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第10章 新たなる拠点作り
第15話 なぞの穴
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予想通りというか、報告通り北側の二つの砦は全滅していた。
砦自体も全壊と言っていいほどの無残な姿になっていた。恐らく、ここを抜けていった魔物も多くいるだろう。
俺達は出くわさなかったが、それは衛星のお陰でいつもの事だから抜けた魔物がどうなったのかは何とも言えない。
部下さん達がある程度探索した後、最終の最北の砦に簡易小屋を出し、その日は休む事にした。俺とアッシュはコーポラルさんと本部役に徹した。
衛星が既に探索済みで、もう結果が分かってたから部下さん達の報告にもショックは無かった。到着後にアッシュが生体反応は感じられないと伝えてたしね。
また報告と支援部隊の要請のため、部下さんが一人中央砦に向かった。代わりに、先に報告のため分かれていた部下さんが最北の砦では合流していたので、現在は総勢六名だ。悪魔の二人は戻ってない。
明日の朝から周辺探索した後、帰投する予定になっている。
翌朝は、朝食後に分散しての探索となった。
偶々だろうけど、俺とアッシュは最北のレッテ山に一番近い場所の担当を振り分けられた。魔物対策が一番出来るだろうからの抜擢だろうね。なにせ、ここまで魔物の心配はいらないと宣言して、実際にここまで魔物と遭遇してないんだから。しかもアッシュと二人だし、適任だと思う。
移動はそのまま各自が乗って来た馬を使用した。俺はまたアッシュと二人乗りだ。流石にここでアッシュに抱いてもらって飛ぶわけにもいかないからね。
俺とアッシュは最北砦からレッテ山の麓を目指した。遠くの方にだけど、レッテ山が見えてるから目標があって迷う事は無い。
特に探索範囲を決められたわけじゃないけど、時間は午前中のおよそ四時間を目処にと決めていた。
そして、レッテ山の麓にまでやって来たが、もちろん魔物との遭遇は一切無し。
アッシュに聞いても人間の美味しそうな魂……いやいや、瀕死のような微弱な反応も一切無しだし、衛星に聞いてもやはり生存者は確認できなかった。
砦防衛中に打って出る事は無いだろうから、生存者の確認よりも周辺の変化や魔物の有無などの調査をと言われてたんだけど、やはり原因の一端となった俺からすると、一人でも生きていてほしかった。
「生存者は無しか……」
レッテ山を見上げながら呟いた。
「エイジ様、人間とは放っておいても増えるものよ。そう悲観する事も無いと思うけど」
アッシュは悪魔だから人間を餌としか見てないから言える意見だな。そういう俺も人間なんだけどな。
「でも、アッシュだって同族の悪魔がやられたら怒ったり悲しんだりするだろ? それと同じだよ」
「怒ったり悲しんだり? 無いわね。喜ぶ事はあっても悲しむ事は無いわよ。まして怒る? 無いわね」
そうだった、悪魔は序列の競争が激しいんだった。
ザガンとダンタリアンの扱いも雑だもんな。彼らが魔物にやられて瀕死の時も交代要員を考えてたもんな。悪魔ってそういう考えなんだな。
「生存者もいないようだし、特に環境の変化も無さそうだね。ちょっと早いけど戻ろうか」
「ええ、そうしましょ」
レッテ山から振り返って戻る思考に切り替えた時、ふと視線に入るものがあった。『矢』だ。
矢が樹に刺さってるのだ。
しかも、見た限り、結構多くの矢が樹に刺さってるのだ。
なんだ? ここで戦闘でもあったのか? だったら生存者がいるかも。いや、衛星やアッシュの言葉が間違ってるとは思えない。でも、生きてないとしても遺品ぐらいは回収できないものだろうか。
そう思って、まずは矢が刺さってる樹に近付いてみた。特徴のある矢ならば矢がそのまま遺品にでもなら無いかと思ったのだ。
刺さってる矢は全て同じ種類のものだった。これなら人物特定できるかも……いや、違うか。兵士達なら国や領や軍から支給されてるものを使うはずだから全て同じ矢を使うか。
それでも何か特徴が無いかと思って刺さってる矢を抜いてみた。無駄に身体能力が上がってるから簡単に抜くことが出来た。
この矢って…何か見覚えがあるというか、よく知ってる気がするんだけど……
!!
これって俺の矢じゃね!? 凄く似てるんだけど。
そう思って収納バッグから衛星に大量に作ってもらっている矢を一本取り出した。
そっくりだ! 瓜二つ、いや瓜三つやってもいい! というか同じだ!
衛星の作ってくれるものには特徴があるんだ。
今までも収納バッグや武器や防具や道具を作ってもらったけど、特徴があるんだ。
初期の頃には無かったけど、タマちゃんを回収して話せる様になった頃から衛星の作るものには点描のように点で円を描き、その円の横に少し大きめの点を描いてあるんだ。
タマちゃんは何も言わないけど、十三の衛星で円を描いて、その横にタマちゃんがいるのを表してるんだと勝手に予想している。
たぶん当たってると思うけど、まだ確認は取ってない。でも、間違いないと思う。
それに、こんなマークを書いてるものを見た事は無い。衛星オリジナルマークだと思っていいだろう。
そんなマークが小さくだけど矢に入ってるんだ。
それに、羽もこんなに綺麗に整った矢は珍しいし、鏃に鉄を使ったものも珍しい。
これって、俺の矢で間違いないよな……そんな矢がこんなに大量に樹に刺さってるってどういう……
!!
振り返ってみると、レッテ山の麓のところが少し絶壁になっていて、そこに穴が開いていた。そう大きくは無いけど、それでも直径一メートルはありそうだ。
さっき気付かなかったのは、穴のすぐ横が出っ張りになってて、それが穴を隠してたようだ。
なんでこんな所に穴が? そして俺の矢が?
……レッテ山に矢と言えば、できる限り夜は矢の練習をしてたけど……まさか!!
レッテ山に向かって弓矢の練習をしてたけど、その矢が貫通してた?
いやいやいやいや、まさかそんなはずが……
だって俺だよ? 俺が練習してたんだよ? 熟練度1の俺がだよ?
そりゃあ、弓も矢も衛星特製だし、クラマとマイアのお陰でレベルも上がって、無意味に身体能力だけは強化されたけど……本当に!?
もしかして! と閃いた途端、俺は穴に向かって走り出していた。
「エイジ様? どうしたのー?」
アッシュも慌てて俺の後を追いかけて来る。
穴に到着した俺は、穴に首を突っ込んだ。
…………真っ暗で何も見えん。
穴の先が【星の家】近辺の俺の練習場に繋がってると思って中を覗いたのだけど、穴の中は真っ暗だった。
向こうの入り口が見えるんじゃないかと期待した分、酷くガッカリと落ち込んだ。
そこへアッシュが追いついて来た。
「何この穴? ねぇエイジ様、この穴はなんなの?」
ガックリと肩を落としている俺の肩に手を回し、空気を読まずに問い掛けてくるアッシュ。今はちょっと話したくないぐらい落ち込んでるんだけど。
「ねぇ? エイジ様?」
更にグイグイ身体を押し付けて聞いてくる。
当たってる当たってるって。もう二人乗りの時からそうなんだけど、身体の密着率が高いんだよ。
そりゃあスタイル抜群で美人のアッシュに密着されるのは嫌じゃないけど、っていうか嬉しいけど、アッシュはチビサタンのお母さんだからね。
人妻をどうこうする気は無いから。いい響きだけど人妻はダメだから。
って、アッシュに旦那はいるんだろうか。いや、もしいないって言われると心が揺れまくるからスルーだな。
こんな時に何考えてんだ俺は。自己嫌悪に陥るよ。
「エイジ様?」
「……この穴が山の向こう側に貫通してるんじゃないかと思ったんだ。俺の家は山の向こう側だからね。もしかしたら帰れるんじゃないかと思ったんだけど、真っ暗で分からないんだよ」
「この向こう側にエイジ様の家があるの?」
「この穴が貫通して繋がってたらそうなんだけど、見えないよね?」
「そうね、見えないわね……ちょっと待ってね、確かめてみるわね」
「えっ!? そんな事できるの?」
「ええ、できるわよ。さぁ出ておいで! 召喚!【モックン】」
また可愛い名前だ。男の子っぽ……くない! デッカイ蜘蛛じゃん!
なんなんだよ! ニョロリンだとかモックンだとか、可愛い名前をつけるのはアッシュの趣味か!? 違和感しかねーわ!
しかもデカイし! この穴って一メートルぐらいはあるけどカツカツじゃん! 穴から顔だけ出てるからヤドカリみたいになってんじゃん!
「さぁ、わかってるわね」
アッシュに問われた蜘蛛はすぐに後ろに振り返りカサカサカサカサと奥へと進んでいった。
あれだけで分かるの? 大体いつもアッシュの指示って大雑把なんだよ。こんなんでザガンとダンタリアンもよく分かるよな。
いや、分かってないのかもしれないけど、何とか頑張ってるってとこか。しかも、アッシュからのフォローは少ないし。なんか共感が持てるよ。
今度会ったら丸薬でもあげよう。
「あれ? これは?」
「それはあの子の出してる糸よ。【化石蜘蛛】って蜘蛛系の魔物で悪魔界にいるんだけど、岩が好きで糸も強靭なの。だから向こう側と繋がってたらこの糸を辿っていけばいいのよ、少々の事では切れないしね。迷路になってないとも限らないし」
それは無いと思うな。予想では矢で出来た穴だから真っ直ぐに伸びてると思うよ。
でも、真っ暗だから何か指針となるものがあった方がいいね。
一応、身体の応力も上がったためか、ある程度の暗闇でも見えるんだけど、本当の闇の中だと全く見えないんだ。
その時は道具か魔法か衛星に頼むかになるけど、山向こうに戻ろうとする俺の事を衛星が助けてくれるかどうか。だから別の方法も考えてた方がいいと思うんだよね。
たぶん、邪魔はしないだろうけど手伝ってもくれなさそうな気がするんだよな。
しかし、もしあの矢が本当に俺の矢で、練習で山を貫通したんなら…俺って凄くないですか?
普通ありえないって。ステータス上では常人の百倍ぐらいありそうだけど、それでも山は貫通しないと思うな。
確かに延べにして一万本では利かないぐらい練習はした。衛星のお陰で疲れ知らずで一日千本以上も射た時もあったと思う。
でも、もし本当にこの穴を俺が開けたんなら凄い事だよ。これは自画自賛していいレベルだと思う。
衛星のいる限り、実戦で使う日は来ないと思うけど。
「アッシュ、これってどのぐらい時間が掛かるか分かる?」
「どれだけの長さがあるか分からないものね、時間はさすがに予想できないわね」
「そっかぁ。戻る時間もあるし、このままモックン? に任せられないかな」
「それは大丈夫よ、戻って来たら私に知らせに来るから」
それは便利だなぁ。でも、どこにいるか分からなくても来るのかな?
「町に戻っても大丈夫?」
「ええ、問題ないわ」
「だったら俺達は一旦砦に戻ろうか。あまり遅くなるとコーポラルさんも心配するから」
どうやって連絡に来るのか知らないけど、アッシュが自信満々に言うんだから大丈夫だよね?
「あ、それから、もし向こう側に繋がってたら通れるように穴を広げられないかな」
「そうね、これじゃ狭くて歩けないわね。ついでにモックンにやってもらうわね」
へぇ、モックンはそんな事もできるんだ。アッシュの呼ぶ従魔? になるのかな? ニョロリンといいモックンといい優秀だね。
「モックン! 分かってるわよね」
穴に向かってアッシュが叫ぶと糸がブルブルっと震えた。モックンには伝わったようだ。
でも、了解という感じじゃなく恐怖の震えに見えるのは俺だけだろうか。
砦自体も全壊と言っていいほどの無残な姿になっていた。恐らく、ここを抜けていった魔物も多くいるだろう。
俺達は出くわさなかったが、それは衛星のお陰でいつもの事だから抜けた魔物がどうなったのかは何とも言えない。
部下さん達がある程度探索した後、最終の最北の砦に簡易小屋を出し、その日は休む事にした。俺とアッシュはコーポラルさんと本部役に徹した。
衛星が既に探索済みで、もう結果が分かってたから部下さん達の報告にもショックは無かった。到着後にアッシュが生体反応は感じられないと伝えてたしね。
また報告と支援部隊の要請のため、部下さんが一人中央砦に向かった。代わりに、先に報告のため分かれていた部下さんが最北の砦では合流していたので、現在は総勢六名だ。悪魔の二人は戻ってない。
明日の朝から周辺探索した後、帰投する予定になっている。
翌朝は、朝食後に分散しての探索となった。
偶々だろうけど、俺とアッシュは最北のレッテ山に一番近い場所の担当を振り分けられた。魔物対策が一番出来るだろうからの抜擢だろうね。なにせ、ここまで魔物の心配はいらないと宣言して、実際にここまで魔物と遭遇してないんだから。しかもアッシュと二人だし、適任だと思う。
移動はそのまま各自が乗って来た馬を使用した。俺はまたアッシュと二人乗りだ。流石にここでアッシュに抱いてもらって飛ぶわけにもいかないからね。
俺とアッシュは最北砦からレッテ山の麓を目指した。遠くの方にだけど、レッテ山が見えてるから目標があって迷う事は無い。
特に探索範囲を決められたわけじゃないけど、時間は午前中のおよそ四時間を目処にと決めていた。
そして、レッテ山の麓にまでやって来たが、もちろん魔物との遭遇は一切無し。
アッシュに聞いても人間の美味しそうな魂……いやいや、瀕死のような微弱な反応も一切無しだし、衛星に聞いてもやはり生存者は確認できなかった。
砦防衛中に打って出る事は無いだろうから、生存者の確認よりも周辺の変化や魔物の有無などの調査をと言われてたんだけど、やはり原因の一端となった俺からすると、一人でも生きていてほしかった。
「生存者は無しか……」
レッテ山を見上げながら呟いた。
「エイジ様、人間とは放っておいても増えるものよ。そう悲観する事も無いと思うけど」
アッシュは悪魔だから人間を餌としか見てないから言える意見だな。そういう俺も人間なんだけどな。
「でも、アッシュだって同族の悪魔がやられたら怒ったり悲しんだりするだろ? それと同じだよ」
「怒ったり悲しんだり? 無いわね。喜ぶ事はあっても悲しむ事は無いわよ。まして怒る? 無いわね」
そうだった、悪魔は序列の競争が激しいんだった。
ザガンとダンタリアンの扱いも雑だもんな。彼らが魔物にやられて瀕死の時も交代要員を考えてたもんな。悪魔ってそういう考えなんだな。
「生存者もいないようだし、特に環境の変化も無さそうだね。ちょっと早いけど戻ろうか」
「ええ、そうしましょ」
レッテ山から振り返って戻る思考に切り替えた時、ふと視線に入るものがあった。『矢』だ。
矢が樹に刺さってるのだ。
しかも、見た限り、結構多くの矢が樹に刺さってるのだ。
なんだ? ここで戦闘でもあったのか? だったら生存者がいるかも。いや、衛星やアッシュの言葉が間違ってるとは思えない。でも、生きてないとしても遺品ぐらいは回収できないものだろうか。
そう思って、まずは矢が刺さってる樹に近付いてみた。特徴のある矢ならば矢がそのまま遺品にでもなら無いかと思ったのだ。
刺さってる矢は全て同じ種類のものだった。これなら人物特定できるかも……いや、違うか。兵士達なら国や領や軍から支給されてるものを使うはずだから全て同じ矢を使うか。
それでも何か特徴が無いかと思って刺さってる矢を抜いてみた。無駄に身体能力が上がってるから簡単に抜くことが出来た。
この矢って…何か見覚えがあるというか、よく知ってる気がするんだけど……
!!
これって俺の矢じゃね!? 凄く似てるんだけど。
そう思って収納バッグから衛星に大量に作ってもらっている矢を一本取り出した。
そっくりだ! 瓜二つ、いや瓜三つやってもいい! というか同じだ!
衛星の作ってくれるものには特徴があるんだ。
今までも収納バッグや武器や防具や道具を作ってもらったけど、特徴があるんだ。
初期の頃には無かったけど、タマちゃんを回収して話せる様になった頃から衛星の作るものには点描のように点で円を描き、その円の横に少し大きめの点を描いてあるんだ。
タマちゃんは何も言わないけど、十三の衛星で円を描いて、その横にタマちゃんがいるのを表してるんだと勝手に予想している。
たぶん当たってると思うけど、まだ確認は取ってない。でも、間違いないと思う。
それに、こんなマークを書いてるものを見た事は無い。衛星オリジナルマークだと思っていいだろう。
そんなマークが小さくだけど矢に入ってるんだ。
それに、羽もこんなに綺麗に整った矢は珍しいし、鏃に鉄を使ったものも珍しい。
これって、俺の矢で間違いないよな……そんな矢がこんなに大量に樹に刺さってるってどういう……
!!
振り返ってみると、レッテ山の麓のところが少し絶壁になっていて、そこに穴が開いていた。そう大きくは無いけど、それでも直径一メートルはありそうだ。
さっき気付かなかったのは、穴のすぐ横が出っ張りになってて、それが穴を隠してたようだ。
なんでこんな所に穴が? そして俺の矢が?
……レッテ山に矢と言えば、できる限り夜は矢の練習をしてたけど……まさか!!
レッテ山に向かって弓矢の練習をしてたけど、その矢が貫通してた?
いやいやいやいや、まさかそんなはずが……
だって俺だよ? 俺が練習してたんだよ? 熟練度1の俺がだよ?
そりゃあ、弓も矢も衛星特製だし、クラマとマイアのお陰でレベルも上がって、無意味に身体能力だけは強化されたけど……本当に!?
もしかして! と閃いた途端、俺は穴に向かって走り出していた。
「エイジ様? どうしたのー?」
アッシュも慌てて俺の後を追いかけて来る。
穴に到着した俺は、穴に首を突っ込んだ。
…………真っ暗で何も見えん。
穴の先が【星の家】近辺の俺の練習場に繋がってると思って中を覗いたのだけど、穴の中は真っ暗だった。
向こうの入り口が見えるんじゃないかと期待した分、酷くガッカリと落ち込んだ。
そこへアッシュが追いついて来た。
「何この穴? ねぇエイジ様、この穴はなんなの?」
ガックリと肩を落としている俺の肩に手を回し、空気を読まずに問い掛けてくるアッシュ。今はちょっと話したくないぐらい落ち込んでるんだけど。
「ねぇ? エイジ様?」
更にグイグイ身体を押し付けて聞いてくる。
当たってる当たってるって。もう二人乗りの時からそうなんだけど、身体の密着率が高いんだよ。
そりゃあスタイル抜群で美人のアッシュに密着されるのは嫌じゃないけど、っていうか嬉しいけど、アッシュはチビサタンのお母さんだからね。
人妻をどうこうする気は無いから。いい響きだけど人妻はダメだから。
って、アッシュに旦那はいるんだろうか。いや、もしいないって言われると心が揺れまくるからスルーだな。
こんな時に何考えてんだ俺は。自己嫌悪に陥るよ。
「エイジ様?」
「……この穴が山の向こう側に貫通してるんじゃないかと思ったんだ。俺の家は山の向こう側だからね。もしかしたら帰れるんじゃないかと思ったんだけど、真っ暗で分からないんだよ」
「この向こう側にエイジ様の家があるの?」
「この穴が貫通して繋がってたらそうなんだけど、見えないよね?」
「そうね、見えないわね……ちょっと待ってね、確かめてみるわね」
「えっ!? そんな事できるの?」
「ええ、できるわよ。さぁ出ておいで! 召喚!【モックン】」
また可愛い名前だ。男の子っぽ……くない! デッカイ蜘蛛じゃん!
なんなんだよ! ニョロリンだとかモックンだとか、可愛い名前をつけるのはアッシュの趣味か!? 違和感しかねーわ!
しかもデカイし! この穴って一メートルぐらいはあるけどカツカツじゃん! 穴から顔だけ出てるからヤドカリみたいになってんじゃん!
「さぁ、わかってるわね」
アッシュに問われた蜘蛛はすぐに後ろに振り返りカサカサカサカサと奥へと進んでいった。
あれだけで分かるの? 大体いつもアッシュの指示って大雑把なんだよ。こんなんでザガンとダンタリアンもよく分かるよな。
いや、分かってないのかもしれないけど、何とか頑張ってるってとこか。しかも、アッシュからのフォローは少ないし。なんか共感が持てるよ。
今度会ったら丸薬でもあげよう。
「あれ? これは?」
「それはあの子の出してる糸よ。【化石蜘蛛】って蜘蛛系の魔物で悪魔界にいるんだけど、岩が好きで糸も強靭なの。だから向こう側と繋がってたらこの糸を辿っていけばいいのよ、少々の事では切れないしね。迷路になってないとも限らないし」
それは無いと思うな。予想では矢で出来た穴だから真っ直ぐに伸びてると思うよ。
でも、真っ暗だから何か指針となるものがあった方がいいね。
一応、身体の応力も上がったためか、ある程度の暗闇でも見えるんだけど、本当の闇の中だと全く見えないんだ。
その時は道具か魔法か衛星に頼むかになるけど、山向こうに戻ろうとする俺の事を衛星が助けてくれるかどうか。だから別の方法も考えてた方がいいと思うんだよね。
たぶん、邪魔はしないだろうけど手伝ってもくれなさそうな気がするんだよな。
しかし、もしあの矢が本当に俺の矢で、練習で山を貫通したんなら…俺って凄くないですか?
普通ありえないって。ステータス上では常人の百倍ぐらいありそうだけど、それでも山は貫通しないと思うな。
確かに延べにして一万本では利かないぐらい練習はした。衛星のお陰で疲れ知らずで一日千本以上も射た時もあったと思う。
でも、もし本当にこの穴を俺が開けたんなら凄い事だよ。これは自画自賛していいレベルだと思う。
衛星のいる限り、実戦で使う日は来ないと思うけど。
「アッシュ、これってどのぐらい時間が掛かるか分かる?」
「どれだけの長さがあるか分からないものね、時間はさすがに予想できないわね」
「そっかぁ。戻る時間もあるし、このままモックン? に任せられないかな」
「それは大丈夫よ、戻って来たら私に知らせに来るから」
それは便利だなぁ。でも、どこにいるか分からなくても来るのかな?
「町に戻っても大丈夫?」
「ええ、問題ないわ」
「だったら俺達は一旦砦に戻ろうか。あまり遅くなるとコーポラルさんも心配するから」
どうやって連絡に来るのか知らないけど、アッシュが自信満々に言うんだから大丈夫だよね?
「あ、それから、もし向こう側に繋がってたら通れるように穴を広げられないかな」
「そうね、これじゃ狭くて歩けないわね。ついでにモックンにやってもらうわね」
へぇ、モックンはそんな事もできるんだ。アッシュの呼ぶ従魔? になるのかな? ニョロリンといいモックンといい優秀だね。
「モックン! 分かってるわよね」
穴に向かってアッシュが叫ぶと糸がブルブルっと震えた。モックンには伝わったようだ。
でも、了解という感じじゃなく恐怖の震えに見えるのは俺だけだろうか。
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