのか?」
「うん、式具を使うのー。必殺技もあるんだよー」
 必殺技って……確かに今までも『影縛り』だとか『四点結』とかやってるから、ソラの場合、無いとも言い切れないんだよな。

 大まかな作戦が決まり、火龍と思われる赤点が示す場所を目指し、三人でヴァルカン山を登って行った。

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